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ツキミ・エルザード・アルザラッハ-3-

 姉妹は、脱走癖があるということで親衛隊や騎士、侍従などにそれなりに監視されているが、悪い知恵はどうしてもつくもので、難なく脱走することができた。ただ、親衛隊もやられっぱなしというわけではない。脱走する瞬間に捕えられなければ、行くであろう目的地に陣を張っていればよいのである。


 そうして見回りの任を受けた五名が、今回はマレーナの息のかかった連中というわけである。二人は魔導師であり、かなりの高位にいる。その二人が魔獣の制御役で、残る三人が姉妹の警護、万が一、魔獣が制御不能になったときのための伝令と、排除役というわけだ。


 想定どおり、姉妹は護衛も伴わずにケレンの森に入ってきた。活発な妹が先陣を切って、姉のほうはたしなめつつも全力で追いかける。

 まったく、無邪気で、微笑ましい光景だ。五人の大人たちは少しだけ良心の呵責に苛まれたが、より強い権力を持った者にはかなわない。


 魔導師二人は、目をつけていた魔獣を怒らせながら誘導する。体長四メートル、六つの赤い眼に鋭い爪と牙を持つ、ライオンにも似た獣。口からは火炎ではなく氷雪を吹きだすのである。

 致命傷を与えず、しかし確かなダメージを与えて、追いかけさせるのだ。そしてその先には――――。


「シエル!!」


 五人の男たちは驚くべき光景を目の当たりにした。姉が妹を背後にかばったかと思うと、おびただしい光を発して、魔獣の体を切り刻んだのだ。

 光はすなわち魔力であり、指向性を持つ収束された光、いわゆるレーザービームだ。七色の光線は八方に飛び散り、獣の喉、胴体、四肢を貫いてにわかに絶命させた。

 実行犯の五人は、余波を相殺するのに苦労せねばならなかった。なにしろ至近にいたために、レーザーそのものや、周囲の木々が千切れ飛んで、被害が大きかったのだ。


 姉の魔法の素養が高いことは知っていたが、火事場の馬鹿力とはいえ、これほどのものとは思わなかった。二人の魔導師は、姉と多少の面識がある。そら恐ろしさを禁じ得ず、気温のためではない汗を拭うのに忙しない。


「シエル!シエル!」


 背後にいた妹は、ショックのためか気を失っていた。のちに判明したことだが、おびただしい量の魔力を至近で浴びたために魔力酔いを起こしていたのだ。

 五人の男たちはたった今駆けつけた風を装って、二人の姉妹を「救出」した。男たちがさらに良心の呵責を覚えたことに、姉は常に妹の名を呼んでいた……。


 この事件は城内を震撼させた。ことさら喧伝したわけではない。王位継承権の第二位が瀕死で運ばれたとあってはしかたのないことだろう。多少の怪我は仕方がないとはいえ、まさか気を失って、高熱を発しているとは思わない王妃から、実行犯の五人が平手打ちを含む叱責を受けたのは哀れというべきであろうか。

 王妃の息のかかった親衛隊、内務官などがさりげなく、しかし人目につく場所で姉の「夢」について囁きあった結果、この事件は「姉の乱心によるもの」と誰もが認識するにいたった。


 姉の魔法の素養が、このときは王妃に有利に働いた。王妃はいよいよ噂が高まると、妹が倒れたのは姉が呼び寄せた魔獣と、彼女自身の魔法によるものであると実行犯の五人の男と、幾人かの重臣に証言させた。まぎれもなく、権力を約束されての愚行であろう。


 姉の罪状について、前者はともかく、後者については真実の一端があるとして、証言した人物たちは自らを正当化した。だがここで、彼らの予想もしないことが起こった。


 当然、無実を訴えるであろう姉が、まったく反論しなかったのである。


 糾弾された王位継承権の一位は、自らが置かれた状況に対して、まったくの無言だった。これには糾弾する王妃側の憲兵や王室衛理庁の役人も顔を見合わせたものである。

 伝え聞いた王は、直々に、姉に問うた。重臣たちの訴えは真か?


