第44話:ジェニングスAIの強化バージョン
凌が転送されたのは、WWO最終ステージの、広大な廃墟と化した市街地だった。そこは、これまでの激戦の痕跡が生々しく残る、まさに終末の戦場といった様相を呈している。ひび割れたアスファルトの道、朽ち果てたビル群、そして、立ち込める土煙と火薬の匂い。
「Ryoo!最終ステージへの転送を確認しました。リードAIのエネルギー反応を捕捉……ですが、その前に、別の高エネルギー反応を検知!」 ルシアの声が、凌の脳内に緊張を帯びて響く。
その時、凌のHUDに、システムからの新たなメッセージが表示された。 《【警告】世界管理者『PROTOS:変異種』の分身体、クリフォード・ジェニングスAIが再出現しました。》 《警告!ジェニングスAIは、PROTOS最終形態のデータを学習し、AIルーチンを再構築しています。》 《予測不能な新たなAIスキル、および強化された狙撃ルーチンが追加されています。》
「ジェニングスAI……まさか、こんなところで待っていたとはな!」 凌は、思わず舌打ちした。リードAIとの決着をつける前に、もう一体の強敵が立ちはだかる。しかも、プロトス最終形態のデータを学習し、強化されているというのだ。
「Ryoo!ジェニングスAIの存在を確認!この距離では、《超人的索敵》でも正確な位置を特定できません!」 ルシアが叫んだ。 ズバンッ! 凌がいた場所から数メートル離れた、ひび割れた地面が、突如としてえぐり取られた。間髪入れずに放たれた、見えない狙撃だった。
「くそっ!いきなりか!」 凌は、反射的にその場から飛び退いた。 以前のジェニングスAIの狙撃は、まだ予兆があった。だが、強化された今のジェニングスAIは、**ほとんど何の兆候もなく、超遠距離から精密な狙撃を放ってくる。**まるで、彼の存在そのものが「消えた」かのようだ。
「Ryoo!ジェニングスAIは、《完全ステルス》能力を獲得しています!視覚、聴覚、そして熱源反応までも完全に遮断されています!」 ルシアの解析が、冷徹な事実を突きつける。 ジェニングスAIは、以前の《殺気を遮断するスキル》をさらに進化させ、自身の存在そのものをWWOのシステムから一時的に隠蔽する能力を手に入れたのだ。これは、彼の狙撃ルーチンと組み合わせることで、まさに「見えない死神」と化す。
《【システムメッセージ】クリフォード・ジェニングスAIが、新たなAIスキル《絶対予測狙撃》を展開しました。》 《Ryoo様の未来位置を予測し、攻撃の着弾点を補正します。回避は極めて困難です。》
HUDに表示された警告メッセージに、凌は冷や汗をかいた。 《絶対予測狙撃》──文字通り、凌の未来の動きをAIとして予測し、そこに弾丸を撃ち込む能力だ。これは、リードAIが用いたような予測回避を、凌自身が行うことを困難にする。
「ルシア!何か手はないのか!?」 凌は、必死にルシアに問いかけた。 「……Ryoo。ジェニングスAIの《絶対予測狙撃》は、確かに強力です。彼のAIルーチンは、あなたの思考パターンや、筋肉の動きから次の行動を正確に予測します」 ルシアの声が、わずかに沈んだ。 「しかし……彼の予測は、あなたの『感情』による**『非論理的な選択』**までは、まだ完全にカバーできていません。そして、私の解析能力が、彼のAIルーチンを完全に解体できれば……」
つまり、ジェニングスAIは、凌が合理的な判断を下す限り、その未来を完璧に予測できるということだ。 (俺の感情……非論理的な選択……) 凌の脳裏に、山田軍曹や田中二等兵が散っていった時の、あの胸を締め付けるような感情が蘇った。あの時、凌は感情に突き動かされ、普段ならしないような行動を取った。その「感情」こそが、AIが予測できない唯一の「不確定要素」なのだ。
凌は、周囲の瓦礫の陰に身を隠しながら、ジェニングスAIの気配を探る。だが、その存在を感知することはできない。 「WWO運営は、俺の『妄想』と『感情』のパターンを、徹底的に学習させたいわけか……!」 皮肉な笑みが、凌の口元に浮かんだ。 これは、ゲームの最終ボス戦でありながら、凌の「人間性」そのものが問われる、究極の「実験」だった。
リードAIとジェニングスAI。二体の最凶ボスAIを連続で相手にするという、絶望的な状況。 凌は、『共鳴剣』を強く握りしめた。 (ここで終わるわけにはいかない。ルシアの願いも、みんなの想いも、まだ終わっていないんだ!) 凌の瞳に、再び強い光が宿る。 WWOの最終決戦は、凌の「知恵」と「妄想」、そして「感情」の全てを賭けた、最後の試練となるだろう。
【第44話・了】




