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俺の知らない世界

「何か心あたりは無いのか?魔物が見え始めた時期は?」


「昨日急に見え始めたって言うか、何と言うか――」


そう言いながらポケットに手を入れた。


その時だった。


指先に、固い感触が触れる。


「……あれ?」


俺はポケットの中から、それを取り出した。


手のひらの上には、昨日拾った綺麗な紫紺の石が乗っている。


「あぁ、そうこれ!この石を拾ったら後ろに魔物が現れてさ」


俺は樋川たちに見せるように、その石を突き出した。


その瞬間だった。


「魔石!?」


「うむ……それにこの色…上位種か――」


魔石……魔石!?


漫画でよく見る、魔物の核って言われている魔石!?


「こ、これどこで拾ったのよ!?」


「いや、普通に落ちてて……」


樋川は慌てて詰め寄ってくる。


だが、ババ様は樋川とは対照的に、静かな声で言った。


「萌花……試験は中止じゃ」


「なっ……なぜです!?」


頬に汗を浮かべた樋川は、明らかに動揺していた。


「確かに中位種以上の魔物を一人で倒す事を、魔法少女への昇給試験としたが……」


ババ様はゆっくりと言葉を続ける。


「上位種の魔石を持ち歩く輩が、この街に潜んでおるやもしれん――」


「異常事態じゃ……それに」


そう言ってババ様はゆっくりと俺の方を見た。


「おそらく狙われているのは遥じゃ」


「お、俺!?」


俺が何かに狙われている?


魔法の世界を知ったのは昨日だって言うのに?


「赤城君は昨夜まで魔法界と無関係だったんですよ?なぜ赤城君が?」


「それはワシにもわからん」


ババ様は小さく首を振る。


「しかし、魔力の無い人間に魔力吸収の魔法。

前例のないこの子の前に、偶然魔石が落ちているとは――とても思えん」


「そ、そんな……」


樋川の肩がわずかに震える。


「安心せい、魔法界でまた試験は行ってやるし、監督もしてやる」


「でも……」


表情はまた一段と暗くなった。


「試験って事は……樋川は魔法使いじゃ無いのか?」


「何よ、文句あるわけ!?」


俺の問いかけに、樋川は勢いよく顔を上げた。


「いや、文句じゃ無いけど……」


ババ様は苦笑する。


「この子の魔力は常人の数十倍あっての……その分、コントロールが出来ずに苦労しとるんじゃ」


そして続けた。


「同期で見習いから魔法少女に昇格できていないのは萌花だけでな。焦る気持ちもわかるがのぉ……」


樋川はゆっくりと視線を落とした。


「あっ、だから昨日ばぁちゃんが【圧縮が足りて無い】【拡散するぞ】って言ってたのか」


「……左様」


樋川は俯いたまま黙っていた。


やがて小さく呟く。


「笑いたければ笑えば?」


「笑う?なんで?」


「え……?」


顔を上げた樋川と目が合う。


「それどころか、むしろ安心したよ」


俺はただ純粋な気持ちで言った。


「完璧超人って言われていた樋川にも苦手なものがあってさ」


「なっ……」


瞬間、樋川の頬が赤く染まる。


そして、


「バカじゃないの……」


何故か俺を罵倒しながら樋川は背を向けた。


二人の間に風が通り過ぎる。


しばらくの沈黙の後――


「完璧……超人……?」


ポツリと呟いたのは、ババ様だった。


その言葉を聞いた瞬間、樋川の肩がビクっと跳ねる。


「あぁ、ばぁちゃん学校での樋川を知らないんだったよな?」


「うむ」


ババ様は樋川に鋭い視線を向けたまま答える。


「容姿端麗で成績優秀、オマケに運動神経も抜群。ウチの高校の有名人だよ」


「運動神経抜群?萌花がか?」


瞬間、樋川は急にこちらに向き直し。


「ちょ、ちょちょちょっと待って赤城君!」


距離を詰め、俺を止めに来る。


だが、一応噂の件も伝える事にした。


「トリプルアクセルしながらダンクシュートしたり、

五十メートル四秒で走ったり――」


「待って!!!」


樋川が俺の口を手で塞ぐ。


その頬には冷や汗が流れていた。


「萌花……」


「ひっ!」


足元のババ様の声は、先程までとは違い低い。


そして、一気に上がった。


「学校で魔法は使うなと、あれ程言ったじゃろ!!!」


「ご、ごごごごめんなさい――!!」


普通に怒られていた。


「身体強化で違和感を抱かれていないのは、奇跡じゃぞ」


「だって……勝手に噂されて……」


ババ様は深いため息の後に樋川の前に移動した。


「期待を裏切れん気持ちは分からんでもないが、魔法界の存在に万が一気付かれたら一大事じゃからの」


「うぅ……」


樋川は涙目になっていた。


お前、さっきより絶望的な顔してたぞ?

