王子様を探せ!
ノエル視点に戻ります
バトン様と帰宅する途中も、私はずっとクロちゃんが出会ったという男性について考えていました。
クロちゃんの初恋ですし、出来るならば成就させてあげたいです。
クロちゃんの話だと、金髪碧眼で、少し愛嬌のある顔立ちの先輩らしいです。
先輩といえば、お兄様もバトン様も私達の先輩。
何かご存知かもしれません。
「バトン様」
「ん?なあに?ノエル」
「バトン様のご学友に金髪碧眼で少し愛嬌のある整った顔立ちの男性はいらっしゃいますか?」
私が尋ねた瞬間、バトン様の表情が変わりました。
私、何か失礼なことを申し上げたのでしょうか。
「ノエル。なんでそんなことを知りたいの?
まさか、そいつに……」
「違いますわ!私の友人が、その方に今日助けて頂いたそうで、お礼を言いたいと探しているのです」
「ああ、ノエルのお友達か。誰?ティア嬢?それともルディア嬢?」
「クロちゃんですわ」
「クロエ嬢か。
う~ん…僕の同学年にも金髪碧眼の男は何人かいるけど……愛嬌があるとか、そういうのは個人の印象だしね。すぐに誰とはわからないな。他に特徴はないのかい?」
私はクロちゃんの話を思い返しますが、他には特に特徴はありませんわね。
ああ。
「随分整った顔立ちをしてらっしゃったとか」
「整った顔立ちか……僕の同学年ではないけれど、一つ上の学年に金髪碧眼でとても綺麗な顔立ちをしている先輩がいるよ」
「まぁ!その方のお名前はお分かりになりますか?」
「カルーア国ミカエリス公爵のご子息、バース・ミカエリス様。カルーア王国の国王の弟君タリス様のご子息だよ。タリス王子は兄上の国王が即位するのと同時に王位継承権を放棄してミカエリスの姓と公爵位を賜ったんだ。
だから、公爵家のご子息とは言っても、実際はカルーア国王の甥子様だね」
「その方にお会いすることは出来ないでしょうか」
バトン様は難しい顔をしました。
「僕とは学年も違うし、接点もないからね……
ああ、でも、バース様は騎士を目指しているらしくて、休み時間にはいつも鍛錬場で稽古をしていると聞いたことがあるよ」
と言うことは、休み時間に鍛錬場へ行けばその方に会えるということですわね。
クロちゃんの初恋の相手かどうかはまだわかりませんが、行くだけ行ってみる価値はありそうです。
そうと決まれば、まず第一にやる事があります。
クロちゃんを、お母様のお茶会に呼んでいただくことです。
お母様のお茶会には縁結びの効果があると専らの評判ですから、きっとクロちゃんもうまくいくはず!
満足げな私を見て、バトン様が優しく微笑んでいたことには、私は気づきませんでした。
その夜の晩餐で、私は早速お母様にお茶会を開いていただくようお願いしました。
「お茶会を?いいけれど、どなたをお呼びしたいの?」
「クロちゃんです。クロちゃんは今、初恋真っ只中なので、お母様の縁結びのお力をお借りしたいのです」
「ええ………私にはそんな力はないのよ?でも、ノエルがそれで満足するならクロエ嬢をお呼びしてお茶会を開きましょう。
ところで、クロエ嬢の初恋のお相手はどなた?」
お母様の目がキラリと光った気がします。
「確実ではないのですけれど、おそらくカルーア国ミカエリス公爵家のバース・ミカエリス様だと思います」
「バース様?!」
何があったのでしょうか。
お母様もお祖母様もとても驚いた顔をしています。
「バース様って、騎士の……ああいえ、騎士を目指しているバース様よね?」
「はい。バトン様はそのように仰っていました」
「そう……」
お母様は少し思案した後、私に尋ねました。
「ノエルは、たとえばバース様がとても素敵な方だったら、バトン様がいても好きになってしまうと思う?」
「いいえ。私の中ではバトン様より素敵な方はいません。バトン様の次に素敵なのはお兄様ですし。
それに、クロちゃんの初恋の邪魔をするつもりもありませんわ」
「そう……とりあえず、今度の学園のお休みの日にでもお茶会を開きましょう。
せっかくだから、エリザベスちゃんも呼びましょうね。
正式な招待状はもちろん送るけれど、クロエちゃんに伝えておいてね」
「はい!」
お母様のお茶会の許可も出て、クロちゃんの初恋の相手も分かりそうで、私はとても満足です。
お母様はお祖父様とお父様からいつものようにデザートを貰って、お兄様はお祖母様からデザートを貰って美味しそうに食べています。
お二人は食べることがとても好きなのです。
こんなに食べているのに太らないなんて、お母様もお兄様もどんな体質なんでしょうか。
ちなみに、アルはティーダおじ様からデザートを貰って満足そうです。
我が家の天使です。
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翌日、私は早速、クロちゃんにお母様のお茶会へのお誘いをしました。
お母様のお茶会の噂はクロちゃんも知っているようで、少し戸惑っているようです。
「あの、ノエル様?縁結び効果のある王妃様のお茶会に呼んでいただけるのはとても光栄なんですけれど、私のような貧しい子爵家の娘が出席しても失礼に当たらないでしょうか」
「クロちゃんはずっと私のお茶会に来ていたじゃない。
それがお母様のお茶会に変わるだけですわ。
ご一緒するお兄様の婚約者のエリザベス様もとてもいい方ですし、何も心配することはないですわ」
「……ノエル様がそう仰るなら」
「それと、ハンカチの君が分かるかもしれませんわ」
「えっ!本当ですの?」
クロちゃん、すごい食いつきかたです。
そうですよね。
初恋の君にもう一度会えるなんて、嬉しいですわよね。
「確証はないのですけれど、バトン様のお話では、おそらく2学年上のミカエリス公爵家のご子息、バース様ではないか、と」
「公爵家のご子息!?
