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第十三話

 男の案内で謁見の間の前まで来ると、扉の左右で警備についていた近衛兵が規則正しい動作で扉を開いた。


 うぉ、眩しいっ。


 中に入った途端、目が眩んだ。

 なんと舞踏会でも開けそうな広さの謁見の間は金ぴかだったのだ。

 そうとしか表現出来ない。

 壁も柱も天井も全て、す・べ・て・純金。

 シャンデリアの明かりがそこらじゅうに乱反射して眩しいったらない。

 誰だ、こんな悪趣味な広間を作った奴は。

 思わぬ目潰しに足止めをくらっていると前方から声がかかった。


「何をしている?早く入れ」


 よく通る男の声が扉のところで立ちつくした私達を促した。

 早く歩きたいのは山々なんだけど目が、目がっ。

 必死に目をショボショボさせていると、アモンが私の手を握って誘導してくれた。

 広間の中央をはしる一本の赤絨毯の上を歩いて玉座に近づくと、アモンにならって軽くお辞儀をする姿勢をとった。

 皇帝の声がかかる頃になってようやく、目が慣れはじめた。


「面を上げよ」


 玉座から声をかけられ、顔を上げた。

 この時初めて私は、皇帝ラルグラン・グラシアの顔を見た。

 歳は五十代半ば頃だろうか、皺の刻まれた顔立ちは鋭く、神経質そうな印象を受けた。

 太ってもないし、品もあってそう悪くない容姿なのだが、顔色が悪く曇天を思わせる灰色がかった青の目が陰鬱な雰囲気を漂わせていた。


「レイヴァン、ようやく城に顔を出したな」


 抑揚の少ない平坦な声でラルグランは話す。

 どうやら愛想というものはないお方らしい。

 冗談とか通じなさそう。


「ここ一年国を出ていたものですから。戻ったらこの悪魔騒ぎでしょう?驚きました」


 アモンも白々しく言うものである。

 ラルグランは内心苦々しく思っていたかもしれないが、表情には出さず一つ頷いただけで叱責したりはしなかった。


「我が国に忌まわしき悪魔が現れた話をする前に、その娘は誰だ?レイヴァン」


 あ、やっぱりスルーはしてくれないのね。

 ラルグランの視線が私に向けられた。


「ボクの婚約者です。異国の娘でカナと申します」


「初めまして、陛下」


 裾を軽くつまんで、お辞儀をする。

 ラルグランは興味のなさそうな顔で私を見た後、再びアモンに視線を戻した。


「そなたの父親には、余の娘との縁談の話をしたはずだが・・・」


「ええ、昨日お聞きしました。けれど、それはお断りするよう父上にも申し上げたのですが、まだ伝わってなかったようですねぇ。ヘイカ、ボクにはもう心に決めた女性がいますので、タイヘン申し訳ないのですがこのお話は無かったことに」


 あーあ、直接断っちゃった。

 あとでバルハンとエリンに何と言われるか今から頭が痛い。


「皇家からの申し出を断るか」


「残念ながら、縁が無かったとお諦め下さい」 ニッコリあっさり断るアモンだが、皇家からしてみれば格下の公爵家にわざわざ縁談を持ちかけたにも関わらず断られたのだ。

 どんな思惑があって持ちかけたのかは知らないが、恥をかかされたも同然だった。

 事実、アモンが皇女との縁談を断った途端、謁見の間に小さな騒めきが起こった。

 玉座の左右に控えていた数名の高官達からだ。


「・・・まあよい、その話はあとでしよう。今は悪魔討伐の件だ。マーレイ、ユリア殿はまだか」


 ラルグランが脇に控えていた男性に声をかけた。

 淡い金髪の端正な顔立ちをした青年で、周りにいる派手な貴族達の格好に比べれば地味な色合いの服装していたが不思議と目が惹き付けられる華のある人だった。


「父上、今ダレオンが呼びに行っておりますのでもうしばらくお待ち下さい」


 皇帝を父上と呼ぶ青年。

 ということは、五人いる皇子の一人か。

 見た目には二十代後半ぐらいに見えるので第一皇子かもしれない。


 二人目の皇子の登場に驚いていると、先ほど自分達が通ってきた広間の扉が再び開いた。

 皇子から目を離して振りかえると華やかな三人の人間が広間に入ってくるところだった。


 あら、あらら?

 あれってもしかして神子じゃない?

