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生きる。

ハッピーハロウィン

(˙꒳˙ 三 ˙꒳˙ 三 ˙꒳˙三˙꒳˙ 三 ˙꒳˙ 三 ˙꒳˙)

「あー…。ところでリアム、なぜ住民や君がゾンビになったのか心辺りはないか?」

「いやー、心当たりっつってもなー。なんか急に近所のばあさんとかが原因不明の体調不良になって死んじまったんだよ。ほんでそのばあさん連中が急にゾンビ化してー……。んー、俺自身がいつゾンビ化したかは覚えてねーな。」

ぼりぼりと頭を掻いて答えるリアムにサムはイライラが募っていった。なぜへらへら笑っていられるのか。そもそも自分たちのせいで人が死んだのに何とも思わないのか。勝手な八つ当たりなのは百も承知だ、それでもこの行き場のない怒りを誰かにぶつけなければ気が済まなかった。

「あんたは、なんでそんなにへらへら笑っていられるわけ?あんたらのせいで人が死んでるのに何とも思わないの!?」

「サム、やめろ。」

オリバーが咎めてもサムは止まらない。

「オリバーは黙って!!…リチャードやニックだけじゃない。あんたらの仲間が二人町から逃げ出したのよ。そいつらがシアトル近郊の街で一般人を襲って食い殺したのも知らないんでしょ!?あんたにこのゾンビたちをとどめる力があるならなんで名無しの男(ジョン)名無しの女(ジェーン)も抑えておかなかったのよ!!!」

「サマンサっっ!!いい加減にしろ!任務に私情をはさむな!第一リアムがこの町にこれだけのゾンビをとどめていたからこそ被害が少なく済んだんだぞっっ!!!」

険悪な雰囲気でいがみ合うオリバーとサムの二人にリアムは絶妙な居心地の悪さを感じる。


「あー、オリバー?俺は別に気にしてねーからいいぞ?それより、ジョンとジェーンっつーのは…。」

「パパと、ママ……?」

ぽそりとエマがつぶやいた。そう、この町に元々いる住人たち全員がゾンビとしてこの町にいることは確認済みだ。逃げ出した男女二人のゾンビたち、旅行で両親とこの町に来たエマ、見当たらない両親の姿。これだけ条件がそろえば確実だろう。

「あー、たぶん、な。……わりいエマ。お前の父ちゃんと母ちゃん助けらんなくて。」

始めは何のことかわかっていなかったオリバーたちもそこまで言われると察しがついた。気まずい空気が流れ、誰も何も言えなくなった。

「すまない。まさか、あなたの、両親だとは思わなかったわ……。」

「……ううん。いいの、リアムがいるもん。」

自分のせいで傷ついた少女がきゅっとゾンビにしがみつく様子を見て申し訳なさが募る。

「とりあえずよ、ゾンビ化の原因調査のためなら明日俺が町ん中案内してやろうか?そっちのが襲われる心配もねーし、はじめにゾンビ化したばあさんとか紹介してやれっけど。」

「ああ、頼む。とりあえず、今日はもう休ませてもらいたい。俺たちも、一日でいろいろ起こりすぎて混乱している。」

申し訳なさそうにそう言うオリバーにリアムは快く返事をする。


「私は奥の部屋で休ませてもらうわよ、悪いけどゾンビのあんたと同じ部屋で休みたくない。」

「あ、ちょ、奥の部屋はっっ!!」

止めるリアムの声を無視してバーの奥にある部屋の扉を開ける。


がぁぅっっ!!

「っっ!!!」

扉を開けると急に目の前に犬の牙が迫った。

ぐいっと体を引っ張られて誰かに抱きとめられる。自分の眼前に迫っていた牙は軍手をはめた腕に噛みついている。まさかと思い自分の左斜め後ろにある顔を見上げると先ほどまで自分が突っかかっていたリアムの、爛れていない右側の少し垂れ気味の優し気な瞳が目に入った。

ぶちっ

「ってー!!てめえこのクソ犬!あー、もうっ!もってけこの泥棒犬!!」

おらおら行った行った!と犬を扉から追い出し鍵を閉めるリアム、その左半身には先ほどまであった腕がなくなっていた。それを気にした様子もなく残った右腕でぽりぽりと頭を掻く。

「うっわ、わりいサム、あんたの服に俺の体液ついちまったよ。軍手三枚重ねでもにじむの早いな。」

身を挺して自分をかばった姿がリチャードと被った。ああ、なんで。なんでそんな風に私をかばうのよ。ゾンビに対する憎しみと、リチャードに対する悲しみと、リアムに対する感謝とが混ざり合ってぐちゃぐちゃになる。

「…ごめんなさい。」

「んあ?いや、先に説明しなかった俺も悪かったしなー。」

「……、手から滲むのが気になるならこれを使えばいい。軍手より革の手袋のほうが滲みにくいだろう。」

そういってぶっきらぼうに手渡された手袋は、素直になれないサマンサなりの感謝と謝罪の気持ちだった。



そして次の日、昨日の件でほんの少し態度が軟化したサムと、サムにもらった革の手袋のおかげで心置きなく人に触れることができるようになったハイテンションなリアムのおかげで朝から比較的明るい雰囲気で町の散策に出ることができた。

