第269話 踊るダメ貴族
「ミスト様、本日はゆっくりと」
「は、はい」
「さあ、身を任せて下さいませ」
年下のベルルちゃんにリードしてもらう、
もうこれだけで立派なダメ貴族だ、でも仕方がない。
(学院ではダンスの授業もあったらしいからなぁ)
当然Gクラスには関係ない話だったけれども!
「こう、密着するダンスも素敵ですわ」
「う、うん」
「もっと抱き寄せて下さいませ」
そうはいってもこう、
ベルルちゃんはボリュームが……
こういう時は太眉に集中しよう、ってあれ?
「ベルルちゃん、涙ぐんでる?」
「ですわ、今回の治療、わたくしにはたいへん大きな出来事、大仕事でしたの」
「王位継承権上位のぼっちゃんを救った事が?」
「……その話を詳しくするには、ダンスの時間だけでは足りませんわ」
「じゃ、じゃあ後で、今夜にでも……あっ」
今日はリア先生の誕生日だからベッドで聞くのは無理か、
特別な日だから今夜はリア先生とふたりっきりで朝まで……
「落ちついたらお話致しますわ、今夜はわたくし、
ソフィーお姉様共々、合同教会で忙しいのですわ」
「ま、まだする事あるんだ」
「明日の夜まで、女神像の一般公開は続きますわ」
っていう事は、夜通し……?
「まさか夜中もずっと?」
「ですわ、今も長蛇の列ですわ」
「そんなに! でも確かにあの治癒魔法を、魔力を持った像なら、
怪我や病気を治したいって人が続々来そうだよね」
速攻で噂になっているのなら国中から、
いや世界中で噂になるのも時間の問題かもしれない。
「特に治療待ちをしていた方々で転移テントを使える関係者は、
すぐにでもという感じで飛んでいらしゃっているようですわ」
「重病の人はあのバリアの奥、女神像本体まで連れて行くんだよね、
ええっと、今の時間、あそこまで連れて行けるのは」
「お姉さま方とベルベットですわ、パーティーが終わったら交代を」
「え、じゃあ僕は」「明日の朝食後にお願い致しますわ」
そんな事になっているんだ。
「やっぱりみんな、一刻も早く治したいんだろうね」
「それもありますわ、でも、一般公開は明日夜までですの」
「えっ、いつでも入れるようにするんじゃ」
「あまり治し過ぎると、他の神官、病院が収入に困ってしまいますわ」
「うーん、そこ気にしないといけないのか」
本当に何もかも治し過ぎると、
医者が仕事なくなってしまうってことなのか、
でもそれって望ましい事なのでは、って綺麗事じゃ済まないのかも。
「もちろん命に係わる重病人や大怪我の方は全員、すぐに治してさしあげたいですわ」
「その時は入れるんだ」
「はいですわ、でも通常は御前立の部屋も決められた日と時間しか入れないように致しますわ」
「教会っていつでも、人が居なくても入れるイメージがあったけど」
「もちろんそれ用の像は造りますわ、御前立の御前立ですの」
……それでもソフィーさんベルルちゃんが造る女神像であれば、
材料となる魔石だけでも盗めば物凄い財産になりそうだ、
いや盗めないくらい巨大にすればいいのか、あと防犯魔法か何か。
「拝観料とか取るんだっけ」
「出せる額を出せる方が出したいだけ……さあミスト様、キスを」
「あ、そっかダンスの最中だもんね、ごめんごめん」
今ここで聞く事?
っていう会話をしちゃた、申し訳ない。
「ベルルちゃん、愛しています」
チュッ、と頬にキス。
「嬉しいですわあ!」
お返しにキスしてくれる、
ソフィーさんがしてくれたのと反対側に。
(うん、ベルルちゃん、かわいいなぁ)
こうして音楽が一曲終わった後、
次の曲と同時にリア先生の番である。
「さすがに今日は大人しくしてやろう」
「そ、そうは言ってもリア先生の身体の大きさだと……!!」
うん、やっぱりついていくのがやっとだ、
落ち着いた音楽、落ち着いたダンスであっても、
身体の振りというか全体の挙動が大きいため、
密着しているだけでも振り回される感じ、操り人形か。
(うーん、僕はやっぱりダメ貴族だなあ)
リードされっ放しの中、
リア先生とも囁きあう。
「ミスト、何を話した」
「えっ、誰にですか」
「ソフィーとベルルにだ、ダンスの最中」
「あっはい、ソフィーさんには、権利を使いました」
「ふたりがミストを愛する理由当てか」
うーん、リア先生の大人な感じの香水、良い匂い。
「世界を平和にするため、と言ったら正しいけど違うみたいなことを」
「……話が飛躍してきたな、まあ、あながち間違いでもないが」
「でもヒントにはなった気がします、うん、次の機会に出す答えも決まりました」
ソフィーさんベルルちゃんが魔王であるならば、
その生贄に僕が必要だとしたら、喜んでこの身を捧げよう、
ただ、こんな踊らされっ放しのダメ貴族の僕に、そんな価値があるのかだけれども。
「ミスト、前も言ったかもしれないが、ヒントはもう山のように出ている」
「はい、その整理もした上で、です」
「どんな結果でも、真実を告げられてもどうか、正気で居て欲しい」
よくよく考えたらソフィーさんもベルルちゃんも、
人外染みてるし、すでに人外であろうという答えは出している、よね?