それでは、私など相手にしていただけないですわね。
身分が違いすぎますわ」
どうしましょう。
クロちゃんがとても落ち込んでいます。
「その為の、お母様のお茶会ですわ。縁結びです!
それに以前お母様から聞いたお話では、優秀であれば子爵家令嬢でも公爵家に嫁ぐことができるそうですもの。
クロちゃんは優秀で頑張り屋さんなので、きっと大丈夫ですわ」
「ノエル様……」
「バース様は休み時間には鍛錬場で稽古をなさっているそうですから、今日の休み時間にでもこっそり見に行きません?」
「あら、バース様は騎士になるおつもりなのかしら」
ルディちゃんの言葉に私はコクコクと頷きました。
「でしたら、ますます身分差を気にしなくていいかもしれませんわ。クロちゃん、恋は早い者勝ちでしてよ?
騎士になって人気が出る前に、今のうちから仲良くなっておかないと!」
ティアちゃんが真面目な顔で言います。
私、知りませんでした。
恋は早い者勝ちなのですね。
「とりあえず鍛錬場へ行って、ハンカチの君かどうかを確認しましょう」
ルディちゃんの言葉に、クロちゃんは頬を染めて頷きました。
お昼休み。
普段ならゆっくりお料理をいただく私達ですが、今日は早めに切り上げます。
鍛錬場へ行かなくてはいけませんからね。
4人で学園の端にある鍛錬場へ行くと、確かに金髪の方が剣の鍛錬をしてらっしゃいました。
「どう?クロちゃん。あの方で間違いない?」
「ま、間違いないですわ。私のハンカチを取ってくださったのは、確かにあの方です」
鍛錬場の小窓から4人で中を覗きます。
お顔も確認できました。
確かに整った顔立ちで、程よく筋肉もついた素敵な方ですけれど、バトン様やお兄様程ではないです。
「き、今日はもう行きましょう?あまりここから覗いていると不審に思われますわ」
真っ赤な顔のクロちゃんに言われて、私たちは教室に戻りました。
「確かにクロちゃんの言うとおり、素敵な方でしたわね」
「ええ。綺麗な顔立ちでしたわ」
私とルディちゃんとティアちゃんの3人の声が重なります。
「でも」
「バトン様の方が素敵でしたわ」
「あら。私にはエドワード様の方が素敵に見えましたわ」
これはルディちゃん。
ルディちゃんは、お兄様に婚約者がいると知っていてもファンなのだそうで、見ているだけで幸せになれるそうです。
目の保養ですわね、わかります。
「あら。私はカーディアナ侯爵家のジェイソン様の方が好みですわ」
ティアちゃんも負けじと言います。
ジェイソン様。
以前、私とお見合いをした方ですわね。
今は同じクラスです。
ティアちゃんも、本気でジェイソン様を好きというよりは、見ているだけでいいという、「目の保養」枠みたいです。
「クロちゃん。4日後のお茶会は、普段着で全然構わないから、絶対にいらしてね?クロちゃんのためになるはずですから!」
「え、ええ」
少し不安げなクロちゃんですが、お母様は身分で人を判断しませんし、エリザベス様もです。
無理して高価なドレスや装飾品を買うよりも、大切なものをいつまでも大事に着るほうが本来は人として素晴らしいのだと、お母様から言われた言葉をクロちゃんにも伝えました。
私達王族は、どうしても王族主催のパーティーなどでは新しいドレスが必要になりますが、お母様の寝間着は、お母様が結婚前から着ていた物ですし、アルのおもちゃも私達のお古です。
私はクロちゃんが安心できるようにしっかり手を握りました。
少し涙目のクロちゃん、とても可愛いです。




