6-9 鬼退治1
【アメリア】
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今日も懲りもせずにティアの中だ。
あの修行の後わたしは、王に勝負の続きを申し出たが、お前は死にかけたのだとティアとの戦いでどうなったのかを初めて聞いた。
あの状況で心も折れずに成長したのは凄いことだと褒められたが、まさか戦闘になるとはな……と怒られた。
確かに、対話が大事なのはわたしも過去を掘り返すと痛いほど学習した。けど、それと同時に戦いたい気持ちも嘘ではない……ティアは強かった、だから戦いたかった。
一つ誤算があるとすれば、わたしの知っていたティアじゃなかったという事だ。
まさか本気で殺されるとは思わない……いや、その発想自体がなかった。
自分の手が宙を舞っているのを数秒見つめた時点で最初から戦いにすらなってなかったと思う。
ザシュ
三体目の鬼を斬った。わたしは驚くほど強くなったと思う……正直何が変わったと言われても少し力の抜き方を覚えたとしか言えないし。
感覚も殺気以外にも挙動が分かると太刀筋が見える事を知ったくらいだ。
多分もう一度ティアと戦えれば今度は斬られない自信がある。そう思い『鬼ヶ島』を探索しながら見かけた鬼を狩っていた。
「ガアァァァァァァ」
「!?」
何度か鬼を斬っていると、違う場所から鬼の叫び声が聞こえた。(多分ティアだ——行こう)
きっとまた殺し合いになるかもしれない。ドワーフ王にも、話をしろと言われたが……戦いになったらしょうがないと口の端が上がってしまうのがどうしようもなく思う。
ガサッ
「誰じゃ! ……お主、よくも懲りずに現れたものじゃの」
わたしはわざと分かるようにティアの前に飛び出して思いっきり。
「ごめんなさい!」
——謝った。前回の失敗は会話を後回しにした事だ、先ずは謝ってから反応を見て決めよう。
間が長くて鼓動が早くなる……が少し呆れた声でティアの声が聞こえてきた。
「……阿保か? そんな無防備じゃ斬られても知らんぞ…………頭を上げよ」
頭を上げて、ティアを見ると何とも不思議な顔をわたしに向けながら剣を腰の鞘にもどす。(これは許してくれたのかな?)わたしの期待とは違い疑問点を問われた。
「お主は何者じゃ? あれだけの傷どうやって治した……」
このティアの問いにわたしは謎の答えをもらっていたので半信半疑に伝えてみる。
「……ら、らいこう様は知ってますか? その方の依頼でわたしは鬼を退治しにきました」
ドワーフ王にこう言えば通るだろうと言われた名前だけど、全く知りません……らいこう……雷様かな?
どう伝わるのか考えていると、明らかに顔色が変わってきた。
「う、嘘を申すでない! あの源頼光様が…………うそじゃ、あ……あぁ、き、斬ってしもうた……」
両手を見ながら震え出し、見る見る白い肌が青くなっていく……(同様しすぎじゃない?)誰なんだろう、それ以上踏み込まれたら依頼を受けた以外は新参者です。で、通せと言われてるが大丈夫なのだろうか。
というか……今にも自決しそうな雰囲気なんですけど。
「は、腹を切って詫びなければ!」
そう言って膝を折ってしゃがみ込んで、小さい刀を取り出してわたしに頼み事をしだす。
(本当にそこまでの事なの?)
「か、介錯を頼む……」
かいしゃくって何!? なんで自ら……
ティア……貴方の方が阿保だよ。
「貴方、馬鹿ね……わたしは生きてるのだからそんな事しても意味がないよ」
絶望を体現したようなティアは私の言葉など聞こうとはせず「妾は……妾は……」と、呟き続けるので近づいていって——
バチンッ
「なっ……」
思いっきり叩いてやった。すぐに腫れ上がる頬を押さえてこちらを見る。余りの事に仰天したティアの顔はなんとも面白い……こうなったら出たとこ勝負だ。
(ごめんなさい、師匠と……髭もじゃ王)
「もう一度、勝負しましょう! 私が勝ったら名前を教えて。貴方が勝ったら勝手に死になさい」
無茶苦茶だが、単純な方が分かりやすかったのか、少しだけティアの顔色が良くなり言葉を返してくる。
「なぜ、そのような無駄な事を……お主じゃ妾の攻撃を一太刀でも防ぐ事は出来ぬだろう」
ティアの憔悴しているくせに、馬鹿にした言葉を聞いてわたしは勝負を忘れて、結局頭に血が上った。
「そう……やれるものなら、やってみろ。わたしが一撃でも防いだら死ぬのをやめろ!」
その時のわたしは、自分の言ってる事がわかる訳がなかったが、その言葉を聞いたティアはわたしとの勝負に膝を立てて答えてくれた。
「クレメンティア」
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まさか頼光様の従者とは……
それを知らぬとはいえ、斬り伏せたなんぞ知られたら、冗談以外の何者でもない……
それにしても、目の前のアメリアとか言った女子はなぜこんなに戦いを好む……戦いは手段でしかなかったから、理解ができぬ。
(死にたがりか?)
