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誰よりも早いロケットスタート

初めまして、めいどいんじゃむぱんです。

本作が初めての執筆・投稿となります。

不慣れな点もあるかと思いますが、一生懸命書きました。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

四月四日。春の柔らかな日差しが街を包む中、学年で最も早く十八歳の誕生日を迎えた良太は、一人始まりの洞窟の入り口に立っていた。

世界が変貌を遂げてから、今年で八年になる。

突如として地球上の各地に穿たれた「ダンジョン」という名の異空間。それは現代社会の常識を根底から覆した。かつての混乱は去り、今や探索者は一つの職業として確立されている。

現在、日本国内に存在するダンジョンはわずか十数個。それぞれが役所の管轄であり、入場ゲートには必ず制服を着たスタッフが常駐している。ダンジョンの建物内は近代的な施設となっており、併設された売店では、魔物を倒して得たドロップ品や魔石を換金したり、新たな装備を買い整えたりすることが可能だ。

ダンジョンは人々の生活を支える資源採掘場と化している。

魔物を倒すと、ドロップ品が出現するか、あるいはエネルギーの結晶である「魔石」が落ちる。階層が深くなるほど魔物は凶暴さを増し、命の危険は高まるが、その分ドロップする品々の質も跳ね上がっていく仕組みだ。

この世界に生きる人間は、十八歳になった瞬間に「ステータス」という恩恵を授かる。それは個人の能力を数値化したものであり、以下の五つの項目で構成されていた。

【筋力】:肉体的な力、攻撃の重さ。

【耐久】:防御力、毒や衝撃に対する耐性。

【俊敏】:移動速度、反応速度。

【魔力】:魔法の威力や持続性。

【幸運】:ドロップ率や致命的な回避に影響する謎の数値。

富、力、権力を求めて人々はレベルを上げ、獲得した「ステータスポイント」を自由に割り振ることで、自分だけのビルドを組み上げていく。

「……よし、行くか」

良太は市役所の出張所で発行されたばかりの「F級探索者証」をゲートの読み取り機にかざした。スタッフの事務的な「いってらっしゃいませ」という声を聞きながら、彼は初心者用の「はじまりの洞窟」、一層へと足を踏み入れた。「……ふふ、見てろよ。明日から俺を呼ぶときは『四条くん』じゃなくて『良太様』って……いや、様はやりすぎか。せめて『四条さん』だな。……あ、でもやっぱり『四条様』も捨てがたい……」

そんな風に、妄想を止められないのには理由がある。

良太が続けてきた九年間のピアノと剣道で培ったのは、技術じゃない。誰かに見つけてほしい、褒めてほしい、主役センターに立ちたいという、醜いまでに肥大化した『承認欲求モンスター』の心臓だったのだ

装備は、放課後のアルバイトで貯めた金で買った安物の鋼鉄製ショートソードと、あと、古着屋で「これ、防御力あるんですか?」って店員に三回聞いた革の胸当て。テレビで見るスター探索者のような魔法の杖も、光り輝く聖剣もない。

ギルドで更新したばかりの彼のステータスは、実に見劣りするものだった。

名前:四条 良太

レベル:1

筋力:12 / 耐久:10 / 俊敏:11 / 魔力:5 / 幸運:9

【スキル】:なし

剣道のおかげで筋力がわずかに高い程度。剣道と一緒に続けてきたピアノは何のステータスにも反映されず、魔力に至っては平均以下。せめて「絶対音感」とかいうスキルがあってもいいだろ。神様の配分ミスを疑うレベルの「非才」数値だ。

「ま、いいさ。伸び代しかないってポジティブに考えよう」

良太は剣の柄を握り直し、湿った空気の中へと踏み出した。

ひんやりとした空気が肌を撫でる。初めて入る未知の空間に、恐怖を上回るワクワク感が胸の奥から突き上げてくる。

「広い……、それに意外と明るいんだな」

洞窟という名前から抱いていた閉塞感はなく、天井は五メートルを優に超える高さがある。さらに、岩壁の至る所に自生する「光苔ひかりごけ」が淡い青白い光を放っており、松明がなくても周囲の凹凸まで鮮明に見渡せた。

