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105 計画の方向性

※ 時間が空いたこともあり、複雑でごちゃついているように感じたので79~94話くらいまでを不必要な部分をカットしたりくっつけたりして見やすくしました。


全体的な話の流れは変わっていませんが、マリアの細かい心情や話をややこしくするであろう伏線などは消した点もあります。ご了承下さい。

 

 愛の力は乙女ゲームのこの世界では大正義。奇跡だって起こせてしまう。


 そんな奇跡を何度も見てきたが、今回も弟への愛でMP削減転移法を編み出し、毎日カーグランドに通う気マンマンのブラコン兄さんという奇跡が爆誕してしまった。




「とりあえずおかけになられては?」


 屋敷主ながらも扉近くへ立ち、護衛の役に徹しているレヴィンが少し咳払いをしながら私たちを現実に引き戻し、皆を椅子に座るよう誘導してくれた。


 こんな時も頼れるアニキは健在だ。



「レオンハルト様も夜営されるよりは、こちらに魔法で転移されてたほうが安全なのは間違いありません」


「確かに……前回の召喚士もあれだけ召喚したら暫くはあんな大がかりな魔物をけしかけられないだろうし、今後はレオンハルトさんの部屋に忍び込んでの暗殺が一番有り得そうだわ」


 召喚士は数が少ないし、グレンのように一個大隊を一気に、二度も召喚するなんて技は使えない。


 ブラコンの暴走を正当化する護衛の鑑であるレヴィンを尊敬しつつも、頷いた。




「レオンハルトさんとはあまり話し合えず終わってしまった会話もあったから、ちょうど良かったです」


 私たちの目的は『ヴァンデミーアを恭順させ、平和的にカーグランドの属国として生き残らせること』で一致しているけれど、やり方の方向性というものがある。


 レオンハルトはどうやってヴァンデミーアを導こうというのか。


 彼は私のほうを真っ直ぐに見ながら、やはり読めない表情で話し始めた。



「君はカーグランドを象徴する聖女。マリア=ベルドリクスだな」


「え? ええ……象徴してるかはわかりませんが名が売れてるのは確かです」


「先程まで君の話を二人より聞いていた。……その話が本心なのだとしたら、君は本当に聖女なのだろう」


「は、はあ……?」


 レオンハルトの思惑が読めず、私は首を傾げる。



「マリア=ベルドリクス。君がヴァンデミーアを救いたいと声を上げることは咎められる事は無い。そのままカーグランド王へ直訴をすると良い」


「は、はあ!? い、いや、ダメでしょ……!」


 なんて事を言うんだと声が出る前にレオンハルトの横にいたリーベが明るい声で割って入ってきた。



「そうだよね! マリアは聖女さまだから「みんなを助けたい」って思う事は当然な事なのに、なんで隠すんだろうって思っていたよ」


「えぇ……? 当然……?」


 私は通訳係こと頼れるアニキ、レヴィンを見れば呆れたように通訳してくれる。



「マリアお嬢さんには伯爵令嬢っていう肩書きもあるから、そんな頭にはなり辛いのかもしれないが……聖書では代々『聖女は争いを好まず、生きとし生けるもの総てに慈愛を注ぐ』とかって言われてるだろ」


「やっぱりマリアは心も清らかな聖女さまなんだね!」


 ていのいい作り話だと思ってたがな。と、息を吐くレヴィンに「いやいや作り話ですよそんなの!?」とツッコミたくなる。



 生きとし生けるもの総てに慈愛は注げないでしょ! この世界でヒロインは大正義でなくてはいけないのでそんな大層な、モリモリに盛られた設定があるだけだ。


 自分が作った国が滅ぼされるのを見るのは嫌だし、『面白い世界』を外の私に提供しないと世界が滅ぶからヴァンデミーアを救おうとしているという利己的な考えであり、慈愛でもなんでもない。


 ……乙女ゲームだから当たり前なんだけど、ヒロイン(主人公の私)の好感度が高すぎる、美しくとられすぎなこの世界で調子乗ったら悪役令嬢が出てきてボロ負けするんじゃないかってヒヤヒヤしてしまう。



「成る程……この世界の住人は信心深いですからな。マリア神が「ヴァンデミーアを救いたい」と言い出しても神話性に磨きがかかるだけというわけで……いやはや」


 近くで私を見ていて私と同じく信仰心ゼロの、私の真意が一番わかっているだろうゲルベルグさんは「盲点でした」と汗を拭く。



 レオンハルトはリーベに手を回していない方の手を少し上げ、語るように戦略を論じた。


「我々マーカチス侯爵家は貴族を御するよりも民につく。そして聖女を使いカーグランドに恭順させ、民と共に革命と成れば新しいヴァンデミーアを作ることが可能だ」



「か、革命……」



 一回ヴァンデミーアをぶっ潰す気だこれ~~~!?



