驚きのお茶会
再びクロエ目線です。
私の天使ノエル様が、あの日ハンカチを取って下さった男性を見つけて下さいました。
それどころか、縁結びの効果があるという王妃様のお茶会にも呼んで頂きました。
ご一緒する、エドワード様の婚約者エリザベス様も爵位の高い方。
本当に私なんかがお呼ばれしていいのか不安でしたが、ノエル様は、大切なものをいつまでも大事に着るほうが人として素晴らしいのだと、王妃様が仰ったと教えてくれ、普段着で来ればいいとまで仰って下さいました。
ドレスやワンピースを新調する余裕はないので、せめてマナーだけでも完璧に近づけるよう、お茶会までは必死に淑女のマナーを復習しました。
そして、お茶会当日。
私は王城の中庭で王妃様のお茶会に参加しています。
ノエル様とのお茶会で、王妃様とは何度かお会いしていますが、やはり緊張します。
そんな私を見かねたのか、エリザベス様がそっと手を握って下さいました。
エリザベス様、良い方過ぎます!
「クロエちゃん、好きな人と結婚できるかどうかは、すべて自分の努力しだいよ?
あなたはマナーも勉強も頑張っているそうですし、このまま努力していれば、きっと大丈夫。
………そうね。バース様には、ハンカチのお礼として、手作りのお菓子でも差し入れしたらいかがかしら。お菓子、作れる?」
前世ではまったく料理もお菓子作りもしたことがなかった私、転生したからと言ってできるようにはなっていません。
私が申し訳なくて首を横に振ると、王妃様はニッコリと微笑まれました。
「それなら私が教えてあげる。こう見えてもお菓子作りは得意なのよ」
そう言えば、前世と同様にバレンタインデーが出来たのは、王妃様がその日にチョコレート菓子を手作りで渡し、改めて国王陛下に気持ちを伝えたことが始まりだと聞いたことがあります。
「よろしくお願いします!」
その時、ガサッと音がして、私たちは一斉にそちらを見ました。
「国王陛下!」
エリザベス様も私も、慌てて膝をついて最上級の礼をします。
「ノア様。女子会に男性は参加できませんのよ?それにノア様が来るとみんな緊張してしまうじゃないですか」
王妃様の言葉に耳を疑います。
「女子会」?
前世でよく聞き馴染んだ言葉です。
こちらに転生してからはめっきり耳にしなくなりましたが、王妃様の世代では普通に使われているのでしょうか。
「これは、私が悪かったな。あまりに楽しそうだから少しだけ様子を見に来たんだが。
君たちも、私のことは気にしないで楽な姿勢で座っていいよ」
国王陛下、神ですか……
エリザベス様と、恐る恐る先程まで座っていた椅子に腰掛けます。
「君がノエルの親友のクロエ嬢だね?
緊張するなというのは無理かもしれないけど、顔を見せてくれないかな」
国王陛下の命令です。
私はそっと陛下に向き合いました。
「イケおじ……!」
思わず心の声が漏れてしまいました。
間近で拝見する国王陛下は、とてもダンディーなおじ様だったのです!
「君は不思議な子だね、クロエ嬢。私のことをイケおじという不思議な呼び方をするのは、ジュリア以外では君だけだよ」
「しっ、失礼致しました!」
「大丈夫、気にしないで。これからもノエルをよろしくね?
エリザベス嬢も、もっとエドワードに会いにこちらへ遊びに来ていいんだからね?」
「ありがとうございます」
エリザベス様と二人でお返事をすると、国王陛下は満足そうに去って行かれました。
ふと視線を感じて振り返ると、王妃様が私をガン見していました。
何か、失礼があったのでしょうか……
「ティレーズ。すぐにマリアンヌ様をお呼びして。それからお義母様にお茶会を開くご連絡を。
クロエちゃんは、この後私の部屋でお菓子作りについて話しましょう?」
「お母様、私は?」
「ノエルはまた今度ゆっくり、ね。
クロエちゃんはお母様の『秘密のお茶会』に参加してもらうから」
「『秘密のお茶会』!いいなぁ。
クロちゃん、お母様の『秘密のお茶会』は、ごく限られた人しか参加できないのよ。
お茶会の間は、侍女たちも部屋の外で待たなければいけないし、お父様でも参加できないの」
え。
なんでしょう。
すごく怖いです。
何か怪しげな儀式でもするのでしょうか。
「クロエちゃん、心配しなくていいわ。
きっと、すごく楽しいと思うわよ」
気のせいか、王妃様がワクワクしています。
侍女に連れられて王妃様の自室に入ると、王妃様と同年齢くらいの美しい女性と、前王妃様がいらっしゃいました。
「座って、クロエちゃん」
王妃様に勧められるままソファーに腰掛けると、前王妃様がいきなりこちらへ身を乗り出しました。
「クロエちゃん。あなたもしかして、転生者?」
衝撃です。
まさか、転生したことを言い当てられるなんて。
この場合、どうお返事すべきなのでしょう。
みゆちゃんは、こんなイベントがあるなんて言ってなかった気がします。
でも、選択肢を間違えてバッドエンドルートに入ると、ヒロインであっても死の可能性がある。
ここがまさに、その選択肢なのでは!?
