入学式と恋の季節
ノエル視点です
年が明けて寒さも和らぎ、春です。
花々が芽吹いて、日差しも暖かくなります。
「クロちゃん、いよいよね」
「どうしましょう。私の方がドキドキしますわ」
今日は入学式。
新入生代表の挨拶は、首席で合格したアルが行います。
「アルが壇上に立つとき、背中に魔力を送ってあげて?私もバトン様に魔力を送っていただいて、とても安心しましたの」
「そうだったのですね。分かりましたわ」
お父様とお母様に付き添われて入学式会場に現れたアルは、会場中の視線を集めています。
国王と王妃が同伴していれば、注目も浴びますわよね。
でも、アルがこんなにも注目されているのはそれだけではありません。
スキップ制度を利用して、2年も早く入学したのです。
全てはクロちゃんのために……!
我が弟ながら、その執念には頭が下がります。
私ももう少し、バトン様に何かして差し上げるべきでしょうか。
学園のある日はほとんどお会い出来ず、たまの休みにバトン様が王城へいらっしゃってお茶をするくらいです。
私がバトン様をこんなに想っていると、何とかして伝えたいです。
次にあった時、バトン様に相談してみましょう。
新入生とその父兄、在校生がすべて会場入りしたところで、扉が閉められ、入学式が始まります。
昨年度よりもざわついているのは、アルのことだけでなく、ロングアイランドの王子と、ミモザ国の王子も入学するからでしょう。
一学年に3人も王子がいるなんて、他の方が緊張しないといいのですが。
せっかくなら、みなさん仲良く打ち解けてほしいものです。
学園長の挨拶が終わり、いよいよアルの出番です。
そぅっと隣を見ると、クロちゃんが目立たないようにアルの背中に向けて魔力を送りこんでいました。
私の時より立派な挨拶をこなして、アルは向き直ると、クロちゃんに向かってほんの僅かに微笑みました。
あちらこちらで小さな悲鳴が聞こえます。
アル……あなた罪な男ね。
あんなに愛くるしかった私達の天使はどこへ行ってしまったのでしょう。
入学式が終わると、アルはまっすぐ私達のところへ来て、クロちゃんの手を取りました。
「クロエ。君をエスコートする代わりに、学園内を案内してもらえるかい?」
「もちろんですわ、アルフォンス様」
クロちゃんとアルの婚約は既に公に発表されていますから、それでも、とアルに近寄ってくる猛者はいないようです。
でも、教室に入ってしまったらわかりませんけれど……おそらくアルなら寄ってくる令嬢方を上手くあしらうでしょう。
昨晩もお兄様とそんなお話をされていましたし。
モテる方って、大変なんですね。
クロちゃんとアルが行ってしまったので、私達も新しい教室に向かうことにしました。
「そう言えばアリアちゃん。ヨハン王子とはまだ文通されてますの?」
「ええ。でも……数ヶ月前にバース様の事件があったでしょう?
ただでさえ軟禁状態なのに、いつ何が起きるかわからないような自分のところへ嫁いでこさせるのは申し訳ないと、そんな内容ばかりで……」
「まぁ……ご両親はなんと?」
「軟禁状態の王子殿下なら、パーティーなどの社交もないので、それほどマナーが身についていなくても気にする人はいないだろうし、ヨハン様さえ良ければいつでも嫁に出す、と」
「そのこと、ヨハン様にもお伝えしましたの?」
「いえ。失礼に当たるかと思って」
「せめて、ご両親はこのお付き合いに賛成されていると言うことだけでもお伝えしたほうがいいのではないかしら。
ヨハン様も不安なのですわ、きっと」
ティアちゃんの言葉に、アリアちゃんも頷きました。
「そうですわね。早速、手紙を書くことにしますわ!」
学園内は、1年生は1階の教室、2年生は2階の教室、3年生は3階の教室、4年生以上は別棟の教室と別れています。
その他にも、ダンスホールのある棟や、あまり思い出したくないですが、鍛錬場のある棟などと、いくつかに分かれているのです。
私達が2階への階段を登ろうとした時、後ろから声をかけられました。
私が。
振り返ると、ミモザ国のツェペリ王子が肩で息をしていました。
そんなに急いで、どちらへいくのでしょう。
もしかして迷子でしょうか。
「ご入学おめでとうございます、ツェペリ殿下。1年生の教室は1階にありますわよ?それにまだHRまで時間もありますし、そんなに慌てなくても大丈夫ですわ」
教えて差し上げると、ツェペリ殿下はキョトンとして、それから顔を赤くしました。
「いえ、自分の教室は分かっております。私は……ノエル王女にご挨拶したく、探していたのです」
「そうでしたの。わざわざありがとうございます。
何か学園のことでわからないことがありましたらいつでも聞きに来てくださいな。
それと、同じクラスに私の弟がいますので、仲良くしてやってくださいね」