ふたりの正体は女神だとか天使とか、でもそれは一般的に言う『良い方』に拘っていた、無意識に。
(聖女だからって、魔王だとか淫魔だとかいう方向にまったく意識が向かなかった)
確かに夜のベッドでのふたりは淫魔みたいなところあるけど!
でもそれ言ったらリア先生やアメリア先生、さらにエスリンちゃんだって……
「ミスト」「はい」「キスするぞ」
おでこにちゅっ、と自然なキス、
リア先生がよく僕の額にキスしてくれるのは、
やはり身長差からなんだろうな、屈む暇ももったいないくらい早くキスしたいとか?
「ミスト」「はい」「次はミストの番だ」
抱きつく頭にして背を伸ばし頬にキス、
変態メカクレの悲鳴に似た声が聞こえた気がするが放っておこう。
「……今夜は、ベッドではふたりっきりだな」
「はい当然です」
「……覚悟しておくように」
という怖い言葉と同時に音楽が終わり、
切り替わって今度は落ち着きつつも明るい音楽。
(次はエスリンちゃんだ)
前に踊った時は単にメイド服がドレスになっただけだったが、
さすがに侯爵夫人ともなるとばっちり化粧して髪型も整えられている。
「あのっ、おっ、お願い致しますっ」
「うん、エスリンちゃん、よろしくね」
僕から密着されるとまだ少し怖いのか、
エスリンちゃんの方から積極的に来てくれる。
(あっ、でもあんまりぐいぐい来られると、ベッドでの恐怖が蘇る……こっちの)
あの豹変ぶりはいまだに慣れない。
「ミストさん、その、ありがとう」
「僕もありがとう、僕の所へ戻ってきてくれて」
「その、今のありがとうは、メイドに戻してくれて、です」
エスリンちゃんなりに奪われた時間を取り戻したいんだろうな、やっぱり。
「ノーリさんは怖くない? 教育係の」
「はいっ、初めてお会いした時は、その、威嚇されているようで恐かったのですが、
最初に事情を話したら、急に表情が変わって、その、頭を下げられました」
「あー、エスリンちゃんの方から話したんだ、第四夫人だって」「はい、もちろんです」
嘘はつけないからか、あと元々、隠せとかエスリンちゃんには言ってないのだろうし。
そもそも以前のダンスのとき四番手で踊っていたからね、ちょっと情報収集すればわかるだろう。
「その、まだ初日なのにすごく勉強になっています、なくなった、い、いえ、いなくなった、
オリヴィエさんやヴァネッサさんは、今にして思えばメイドと呼べるような方々では無かったので」
うん、確かに単なる『村長邸のお手伝い』みたいなものだったからね、今にして思えば。
「ちゃんとメイドらしくなってるよ」
「嬉しいです、もちろんミランダさんもキリィさんモリィさんにも、大変良くしていただいて」
「でも、奥さんになる事も忘れないで欲しいな」「もちろんです! リア様、リアさんと一緒に!」
嬉しいのはそこか、まあいいけれども。
「ごめんエスリンちゃん、まだ、僕はエスリンちゃんの心を捕まえきれていない」
「でしたら……キス、して下さい」
「大丈夫?」「はい……お願いします」
一瞬、唇にしそうになったが、
さすがにそれは『序列』に違反するような気がして、
頬にキスする……すると反射的のような勢いで首筋にキスされた。
「ミストさん……もう、ずっと一緒ですよね?」
「うん、ずっと、ずーっと一緒だよ」
「……嬉しいっ」
こうしてエスリンちゃんとのダンスが終わって、
音楽が一旦止んだのだった……離れて行っちゃった、メイドに戻るのかな。
「ミスト様」
「うわっ、キリィさん!」
反対側から急にきてびっくりした!
「では只今より奥様方以外の女性とのダンスになります」
「はいはい」
「順番通りにお連れしますので、必ず、か・な・ら・ず、順番をお守り下さい」
そうしてやってきたのは第三王子の娘、シャーロット姫だった!
「よろしくお願い致しますね」
「はっ、はいいいいい!!」
こうして僕は踊らされる
だめ貴族だもの。 ミスト




