013 カーグランド王暗殺未遂事件
ゼルギウスさんがゲームの世界線でどうやって殺されるかはすぐに話した。
――ゼルギウスさんはシグルドに毒を盛られて殺される。
話してる時のギルヴィードおじ様は静かで、随分冷静に聞くんだなと思ってたけど……
そうだよ!! 私状態異常回復持ってるんだよ!
「うちには聖女がいる。それだけで大分アドバンテージがある」
そう、私チートの聖女なんだよ。
そんなチート娘を確保しているだけで心の余裕は違うだろう。
MPだって使いたい放題だし、戦争だって負傷者を戦線復帰させるゾンビアタックだってできる!
私いるだけで戦争も計略も防ぎたい放題じゃん!
……
…………
――…………考えただけでゾッとしてきた。
私は想像だけで震えながら反論をした。
「……私、毒飲んで苦しんでる人間とかみたことないです」
人が死ぬなんておじいちゃんとおばあちゃんのお葬式でしかみたことない。
見たって言っても大往生や病気で綺麗にお化粧してちょっとコケてるけどいつも通りに眠ってるみたいで、触ったこともない。
でも見てるだけでもう動かないんだって……何の涙かわからない涙が出てきた。
人が切られたり怪我したりしてるのを見るのだって、この前ゼルギウスさんが怪我をしたのが初めてだ。
とても平和な国で生きていたのだ。
昔から怪我して包帯でグルグル巻きにしてあるのみただけで、痛そうって顔を顰める程の感受性はもってた。
……そんな人間が戦場で回復役なんて出来るの?
酷い傷口をみて心を強く持てる?
内臓が飛び出してるの見れる?
力があっても自分自身の限界を感じた。
「……私は確かに解毒は出来るはずです。でもやったことも、そんな人を見たこともありません」
震え声でギルヴィードおじ様に言う。
「怖いんです。人が傷付くことが……優しさなんかじゃなくてただ純粋な恐怖で、私は、治せたとしてもゼルギウスさんのそんな姿はみたくありません」
ギルヴィードおじ様は真面目な顔で私を見る。
「……たしかに俺もそんなゼルは見たくない。これは本当に最終手段だ。すまなかったな」
「いえ……」
微妙な空気が二人の間に流れる。
「しかしお前は聖女だ。いつかバレる。それまでに徐々に慣れてくしかねえな」
私は無意識のうちに顔が歪む。
「……病気とか衰弱とかなら見た目変わらないしまだいける気がするんですけど」
そういうとギルヴィードおじ様はバッサリと斬り捨てるように私に言った。
「おめえは基本魔物でも死骸や流血やグロデスクなのがダメなんだな。聖女向いてねえ」
ごもっとも!!
「……なら病気の鑑定は出来るのか?」
「私はわかんなくても治せちゃうからそういうのは……なにかあるんですか?」
「父から聞いたんだが……」
少し言いづらそうにギルヴィードおじ様は話した。
「……陛下がな、一年以上前から体調が優れないらしい。原因が解明できないから父としてはマリアに診てもらいたいらしいんだが」
「それは……治すのは厳しいですね……」
診て治すということはつまり私を陛下に聖女であるとバラすということだ。
正直シグルドとゼルギウスの父親である現カーグランド国王は設定があやふやなので、どんな人物なのか測りかねていた。
ウチで一番国王を知ってるのはお祖父様だが、お祖父様は愛国者なので陛下を下げるようなことは絶対に言わないし、鵜呑みには出来なかった。
もし聖女の力に目が眩む国王なら他国との友好の印に差し出す外交のカードにするか、自国でそれこそグロ満載の治療を強要されるだろう。
ゾンビアタックのような戦争の道具にもされかねない。
(その場合『バッドエンド』だ……)
「ただ体調を崩されてるなら良いんだが、何かわかるなら……という感じらしい」
「理由は気になりますよね」
なんとかそっちで解明して治していただきたい。
「そうだ。それに状態が良くなるならおめえのことも報告しておきたいらしい」
確かに聖女をいち伯爵家が個人的に囲っているのは態勢が良くない。王族には折を見てちゃんと報告すべきだ。
「……正直、ゼルが王になってくれりゃあ報告も必要ねえからそれまで黙っておきたいが」
ギルヴィードおじ様の眉間のシワが濃くなっているあたり、あまり薦めたい話ではないんだろう。
うう〜〜ん………………
