第280話 とあるサザンヌの男爵親子(中編)
サンネイズ商団の連なる馬車、
海の幸を詰めたアイテム袋を大量に乗せた荷台の隙に、
かろうじて親子が横になれるスペースを作ってもらった。
「本当に銀貨二十枚で」
「あくまで、ついでですから」
貧乏男爵家では決して安くないが、
遠い遠い国までの運賃と思えば破格なのはわかっている、
持ち出した妻の形見のネックレスを娘の首にかけ、出発を待つ。
(自分用の、移動中の水や食料が入った袋が紛れないようにしなくては)
だがよく見ると袋には恐ろしい男の顔がリアルに描かれている、
どう見ても罪の無い女子供に酷い事をしそうなその顔に戦慄が走った。
(ひょっとしてサンネイズ商団とやら、今更ながら、悪徳商人なのでは)
「んんんんっ……」
「アリア、寝返りか? 大変だがパパが護ってあげるからな」
「……んっ……んんんっ」
最悪、もう二度と戻ってこられないかもしれない我が町を後にし、
馬車は走り始めた、行きつく先の『希望の光』に一縷の望みを託して……。
(本当に、本当にそんな奇跡のような事は、起きるのだろうか……?)
馬車は夜通し走りサザンヌを抜けてメランへ、
途中でまた何か荷物を積んで走るのを繰り返すのだが、
気が付けば我々はアイテム袋の洞窟に入っているような状態になった、
それでも娘の身体だけは護ろうとこの身を盾にする、とにかく無事に到着しなければ。
(馬車の中が普通に暖かいのが救いだ)
そして朝になり昼になり夜になり、
アリアに水や意識が薄くても飲みこめる食料を与え、
メラン王都を越え検問が厳しそうなナスタへの道で一般止まる。
「身分証明を」
「はい、こちらで寝ているのは私の娘です」
「……サザンヌの貴族様でしたか、失礼致しました」
敬礼してくれる衛兵、
ナスタの兵士はおっかないと伝聞で聞いた事はあったが、
内戦が治まってマトモになったのだろうか。
「ちなみにどちらへ」
「フォレチトンで娘の治療を」
「合同教会の女神像ですか、きっと良くなりますよ」
勇気づけられナスタ国内へ、
本当にその女神像とやらがこの娘を治してくれるのだろうか?
もし騙されていたら……その時は、嘘であれば無料で帰すし銀貨二十枚も返すと言ってくれたが。
(他に頼る物が無いし、噂であっても今は信じるしかない)
さらにさらに二泊しながらたどり着いたのは砂漠の手前、
この先は地図でも『死の砂漠』と書かれていたように、
足を踏み入れれば巨大なワームに呑みこまれ骨だけにされるらしい。
(なんだ? あの綺麗にきらきら輝いている道は)
砂漠の中を通る一筋の広い道、
白い宝石を散りばめたようなそこを馬車が速度を上げて走る。
「おお、今までと違って揺れが少ない!」
こうして声に出して喋っても舌を噛む心配が無い程だ。
「……パパ、ここ……ど、こ?」
「お、おお、アリア、気が付いたのか!」
珍しく意識を取り戻した娘を、思わず抱きしめてしまう!
「なんだか、心地いいの……」
確かに下から、地面から、
このきらきらした道からそのような気配を感じる。
「アリアよく聞きなさい、これからアリアの身体を、治してくれる所へ行くんだ」
「ほん……とう?」
「パパはアリアに嘘は言わないよ、騙されてたら……パパのせいだ」
ぎゅっと私の胸に抱きつくアリア。
「嬉しい……パパ、ありがとう」
「ああ、パパはアリアのためなら、なんだってするさ」
「……ねえパパ」「どうした?」「……お腹空いたぁ」
(うぅ、なっ、涙が……)
こうして砂漠を通り抜け砂漠の国、
砂漠の大神殿、砂漠を抜けた冒険者の溜まり場、
全員がティムされているようなオーガの村、
サキュバス温泉に着けばあと少し、そして、そして……
(ここが、フォレチトンの領都、ミストシティ……!!)
まだ夜中だが荷物を降ろすのを手伝う、
荷台は半分くらいまでスッキリしたがまだここから馬車は走るらしい、
獣人奴隷が私たちの所まで来たので頭を下げる。
「本当にありがとう」
「宿はどうなさいますか、値段によってまちまちですが」
「それが、その、できるだけ安い方が」
「わかりました、無料の宿へ参りましょう、もう一度乗って下さい」
「は、はいっ」
ミストシティを大回りしながら坂道を登る、
夜中ながら中央にコロシアムやお城、そして教会が見える。
(合同教会はあれか)
とはいえ雪がちらついている今、
中に入れてもらえるかわからない状況でまだ行けない、
すやすや眠る娘を抱えながらミストシティから離れてしばらく進むと……
(今度は小さな街だ、古い町といった様子だ)
同じ領主だからわかる、
ここはミストシティが出来る前の主要な町だったのだろう、
途中、昔の領主邸らしき建物の前を通り過ぎ、
さらに少し前の領主邸らしき建物の前を通る、こっちは使っているみたいだ。
(どこまで行くのだろう)
と思いきやしばらくして女神像が見え、
その前の広場で降ろされる。
「こ、この女神像ですか」
「いえ違います、治癒魔法の女神像はミストシティの中心です」
見ると像のある噴水前に、
場違いなほど綺麗で整備された大きいベッドがある。
「こ、これはいったい」
「領主様がとある場合に使用するベッドですが、使っていない時に誰でも使って良いベッドです、
冬で今日は雪が降り始めたとあって誰も使っていないようで、こちらで朝までお過ごし下さい」
「しかしここでは……あ、暖かい」
領主が使うベッドというだけあり、
暖かくなる魔法がかけられいるようだ。
「明日朝には、丁度良い頃合いに我がサンネイズ商団の誰かが迎えに来るでしょう」
「も、申し訳ない」
「長旅で疲れたでしょう、今日はお休み下さい、一応、貴重品は近くに置いて」
去って行く馬車に頭を下げ、
アリアをベッドへと寝かせる、
すやすやと気持ち良さそうに……
(夜が明けたら、アリアが治ったら……アリアに、謝ろう)
後編へ続く。