「え?あ、はい」
「では、ごきげんよう」
待たせてしまっていたティアちゃんやシエルちゃんの所へ戻り、お詫びすると、シエル様は残念なものを見るような顔で私をご覧になり、ティアちゃんに聞きます。
「ノエル様は、いつもこのような?」
「ええ。無自覚って罪ですわよね」
何について話しているのか分かりませんが、私は何か失礼なことをしてしまっているのでしょうか。
「ああ、ノエル様?ノエル様は何も気になさらず、普段通りにしてらっしゃって大丈夫ですわ」
「そう?」
「ええ」
皆さんにそう言われましたので、それ以上気にするのはやめることにしました。
クロちゃんは、私たちが教室に入ってしばらくしてから、顔を赤くして教室に入ってきました。
「クロちゃん、顔が赤いですわ。アルが何か無体なことを?」
「いっ、いえっ!」
「ノエル様。こういう時詳しいことは聞いてはいけませんわ」
アリアちゃんに言われます。
そういうものなのですね。
確かに、私もバトン様とのデートの直後に事細かに説明させられるのは恥ずかしいですものね。
うんうん、と一人で頷いていると、アリアちゃんが興味津々な顔で聞いてこられました。
「ノエル様は、バトン様とどこまでいきましたの?」
「あまり遠出はしなくて……」
「いや、そういうありきたりなボケは結構ですわ。そうではなく、スキンシップは、どの程度まで?」
顔に熱が一気に集まります。
今にも火を吹きそうです。
「ノエル様は奥手なようですから、少しずつ聞いていきましょうか」
他の友人の方も興味津々です。
「デートで手を繋いだりは?」
「しますわ」
「腕を組んだり」
「します、わ」
「頬に手を添えられたり」
「………」
「沈黙は肯定の証ですわね。キスは?」
「……………」
もう、恥ずかしくて泣きそうです。
「それより先は、さすがにまだでしょうし、このあたりで許してあげましょう?アリア様」
見かねたルディちゃんの言葉で、ようやく私は開放されたのです。
「それにしても、ロングアイランドのマイク殿下は素敵な方でしたわね………」
ルディちゃんがうっとりと言います。
ルディちゃんはこれまでお兄様を目の保養にしていましたが、何やら今回は少し違うご様子。
ちなみにティアちゃんはカーディアナ侯爵家のジェイソン様といつの間にか婚約されています。
今、私の友人でフリーなのは、ルディちゃんとシエルちゃん。
マリーちゃんには幼い頃からの婚約者がいらっしゃるのだとか。
「シエル様はどんな方が好みですの?」
「私は年上の方が好きで……気になっている方がいるのです」
「まあ!どなたか伺っても?」
「誰にも言わないでくださいね?実は、護衛騎士団長のゼル様ですの」
「でも確かゼル様って……」
「今年で30歳でしたわよね?」
「だから言ったではないですか。年上が好きだと」
「でも、私も似たような年の差ですわ」
アリアちゃんが言います。
そう言えばそうでしたわね。
私は少し考えました。
「ルディちゃん、シエルちゃん。お母様にお茶会を開いてもらいましょう!」
「まさか……伝説の縁結びお茶会に?」
「私にも春が来るかもしれませんわ!」
「あの、王妃様のお茶会はそんなにすごいのですか?」
「ええ。成功率9割。クロちゃんだって、バース様とは結ばれませんでしたけど、その後すぐにアルフォンス様との婚約がきまりましたしね」
「お母様ご自身は、自分にそんな力はないとおっしゃるのですけれど」
「何もなくて成功率9割はありえませんわ」
きっぱり言ったティアちゃんにみんな頷きます。
「今日は授業もありませんし、帰ったら早速お母様に聞いてみますわ」
「お願いいたしますわ、ノエル様!」
シエルちゃん、必死ですわね。
確かに、普通であれば一回り以上離れたお相手との結婚は、周囲に反対されたり、相手にされなかったりで成就は難しいですからね。
そんな話をしている間にHRが始まり、明日からのカリキュラムと教科書を頂いて下校することになりました。
今日はバトン様と一緒に帰れるので、とても嬉しいです。
馬車の中で私はハタと思い出しました。
「そう言えばバトン様。私に何か、バトン様のお役に立てることはありませんか?何でも致します。
私、バトン様に喜んでいただきたいのです。
もっとこう、好きという気持ちをお伝えしたいのですわ」
「ノエルは本当に可愛いことを言うね。爆弾を投下された気分だよ。
大丈夫。ノエルはこうして、私のそばでいつも笑って、私を好きでいてくれさえすれば、それだけでうれしいよ」
頭をポンポンと撫でられます。
せめて何か、バトン様にプレゼントでもしたいですわね。
帰ったらお母様にこの事も相談しましょう。
私はバトン様に指をサワサワされながら王城に帰りました。