「んで、ここが件のばあさんたちがこぞって入院してたこの町唯一の病院だな。」

「…特に変わった建物でもなさそうですね。」

「だろー?生まれてこの方死ぬまでの25年間この病院使ってたけどよー、別段おかしなことはなかったぜ?」

リアムの片腕がなくなったことで、今エマはノアと手をつないで歩いている。

「お、ちょいまち。あっこに歩いてんのが初めに不調を訴えたばあさんの一人だよ。」

リアムが指さす方向には一体のゾンビがえっちらおっちら歩いているのが見える。

「おーい!ばあさんそこの段差気を付け……あーあー。まーたぶっこけて少ない脳髄ぶちまけちまったよ。」

まさにリアムがそのゾンビに声をかけた瞬間段差につまずきこけたゾンビの頭から液体がぶちまけられ、思わず全員顔をそむけた。

「ヴァ………。」

「ちょっとまっとって。」

そういってリアムはすぐさま倒れたゾンビに駆け寄り起こしてやる。思わず近づいて手を貸そうとしたオリバーをリアムが手で制する。

「あーちょいまち。このばあさん認知症進んでっから俺の言葉も半分くらいしか聞いてくんねーんだわ。あんま近づくとかまれっぞ。」

その言葉に出した手と足を引っ込めた。

「えーっと……。とりあえずサンプルに血とか髪の気とかいるか?いるなら採取すっけど。」

「い、いや、結構だ。」

「りょーかい。じゃあな、ばあさん。あんまこけてんじゃねーぞ。」

こうやってリアムに町を案内してもらっていると、案外リアムがゾンビたちに普通に接しているのが分かった。知り合いを見つければ挨拶をし、まともに返事が返ってこずとも雑談をする。これで姿がゾンビでなければきっとなんてことないのどかな田舎町であっただろう。

「……リアム、お前は、こんなゾンビの中に一人で…。つらくはないのか?」

ふと口をついて出たそんな質問にリアムはキョトンとする。

「つってもなー。俺も気づいたらゾンビだし、そんな気になんねーぞ?」

あっけらかんと言われたらこちらもなんと返していいのかわからなくなった。

その日はほかにいくつか町の中を回ってみたものの結局原因らしい原因もわからないまま一日を終えバーに帰った。


「結局原因らしい原因ってわかりませんでしたね。」

「まあなー、ほんとここで暮らしてた俺も何でゾンビになったかさっぱりだからな。」

とりあえず昨日は報告できなかった調査結果を本部に報告すべく無線を繋げる。

ついてすぐにゾンビに襲われ隊員を二人失ったこと、生き残りの少女を一人見つけたこと、町を調査したがゾンビ化の原因が見つけられなかったことを、リアムの存在を隠して報告した。


『そうか……。リチャードとニコラスのことは残念だが、それだけゾンビという存在が脅威ということだろう。話は分かった。………ここからは、上からの決定事項だ。明日の正午きっかりに、その町の焼却処分が、決定した。』


無線から聞こえてきたその言葉にその場にいた全員が動きを止める。


『アメリカ合衆国政府はジョンとジェーン。それから被害者の男を研究所で検査した結果、今の技術ではゾンビをコントロールすることも、元に戻すことも不可能だと判断した。すでにサンプルの三名は高温での焼却処分がすんで復活も確認されていない。なぜほかのゾンビがその町から出てこないのかはわからんが、その町にとどまっている間に処分するべきだろう。』


あまりにも無情なその決断に、思わずオリバーが声をあげようとする。

「それはっっ!」


「了解でーす。んで、いつ俺たちを迎えに来てもらえるんですか?」


しかしその言葉を遮ったのはほかでもないリアムだった。

『む?あ、ああ。明日の一一四五(ひとひとよんご)時に町の中央広場にヘリを向かわせる。』

「あいよ。ほんじゃーな。」

そういってほかのやつらに有無を言わさず無線を切った。


「何を、何を考えているの!?あんた、殺されるんだよ!?」

「そ、そうですよ!!他のゾンビはともかくリアムさんは言葉だって通じるのに!!」

昨日と今日ですっかり交流を深めたメンバーたちは、なんとかリアムを助ける方法はないのかと言葉を荒げるがリアムはゾンビ然とした顔を優しく緩めて困ったように笑った。


「アメリカっつー大国がゾンビなんざコントロールできねーって言ってんだ。どうせ俺だけこの町を抜け出したところでいきつく先は研究所で、どっかの誰かが俺を悪用しねーとも限らねぇ。それに、町のみんなをほっとけねーだろ。俺は、俺たちはここでみんな一緒に灰になるべきなんだよ。」


