プロローグ
我がアルカディア学院は数多の入学希望者の中から厳選された者しか入ることの出来ない神聖なる学院です。
この学院に入学できたという経歴そのものがあなた方の今後の人生にとって大きくプラスとなることでしょう。
ですが、油断してはいけません。
落ちこぼれには容赦なく鉄槌を下します。
また、我が学院では主要教科はもちろんのこと魔法にも力を入れております。
魔法の才能は千差万別。教える事が大変難しい事で有名ですが我が学院はこの魔法を属性という新しい方法で識別し、妖精というパートナーを一人一人につける事により不可能だと言われていた魔法を教えるという事を可能にしました。
ここで出会うパートナーとは在学中しか共に過ごすことは出来ないので、パートナーと過ごす時間を日々大切にしていってくださいね。
また、完全寮制となり1人1部屋なのでパートナーとの魔法の練習にも最適です。思う存分学んで下さい。
それでは、アルカディアの名に恥じぬ素晴らしい学院生活を。
学院長 アルカディア・セレスティーン
「マ、マジかよ……!」
マコトは届いた手紙をしっかりと握りしめながら台所へと走った。
男にしては少々長めの髪の毛を振り乱し、くりくりとした可愛らしい目を血走らせ彼は台所へ向かう。
「受かった! 俺、アルカディア受かった!」
台所に着いた途端マコトは母へ向かってそう叫んだ。
「……え?」
丁度、母は夕飯のためにお味噌汁を作っているところだった。しかしマコトの言葉を聞いた彼女はつい、素っ頓狂な声を上げ手にしていたお玉を落としてしまう。
「ほほ、本当なの? マコト」
「ああ、ほら!」
マコトは得意げに先ほど届いたばかりの手紙を見せた。
そこにはきちんと学院の印が押してある。
「おめりぇとう、おねーちゃ」
2人で大騒ぎをしていると、まだ舌ったらずな妹のサチが昼寝から起きてきたようで祝福の声をかけてくれた。
「ありがとう、サチ。でも俺お兄ちゃん」
「おねーちゃ」
「お兄ちゃん」
「おねーちゃ」
「お・に・い・ちゃ・ん」
「おにーちゃ……? ちばう! おねーちゃ!」
いや兄だよ。れっきとしたお前の兄だよ。
あらまあ、とやりとりを見ていた母だったが、何かを思い出したようで少し申し訳無さそうに口を開いた。
「今日はお赤飯ね、と言いたいところだけれどお母さん小豆アレルギーだから別のもので良いかしら」
それともやっぱりお赤飯が食べたいかしら……? と少し眉を下げる。
「サチ、ブロッコリー食べたい!」
ここぞとばかりにサチが好物を主張し出した。
「俺はハンバーグが良いな」
俺も今一番食べたい者を言う。正直お赤飯は小豆がパサパサしていて苦手なんだよな。
「わかったわ。お味噌汁はつくっちゃったからおかずはハンバーグね」
「ブロッコリーは?」
添えるわよ、と笑った母はそれにしても……と続けた。
「17歳から入学可能なんて変わってるわよね」
もっともな疑問だ。
それに関して詳しくは知らないが、魔法が関係していると聞いた事がある。
まあ、真偽は定かではないのだが……ん?
「おねーちゃ、制服ふりふりなの? サチも着たい!」
いや、ふりふりじゃないから……。
カット目を見開いたから何を言い出すのかと思ったらそんな事か。
「そうよ、サチ。お兄ちゃんはふりふりじゃなくてギラギラよ」
母はハンバーグをこねながら遠い目をした。
「おにーちゃ、ちばう! おねーちゃ……ぎりゃぎりゃ?」
そう、ギラギラなのだ。
男子の制服はギラギラ光る素材が使われている。
これも魔法を制御するための何かと聞いたが、これは流石にどうかと思う。
女子の制服はふわふわとした太陽の光みたいに綺麗なんだけどな……。
「まあ、着ているうちに慣れてくるわよ」
「それはそれで問題がある気がする」
全くありがたくないフォローを貰いつつ、俺は学院生活に夢を膨らませていた。
……そしてそのまま寝てしまったようで父さんが既に帰ってきていた。
夕食を食べている時に父さんに指摘されて気づいたのだが、俺の髪の毛が二つ結びになっていたらしい。
もちろん犯人が誰かは言うまでもないだろう。