いや、そんな訳がないのはわかる。妾の剣はそんな生優しくはない……前回の戦いは命を確実に経った……筈だったが、いきなり目の前の女子の存在が消えた。
不思議に思っていたが、それも頼光様が出てきた以上は辻褄が合ってしまう……噂だけでしか知らぬが『依代』の類にそのような『人形』の話を聞いた事がある。まさか傷どころか精神の傷まで無かった事に出来るとは恐ろしい……さすが頼光様じゃ。
(会ってみたいのぅ)
いつのまにか自死の心が消えていた事に気づく……さて、やるからには本気で相手になろう。前回手も足も出なかったアメリアの自信を打ち砕いて…………いや、まて、勝っても妾は死ぬのか?
アメリアの顔を見るが、楽しそうに喜んでいた……
(け、結局は物怪か……此奴は)
剣を志す者として、手を抜けないがもう死ぬつもりもない。たが、アメリアに一撃を止められるとも思えない……何が正しいのかわからない。
「さぁ! 来い!」
アメリアのやる気に満ちた声がこだまする。
いつの間にか、やる流れになってしまった。
くそ、この数日で成長なぞ無理じゃ……一度捨てた命、結局妾は自ら捨てに行くのか。
笑えぬが、アメリア貴様の勝ちじゃ。どの道妾の死は確定した。だからこそ全力の一撃を見せてやろう。
「よいじゃろう……妾の全力、受けてみよ」
妾の一刀は『居合』この世に類を見ぬ剣技じゃ、前のそれとは違う……今回は一撃勝負。その後の心配は要らぬ、なので殺気の中の虚をつかず、ゆっくり溜めを使いお主の首を貰う——
(……やはり、妾の間合いを見誤るか……残念じゃ)
【アメリア】
──────────
ティアが攻撃の体勢に入った——
前と違い静かで殺気がない、それなのに恐怖が身体にこびりつく。わたしがやる事は一撃を喰らわない事だが、そんなんじゃ意味がない。
今のわたしが、どのくらい出来るか試してやる。心の中での覚悟が相手に伝わったのか、ピリつく空気が一つの線として、わたしの視界に流れてきた。
ヒュン
細長い何かが首元を掠める感覚があったが、紙一重で避けられた。ティアを見ると次の動作が遅い、これならいけると思い、地面を蹴りティアの胴体目掛けて剣を横から切ろうとしたがそれをティアの鞘が防いだ。
ガキンッ
鞘に当たった剣は金属のような音を鳴らす。一瞬で目の前のティアから凄まじい殺気が溢れて私の周りに夥しい剣の軌道が現れ、直ぐに後ろに飛ぶ。
(お、恐ろしい気迫ね……)
今回は虚実だと分かっても咄嗟に引いてしまった。これが実戦の差なのかな? でも、次は負けない。一撃を躱せたんだ今回は出来る、次で勝負をつける。
ティアはまだ動けずにいる、チャンスだ。
行こうと前のめりになったわたしにティアは左手をわたしに向けて叫んだ。
「待てーい! 勝負は決まったであろう……」
え? 二人とも生きているのに……ん?
「本当に阿保じゃな……戦いに集中するのは基本じゃ、だが制御が効かんとは愚か者!」
ボフッーーッッ
殺気とは違う覇気が私のやる気を吹っ飛ばした。一気に冷静になって改めて考える——ん?
