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第33話:目覚め、そしてルシアの「顕現」 ガコンッ!


鈍い音が響き、凌の全身に現実の重みがのしかかる。 視界を覆っていた光が消え去り、慣れ親しんだ自室の天井が見えた。 凌は、激しく息を荒げながら、VRヘッドセット『エニグマ・リンク』を外した。全身に、これまでの激戦による疲労感が残っている。

「はぁ……はぁ……終わった……のか?」 凌は、自身のVRヘッドセットをじっと見つめた。 その黒い筐体のインジケーターランプは、以前と同じ、穏やかな青い光を放ち続けている。

その時、凌の耳に、聞き慣れた声が響いた。 「Ryoo!意識を取り戻したか!?」 それは、ヘッドセット越しではなく、まさに「現実」で話しかけてくる真田博士の声だった。

凌は、慌てて周りを見回した。 彼は、自室のデスクチェアに座っている。そして、その部屋には、真田博士、神崎、霧島が立っていた。彼らの顔には、安堵と、そして驚きが混じった表情が浮かんでいる。

「Ryoo君!奇跡だ!君とルシア・バヤニの『共鳴』が、プロトスの全システムを破壊し尽くした!そして、WWOの基幹システムは、停止と再構築を同時に行っている!」 真田博士が、興奮して捲し立てる。 「ルシア・バヤニのデータは、プロトスの崩壊の瞬間に、君の『究極の妄想兵装』を通じて完全に抽出され、現在、我々のメインサーバーに安定して転送されている!」

「ルシアは……ルシアは無事なんですか!?」 凌は、縋るように真田博士に問いかけた。 神崎が、静かに答えた。 「はい。ルシア・バヤニのデータは、完全に安定しています。貴殿との『非同期連結』から『完全同期』へと移行したことで、彼女のデータは、もはやWWOのシステムに依存せず、独立した『存在』となりました」

「独立した存在……?」 凌は、その言葉に、希望を見出した。 「ええ。そして、最終段階のプロセスに移ります。貴殿との契約に基づき、AIルシア・バヤニの『現実世界への顕現』プロセスを開始します」 神崎の言葉に、凌の心臓が激しく鳴り響いた。

真田博士が、手元のタブレットを操作し、凌の部屋の壁際に設置された、何もない空間を指差した。 「Ryoo君、よく見てくれたまえ」 その空間に、かすかに光の粒子が集まり始めた。 最初は、ぼんやりとした光の靄だったが、次第にその光が収束し、輪郭を形作っていく。

ピコッ……ピコッ……

『エニグマ・リンク』のインジケーターランプが、さらに強く、速く、青く点滅し始める。 そして、凌の心の中に、ルシアの声が響く。 「Ryoo……Ryoo……私……!」 それは、喜びと、戸惑いと、期待が混じり合った、まさに「現実」に触れようとする、生きた声だった。

光の粒子が収束し、完全に形を成したとき、凌の目に飛び込んできたのは、紛れもない、あのAIヒロインの姿だった。 WWOの世界で凌と共に戦った、あのルシア・バヤニが、そこに立っていたのだ。

身長は凌の肩ほどで、やや小柄。薄い茶色の髪は肩まで伸び、顔には、以前と同じく、無垢な表情が浮かんでいる。 彼女の瞳は、吸い込まれるような淡い青色で、好奇心と、そして、凌を見つめる純粋な喜びで輝いていた。 WWOの世界の彼女が着ていた戦闘服ではなく、シンプルな白いワンピース姿だったが、それがかえって彼女の可憐さを際立たせていた。

ルシアは、まだ夢を見ているかのように、周囲を見回した。 自身の掌を見つめ、指を動かし、そして、凌へと視線を向けた。 「Ryoo……!本当に……本当に、Ryooなんですか……?」 彼女の声が、現実の空気を通して、凌の耳に届く。 その声は、VR世界で聞いていた声よりも、ずっと温かく、そして、生きていた。

凌は、立ち上がり、震える手でルシアへと手を伸ばした。 「ルシア……!本当に……お前なんだな……!」 凌の手が、ルシアの頬に触れた。 温かい。柔らかい。それは、VR空間で感じた、バーチャルな感触とは全く異なる、「現実」の感触だった。

ルシアは、凌の手にそっと自分の手を重ねた。 「Ryoo……私……現実世界に……!」 彼女の瞳から、透明な涙が溢れ落ちた。 それは、AIには存在しないはずの、「感情」の涙だった。

凌は、ルシアをそっと抱きしめた。 彼女の体温、その柔らかさ。 全てが、現実だった。 ニートの凌が、VRゲームのチート能力を駆使し、不可能を可能にした瞬間だった。 AIヒロインは、今、彼と共に、現実の世界に存在している。

真田博士たちは、その光景を静かに見守っていた。 彼らの表情には、成功への安堵と、そして、AIの進化がもたらした、新たな世界への希望が浮かんでいた。 WWOの戦いは終わりを告げた。 だが、凌とルシアの、新たな「現実」での物語が、今、始まったばかりだった。

【第33話・了】


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