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相変わらずリカの魔力調整の修行は続けられていた。
しかし、まったくと言っていいほど思い通りの場所で砕けてはくれず、ひたすら魔石を木っ端微塵にする日々が続いていた。
ひたすらとは言ってもリカの魔力の量は一般の子供よりやや多いくらいなのですぐに魔力切れを起こしてしまい、時に無理に魔力を放出しすぎて熱を出してしまうこともあった。
マリエッタ曰く、自分の魔力の量を知っておくことも大切なことらしい。
今の所、魔石10個程度を粉砕するとリカの体力は限界になる。
始めは6個が限界だったことからリカの魔力はすこしづつ増えているようだよ、とマリエッタは教えてくれた。
そして魔力調整の修行を開始してから一ヶ月が経ったころ。
未だに魔力の調整がうまくいかず、また粉々になった魔石をみてリカはため息をついた。
このまま調節も出来ないまま終わってしまうのだろうか。
不安がリカの胸をよぎる。
逆にマリエッタの知人との文通は順調に続いていた。
少しづつ覚えた文字を書いてはその人に送ると、赤ペンで訂正して帰ってくる。ご丁寧に解説付きだ。
最近では挨拶や短い文章であれば書けるくらいには上達したので、最近の楽しみの一つだ。
教えてもらった新しい文字がさらに新しい世界の事を教えてくれる。
その人から送ってもらった幼児用の絵本も少しづつ読めるようになると、知らないことがどんどん増えてきて、マリエッタに聞いては書き留めていくことがとても面白かった。
だからこそ、魔法を使う第一歩である魔力の調整を習得できないことがリカを焦らせていた。
この日11個目の魔石を粉々にしたリカにマリエッタが今日の修行の終わりを告げた。
リカの口からため息がこぼれる。
このままずっと出来なかったらどうしよう。
そんな気持ちを悟ったのか、マリエッタがリカの肩に手をかけた。
「今日はこれくらいにしよう。」
「でももう少しで出来るかもしれないのに…」
「焦ってもしょうがないさ。明日には簡単に出来るようになるかもしれない。
それにリカの魔力は魔石に反応しすぎて普通の人間より調整が大変なんだって始めに言っただろう。
アンタは普通の魔術師よりも何倍も繊細な作業をその小さな身体でしてるんだよ。はじめから到底できない無茶なことをしているんだから失敗して当たり前なんだよ。」
そう言ってマリエッタはリカの手から粉々になった魔石の粉を払った。
そんな言葉をかけてもらったが、前に進めないもどかしさにリカは唇をかみ締めた。
最近では夢にまで見るようになった魔石。
それを睨みつけた。
その夜、リカが寝静まったころに、マリエッタは手紙を書いていた。
あて先はもちろん彼女の一番弟子のエドガーである。
マリエッタはリカの心の葛藤に心を痛めながらも嬉しく思っていた。
いままで彼女の弟子達は魔力の調節など一時間ほどで出来た者たちばかりだったからだ。
しかし、一人だけリカの様に成功出来ない者もいた。
それがエドガーである。
小さいころの彼はあまりの魔力の強大さに周囲がどう扱ってよいか分からず、マリエッタに預けられたのだ。
マリエッタも始めての弟子に四苦八苦しながら教えていたものだ。
今思えば、エドガーに教えていたのではなく、教えられていたと言ってもいいだろう。
だからこそ後に何人もの弟子を向かえることになり、その弟子が魔法を教える立場になっている。
その彼に是非ともこの状況ならどうやって調整の仕方を覚えさせるか聞いてみたかった。
年老いた自分の考えではいい発想など到底思いつかないが、彼は現役の教師だ。
なにかいい案があるかもしれない。
そう思ってマリエッタはペンをとったのだ。
しかし、この考えが後にとんでもない事件の引き金になるなど、そのときのマリエッタには考えもつかなかった。
数日後、エドガーの元にマリエッタの手紙が届けられた。
彼はリカの手紙が一緒に無いのにがっかりしながらも、師匠の手紙に目を通した。
読み進めていくうちにエドガーの眉間にいつもより深い皺が刻まれる。
ちなみに彼の眉間の皺がよるのは不機嫌だからではなく、とても機嫌が良いからである。
彼が機嫌がいいのは、もちろんリカの修行に加われるという嬉しさからでもあり、師匠に魔法の事で頼られるのはこれが始めてのことだったからだ。
あの人の弟子になってはやン十年経つが、ようやく師匠に認められたと思ってもいいのだろうか。
リカがマリエッタの弟子になって、エドガーには良い事が続いている。
師匠に認められたこともそうだが、魔力の純度による魔生物の活性化の研究がとても進んでいるのだ。
おまけにいう事を聞かないホルホルも素直に手紙を運んでくれるし、この前売店のくじ引きで3等が当たった。
おかげで以前から買い足さなくてはと思っていた羊皮紙を買わなくてすんだ。
これは私も頑張らなくては。
変なところで張り切るエドガーは早速、奥の部屋へと向かった。
其処は物置になっていて、そのなかに目的の物は置いてあるのだが、久しく使っていないため奥のほうへとしまわれていた。
それの包みを開くと現れたのは薔薇のつぼみの装飾が美しい手鏡だった。
それは彼の友人と連絡を取り合うための鏡で、遠くの者との会話を可能にする通信装置でもある。
彼は友人の中でも特に変わっている人物だった。
もちろん変わり者という意味でもあったが。
ウェサニル樹海の反対側に位置する森の主。
人間よりも遥かに長い年月を生き、魔法を得意とする高潔な種族。
人は彼らをエルフと呼ぶ。
彼らは森と共に生きる種族だ。
滅多に森から出てはこないが、魔法の扱いに関しては右に出るものはいないといわれている。
そんな種族の中にも変わり者は必ずいるのだ。
それが彼の友人だ。
彼ならきっとリカの助けになってくれるに違いない。
彼の能力を生かす絶好のチャンスだ!
魔力を手鏡に込めると、魔力に反応して薔薇が咲き綻ぶのと同時に、鏡面に波紋が広がり別の空間を映し出した。
やや時間を置いてひょっこり顔が現れる。
太陽の光を集めて伸ばしたような腰まで伸びる金の髪に、抜けるような白い肌。
彼らの住む森の葉と同じ色の瞳を驚きに見開いてエドガーを見つめていた。
「おや、久しぶりに鏡が反応したかと思えば、薄情な友人じゃないか!」
相変わらずの物言いにエドガーは苦笑で返した。
森のエルフの中でも高位に位置するハイエルフなのに、森一番の変わり者。
それがエドガーの友人であるヨハンだった。




