第13話 闇に堕ちた街、光を愛する者 〜5〜
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驚きを隠せないシルフィーに対して実に穏やかな眼差しで前町長はたたずんでいた。
「アリアから頼まれたんじゃろう?さぁ早く」
「もしかしてアリアさんってあなたの孫娘さんですか?」
こんな緊迫した状況なのにシルフィーにはそちらのほうが気になっていた。
「左様。アリアは私の実の孫娘じゃ。」「と、いうことは今の町長は……。」
「まことに勘の鋭い娘さんじゃ。まさしく。現町長はわしの娘じゃ。恥ずかしながらの。」
「なぜこの町はこんなことに……。」
「なに、簡単なことじゃよ。わしが悪いんじゃ。仕事に惚けて幼い頃なかなか一緒に遊んでやれなかったんじゃ。きっと寂しかったんじゃろう。そのうち“影”と遊ぶようになったんじゃ……。」
悲しそうな顔をしながら前町長は語る。シルフィーは警戒を怠る事無くその話に耳を傾ける。“影”と遊ぶとはどういうことなのだろう?
「あの、影で遊ぶってどういうことなのですか?」
「影と遊ぶということはじゃな、簡単に言うと自分の影に帝国の使者を憑依させるようなことじゃ。」
「すると、どうなるのですか?」
「影は自分の足元を離れないのだが自分とは違った動きをするのじゃ。子供には不思議な現象じゃろう。自分の行動とは真逆の動きをするのだから。」
なるほど、とシルフィーは思った。興味本位の子供にはいい遊び道具に確かになるだろう。
「でも、それは……。」
「左様。あなたの考えてるとおりじゃ。他人の闇をおろすわけじゃから、自分の闇も大きくなってしまう。連鎖反応のように。そしていつかは自分の心は闇に食い潰されてしまう。」
「じゃあ今彼女の心は……。」
「いや、まだ闇に食い潰されてはおらん。見つけたのが早かったのでな。即座に禁止魔法をかけた。ただ闇をおろしていたせいじゃろ。闇が一番正しいと思っている。」
「じゃあまだ救えますね。」
シルフィーは気丈にいった。
「なんじゃと?」
「浄化魔法は試しましたか?」
「いや、それがこの街にはそんなに強い浄化魔法を使える者がいなくてな。一番簡単な浄化魔法しかかけておらんのじゃ。情けない話じゃろう。」
シルフィーは静かに首を振った。
「そんなことはありません。浄化魔法は、様々な魔法のうち一番難しい魔法です。力のある者でも適性により使えない術者も数多くいます。だから、あまり御自分を責めないであげてください。」
「ありがたい。あなたは使えるのであろう。適正に関しては申し分ないはずじゃ。」
「使えます。それより少しあなたに聞きたいことがあるのですが……。」
「何じゃ?何でも言うてくれ。力になれることは何でもいたそう。」
「失礼ですがあなたの髪が白いのは、年齢によるものですよね?あぁ、あくまでも確認なので気を悪くされたら申し訳ないのですが……。」
「もちろんそうじゃ。大丈夫わしは闇に巣くわれてはおらん。瞳を見れば分かっていただけるだろうか?」
シルフィーは瞳を覗き込み確認し安心した。大丈夫だ。彼は清浄な目をしている。
「申し訳ありません。罠では困りますので。ここで捕まってしまうと全てが無駄に終わってしまいますので。」
「分かっているとも。なに気にしてなどおらんよ。安心なされ。」
「そういえばあなたのお名前を聞いていませんでしたよね?」
「おお、忘れておった。いや、年を取るとはいやじゃの。わしの名はベルギンじゃ。」
「ではベルギンさん、参りましょう。アリアさんが待っています。」
「そうじゃの。」
ベルギンを檻から出しシルフィーは階段の様子を確認しに行った。大丈夫そうだ。兵士の声などが聞こえないから少なくともこの付近にはいないようだ。
「大丈夫そうじゃの。」
「えぇ。行きましょうか。」
二人は階段を上り始めた。シルフィーが二三段前を行き安全を確認してはまた上るという作業を繰り返した。
それと同時にシルフィーは驚いた。なぜならシルフィーは階段をものすごいスピードで駆け上がっているので、当初はベルギンを一時安全な牢屋の近くにいてもらう予定だったのだが、同じようなスピードで彼もまた階段を駆け上り始めたのだ。しかも足音をうまく消しながら。どう見てもベルギンは七十を過ぎた老人だ。普通に考えて無理だ。
「すごいですね。そのご高齢でこれだけ走れるなんて。」
「ほ。昔はもっと早く走れたのにのぅ……。仲間と修行に励んだ日々を思い出すわい。」
なるほど、そういうことか。とシルフィーは思った。彼もまたきっと町長になる前の若かりし頃に町を闇から守れるようにと訓練に次ぐ訓練を重ねたのであろうと容易に想像できた。