↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
52/54

始まりと終わりを告げる一撃

「やった。うまく行きましたよ、ババ様!」


樋川が思わず声を弾ませる。


「うむ。ひとまず第一関門は突破じゃ」


ババ様は安堵したように頷いた。


腕を組みながら、遠く離れた決闘場の中心へ視線を向ける。


そこに立つのは、エドワード。


そして、その正面に並ぶ遥とエルミナ。


「ここからじゃぞ、遥よ……」


◇


決闘場の中心。


エドワード、遥、エルミナの三人が、再び向かい合っていた。


「お前の娘がすげぇ奴だって事、この決闘で見せてやる!」


遥が真っ直ぐに言い放つ。


その隣で、エルミナは何も言わなかった。


ただ、決意を宿した瞳でエドワードを見据えている。


その視線を受けても、エドワードの表情は変わらない。


「私の固有魔法を封じた……たったそれだけで粋がるな」


静かな声だった。

だが――その直後。


エドワードが、再び右足を強く踏み込む。


ズシン――!


地面が一瞬、揺れた。

踏み込んだ足を起点に、エドワードの身体が淡い光の膜に包まれていく。


それを目にした遥は、すぐさまエルミナへ声を飛ばした。


「短文じゃダメだ。ひとまず中文詠唱で牽制するぞ!俺が隙を作るまでに準備してくれ!」


「分かりましたわ!」


エルミナは即座に応じる。


腰に差していた細剣を鞘へ納めると、両手を自身の前へ突き出した。


その指先へ、少しずつ魔力が集まり始める。


同時に――


遥はエドワードを見据えた。


次に来るのは、魔法ではない。

淡く光る膜――魔力纏によって身体強化された、純粋な近接攻撃。


今こそ、修行の成果を活かす場だ。

そう言わんばかりに、遥は身構えた。

その隣では、エルミナが詠唱を始める。


【――その輝きは世を照らす幻想の灯】


エルミナの両手から、赤い魔法陣が展開されていく。


それを横目で確認した遥は、自分の務めを果たすため、改めてエドワードを見据えた。


対するエドワードは、構えすら取っていない。

ただ、鋭い眼差しを遥へ向けている。


――来る。


そう感じた瞬間。


遥が一度、瞬きをした。

ほんの一瞬。

一秒にも満たない、僅かな刹那。


「――ッ!?」


気付いた時には。

遥の至近距離まで、エドワードの拳が迫っていた。


「なっ!?」


避ける間もない。


ドゴォッ!!


勢いのまま、遥の身体が後方へと吹き飛んだ。


「――赤城遥!!」


吹き飛ばされる遥の名を叫んだエルミナだったが――


ドゴォンッ!!


遥の身体が演習場の壁へ叩きつけられた轟音に、かき消された。


衝撃と共に、壁際から大量の砂埃が舞い上がる。


「い、一撃ぃ!!?」


実況席から、ミコラの驚愕した声が響いた。


「……モロに入ったわね」


ヒスカも思わず呟く。


その一方で、エドワードは殴り抜いた右拳を静かに見つめていた。


そして、砂埃の向こうへ視線を向ける。


「”吸収”……と言ったところか」


低く呟く。


「寸前で反応したな……」


風に煽られ、少しずつ砂埃が晴れていく。


その中心に――遥はいた。


片膝をつき、両手を顔の前へ構えている。


左の掌を前に。


その手を支えるように、右手を添えていた。


左の掌からは、僅かに煙が上がっている。


「はぁ……はぁ……」


荒い息を吐きながら、遥はゆっくりと顔を上げた。


エドワードは、そんな遥の構えを見ながら続ける。


「拳が当たる直前、左手で私の魔力を吸い取った」


視線が、遥の左手へ移る。


「そして魔力纏を解き、威力を殺した……か」


「……」


遥は何も答えない。

ただ荒い呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。


そして、エドワードを真っ直ぐに見据えた。


「何もせずに二週間を過ごしたわけじゃねぇよ……」


そう呟いた遥だったが。


「……クソ」


顔をしかめる。

受け止めた左手が、小刻みに震えていた。

拳を受けた衝撃が、まだ掌から腕へ響いている。


(素の力で、これかよ……)


魔力纏は、確かに崩した。


それでも。

ただの拳を受けただけで、この有様だ。


(同じ人間でも、人間界と魔法界じゃ……身体能力に差があるのか?)


一瞬、そんな疑問が頭をよぎる。


だが――


(いや。今はそんなこと、どうでもいい)


遥は顔を上げた。

視線の先。


そこには、詠唱を続けるエルミナがいる。

赤い魔法陣は、まだ消えていない。


遥はエルミナの目を見つめた。


ほんの一瞬。

それだけで、意図は伝わった。


エルミナの瞳が僅かに揺れる。


そして。


【――その火は魔を滅する炎】


【――我が魔力を器とし、その姿に翼を与え】


再び、詠唱が紡がれ始めた。


その光景を見たエドワードは鼻で笑う。


「中文詠唱……やはりルナの足元にも及ばんな」


「っ……」


一瞬、表情を曇らせたエルミナへ、エドワードは続けた。


「撃ちたければ撃てばいい……魔力纏は剥がしたままでいてやる」


「お前ごときの魔法が、この世界で通用するかどうか、その身をもって理解させてやろう」


エルミナの指先が、僅かに震えた。


それでも。

詠唱を止めることはなかった。


そして――最後の一節を紡ぐ。


【――敵を討つ一翼と成れ!!!】


恐怖をかき消すような叫びと共に、エルミナは魔法を放った。


「り……リビュオ・アルバーナ!!」


呼応するように、赤い魔法陣から一羽の大鷲が飛び出した。


その全身を、紅蓮の炎が包んでいる。


「熱ぅぅ!!」


「中文詠唱まで、一年で扱うなんて……!」


実況席や観客席から、驚きの声が次々と上がる。


大鷲は燃え盛る翼を大きく羽ばたかせた。


キイィィィィィッ!!


耳をつんざくような鳴き声を響かせながら、一直線にエドワードへと突き進む。


その軌跡には、炎の残骸が幾筋も残されていた。


演習場の空気が、熱気で歪む。


それでもエドワードは動かなかった。


両腕を組んだまま、目の前へ迫り来る炎の大鷲を、意に介さぬように見据えている。


そして、そのまま――


ドォォォォン!!


大鷲とエドワードが激突した。


凄まじい爆炎が演習場を覆い尽くす。

熱風が客席にまで吹き抜け、観客たちから悲鳴が上がった。


「きゃあっ!」


「うわっ、熱っ!!」


炎の向こう側は、何も見えない。

ただ、燃え盛る炎と黒煙だけが渦巻いている。


「……」


エルミナは固唾を呑んで、その光景を見つめていた。


やがて。

炎が少しずつ薄れていく。


煙の向こうから――


一つの影が現れた。


「……嘘」


エルミナの口から、掠れた声が漏れる。


煙が晴れ、そこに立っていたのは――エドワードだった。


肌に、服に焦げ跡一つない。

傷どころか、先ほどと何も変わらない姿で立っている。


エルミナの瞳が揺れる。


「そんな……」


その光景に遥も、言葉を失っていた。


「……かすり傷も、つかないのかよ」


そしてエドワードは何も言わないまま、ただエルミナを見据えた……

読んで頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。