全員何も言う言葉が見つからずに黙り込む。

おもむろにリアムが立ち上がり、今まで腐った体で入るのは嫌だとかたくなに立ち入ろうとしなかったバーカウンターの中に入り、二冊の本を持ち出してきた。

「そんなに俺のこと気にかけてくれてんならよ、こいつを持って帰ってくれねーか?」

「アルバム?」

そう、差し出されたのはアルバムだった。

「こっちは俺が撮ったこの町のやつらの写真。何気俺ってば顔広いんだぞー?一応この町のやつら全員分の写真が入ってる。ほんで、こっちが俺のアルバム。こういう馬鹿みてーな男が生きてたんだって証拠をさ、あんたらが持っててくんね?」

差し出された二冊のアルバムを代表してエマが受け取る。一人の男の生涯と、百数名の生きた証のつまったアルバムは、ズシリと重かった。


「そんなの、ずるいですよ。僕たち、リアムさんにしてもらってばっかりじゃないですか。」

ぼろぼろと涙を流すノアにリアムは苦笑いを浮かべる。


「おいおい。人生最後にこんな腐った世界で人間らしい、っていうほど人間らしくはなかったと思うけどよ、まあゾンビになってから一番人間らしく生活できたのはお前らのおかげだよ。サンキューな。」

その言葉に耐え切れず、サムもエマも、オリバーでさえも涙を流す。

「リアム、お前の生きた証だというなら、今の、ゾンビになったお前の写真も残さないとならんだろ。」

「……はっ。物好きだねぇ。まってろ、カメラ用意すっわ。」

そう言ったリアムがバーカウンターの後ろをさぐり、カメラと三脚を取り出した。バーカウンターを背景に全員が移るようにカメラをおき、タイマーをセットする。

「ゾンビを囲んで記念撮影って、どこのハロウィンなんだよ……。」

シャッターが切られるその瞬間、リアムがつぶやいたその言葉は、ほんのわずかに揺らいでいた。



ーーーーーーーーーー



乗り込んだヘリコプターの中、二冊のアルバムの入ったリュックを持った少女と、三人の大人たちは互いに何も言わずに徐々に離れていく町を眺める。

「エマ。あなた、引き取ってくれる親戚はいるの?」

ぽそりと、窓の外を眺めたままサマンサがつぶやく。

「……わからない。」

「そう………。あなたさえよければ、私の養子にならない?リアムが守ったあなたを、今度は私に守らせてもらえないかな?」

「………うん。」




「よーし、ヘリは行ったっぽいなー。おっし、そんじゃあみんなー集合!!」

ヘリが町の中央広場から飛び立ったのを確認し、リアムがそう叫ぶ。すると今までどこに隠れていたのかぞろぞろとゾンビたちが集まってくる。

「そんじゃあ今から点呼とっぞー!Aから順に呼んでくから呼ばれた奴はその場で手を……って手がないやつもいんのか。しゃーねーなー、ほんじゃよばれた奴はその場でジャンプなー。じゃあアビー!アレック!」

リアムの言葉に広場に集まったゾンビたちがぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「……以上、187名。相変わらずクソしけてる片田舎だよな。でも、だからこそ俺たちは後の世に負の遺産を残さず全員しっかり死ねる…。いいかーーー!!今から爆弾が落ちてくるけど、全員焦らず確実に死ねよー。わかったらジャンプ!」

ぴょんぴょんとゾンビが一斉にジャンプするその異様な光景を笑いながら、徐々に近づいてくる自分たちを殺してくれる爆弾を運ぶ飛行機を見上げる。

「なんつーかまぁ、腐ってるけど、最高の人生だったなぁ。」





その日アメリカ地図から一つの町が姿を消した。

世界を騒がせたゾンビ事件の終わりとしてはチープな終わりに世界中の人々は安堵とほんの少しの落胆の声をあげた。


生き残った女の子としてエマはしばらくパパラッチやメディアに追いかけられたが、そこは義母になったサムが全力で守り抜きエマの情報はほとんど世には出回らなかった。

サムはそのこともあり結局SWATを辞め、エマの母親として日常に溶け込み、ノアはこの経験を糧に新たなαチームの部隊長にまで上り詰め、オリバーは教官として今も世界のどこかで人々を救う仕事に従事している。


エマ・クラークは名をエマ・ハリスと改め、今はワシントン州の高校に通っている。将来はオリバーやノアたちのようにSWATに入り人を助ける仕事につくか、リアムのようなゾンビが再びこの世界に出てきた時のために生物学者になるのかで迷っている。


「じゃあサム、行ってきまーす!!」

「はいはい。あんまり急ぎすぎて怪我しないようにね。」

「はーい!!」

あの事件から早数年、内気だったエマは今ではすっかり明るい女の子になった。

「きっと、あんたのおかげだよ、リアム。」

そういって視線を向けた玄関の靴箱の上には二枚の写真が飾られている。

バーカウンターを背景におどろおどろしいゾンビを囲んで三人の大人と小さい少女が泣きそうな笑顔を浮かべている写真と、茶色の髪を後ろに撫でつけて、垂れた瞳を優し気に細める青年が、真新しいバーテン服に身を包み同じバーカウンターをバックに心底嬉しそうに笑っている写真。



つっと写真の中に映る今は亡きその人をなぞる。

「ま、そこで私たちを見守っててよね。」

4日間ありがとうございました。

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[一言] いかん、目から水が・・・
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