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告げられた課題

決闘騒ぎの翌日。

遥達三人は、揃って学園長室へ呼び出されていた。


「……さて」


椅子へ腰掛けたババ様は、遥達を順番に見回すと、小さくため息を吐く。


「もうあえて言うまいが、お主は毎度毎度……」


その視線は真っ直ぐ遥へ向いていた。


「今回はその……悪いとはその……思ってないぞ、ばぁちゃん」


「開き直るな」


コツン。


「痛っ」


隣に座る樋川が、呆れたように遥の頭を軽く小突く。


「君はいつも反省してないでしょ」


「いや、してるよ!」


「全然そうは見えない」


「いや、もうええわい!やかましいわ」


二人のやり取りを見ながら、ババ様はもう一度深いため息を吐いた。


「それで?あの様に堂々と啖呵を切ったからには、何か策はあるのか?遥よ」


その問いかけに、遥は即答した。


「いや、特に」


「じゃと思ったわい……全く」


三度のため息に、ババ様は片手で目を覆った。


だが対照的に遥は、いつもと変わらない調子だった。


「まぁなんとかなるだろ、いつも通り――」


「ならんな。今回ばかりは確実に」


遥の楽観的な思考を、ババ様は真っ直ぐ否定し、続けた。


「遥よ。相手が誰かわかっておるのか?」

「お主にはまだ馴染みがないじゃろうが、引退したとはいえ魔法省の隊長。その中でもエドワードは、実力だけなら上位層じゃぞ?」


ババ様は指を交差させ、頬杖をつく。


「魔法少女と見習いの二人がかりだろうと、本来なら勝てる可能性など万に一つもない」


「……そんなに?」


遥の問いに、ババ様は短く「うむ」とだけ答え、指を二本あげた。


「最低限対策する必要があるものは二つ。防御と固有魔法じゃ」


「固有魔法?そんなのもあんのか?」


聞き馴染みのないワードを遥は繰り返した。


「まぁまずは防御面じゃ」


ババ様は人差し指を一本立てた。


「エドワードは戦闘時、全身を”魔力纏い”で覆っておる」


「出た……あの、すげぇテクニックのやつ」


思わず漏れた遥の感想に、エルミナは呆れたようにため息をつく。


「どんな言い方ですのよ……」


ババ様は苦笑しながらも頷いた。


「まぁ、言い方はともかくじゃ。全身を魔力で覆える者はそうおらん。それだけ膨大な魔力と繊細な制御が必要になる、高度な防御技術じゃ」


穏やかだった表情が静かに引き締まる。


「基本的に、エドワードには生半可な攻撃は通用せんと思え」


「でも、大丈夫だろ?エルミナの詠唱なら――」


「無理ですわね」


遥の言葉は最後まで続かなかった。

即座に返ってきた否定に、思わず目を丸くする。


「お父さんの防御を突破するには最低でもローダン村で使用した中文詠唱……短文詠唱程度では、おそらくかすり傷一つ負わせられませんわ」


「マジか……。決闘の時にくらったエルミナの魔法、死ぬほど痛かったぞ?」


「そそそ、それは今は関係ありませんわ!」


高圧的だった以前の自分を思い出したかのように顔を赤く染めたエルミナを見て、遥は首をかしげた。


そんな二人を見ながら、ババ様は静かに頷いた。


「エルミナよ、お主なら分かっておるな?」


「……長文詠唱、ですわよね。おばぁ様」


エルミナは小さく俯いた。


「ですが私は、まだ扱えません……」


「そんなに難しいもんなのか?長い詠唱を覚えればいいだけじゃねぇの?」


遥の素朴な疑問に、エルミナは首を横へ振る。


「以前グランツ先生が仰っていましたわよね。詠唱とは、マナへ命令を与える行為だと」


「あぁ、それは覚えてる」


「長文詠唱は、その命令が何倍にも増えますの。一つでも詠唱を誤り、命令が乱れれば、その時点で魔法は成立しません」


そう言って、自分の掌へ視線を落とす。


「それに詠唱中は、掌へ集めたマナを維持し続けなければなりません」


「維持?」


「はい。未熟な魔法使いほど、身体を動かすだけで掌のマナが乱れて拡散してしまうんです」


エルミナは少し寂しそうに笑った。


「だから私は、動きながら詠唱する”平行詠唱”がまだ出来ません」


「だったら距離をとって詠唱すれば――」


「エドワードは近接戦を得意とする魔導士じゃ。間合いなど、一瞬で詰められるぞ」


「う、うーん……」


遥の考えはすぐにババ様に否定された。


「移動しながらもダメで?距離も取れない?」


遥が難しい顔で呟く。


「キツくね?」


「……だから普通に勝てる相手ではないと……まぁ今言うてもしょうがないの」


ババ様は二人を見渡し、静かに頷いた。


「まぁ、これが一つ目の課題じゃ」


遥は思わず息を呑んだ。

一方、エルミナは小さく目を伏せる。


それは、次に来る内容が最初から分かっていたかの様に。


「……そして、本当の問題はここからじゃ」


「え?」


ババ様は二人をゆっくり見回し、小さく息を吐いた。


「エドワード最大の強さは、魔力纏いではない」


そして、静かに告げる。


「アルヴェイン家に代々受け継がれる――固有魔法じゃ」

読んでいただきありがとうございました。

少し説明が続きますが、また読みに来て頂けますと嬉しいです。

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