「はい」


 短く答えた表情は、弾劾される者のそれではなかった。毅然と、明晰なもののように王には思われた。とても乱心したとは思えない。


「では殺意が?」

「いいえ」

「ならばなぜだ」

「すべては私の乱心によるもの。いかようにも罰は受けます」


 王はため息を大きくついた。剛毅で、覇気に富んだ王の姿はそこにはない。難しい年ごろの娘を相手にしている父親の姿があった。


「誰かをかばっているのか。遠慮はいらぬ、申してみよ。誰に憚る?」


 王は、娘の視線が少しだけ下がったのを見逃さなかった。表情は相変わらず、口を一文字に結んでまっすぐに父を見据えている。すでに風格さえ漂わせるものだ。とても身長一三〇センチメートル弱の女の子とは思われない。

 だが、王はこのときばかりはその「素質」に困り果てているようであった。


「畏れながら天に。天地神明に憚っております」

「天に!おお、それほどまでの大罪か。ならばなおのこと、事の子細を問いたださねばならぬ」

「陛下」


 世の中の父親が最も見たくない姿を、ルドウィンは見た。娘が父親に向かって膝をつき、頭を垂れている。


「お願いします」


 首を斬れ、と言っているのだ。王の側に侍っていた、親衛隊長、侍従長、憲兵隊長、内務大臣らも、さすがに息を呑む。このような幼い子が、死を覚悟しているとでも?

 王はいくつかの理由から、激して見せねばならなかった。


「愚か者!もはやそなたの首で収まる問題ではないのだ。自らの立場をわきまえよ」


 現実問題として、魔獣を呼び寄せて妹を手にかけんとした事実、その事実の陰にある真実を隠そうとする姿勢、自らの王位継承権第一位という立場。これらから、たった一人首を斬らせたところで解決するものではない。そしてなにより、父に娘の首を斬らせるなどという、古今貴賤問わず、考えうる限りの悲劇がある。


「話してくれ。決して悪いようにはせぬ」


 王ではなく、父の姿を見出して、少女は目を伏せた。しばらくしてから、少女は一歩、後ずさった。


「……わかった。追って沙汰する」


 その場にいた全員が、固唾を飲んだ。このやりとりは、一体なんなのか。王と王女、父と娘、しかしそれにしても少女は未だ八歳ではないか!


 四日の後、沙汰があった。内務大臣、憲兵隊長、王室衛理庁長官らが吟味して奏上したのは、王位継承権の一時剥奪と二年間の自室禁固であった。

 成人してからならともかく、八歳の少女が犯した失敗など、未来でいくらでも取り返せるというものだ。そのための二年間の自室禁固であり、現代でいうなら保護観察下に置くというところであろう。


 この奏上は王としても納得のいくものだった。気が狂ったのが事実だとしても、実際に殺害したわけではなし、八歳の女の子を処刑するほどのことはない。だが、それに猛然と反発した者がいた。


 民衆である。とにかく古来よりの、正当なる王位は男子に与えられるという伝統を乱すにとどまらず、妹に手をかけんとしたことが反発を生んだのだ。

 無論、この反発を扇動したのは王妃である。彼女としては、王位継承権の「一時」剥奪などという手ぬるい処罰では納得できるはずもなかった。姉からは継承権を完全に取り上げねばならない。


 このとき、この騒動のなかで最も悲劇を生んだのは「民衆に王位継承権の一位が姉であることを漏らしたのは誰か」という疑念に、とある親衛隊隊員が犠牲の祭壇に捧げられたことだった。なにしろ王位継承権の話は民衆には公表されていない。彼は無実を訴えながら、永遠に首と胴が繋がることがなくなった。