とりあえず鑑定は出来ないと報告してもらうことにした。
ゲームマスターでチートでも出来ないことは沢山あるんだなあ……。
◇
あれから半年経ち、私は10歳になった。
ヒロイン誕生日を設定する項目はないから設定されてない。なので異世界に来た日が私の誕生日としてる。
攻略キャラはファンの希望で設定されており、そのおかげで暦設定は現実と一緒で助かってる。
設定は外国ファンタジー風でもところどころ日本人の感性に合わせたアレンジがされているし、文字も日本語。
ゲーム設定様様だ。
私はお祖父様からお話があると聞き、執務室へ入り頼まれるとおりに防音のバリアを張る。
「陛下の容態が思った以上によろしくない。もはや仕方がない。マリアが癒してくれ」
「陛下と面会させていただくのは大変めでたいことなのですが、明らかにおかしいのですよね? 原因は突き止めなくて大丈夫なのですか?」
「なんとしてもつきとめるため手を尽くしたが、何も効果がなかった」
悔しそうにお祖父様は言う。
「しかし、その……私のお話をしても大丈夫なのですか?」
私が類稀な支援魔法の持ち主だと、権力のある者に言うのはなかなかに勇気がいる話だ。
お祖父様も頭を悩ませているようで渋い顔を更に渋くさせながらも苦渋の決断、として決めたようだ。
「マリアはいきなり力に目覚めたといって何年後かに公表するつもりだった」
しかし陛下が原因不明の体調不良。しかも末期。
「今陛下がお隠れになったら次の王はシグルドになる」
「……確かに、そういう意味でも長生きしていただきたいですね」
シグルドが王になったら私どころかベルドリクス家自体どうなるかわからない。
ゼルギウスさんが殺される確率もぐんと上がるだろう。
「内密に聖女を隠していたことが解ればベルドリクス家の離反を疑われる」
「ひえ……っ」
そんなレベルなのか。
「でも私、病気の原因解明は出来なくて……」
なんか問答無用で全部治す繊細さのないゴリラ聖女みたいな気分だ。
触っただけで嘘や真実を見抜く特殊な能力をもったキャラもいて、多分その人なら解明出来そうなんだけど――……今現在では絶対に仲間に出来るようなキャラではない。
「あっ」
「どうした」
――いや、一人いる。
「…………一応……最終手段はあるんですけど……」
「何?」
「それで私が『聖女』だとは思われず原因究明が出来ると思います」
「……この際なんでもいい。どこぞの闇医師か?」
「いえ……」
創造主です。
何でもいいから解明してほしいとのことで、私は今お祖父様と陛下のお部屋に向かっている。
お祖父様とは話し合い、珍しく頭を痛めていたが、最早このチートに頼るしかない。
◇
お祖父様は陛下と歳も違くなかなかお目にかかることは無かったらしいが、ゼルギウスさんとギルヴィードおじ様の仲が良好により陛下の覚えもめでたくなり、お部屋に入ることを許可される程信頼されるようになったらしい。
「入れ」
中から声が聞こえ、静かに扉を開ける。
ゼルギウスさんとシグルドのパパ……って言われると「ああ〜……」って感じだが、一年以上体調を崩しているというだけあって病的なほど痩せ細り、辛そうだ。
「失礼致します」
今日は孫馬鹿お祖父様が孫を陛下に自慢したくて呼んだというていだ。
陛下のこんな緊急時にちょっと苦しい話ではあるが陛下も何かあるとわかって了承したのだろう。
「マリアと申します」
「……お前の息子のギルヴィードはよくゼルギウスに尽くしてくれている。きっとマリアもブリザベイトに似てまた聡明なのだろう」
「恐悦至極に存じます」
メイドさん達がお茶やお菓子を運んでくる。
タイミングを見計らって、「陛下、人払いをお願い出来ますでしょうか」とお祖父様が言い、陛下もわかっていたかのように人払いをする。
ドアが閉じられたあと、お祖父様は私に目配せだけをして私は音遮断の結界を張る。
「ほう、ギルヴィードも出来るとは聞いていたがマリアも習得しているのか」
「恐れ入ります」
「して、どうしたブリザベイトよ。孫の魔法を自慢しにきただけではあるまい」
陛下とお祖父様が普通の話をしてるだけなのに緊迫感がすごい……。
「いえウチのマリアが、陛下の体調を診たいと申しまして」
申してませんけど!?