 プライド高そうなめんどくさい貴族達をどうやって御するのかと思ったが、完全に捨てにきてる。


 反乱を止めたいと思っていた私たちとは真逆の方向性を提示してきた。



「ヴァンデミーアの民は残念ながら他国と比べ教養が行き届いてはいない。……それは貴族らが民が知恵をつけ、反逆をすることを良しとしていなかった為だ」


「このままだと民の反乱は鎮圧されてしまう……ってことですか」


「そうだ」



 弱っているヴァンデミーア貴族軍でも勝てるほどに民たちは無力なのか……とも思ったが、大陸一の強さを誇る軍――零番隊は無傷で残っているし、レオンハルトもいる。


 そう考えると鎮圧出来ない方がおかしいとも思えてきた。



「鎮圧なんて聞こえは良いが、たくさんの民たちがただ無意味に死ぬだけだ」


 レヴィンは淡々と事実を語ればリーベの顔に暗い影が落ちる。



 逆に鎮圧出来ず、民たちだけで革命が成った時もヴァンデミーアは崩壊するとレオンハルトは語る。


「民は統治者になりたくて反乱に参加するわけではない。今までと同じく農作物や家畜を育て働き、生きたい者が殆どであろう」


 殆ど文字が読めるこの世界でヴァンデミーア平民は読めない者も多く、もちろん学ぶ場などない。


 そんな者ばかりになり統治する者がいなくなれば法に裁かれないからと無法地帯と化す。



「そうなってからカーグランドは救いの手を差し伸ばす()()でヴァンデミーアを取り込むつもりなのだろう」


「…………」


 大体あってる。



 聖女のいるカーグランドとしては『攻め込んで領地を得る』より『助けるために領地を統治する』方が他国からの心象も良いし、目を付けられにくい。


 なのでじわじわとヴァンデミーアの首が閉まるのを武器を反乱軍に流しながら待っているわけだ。


 ……我が国ながら恐ろしいな。マーカチス兄弟に申し訳なくなってくる。



 暗い顔のリーベの頭を一撫でし、有能ブラコン兄ことレオンハルトは口を開く。


「貴族が減っている今、数では民の方が多いであろう。知恵を授け、心を一つにさせれば()()()()()()で革命は成せる」


「…………」



 ――貴族側ではなく民……革命側につくことで合法的に『リーベに害なす貴族を消せる』というわけだ。



 この兄、()る気満々じゃねえか。



 絶対いつか()ろうと思ってただろ!!



 そんな全力のツッコミを脳内でした後ゲルベルグさんを見れば、多分私と同じことを考えているであろう顔でにやけた口元を手で抑えていた。萌えていいんですか先生。



「――って待って。そうなると私は……」


「マーカチス侯爵家という『知恵』と聖女という『心の支え』を作れば烏合の衆が一軍に足るということですか」


 レヴィンのまとめに私はガックリと机に突っ伏した。



「私が旗頭ですやん!!」


「マリア神、言い出しっぺの法則ですぞ」


「完全に矢面!! いや私が言い出しっぺだけども~~!!」



 平和を目指す聖女がまたおっぱじめるのはいかがなものか。


 しかし話を聞いているとこれ以外には無い様な気もしてくる。



「ヴァンデミーアの平民もラフィエルさまを信仰しているし、聖女伝説も言い伝えられているはずだよ」


「誰も信じちゃいないがな」


 街にラフィエル像も無ければレヴィンを見る限り信仰心も薄そうではあるが……、子供に読み聞かせる物語のラインナップに聖女伝説は入っているようで、『聖女が民を救いに来たからみんな集まれ~』と言って一致団結させることは出来るかもしれない。



「問題はどうやって私たちが反乱軍の仲間に入れてもらうかですな」


 腕を組み考えるようなポーズをとっているゲルベルグさんではあるが、目線は常にリーベの肩に置かれているレオンハルトの手である。推しカプへの誇りはどこ行ったんですか先生。



「ああ、それならラフィちゃんが反乱軍に潜伏してくれてるから、紹介してもらえるかも……」


「ほう。流石は軍人伯爵令嬢。抜かりが無いな」


 偶々なんですけどね……と謙遜しながら、そういえば最近ラフィちゃんが戻って来ていない事を思い出した。



 ラフィちゃんは各地の美味しいもの巡りをしながら、余った貢ぎ物をヴァンデミーアの反乱軍に届けている筈。


 この世界にもそこそこ慣れた創造主である彼に何かが起きているとは考えづらい。


 便りがないのは元気の証拠と言うけれど、少し気になり心の中で『ラフィちゃん』と念じ、呼んでみた。



「……あれ、返事がないな」


「どうしたんだい? マリア」


「いや、ちょっとその子に連絡をとってみようと思ったんだけど、反応が無くて……」


 訝しげなレヴィンが「伝書鳩も通信機も使っていないのに呼べるのか?」と尋ねてくるので、そういえば二人は会ったことなかったなと思い返した。


「ああええっと、ラフィちゃんっていうのはね……」



 そう説明しようとするやいなや、部屋の中に光が集まり始めた。


 ラフィちゃんのエコ版サイレント降臨だ。


「ああ良かった。ちゃんと無事みたい」



「マリアお嬢さん! これは一体」


 いつの間にやらレヴィンは私達の前に立ち、室内用の剣を構えている。


 レオンハルトも同様に剣の柄に手をつけながら同じく銃を構えているリーベの前へと立っていた。


「ああ! 大丈夫! これはただの――……



 創造主の降臨だから」



「マリア」



 光が弾ける様に広がると同時に現れたのは立派な六枚羽を背負った天使様こと創造主ラフィエル様である。


「像とそっくりそのままだ……」


 流石に創造主像を見たことのある三人は一発で誰であるのかわかったようで、膝を立てて礼を取る。



 そんな三人にフランクに紹介しようとラフィちゃんの方を向けば、何やら困った様な顔をしていた。


「どうすればいいのか、俺にはわからない」


「え?」


「マリア」


 一通の手紙を手に持ったラフィちゃんは、その手紙を私に差し出した――。

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