 王妃は継承権を取りあげるべく、姉に王位簒奪の野心があることをでっちあげた。王女とはいえ八歳の女の子がそんな野心を抱くはずはない。だから民衆に対しては、側室のソレイユが企み、姉もそれに積極的に乗ったことであるとの流言を流したのだ。この点、姉の聡明さと魔法の素質というものが不利に働いた。

 あの賢しい王女なら、それもありうるだろう、というのだ。


 ソレイユには、姉が王位継承権の第一位であることは伝えてある。待っていればいずれ果実は熟すのに、わざわざこの時期にもぎ取る必要はない。

 だが、それも確実ではないのだ。万が一、正室に男子が生まれればそちらを次期王位に据えるであろう。ならば、そうならないようにマレーナを殺害することも充分考えられる。


 王の権力は絶対だ。しかし、民衆の声を無視し、重臣の諫言を退けるのは暴君のすることである。


「ソレイユ。なにやら周囲が騒がしいな」

「はい。ですがなんら、後ろ暗いところはございません」

「真だろうな」

「我が王。私に野心があると本当にお思いですか」


 ルドウィンは側室のソレイユにそんな企みがあるとは露ほども考えていないが、結果として、ソレイユにしばらく謹慎を命じたことは事実である。王は、個人の希望を押し通すことの困難さを知っていた。


「母上」

「あなたの考えていることなど、私には手に取るようにわかります。優しい子、でもその聡明さが足元をすくうのでしょうか」

「母上」

「いずれ、わかってくれる人が現れます。それまで、毅然としているのですよ」


 ほどなくして側室であるソレイユの「病死」が発表された。自室にいたソレイユは服毒自殺を試みたのであった。ソレイユは清廉潔白で、誇り高き女性であった。無実を訴えれば、娘が口を噤んだ意味がなくなるし、自分が死ねば「やはり簒奪の野心は本当だったのだ。事実無根であれば、死ぬ必要などないではないか」ということになる。彼女は自分の死によって、娘の意志を貫いたのである。


 そして自分の死によって、娘に対してある程度の免罪をさせたのである。


 誰もが白々しさを感じていたが、死んだのならば仕方がない。矛先は俄然、八歳の少女に向けられる。


「王位簒奪は大逆。いくら八歳の少女といえども死は免れない」

「だが、未だ己が何者かわからぬ少女にすべての罪を押し付けるなど、人道的といえるか」

「それ、己が何者かわかる前に死を与えなければ。稀代の魔女やもしれぬ」


 大多数が、少女の年齢を気にして、真実、彼女そのものを気遣っていた者は、直接警護を仰せつかっていた親衛隊副隊長のエルウィン・ノアール・コールブランドとその部下、アルマリー・フィルブランド、それに連なる者たちだけであった。彼らは少女が妹を手にかけるわけがないことを知っていた。王よりも近くにいて、侍従よりも彼女を見守ってきたのだ。


 彼らは王に直訴した。直訴は王に直接不信を訴えることであるから、即刻処罰の対象になる。しかし、彼らには甘んじて処罰を受けても、明らかにせねばならないことがあったのだ。


 結果からいえば、彼らの敗北に終わった。王の、娘に対する寛恕を期待したのだが、それが逆効果になったのだ。王にしてみれば、真実を押し隠して罰を受けようとする娘、その母親はあろうことか王位簒奪を企んでいるという疑惑がある。重臣たちは遡って、やはり女子に王位継承権を与えるからこうなったのだ、などと嘆く。民衆に至っては、王にもその素質ありや、と疑問視する声が上がっている。

 そこへ、少女の助命嘆願と再調査の直訴ときては、たまったものではない。王は一喝して引き下がらせてしまった。


 最終的に下された処分は、王位継承権の剥奪、アルザハ北東部への監禁である。辺境へ流刑にすることも考えられたが、コールブランドとフィルブランドを辺境に左遷させることで決着がついた。姉を処刑、またはコールブランドらと一緒にすることは、反乱の危険性があったからだ。アルザハの内部に姉のみを残しているのならば、体のいい人質にもなりうる。