しかし、私のそんな心配は杞憂に終わりました。
「心配しなくても大丈夫。この部屋にいる人はみんな、転生者なのよ」
「えっ!」
「私は少し早く生まれてノアの母親になったけど、元は第1部をプレイしてた日本人よ」
前王妃様の言葉に、もう一人の女性が続きます。
「私もセブプリ第1部のプレーヤー。ノア様と同じ歳のマリアンヌよ。私も前世は日本人。前世では外科医だったの」
「私もセブプリ第1部のプレーヤー。隠しルートも含めて全ルートをプレイし終わった後に死んだの。モブなのに何故かノア様にプロポーズされて、ヒロインに何度も狙われたわ。第1部ヒロインのリリアンと同じ歳よ。前世は学生だったわ」
王妃様の自己紹介も終わり、お三方が目をキラキラさせて私の紹介を待っています。
どうやら、話しても大丈夫そうですね。
「ご存知かもしれませんが、第3部ヒロインのクロエ・オブライエンです。
前世は高校生で、実はセブプリをプレイしていたのは友達で、私は話を聞いたことがあるだけでプレイしたことはないんです」
「まぁ、もったいない!各国の王子様方はとても目の保養になりますし、バッドエンドさえ入らなければ、悪役令嬢もいないとても幸せなゲームですのに」
王妃様が言ったあと、場に沈黙が流れました。
「第3部に悪役令嬢がいるのは知ってる?」
「はい。ノエル様、ですよね」
「私たちはノエルが悪役令嬢にならないようにここまで手を尽してきたけれど、正直に言って、あなたの目から見てノエルは悪役令嬢になりそう?」
「いいえ!ノエル様は天使です。悪役令嬢どころか、完璧令嬢ですわ!
それに、ノエル様はバトン様にメロメロですし、バトン様も同じく。
仮に、私の好きな方がノエル様を好きになっても、ノエル様は私の応援をしてくれると思いますわ」
「そう。それを聞いて安心したわ。
私たちは第1部で死んでしまったから、第3部で悪役令嬢がどんな性格で、何をするのか判らなかったから不安だったの。
何しろ、ヒロインでさえ死亡ルートがあるゲームですもの、悪役令嬢には何が待ち受けているか、考えるだけで恐ろしいわ」
「あの、第1部でお亡くなりになられたのに、なぜ第3部に悪役令嬢が登場するとお分かりに?」
「信じられないかもしれないけど、私達三人に夢のお告げがあったのよ」
「なるほど。そんなこともあるんですね」
私はゲームをやっていないけど、みゆちゃんだったらきっと、このお三方ととても話が盛り上がったに違いありません。
「これからも、ノエルをよろしくね?
もし何か異変があったら、すぐに教えてちょうだい」
王妃様はそう言うと、金属の薄いプレートを私に手渡しました。
「これはね、プレートに刻まれている名前の人とだけ念話ができる魔具なの。私が作ったのよ。
何かあったらこのプレートを持って私の名前を呼ぶだけでいいわ」
「分かりました、ありがとうございます。
ノエル様のことは、私がきっとお守りします!」
「ふふ、頼もしいわね。
クロエちゃんせっかくだから、これからはたまに前世の話をしに秘密のお茶会に参加してちょうだい?」
「爵位の低い私ごときが、よろしいのですか?」
「日本には爵位なんてなかったでしょ?
そんなこと、全然気にしなくていいわ。
もしかしたら、突然私からお茶会のお誘いをするかもしれないから、よろしくね」
コテン、と首を傾げる王妃様。
マジ女神です。
美しさと可愛らしさの両方を兼ね備えているなんて、反則です。
前王妃様もとても可愛らしい方ですし、マリアンヌ様は仕事の出来そうなクールビューティです。
私はお三方に見送られて、自宅に戻りました。
なんだか、ドッと疲れが出て、私は着替えもせずにベッドに倒れ込むように眠りに落ちました。