 金髪碧眼のやたら美形な男二人に挟まれるようにしてちょこちょこと歩く可憐な美少女。

 神子の証である黒目黒髪だし、まず間違いないだろう。

 あらー、意外と簡単に会えちゃったよ。

 探す手間が省けて良かったけど、ちょっと拍子抜けしてしまった。


 神子は想像していた通り、これぞヒロイン!って感じのキラキラした美少女だった。

 東洋系の顔立ちをしていて、もしかしたら私と同じ日本人かもしれない。

 しかし悲しいことに私との共通点はそれぐらいで、他は全く違っていた。

 肩ぐらいまである黒髪は羨ましいぐらい艶やかだし、子鹿のような大きな黒い目はウルウルしていて魅力的だし、真っ白な肌はニキビとは無縁そうだし、ぷるんと潤いのある唇はふっくらしているし、とにかく守ってあげたくなる可憐な美しさが彼女にはあった。


 こんな可愛い子にジッと見つめられたらたまらんだろうなーと、オッサン臭い思考に入りかけていると、ラルグランが神子を呼び寄せた。


「ユリア殿、紹介しよう。この男がベルフェノル公爵家のレイヴァンだ。性格はアレだが、腕は確かだ。きっとそなたの力になるだろう」


 性格はアレって・・・アモンよ、お前の評判って一体。


「初めまして、高村由梨亜です。由梨亜と呼んでください」


 あ、日本語だ。やっぱり日本人なんだね。

 何か術でも使っているのか、お互い違う言語を喋っているのに通じているようだった。

 こんな便利な術もあるんだ。

 ちなみに私は両方喋れる。

 前世は日本人だし、魂がこちらの世界の魔王だからなのか記憶は無くても言語は理解できた。


「ふーん。ユリアちゃんって言うんだぁ。よろしくネ」


 アモンが微笑んで挨拶すると、その人並みはずれた端麗な顔を間近で見てしまった由梨亜は頬をポッと赤くさせて俯いた。

 おいおい、今何のフラグたてやがったアモン。


 そんな様子を見てムッとしたのか、彼女の横にいた金髪碧眼の美少年が二人の間に割って入って来た。


「レイヴァン、久しぶりだね。また国を出ていたの?」


 少女かと見間違えるほどの可愛らしい笑顔で尋ねるが、目は露骨にアモンを牽制していた。


 神子にこれ以上近づくな、と。


「これは、ミリアンデンカ。お久しぶりです。ええ、今回は遠い東の異国まで行っていたものですから」


 アモンも美少年の視線の意味に気付いただろうが、もちろん気にする筈がない。


「神子召喚を行ったのですね。二百年ぶりの神子がこんなに可愛らしいお嬢さんだったとは」


 可愛らしいの部分でわざとらしく由梨亜を見つめるアモン。

 照れたようにますます顔を赤くする由梨亜を見て、不機嫌になる美少年ことミリアン皇子。

 アモン、お前はホントに人をからかうのが好きだね。

 それに、ミリアン皇子もスゴく分かりやすい人だ。

 アモンを恋敵だと勘違いして警戒しているのがバレバレである。


「しかし、召喚を行うのは大変だったでしょう。神官と術師を何人か潰したんじゃないですか?」


「・・・お前がいればそんなことにはならなかった筈だけどね」


 嫌味っぽくそう言って、ミリアンはプイッと顔を背けた。

 そんな彼の態度にやれやれと困ったようにもう一人の金髪碧眼の青年がアモンに話かけた。


 ミリアンよりずっと男らしいが顔のパーツがすごく似ていたので彼の兄、つまり皇子だろう。


「レイヴァンが帰って来てくれて助かったよ。今回現れた悪魔は凶悪で恐ろしく強い。ユリアが来てくれたとはいえ、君のように優秀な術師がもっと必要なのが現実だ」


 深刻な顔で言う皇子を見て、真面目そうな人だなという印象を受けた。

 彼といい、他の皇子といい美形な兄弟達だな。


「ダレオンデンカ、私も戻ったばかりで詳しくは知りません。今回現れた悪魔について最初から話して頂けませんか?」


 アモンの言葉にダレオンと呼ばれた皇子が頷いた。


 うん、説明するのはいいんだけどさ、どこか座れる場所にでも移動しませんか。

 早くこの金ピカの間から出たいんだけど、と言いたいのを何とか我慢していた私なのでした。



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