 王位継承権の第一位だった人物は、話し終えて、一息ついた。紅茶が欲しいところだった。自分の過去を話すことは、彼女にとって大した労力ではない。もう、すべては終わった事なのだ。


 明人は目を丸くせんばかりに聞き入っていた。大魔導師ではなく、大貴族どころか王女様だったのだ。次期、女王となるべきだった人物、それがツキミという女性であった。


「なんで、なんで無実を訴えなかったんです」


 まず思い至る、素朴で単純な疑問である。やってもいないことで、なぜ罰せられねばならないのか。


「無意味だからです。私は当時八歳、訴えたところで周囲は大人の理屈を優先させるでしょう。それに」

「それに?」

「妹に迷惑がかかります」


 このとき初めて、ツキミは悲しそうな、というよりは困ったような表情をした。


「迷惑って、悪いのは王妃なんでしょう?」

「それだけで済まないのが王家なのです」


 仮に、すべての企みが王妃によるものだと露呈した場合、確かにツキミ自身は自由になり、王妃は罰せられるであろう。加担した人間もことごとく処罰される。だが、ことは大逆罪に値し、王妃は死を免れまい。

 なら、その子供であるツキミの妹は?


 ともども処刑も考えられる。しかし、彼女は利用されただけであって、六歳の少女が自ら積極的に母親に加担したとは考えにくい。王妃が言い含めた結果であると見るべきだ。

 ところが、まったくお咎めなし、とはいかないのが王家の救いがたい部分である。担ぎ上げられたとはいえ、彼女も王位継承権の第二位、そんな立場にある者が王位簒奪の関係者とあっては、罪を問わないわけにはいかない。年齢によって極刑は免れても、立場が無罪を払いのけるのだ。


 辺境に流刑、程度のことはあるであろう。それこそ、明人が最初にいた村、エウザレ山の麓あたりで平民よりはいささか程度に裕福だが厳しい環境で一生を過ごさねばならない。六歳の女の子では野垂れ死にしてしまうかもしれない。


 ツキミと、現在の立場が逆転していたのだ。それも、妹にはなんの落ち度もなく。八歳だったツキミは、その聡明さによって未来を予見し、回避したのであった。彼女には妹が非難され、罵倒される姿を見ることは困難だった。

 ツキミには、王妃の気持ちも少しだけわかる。側室が自分を差し置いて正室になってしまうのだ。その屈辱は筆舌に尽くしがたいものがあるだろう。人々の嘲笑は、そのままツキミの妹にも向けられてしまう。姉の影に一生隠れながら生きねばならない妹、母親として、耐えられない境遇であろう。


 そして姉も、それには耐えられそうにない。ならばいっそのこと、彼女が救われたほうがよいではないか。


「でも、ツキミ様だって無実でしょう」

「王位継承権の一位というのは、それだけで罪なのでしょうね」

「そんな……」


 生まれによってのみ、彼女はこの状況に陥っているというのか。ただの嫉妬や権力欲によってではないか。

 宮廷闘争、政治闘争、要するに単なる内ゲバであって、そこにはなんの高貴さも正当性もない。


「くだらねぇ……」


 思わず、独語してしまった。大罪人、魔女と呼ばれるツキミ。その正体は、権力争いに巻き込まれただけの、哀れな女性だったのだ。


「あなたにはそう感じられるでしょうね」


 明人は、迂闊にも漏れ出た言葉がツキミを傷つけたことに気づいた。


「いや、その、すみません」

「いえ。そう思われるのは当然です。ですが、これでわかっていただけたかと思います。私に、フィルブランドを救う力があるのか」


 事態は明人の想像をはるかに越えて、付け入る隙がない。ことの真偽はともかくとして、大逆人という罵声は間違っていないのだ。王妃はツキミが反論しないのをいいことに、王家内部のみならず民衆にまでツキミの「罪状」を宣伝している。民衆は真実を知らないだけで、その根深さは相当なものであろう。


