9
評価&お気に入りありがとうございます!
ウェサニル樹海は今日も快晴だが、木々が太陽を遮ってやや薄暗い。
しかしマリエッタの家以外は木があまり無いので明るいのだ。
そんな太陽がさんさんと降り注ぐ庭にリカはいた。
マリエッタにお昼寝の時間だといわれていたのだが、抜け出してきたのだ。
リカは小さな手のひらに収まりきらない赤いビロードの箱の中身を見て、大きなため息をつく。
そこには花をモチーフにした可愛らしい髪飾りが一組、行儀よく並んでいた。
花の中心にサファイアによく似た宝石がきらりと光るそれは、マリエッタの知人に頂いた生活用品にまぎれて送られてきたものだ。
ほかに送られてきた品物たちも、どれも値段が聞けないようなものばかり。
ベッド、洋服ダンス、ソファなどの家具類から普段着やパジャマ、下着類などの衣類まで入っている。
いったいどんな人が用意してくれたのだろう。
ここまで細やかに揃えられるとはその人には子供がいるのかもしれないし、女性なのかもしれない。
あ、でもマリエッタの弟子には女性はいなかったらしいから、弟子の誰かが奥さんに相談して揃えてくれたのかな?
それにしてもこんな高そうなアクセサリーは自分のような幼児にはもったいないような気がして、マリエッタに相談すると、彼女は
「ああ、そんなの気にすることはないよ。金は腐るほど持ってるんだ。
それにその髪はそのままじゃ邪魔だろう?ちょうど良かったじゃないか。」
そう言って取り合ってくれなかった。
この世界に来てからリカの髪は、足の付け根ほどまで伸びてしまい、前髪だけマリエッタに切ってもらったのだ。
本当はばっさりと切ってしまっても良かったのだが、マリエッタの猛反対にあい長いままになった。
マリエッタ曰く、魔法を使う上で、髪が材料に必要になることもあるので、とっておいて損はないという事らしい。
しかし、マリエッタのように綺麗に結い上げることもこの小さな手では無理だし、髪を結うたびマリエッタの手を借りるのも申し訳ない。
そのため、リカの髪は何もされることなくおろしっぱなしになっているのである。
お礼をしようにも誰なのかはマリエッタは教えてくれる気はないらしく、受け取っておけとしか言わない。
それに良く考えれば、お金もないリカにはお返しなどできもしないのだ。
それでもお礼くらいは言いたいのだが…。
太陽にきらめく髪飾りを睨みつけ、リカはおもむろにその一方を手に取った。
髪を二つに結ぶのは鏡が無ければ難しいため、サイドの邪魔な髪を僅かにとってぱちんと髪留めで止める。
反対側も同じように留めればうつむいても髪は垂れてこない。
近くにマリエッタと仲の良い狼たちが日向ぼっこをしていたので、とことこと彼らの元へむかう。
目を閉じていた彼らは、リカが近寄ってきたのに気がついて、顔を上げた。
マリエッタからは彼らは大人しいし、利口だから話し相手になってもらえといわれているのだ。
「どうかな?にあってるかな?」
一番大きな狼に話しかけると、彼は首をかしげて尻尾を一振りした。
『にあっているぞむすめよ。』
機械の音声案内を聞いているような話し方なのが気になるが、確かに意思疎通は出来るらしい。
これからは暇な時に、彼らに話し相手になってもらうのもいいかもしれない。
褒められたことも嬉しかったが、思わぬ話相手の出現に、リカの胸は高鳴った。
なにせ、知らない事だらけなのだから、誰かと話して、疑問に思ったことを片っ端から聞いて聞くほうが覚えやすいので、話し相手は多いに越したことはない。
それに、リカはぴんと思いついた。
手紙を書かせてもらえばいいのだ。
そうすれば文字の練習にもなるし、一般常識を知ることも出来るかもしれない。
勉強のためと言えば、マリエッタも許してくれるかもしれない。
さっそくリカは狼たちにお礼を言うと、マリエッタの家へと駆けていった。
昼過ぎの時間はマリエッタにとっては大事な読書の時間なので、邪魔するのは申し訳ないと思いつつ、マリエッタのドアをノックした。
部屋の中から、入室の許可の声がしたので、そっと中へ入ると、壁一面の本に目が行く。
文字さえ分かれば本を読んで、知識を会得することも可能だと考えたリカにとって、この世界の文字を理解することが何よりも最優先の問題だった。
「どうしたんだい、今は昼寝の時間だろう。中身が大人とはいえ、身体は子供なんだから寝ないと身体が持たないよ。」
「ごめんなさい。でも、どうしてもお願いしたいことがあって…。」
「うん?なんだい?」
マリエッタは掛けていた眼鏡をデスクの上に置くと、椅子をくるりと回して私のほうに身体を向けた。
「あの、この髪飾りのお礼をしたいなと思ったんですけど。」
「おや、つけたんだね。とても似合ってるよ。
そのまま別荘地にでもいれば貴族のお嬢様に間違えられそうだよ。」
マリエッタはリカの髪飾りを見て、ほっこりと笑って褒めてくれたが、貴族のお嬢様という基準がいまいち異世界の人間であるリカには分かり辛い例えだった。
しかし、実際にはリカの今の格好は貴族に人気の店で作られたワンピースだし、言動が落ち着いているので貴族のお嬢様よりもお嬢様らしかったりする。
「あ、ありがとうございます。それでなんですけど、お礼に手紙を書きたいと思ったんです。」
「手紙?」
マリエッタはいぶかしげな顔で、リカの話を聞く事にした。




