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暗躍する影達

ローダン村から数十キロ離れた森林地帯。


パチパチと木の焼ける音だけが、静寂の中に響いていた。


辺りには黒く焼け焦げた木々が立ち並び、大破した護送馬車が無残な姿を晒している。


その近くには、既に動かなくなった魔導士達の亡骸が転がっていた。


ギギィ――。


死の静寂を破るように、鉄の軋む音が鳴る。


横倒しになった護送用の檻。


その中から這い出るように姿を現したのはハインだった。


「へへっ……助かったぜ……」


ハインが顔を上げる。


その先に立っていたのは二人。


一人は黒いフードを深く被り、顔を隠した小柄な人物。


もう一人はフードを外した大柄な男だった。


服の上からでも分かるほど鍛え上げられた肉体。


まるで熊のような威圧感を放っている。


対して隣の人物は小柄で細い。


体格だけを見れば正反対だった。


「お前を助けに来たわけじゃねぇよ」


男は吐き捨てるように言うと、手に持った物を掲げた。


「俺達はお前に貸したコイツを回収しに来ただけだ」


「あっ……俺の爪!」


男の手に握られていたのは、ローダン村でハインが使っていた爪の魔導具だった。


「魔導具にフォルガリオン」


男は鼻で笑う。


「ここまで揃えておいて、あんな小さな村一つ潰せねぇとはな」


次の瞬間には、男はハインの胸ぐらを掴み上げた。


「お前、もう要らねぇんじゃねぇか?」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」


その言葉にハインの顔から、一瞬で血の気が引いた。


自分が助かったわけではない。

そんな事実を今さら理解したのだ。


「あんな……魔法少女が、フォルガリオンを倒すなんて思うわけねぇだろ!」


「知るかよ」


男は一蹴する。


「実際にヘマしたのはお前だろ」


「くっ……クソ!」


ハインは震える声で叫んだ。


「全部アイツのせいなんだよ!」


ハインは暴れながら、聞かれてもいない言い訳を並べ始めた。


「アイツが魔香を被ってフォルガリオンを引き離したんだ!それさえなければ村の中心まで誘導できてた!」


必死に。

ただ必死に、自分に価値があると証明しようと。


それは生き残る理由を探すように。


「それさえなけりゃ――」


だが男は最後まで聞く耳を持たず、さらに胸ぐらを掴み上げる。


「なぁ――」


そして背後の小柄な人物へ振り返った。


「コイツも殺しちまっていいよな?」


返ってきた声は驚くほど淡々としていた。


「別に……どっちでもいい」


興味の欠片もない返答に男は肩を竦める。


「だよな」


そう言うと右手を前へ向けた。


それと同時に掌の前に赤い魔法陣が浮かび上がる。


「クハハッ。暴れんなよ?」


その短いやり取りでハインは悟った。


自分には助かる道など最初から存在しなかったのだと。


「クソッ!!全部あのガキのせいだ!」


「ガキ?」


「そうだよ!"赤城"とかいうガキが!」


その瞬間だった。


小柄な人物の肩がピクっと、僅かに震えた。


「誰だよ、それ」


男は怪訝そうに尋ねる。


しかし。


「待って」


小柄な人物は男の腕を掴み、そのまま二人の間へ割って入った。


男の魔法陣が静かに消える。


「赤城って?」


感情の読めない声だったが、ハインは藁にもすがる思いで答える。


「俺の計画を全部台無しにしたガキだ!」


怒りを滲ませながら続ける。


「アイツさえいなけりゃ俺は――!」


「下の名前は?」


遮るような問いにハインは戸惑いながらも答えた。


「確か……"遥"だったはずだ」


その言葉に、数秒の静寂が流れる。


やがて――


「そう……」


小柄な人物は小さく呟き、誰にも見えないフードの奥で、フッと口角をあげた。


数秒の沈黙の後、その視線は再びハインへ向いた。


そして。


「その情報に免じて、今回は見逃してあげる……」


「ほ、本当か!?」


死を覚悟していたハインの表情が一気に明るくなる。


「でも」


小柄な人物は静かに一歩前へ出た。


そしてハインの目の前まで右手を持ち上げる。


人差し指と親指を重ねるように添え。


パチン――。


小さく指を鳴らした。


「私達との記憶は消させてもらうわね」


次の瞬間だった。


ハインの瞳から力が抜ける。


「え――」


最後まで言葉を紡ぐ事すらできず。糸の切れた人形のように、その身体は地面へと崩れ落ちた。


森には風が通り、再び静寂が戻る。


その様子を見ていた大男は小さく鼻を鳴らした。


「勝手に決めやがって……」


倒れたハインへ視線を向けたまま続けた。


「良いのかよ?殺しておかなくて」


「別に……」


小柄人物は興味なさそうに答えた。


「殺そうと思えば、いつでも殺せるでしょ……」


「まぁ、それもそうだな」


大男はその言葉と共に踵を返した。


「ったく。ならさっさとズラかるぞ――"メア"」


その瞬間。小柄な人物――メアの眉がフードの中でピクリと動いた。


だが、大男は気付かないまま続けた。


「どうせコイツらが魔法省に通報してんだ」


その視線は横転した馬車や横たわった魔法使い達へ向いていた。


「すぐに増援が来やがる」


その言葉に返答はない。


ただ、静かな森で聞こえるのは大男の声。


「おい"メア"!!聞いてんの――」


苛立ちながら男が振り返ったその瞬間だった。


首元に冷たい感触が走る。


「かっ――!?」


いつの間にか、大男の首には巨大な鎌の刃が添えられていた。


メアの手に握られた黒い大鎌。

その刃先は首筋へ触れる寸前で止まっている。


「オルド……前に行ったわよね。その名前で呼ぶなって……」


フードから除くその瞳は大男――オルドを捉えていた。


「――殺すわよ」


先ほどまでとは違ったその殺意の籠った表情と声に、オルドの頬に汗が流れた。


「わ、悪かった。分かったから、早くズラかろうぜ。"メアリー"」


「フン……」


不満げに鼻を鳴らしたメア――いや、メアリーは歩き出し、その後にオルドは続いた。


そしてメアリーはつぶやいた。


「その名前で呼んで良いのは"あっくん"だけなの」


その言葉と共に二人は森の風に消えた。

読んで頂きありがとうございました。

今回でまた一章が終りました。

次回も見てもらえると嬉しいです。

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