「(あの本は、内容はともかく、民衆にとっての真実なんだ。妹を殺そうとした姉、それがすべてなのか)」


 脚色されて妹は殺害されていたが、それこそが、民衆のツキミに対する反感のすべてなのであろう。


 だが、明人には納得がいかない面もある。確かにツキミの考えは、王女として、姉としての誇りと尊厳に満ちて、まず立派なものであろう。しかし、それによって他方に累が及んだとあれば話は別だ。つまり、コールブランドとフィルブランドだ。


「それを言われると反論の余地はありません。彼らに無限の負債があることは充分に承知しています」


 ツキミの金褐色の瞳には現在と過去が映っている。自分が追い落とされてしまったばかりに、彼女を支持する人々が同じ運命を辿ってしまったことは心に暗い影を落としていることだろう。なかには、辺境の地で呪詛の言葉を吐きながら死んでいった者もいるかもしれない。


 それを思うと、とても非難する気にはなれない。だが、批判はされるべきであろう。過去のことはともかく、現在を少しだけ変え、未来をそっくり変えてしまうべきだ。

 ただ、その方法が、明人にもツキミにもわからなかった。


 それにしても、当時八歳の女の子の思考とは考えられない。王女ともなると、成人のような思考回路を持ちうるのだろうか。現在の彼女の立ち居振る舞いを見れば、納得もいくような気がするが。


 ツキミは遠い目をして呟いた。


「……そうですか。一〇年になりますか。もっと経っているかと思いましたが」

「えっ」


 一〇年前に八歳ということは、現在彼女は一八歳ということになる。ジュゼッカが二三歳だから、ツキミはジュゼッカよりも五つも年若い。


「(もっと年上だと思ってた……!!)」

「なにか?」

「いえ」

「ジュゼッカは元気にしていますか」

「彼女を知っているんですか」

「ええ。小さいころはよく遊んでもらいました。彼女の馬術は大人も顔負けでしたよ」

「……はい。ここまで、俺を連れてきてくれました。そして今も俺の、いえ、あなたのことを待っています」


 ツキミは頷いて、背後にある窓から空を見上げた。

 空は青くはない。結界が薄緑色をしているためだ。加えて、夜も薄緑色をしている。彼女には、屋敷の外の風景の色彩、そのすべてが、すでに記憶のなかにしか存在していないのだ。

 手詰まりか。結界が解除できない以上、彼女をここから連れ出すことはかなわないし、そもそもアルマリーを牢から出す手段もない。


「コールブランドは動かせないんですか」


 エウザレ方面警護の任にあり、フィルブランドの親戚であるなら、大貴族であるコールブランドが命じればアルマリーを牢から出すことも可能ではないか。


「それはできません。当然ながらコールブランドは監視の対象です。軍の一個大隊がコールブランド領に駐屯していることになります」


 仮に、コールブランドをそそのかしたところで、挙兵の大義名分が立たない。司法によってツキミの処遇は決定してしまっていて、なにより一〇年も前の話だ。王妃らの奸計であるという物的証拠でも掴んだというのか。


 それに内乱ともなれば外国への信用問題にも発展する。この機に乗じて攻め入ってくるところもあるだろう。


 明人は大きく息をついた。その呼気は熱く、まるで竜の吐息のようだ。


「どうされたのですか」

「え?」

「ずいぶんと汗を。具合でも悪いのですか」


 言われて、明人は頬を伝う汗に気づいた。額にも、首筋にもある。手の甲で拭うと、じっとりと小さな湖を作った。

 この感覚は知っている。四日ほど前にも感じた、平衡が失われ、意識がどこかに引っ張られる感じ。


 明人の意識は、横倒しになった、黒髪と金褐色の瞳を持つ美しい女性の顔が覗き込むところで途切れた。



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