っと言うツッコミは胸に閉まっておくとして――


「実際飛んだの?」


俺はトリプルアクセルの噂を聞いてみた。


「そんな訳ないでしょ!!」


声を荒げた樋川は頭を抱え始める。


「確かにちょっと高く跳んだり、早く走ったけど……

噂に尾ひれが付き過ぎなのよ!!」


「お、おう。思ったより苦労してたんだな……」


「どうして私ばっかり……」


樋川はまだ頭を抱えたままだったが。


「――ひとまず、その話は後じゃ」


低い声が、俺たちの会話を止めた。


「今はもっと重要な話をせねばならん」


その視線は、俺の手元に向けられていた。


「遥……お主が魔石を拾った時、何か違和感はあったか?」


「違和感?」


俺はババ様の言葉を聞き返す。


「そうじゃな――」


ババ様は小さな手を顎に当てた。


「例えば【何かに導かれた気がしたり】【何かを避けようとしたり】――」


「【人の気配が無くなっていたり】と、言う感じじゃ」


その言葉を聞いた俺の脳内には、昨夜の光景が浮かび上がる。


本来なら、サラリーマンとすれ違っていた道。

明かりのついていない住宅街。

電車賃の無い、俺の財布……は俺が原因だな。


「……人の気配は、無かったと思う。」


「――確定じゃな」


「え?」


顎から手を離したババ様は続けた。


「今、ワシがあげた例はな……」


その視線は鋭くこちらを見つめる。


「全て人払いの魔法の結果じゃ」


「つまり……」


「我々以外の魔法使いがお主を対象外に、人払いの魔法を使用していた事になるのぉ」


可能性が確信に変わった事が、俺にも理解できる。

そんな内容だった。


「ここからは提案じゃがのぉ、遥」


「……」


自分が狙われている?

そんな、未だに信じがたい状況を前に固まっていた俺とは違い、ババ様は提案した。


「お主、魔法界に来ぬか?」


「なっ!」


「え?」


俺より先に反応したのは樋川だった。


「ババ様、どういう事ですか?」


ババ様は樋川の方へ体を向けた。


「正直、遥の体の事も、遥が狙われている理由も検討が付かん。それに、こちらの世界で魔物から唯一視認できる人間として、遥は狙われ続けるじゃろう……」


言葉は続いた。


「周りの者にも被害が出んとは言い切れん」


俺は静かに固唾を飲んだ。


「あくまで決めるのは遥じゃ。突然の提案で、整理も追いつかんじゃろが」


正直その通りだった。


話が一気に肥大化して、俺の脳みそはパンク寸前だ。


「このまま留まると言っても、強制はせんが記憶は消させてもらう。偶然知ったとは言え、魔法界の秘密を守る為じゃ、分かってくれ」


「その場合、赤城君はどうなるんですか?」


再び顎に手を添えたババ様は――


「もちろん結界で遠隔に保護はする上、魔法少女に監視もさせよう」


全てを伝え終えたのか、俺の方を見上げた。


「どうする?遥……」


「わ、私は反対です!危険です!!」


樋川が声を上げた。


「赤城君に魔力は無いんですよ?もし向こうで魔物に襲われたら……」


どうやら樋川は俺を心配してくれていた様だ。


「それはこちらの世界でも変わらんじゃろ。それにな――」


少し表情を柔らかくしたババ様は。


「遥は萌花と行動させるから、その心配はいらん」


「なななな、なんで私が!?」


頬を赤らめる樋川。

俺は完全に置いてけぼりだ。


「遥の吸収魔法ならば、萌花……お主の莫大な魔力をコントロールできると思うてな」


これ以上置いてかれてはたまらないので、俺も話会いにさんかした。


「説明いい?ばぁちゃん」


少し頷き、話始める。


「要するにじゃ。萌花が魔力をコントロールできる量まで遥が魔力を吸収すれば良い。お主の器は空っぽじゃからの」


「なるほど!」


俺はなんとなくのイメージで納得した。


その上で、ババ様は再び尋ねて来る。


「どうじゃ遥?留まるか、来るか――」


正直答えなんて決まっていた。

魔法の世界。

こんな俺の妄想から出来上がったような世界に行かない訳がない。


――でも。


「……行くよ。俺が原因で周りの人に危険が迫るなら、俺が強くなって守るよ」


楽しみなだけじゃない。

俺には。行かなきゃいけない理由あった。

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