陛下がほう……とこちらを見る。冷や汗が凄い。
「あの……陛下、ここで見ることは口外しないとお約束をお願い出来ますか?」
「…………わかった。やってみよ」
「絶対に危害は加えませんので」
口約束をもらったので私は困った時に呼べと言われた言葉を信じ呼ぶ。
「ラフィちゃん、来てもらえるかな。お願いがあるんだ」
その言葉を言い終わると前と同じく光が集まっていく
「な、なんだ!? これは!?」
事前に打ち合わせをしたお祖父様もまさかという驚きが隠せていない。
「マリア!!」とお祖父様の焦った声が聞こえる。
そしてやってきた私の推しはあいも変わらず美しかった。
6つの閉じていた羽がブワッと広がる。まさに神々しく派手な登場だ。
「マリア」
無機質だけどどことなく嬉しそう。おーよしよし
「こ、この御姿は……!!」
世界のそこら中に建っているラフィエル様像にそっくりな天使なんて出て来たら丸分かりだろう。
「ラフィちゃんって人の触診とか出来たりする?」
「「ラフィちゃん!!?」」
驚き続ける二人を無視して私は続けた。
「触診?」
「なんかここの身体に不具合が起きてる〜みたいな」
「マリアには異常はないな」
「じゃああの陛下には?」
目を向けられて陛下が固まる。
ラフィちゃんは一瞬スッと見て
「呪がついている」
と答えた。
「!?」
「呪?!」
まさかだ……呪いは魔法の亜種で悪用した魔法、魔導具などのマイナス症状が出る。
「呪払いもしたし呪避けの魔導具も装備しているぞ!」
「い、一体どんなものなんだ!?」
尋ねるがラフィちゃんは神格のない人間にいきなり話しかけられたことに不快感を示し、微かに顔を歪ませ私の方を向いた。
「マリア」
ああ〜〜これ私にしか懐いてないペットだ。
「す、すみません陛下、私としか話が出来ないみたいで」
「い、いや、いいんだ、続けてくれ」
陛下も驚きで疲れている。お祖父様が支えている状態だ。
「えっと……それでどんな呪いなの?」
私はラフィちゃんに優しく尋ねた。
「徐々に弱っていき衰弱死する」
さらりと言われた言葉に陛下とお祖父様が息を飲む。
これはハッキリさせた方がいいから聞いとこう……。
「誰がかけたかわかる?」
「誰……とは、どう言えば良い?」
コテリと首を傾げるラフィちゃん。かわいい。
「名前とか……顔もあると嬉しいな。ここの三人に思念送れる?」
「あい わかった」
ラフィちゃんから思念が送られてくる。
全然知らない名前だ……実行犯はローブつけてる魔法使い? こっちの人は確か……うわっシグルド配下じゃん。
「宮廷筆頭魔導士のラロルドにフリック!! アイツら儂を騙しおって!!」
「陛下落ち着いて下さい!」
御身体に触ります!とお祖父様がなだめる。
「なんで呪い避け弾いたんだろう」
「この呪いはある程度の呪い避けを弾くほどの生贄を使って対策がしてある。ちょうどそこの呪い避けより高いくらいだ」
「生贄……」
私は生々しい想像をして後悔した。
「そんな……王族に伝わる高度な呪避けだぞ」
一体そんな魔導具を何処から……と困惑しきりのお祖父様だが、私は別の事に頭がいっぱいだった。
そんな触媒を用意するのにどれだけの犠牲を払ったというのだろう。
外の世界では起こり得ない恐怖が、起こっていた恐怖に身がすくんだ。
「……王宮の呪い避けのレベルまで計算した、かなり計画的な犯行なんだね……」
どこの人が何人犠牲になったのか弔いたいと思ったけれど、口には出せなかった。聞くのが怖かった。
「マリア……」
なんとなく思念を感じたのかラフィちゃんが心配そうに見る。
それになんでもないフリをしてから元気で笑った。
今は国王の呪いを解くのが先決だ。
「物的証拠がないと逮捕は難しいのでしょうか?」
教えてもらったはいいが確定的な証拠がない。
「物的証拠なぞ無くてもラフィエル様直々の裁判なら直ぐ極刑じゃ!!」
国王は怒りが収まらないようでお祖父様が焦っている。レアだ……
『創造主が来て教えてくれたから有罪』なんて宗教大国が動く大事になってしまう。
出来るだけ内密に終わらせたいので私も焦って『聖女勇者』知識を披露する。
「呪いなら触媒とか……陛下の呪いの原因の魔導具を、犯人が持っているはずです。お屋敷から別荘、愛人の家まで探してみましょう!」
それが見つかれば国王の呪いも解けるし犯人も見つかる。万々歳だ。
お祖父様は今がチャンスと片膝をついて命令を待った。
「陛下、私はそちらの者と縁があるものはおりません。私の軍全てに通達させ電光石火で取り押さえてみせます」
犯人たちシグルド派っぽかったもんね。
「うむ。頼んだぞ! ブリザベイト」
そこからお祖父様は「失礼致します」とラフィちゃんに礼をし足早に出て行った。
「マリア、其方のおかげで助かった。ラフィエル様にもお伝えして下され」
「はい」
「ラフィちゃんありがとう。陛下もラフィちゃんに凄く感謝してるよ」
「そうか」
ラフィちゃんはあまり興味がなさそうだったが、私に感謝されるのは嬉しいらしい。
この調子でいつか他の人間も有象無象じゃなくて個々として見られるようになるといいな。
「私も助かったよ。ラフィちゃんいないとわからなかったよ」
私はラフィちゃんには褒めて育てる知育をする予定なのだ。とても褒める。よしよし
頭を撫でられ少し照れたラフィちゃんは「また呼んでほしい」と前より素早く去っていく。
取り残された私と国王だが、陛下は最初のお祖父様の孫を見る目ではなく国王のそれに変わっていた。
「マリア殿」
「周りから変な目で見られますから呼び捨てでお願いします……!」
あくまで凄いのはラフィちゃんなのだ。
犯人と触媒が見つかったら呪いはとけるし、私が解呪しなくても済みそう。
お祖父様との打ち合わせ通りひょんなことから創造主の加護をいただいた子供ということで説明した。
加護があるなら今後伯爵家の子供で万が一回復魔法使えたとバレても違和感ないし。
異世界からきた聖女とバレにくい。
陛下は全面的に信じてくれた。目の前で起きた奇跡だし当たり前か。
今ここで戦起きるからゼルギウス王にしてって言ったらそうなりそうなくらい興奮状態な気がする。御身体にさわりますよ。