しばらく歩き、ひときわ開けた空間に出たその時だった。

カサカサと、硬い爪が岩を叩く不快な音が響く。

前方から現れたのは、体長五十センチほどの巨大なネズミ「グレイラット」。赤い瞳でこちらを威嚇し、必死に喉を鳴らしている。

「……っ」

反射的に剣道の構えを取るが、次の瞬間、良太の身体が硬直した。

目の前の魔物は生きている。心臓が鼓動し、殺気という熱を放っている。

(これは、竹刀じゃない。……生き物だ)

道場で何万回と打ってきたが、その先にあるのはいつも防具だった。今、手にあるのは肉を裂くための「真剣」だ。ピアノの鍵盤を叩くときはあんなに自由に動いた指先が、今は鉛のように重く、剣の柄に張り付いている。

一瞬の躊躇。ネズミが地面を蹴った。迷いは隙を生み、ネズミの爪が良太の腕をかすめる。鋭い痛みが走り、そのおかげで逆に頭が冷えた。

ここで逃げたら、また「誰だっけの四条くん」に逆戻りだ。

恐怖を「技術」の陰に押し込め、左足で地面を蹴る。

良太は自然と、左足をわずかに引き、重心を落とした。身体に染み付いた「構え」。九年間の剣道で叩き込まれた、無意識の最適解。

キィッ! とネズミが跳ねる。

しかし、良太の視界には、その動きが驚くほど冷静に映っていた。

(遅い。竹刀の先より、ずっと見やすい)

一歩、踏み込む。

最短距離で振り下ろされた剣が、空中でネズミの脳天を正確に捉えた。

めん!」という発声こそしなかったが、それは道場で何万回と繰り返した、何の飾りもない一撃だった。

手応えと共に、魔物が塵へと変わる。

「……ふぅ。意外と、やれるもんだな…ってこれ最初のモンスター…」

良太は軽く肩を回した。

剣道の技術は、確かにダンジョンで通用する。だが、ここから先は「試合」ではなく「命懸けの殺し合い」だ。派手な魔法も、一撃必殺のスキルもない自分は、こうして地道に積み重ねていくしかない。

網膜に、無機質な文字が浮かぶ。

《レベルが2に上がりました》

《レベルアップボーナス:2ステータスポイントを獲得しました》

良太は震える指で画面を操作した。最強への近道など知らない。だからこそ、今の戦いで足りないと感じた『筋力』と『俊敏』に、1ポイントずつ、祈るように割り振った。

【筋力:13 / 俊敏:12】

「ピアノの練習よりは、成果が分かりやすいな……ピアノの練習なんて一週間やっても「指が動くようになった……気がする」程度なのに

足元には、光の塵が消えたあとに【魔石(極小)】と、小さな木箱が転がっていた。木箱を開けると【古びた鉄の短剣】が入っている。

これこそが、命を懸けて手に入れた「戦果」だ。

良太は建物の外にある売店の喧騒を思い出しながら、より深い闇が続く奥へと視線を向けた。

四月四日。この日から、彼の「積み重ね」が始まった。

クラスメイトがまだ権利すら持たず、春休みの余韻に浸っている間に。

才能がないと笑われるような数値しか持たない自分が、どこまで行けるのか。

良太は今までの自分に踏ん切りをつけるように頷き、深く、静かに、ダンジョンの奥へと踏み出した。

「見てろよ、世界。いつか全員に俺を振り返らせてやる」


この作品は自分の妄想を言語化したものです。 小説を書いて言語化がどれほど難しいものか、自分の妄想の設定の甘さを如実に感じました やっぱり難しいですね… 今は10話まで書けていますが、どのペースで投稿したらいいのか… ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!

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