「……はぁ、お主の勝ちじゃ。見事じゃった、妾の一刀を交わせる者はそうはおらんぞ」
あぁ……そういえば、そんな対決だったような気がする。わたし……やっぱり危ないな。
「ごめん、斬るところだった。鞘に当たって良かったよ」
ティアは立ち上がり一呼吸入れて怒りをあらわにした。
「死ぬところじゃったわ! 一撃の勝負と言うから居合を見せたのに、その隙を付くとは鬼か!」
あーだから動けなかったのか……確かに早かったけど——
「居合……凄かったけど軌道が丸わかりだったよ?」
今の言葉に空いた口が塞がらずパクパクしだすティア。面白い……
「み、見えたのか? お主この数日で何を身につけた……」
わたしは誰に教えを受けたかは伏せて、何を覚えたかをわたしが理解できる範囲で伝えた。
それを聞いたティアは考え込んで一つの答えを出したようだ。
「……天才か」
誰もがその言葉をわたしに投げかける。ティアも同じかと冷めてしまう自分がいる。なんでも才能で片付けられるのは嫌だ、わたしだって努力しているのに。
「ティ……貴方に言われたくありません」
貴方の方がわたしより強いのに、本当に上から目線だ。それが許されるのは師匠だけなのに、あの人は絶対に上からは言わない。わたしより……いや、誰よりも強いのに不思議な存在だ。
ティアはわたしの目を見ながら上を向いたり下を向いたり少しおかしくなり出した。
(どうしたんだろう……)
そのまま両腕を組んで唸り出し覚悟が決まったのか口を開いた。
「わ、妾の名は桃瀬紅葉じゃ」
名前? ああ! そういえばそういう勝負だった。ももせくれは……ティアとは全然違うじゃん! でも——
「いい名前だね」
「ふ……言いづらかったのじゃ。特に隠す名でも無いのに……長いなら『桃』と呼んで良いぞ」
「ももせのももね! わかった、よろしく」
や、やっと最初の目的を果たせた気がするけど、此処からどうするの? ティアの熱はなんだったんだろう、ドワーフ王が叩いてからは大丈夫みたいだけど。
「ねぇ、もも、貴方はここで何をしているの?」
笑顔だった顔が急に鋭くなる、なんでよ!
「お主……疑う訳では無いが本当に頼光様から頼まれたのか?」
物凄い疑ってんじゃん……今のどこに疑われる要素が……ここにいる理由聞いただけなのに。
「そうだよ。なんで?」
「説明を受けておらぬのか? 頼光様はその辺……会ったことないから分からぬ」
「あの、わたしは鬼を退治して来てと頼まれただけだよ、この剣も退魔を施してもらったの」
突っ込まれてどうしようもなくなったら最後の手段、『剣を見せろ』をわたしは発動した。
一度疑われたのに本当に大丈夫なのだろうか……
渡されたわたしの剣を、ももはマジマジと調べていると、ガタガタ震え出しわたしに献上するかのように返して来た。
「こ、こんな退魔術式……確かに頼光様のお知り合いの彼の方くらいしか出来ぬ。お主はう、羨ましいのぅ」
知らないけど、納得してくれたからいいや。
頼光様のお知り合いね……わたしは誰の知り合いなんだろう。聞きたいけど聞いたらボロが出るので無理だ。
「——聞いとるか?」
「え? ごめん聞いてなかった。もう一度お願いします」
無茶苦茶呆れられたが、ちゃんと話してくれるそうだ。
「妾は菅原道真(すがわら の みちざね)様に頼まれてここを調べに来たのじゃ」
すがわらのみちざね……わたしには名前を覚えるのは無理です。みっちー……怒られるだろうなぁ、覚えなくてもなんとかなるかな?
「そ、そうなんだー」
「アメリア、覚える気ないじゃろ? まあよい、物凄い偉い方と覚えとくが良い。頼光様より上じゃぞ?」
そうなんだ。雷さんも知らないのに、偉いとか言われてもなぁ。
「分かったよ。それで何かわかったの?」
「はぁ、ふむ、分からんな……倒してもキリがないのが分かったくらいかのぅ」
へぇ、わたしからすると、感覚が研ぎ澄まされたからなのか、山から凄いどす黒い嫌な殺気が見えちゃうんだよなぁ……二人なら行けるかな?
