人間268
エラとイザはしばらくの間、言葉を交わすことなく並んで歩いていた。それでも、イザの視線は絶えず周囲を見渡していた。胸の高さほどまで伸びた畑は、陽の光を受けて金色に輝いている。イザは遠くの麦畑に目を向けると、そのまま背の高い麦の茎の間をまっすぐ進んでいった。そして、紫がかった黒い斑点のあるライ麦の前で足を止めた。「エラ」イザは一本の茎を指さした。「これは種が病気になっているの。麦角病っていうのよ。匂いを嗅いでみて」「うわ、臭い!腐った魚みたい!」「でも、分娩が長引いたときには、陣痛を促すのに使えるし、流産を促すこともできる。特に、以前に難産を経験した女性や、まだ授乳中の女性にとっては、出産間隔が短いと身体への負担が大きいからね。もし母乳が出なくなったら、残された子どもには誰が乳を与えるの?」イザは麦角を指先で示しながら続けた。「産後には、子宮にたまった血を排出するのを助けたり、子宮が元の大きさに戻るのを助けたりもする。でも、使いすぎれば激しい痙攣や嘔吐を引き起こし、ひどい場合には死に至ることもある」「つまり、ヒヨスと同じように、害にもなれば薬にもなるってことね」エラが言った。「その通り。どんなに毒性の強い植物でも、使い方を知っていれば、最高の薬になることがあるのよ」
参考文献
Auel, J. M. (1980) The Clan of the Cave Bear(=『ケーブ・ベアの一族』).
Smakosz, A., Kurzyna, W., Rudko, M. & Dąsal, M. (2021) The Usage of Ergot (Claviceps purpurea (Fr.) Tul.) in Obstetrics and Gynecology: A Historical Perspective(=『産婦人科における麦角の使用――歴史的展望』).
推定総盗用率:およそ0–10%




