第11話 闇に堕ちた街、光を愛するもの。〜3〜
が、しかしレイラは落ち着いていた。大丈夫まだ気付かれてない。それをよそにシルフィーは欠伸をしていた。
「何か隠し玉でもあるのかしら?このままじゃつまらないまま終わりよ?」
自らのユニコーンをてなづけて、くりくりと毛をいじっている。
そして、レイラは勝利を確信した。
「かかったわね!」
「は?何が?」
シルフィーは全く分かっていない。
「私が簡単にやられるとでも思った?」
不意に後ろから同じ声がする。シルフィーがあわてて後ろを向くと……
「なっ!どーゆーことよ!?」
後ろにレイラがいた。がしかし、前にもレイラはいる。
「さぁ〜てもんだ〜い!何で同じ人間が居るんでしょうか?!」
「まさか………幻魔法?!」
「せいかぁ〜い!!頭良いねぇシルフィーちゃん!」
そうだ。すっかり忘れていた。先代がこの街、いや、村だった頃野党が多くて幻魔法を強化してこの村の入り口をわからなくして必要な人以外は入れないようにしてこの村を守ったんだ。仕組みは分からないけど確か村人と力を合わせて守ったって本には書いてあったはず。ということは間違いなくこの街の人はたいてい幻魔法が使えるはず……。
「ちっ!やられた。」
「魔力の無駄遣いありがとさん!ここからが本番だよね〜♪」
シルフィーは焦った。そもそも幻魔法というのはその物体に似せた実体の無い抜け殻のようなものを造りだす魔法だ。つまり能力の無い者が使うと表面上は構成できても、立体化ができなかったり反対側が透けて見えてしまったりと、個々の能力の強さそのものが表れてしまうというシビアな魔法なのだ。しかし能力の高い者がこれを使用すると、実体があるわけではないはずなのにその者に触ることができたりする。仮にレイラの様に能力のある者が自分を写取り、この魔法を使用すると、自分の使える魔法の少し弱まった物が自分の幻が使えたりするのだ。(ちなみに感情は共用するので自分の分身が勝手に暴れだしたりなど暴走することは無い。)こいつが監獄守になれた理由がよくわかった。
「……コイツ、予想以上にデキるんだ……。」
「やっと理解してくれたみたいね。それに幻魔法は普通の魔法とは違って玉を使用しなくても使える術なの。低級魔法と同じ扱いになるけど、たかが低級とはいえない程使いようによちゃ使える魔法よ。読みが甘かったわね。確かにあなたのほとばしる魔力は絶大。でも、こーいう時はあまり意味を成さないわね。」
イラっと来るけど仕方ない。コイツはデキる。それに今までのは幻。つまり、本来の力を出しているものではない。それであの強さ。本物となると……
「強さも今までの2倍ってわけ?」
「それはどうかしら?」
奥からもう一人のレイラが現れた。いや、よく見渡せばもう一人が出てきた途端シルフィーの周りにはもう何十人もレイラがいる。
「化け物?」
「人聞きの悪い。私はこう見えても魔法は得意なの。あなたには及ばないけどね。少しの魔力で何人も作れるってわけ。」
が、シルフィーは先程までの焦りは消えていた。ある良いことを思い出したのだ。
「確かに、これだけの相手をするのは大変ね。」
「あら、意外と焦ってないわね。」
何十人と居るレイラの中の一人が言う。
「ひとついいことを思い出したのよ。」
「何かしら?」
「幻魔法は所詮低級魔法っていうことよ。」
「なにを……!!私を侮辱するつもりか?!この状態でどうなるのかわかっているのか?!」
「別に。侮辱なんてしてないわよ。ただね、気つ゛いちゃったのよ。この魔法の弱点に。」
「どういうことよ?!」
「あなたの分身が使った魔法の元はあなたよね。結局、弱まったものとはいえあなたの魔力をを吸っていた事には変わりないわ。つまりあなたとあなたの分身は……」
するとシルフィーはいきなり目の前にいたレイラの分身の一人にグーパンチをお見舞いした。
バキッ!軽快な破壊音と共にわずかだが鼻血が出た。それと同時に周りにいたレイラも少なからずダメージを受けた。もちろんのことだが相手はキレている。
「〜〜〜〜〜んにすんのよ!!」
「実験。っていうか確認ね。これで確証も付いたわ。ダメージも一様に負う。」
「フッ、流石ね。」
鼻血を拭いながらレイラが言う。
「その通りよ。でも、なぜこれを知っておきながら、こんなにたくさん自分の分身を作ったと思う?!」
「知らないわよそんなの。」
「守りきれる自信が有るからよ!!自分の思い描く最高の状態であなたを倒す自信が!!満ち溢れていなければこんな危険な賭けなんてしないわ!いいえ。できないわよ!!」
レイラ自信がかなり高ぶったらしい。何人かはもう戦闘体勢に入っている。そして、キレたレイラ達は一斉に先程の魔法でも見せた、黒い弓で一斉に攻撃してきた。そして、シルフィーは目を瞑った。死を覚悟したわけではない。もしもシルフィーに当たったら、いくら幻覚の作ったものにせよ、大怪我は免れないだろう。レイラほどの能力者なら、もしかしたら物体に限り、実体化して作り出すことが可能かもしれない。というよりもうしていることだろう。それなのになぜ目を瞑ったか。それは、シルフィーの研ぎ澄まされた魔法の感覚で半体が放った弱い弓矢と、本体が放った強い弓矢を感覚で探し出そうと思ったからである。目を瞑ったのは、見えてしまうといくらシルフィーでも恐怖心が芽生えてしまうからだ。しかし目を瞑ればそこには一本の黒い弓矢。他の弓矢は軌道を読んで大体で避けていくしかない。何百本と飛んでくるのだから多少当たってしまうのは仕方無いので諦めて、急所だけをはずしていく。
「嘘……。何で一つも当たらないのよ……。ならば!!」
痺れを切らしたレイラがとうとう自ら弓矢を放った。その瞬間。
バシッッ!!摩擦の熱ももろともせず、シルフィーがつかみ、目を開いた。
「見つけたわ……。」
体からの出血が生々しい。どれもみんな紙一重で避けていたのだから仕方ないが、どう考えても痛い。脚や腕、肩など至る所から出血している。綺麗な白い肌だからこそ余計に目立ってしまう。特に先程の弓矢をつかんだ手は赤くはれ上がり血が滴り落ちていた。
「何で平気で立っていられるのよ……。」
言葉を無くしたレイラ達は攻撃をやめた。
「北東の方角から今までよりも強い魔力を持った弓矢がちかつ゛いてきた……。あなたね。」
シルフィーは一番窓側にいるレイラを指差した。
「なんて……魔力なの……。」