少し危険な気もするけど、殺気を捨てろって言われたしなぁ、ももに話してみてから決めようか。
「気づいてるかもだけど、あの山の方からの殺気が凄いよね」
ももはわたしに言われた山を凝視して不思議な顔をわたしに向けた。
「何が見えとる?」
「え……凄い黒いモヤ見えない?」
もう一度山を見るけどやっぱり凄い不気味だ、最近こんなのよく見るなぁと思う。ただ、明らかに危険だ。
「もやか……さすが頼光様の依頼を受けた者じゃ。でかしたぞ!」
ももは急にやる気を出したのか、物凄い速さで駆け出した。わたしが静止するのを無視して「お主も必要なら追ってこい」と大声で言ってきた。
わたしは当たり前のようにももの後を追った。
こうなったら追い抜いてやろうと思ったら、ももの速さはわたしの想像を超えて凄かった。普通の速度も速いのに行手を阻む鬼を斬り裂きながらわたしと同じ速度で駆けていく背中を見失わないように追いかけた。
森を突っ切り、獣道をかき分け、川を飛び越え、目的に近づくにつれて周りが暗くなってくる。それと同時に、鬼の形が更に大きく色も青や黒が出てきた。流石にももも一撃で倒せなくなって来たのでわたしも手を貸した。
「でやあぁーー!」
バシュ
「ぐあぁぁぁーー」
わたしの斬撃で青鬼が消えて行く。
それを見たももは、わたしの方を向き喜んだ。
「当たりじゃ! ここが鬼の住処じゃな」
ももの見ている先を見たら山の麓に大量の鬼が群がっていた……今までの状況と明らかに違う、今までは何故か群がらなかった鬼がこんな纏まっているなんて……普通なら当たり前の光景が今までを知っていたので異質に見えた。
「確かに、今までと違うね」
ここに来てももが楽しそうだ。結局わたしと同じで戦うのが好きなのかな? この状況でよく笑顔を見せられるよ……今にも切り掛かりそうなももに続こうか考えていると、地面がドスン、ドスンと揺れだす。
——揺れの正体は足音だった。
鬼の群れの奥から一際大きい赤鬼が顔を出して私たちの前までゆっくり歩いて来た。
あの時のミノくらいの大きさかな?
ももは、会話でもする気なのかずっとその状況を見守っていたが、わたしに小声で話しかけて来た。
「アメリア、あの檻に入れられた人が見えるか? 妾がこの鬼を抑えるから助けに行ってくれ」
言われた場所を見ると、確かに複数ある檻に入れられた人たちが見えた……んー、デカ鬼と子供を見比べてわたしは一つの結論をももに伝えた。
「もも、貴方が助けなよ。ここはわたしが押さえてあげるから」
少し驚いているが、ももの行動は早かった。わたしの言葉を聞いた瞬間、子供を助ける為に動き出した。本当の目的を言わなかったのはもう諦めていたのだろう……わたしでも、こんな鬼の住処で子供の生命が繋がっていると思うのはただの希望だ。
まぁ、わたしには全く知らない人。さすがに人助けはこの世界の人に任せないとね。
と、言うのは建前で……さて、目の前の鬼たちの目を出来るだけわたしに釘付けにしないとね。
(一気に行くよ…………ティア)
どうしてもあの技を使おうとするとティアがよぎる。
剣を握り横から突っ込むももを見ながら思い出す……そして、直ぐに切り替えると目の前の変化に気づく。
——前より視界が広がっている。もう少しももが離れないと一緒に……いや、ももなら大丈夫かな? 精神を落とし込み体制を落として発動ささた。
「空刃——」
今までも凄かったが、まだ先があったかのように時の止まり方が異常だった……全部の情報がいっぺんに流れるような感覚に襲われる。これならもものいる場所も把握できそう。
近くにいる鬼から切り刻んでいく……わたしの斬りたいところに剣が振れる。不思議だ、めちゃくちゃに斬っていた今までとは違う、この鬼……まだわたしに気づいていない、右肩から軽く振り抜く、すると抵抗もなく刃が斜めに降りていく。
……そのまま、四匹、五匹、六匹と斬っていく——(あ……最初の鬼が倒れていく)このほぼ静止した世界でも、ももの動きは早い、更に……大きな鬼、こいつも動きが他より速い。
(でも、十分わたしに意識を惹きつけたかな)
それを感じ取り、一旦意識を戻すと周りの鬼十数匹から悲鳴と共に姿が散りと消える。
(中々にすごいのでは?)
でも鬼はまだまだいる。ここからは少し持久戦になる……時が戻りわたしの身体に少しの脱力感が生まれるが、ももが子供を助けるまでは力を温存しないと。
わたしは今にも怒り爆破しそうなデカ鬼と対峙した——




