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93話 古めかしい木造の店

 リディアに案内されてカズトがやってきたのは、非常に古めかしい佇まいをした店だ。

 しかし古めかしいといっても蜘蛛の巣が張っていたり、壁に罅が入っていたりする訳では無い。

 周りのレンガ造りの店とは違いその店はこの世界でも珍しい木造造りなのである。

 そのため地球でいう中世ヨーロッパのような周りの景色からは甚だ浮いている。

 とはいえそれでもその店からは独特の気品のようなものが漂っており、否応なしに人々の視線を惹き付けている。



「ここはダンジョン都市とバッセルの街を合わせた中で一番の名店。熟練の魔法士は皆この店で杖を買う。カズト君も是非ここで杖を選ぶといい」



 そう言ってディアがその店の中に入って行く。

 カズトもまた、彼女の背中を追うようにしてその店に足を踏み入れた。



「へぇ……」



 店に入ると自然とカズトの口から感心したような声が零れた。

 とはいってもその中には特に珍しいものがある訳では無い。

 木製の棚があり、そこに杖が並べられており、木製の値札があり……と、ごく普通の店である。

 しかしカズトはそんな様相の中に、かつて居た日本の店と同じような雰囲気を嗅ぎとった。



(まあ、木造の店だから当たり前か)



 そもそもこの世界の建物の殆どはレンガ造りであり、他は基本的に石造りなのである。

 そのため珍しい木造造りの建物に対して、自然と日本を思い浮かべるのはなんら不思議ではない。

 しかしそんな様子のカズトを見たリディアは、不思議そうに首を傾げた。



「カズト君、もしかしてこの店に来たことある?」

「いや、ないけど。なんで?」

「ここに来てもさほど驚いてないから。木造の建物は珍しいからもっと驚くと思ってた」



 そう言ってやや残念そうな顔をするリディア。

 どうやら彼女はカズトの驚く様を見たかったようだ。

 しかし日本で育ったカズトからすれば、少し田舎に行けば嫌という程木造建築の建物を見ることが出来たため、この店が珍しいとはそれほど感じない。

 いや、もちろんこの世界の中では珍しいとは思っているが、そのような建物を見慣れているカズトからすればいまさら驚くような事でもないのだ。

 とはいえ話題が彼の過去の話になってしまう恐れがあるため、馬鹿正直にそれを話すわけにはいかない。

 彼は曖昧な笑みを浮かべた。



「なんか、ごめん。それよりリディアさんのおすすめとかってある? あればそれにするんだけど……って、高!?」



 なんとなしにカズトが近くの棚にある短杖を見れば、一本金貨五枚とある。

 ダンジョン都市奪還作戦の報酬で懐が潤っているとはいえ、さすがに金貨五枚は財布に負担がかかりすぎだ。

 負担がかかりすぎて財布が全身筋肉痛になってしまう。

 それを悟ったカズトは他の棚にある杖に目を向ける。

 するとそこには倍の金貨十枚もする短杖が置いてあった。



「ひぇっ」



 払えない額ではない。

 たしかに払えない額ではないのだが……払ってしまえば貧乏生活を送ることが確定してしまう。

 相当な負担が財布にかかること間違いなしである。

 そうなれば財布は全身筋肉痛どころか全身粉砕骨折することになるだろう。

 それはいけない。

 カズトは貧乏に戻らないためにも、愛する財布に無理をさせないためにも、その棚から目を背けて別の所に目をやる。

 すると壁に立てかけるように大きな杖が並べられていた。

 大きな杖はかさばるためカズトはこれから先も短杖を使うつもりだが、値段が気になりその内の一本の値札を見る。

 するとそこには金貨五十枚とあった。



「ひぇぇっ」



 離れているにも関わらず、思わず後ずさってしまう。

 たとえ過去最高に懐が潤っている今のカズトでも金貨五十枚など到底払えない。

 もし何かの拍子にその杖を壊してしまえば、潤っている彼の懐はカピカピになってしまう。

 財布が全身粉砕骨折になってしまうどころの話しではない。

 膨大な負担がかかることによって財布が軽く百回は死んでしまうだろう。


 そんなものに近づきたくないという心理は当たり前である。

 カズトは物理的にも心理的にも大ダメージを与えかねないその杖から視線を逸らし、リディアの方を見る。

 彼女は難しい顔をしながら棚に並べられている短杖を眺めていた。



「私は魔法士じゃないからおすすめの杖は分からない。でも質感とか魔力の通りやすさとかなら私でも分かる」



 すると彼女は何気ない動作で並べられている短杖の内の一つを手に取った。

 その値札には驚いたことに金貨百枚とある。



「ひぇぇぇっ。り、リディアさん、それ、金貨百枚もする……。そっと、そぉっと、棚に戻そう……」



 金貨百枚。

 もはやランクが上がって報酬が良い依頼を自由に受けられるようになった今のカズトでさえ、稼げる未来を思い描くことが出来ない程の額である。

 そんなものをリディアが持っているのだから、彼が挙動不審になりながら彼女に杖を戻すように言うのも納得である。

 しかし彼女はそのことを知らないのかごく自然な動作で、それこそカズトの言う、そおっと、という意志の欠片が一つも無い様子でクルッと振り向いた。



「ひょあ!?」

「な、なに?」

「り、リディアさん、それ、超高いやつ……!」



 カズトは心臓が張り裂けんばかりの緊張を味わいながら、干上がった喉を絞り出した声でなんとかそう言葉を発する。

 けれどもリディアはカズトの奇怪な声に驚きながらその値札を見ても、大して表情を変えなかった。

 むしろなぜカズトがそこまで挙動不審になっているか分からないといった顔をしている。



「ん、たしかにこれは金貨百枚する。それがどうかしたの?」

「いやいやいや! それ、金貨、百枚!」



 もはやあまりの緊張からか、カズトの脳は上手く言語機能を働かせられないらしい。

 しかしそれでもカズトは必死になってリディアにその短杖が高いことと、棚にすぐ戻すべきだということを片言とジェスチャーで伝えようとする。

 するとその意味がようやく伝わったのか、リディアが理解したような顔をした。



「あ、そういうこと。でも大丈夫。金貨百枚くらいならすぐに稼げるから」

「……!?」



 もはや彼女の言っていることが分からない。

 そんな顔をするカズトだが、リディアは続けて口を開く。



「まだランクが上がったばかりのカズト君は知らないと思うけど、Cランク冒険者が受ける依頼は基本的に金貨二十枚を超えるものが多い。それにカズト君はランクAの魔物を狩れる実力があるから、Cランクの依頼なんて簡単に達成できる」

「ほ、本当に?」

「うん」



 簡単に金貨百枚を稼ぐことが出来る。

 それがいくらリディアの言葉とはいえ、カズトは些か信じられなかった。

 しかしリディアはそんなカズトの不信感を打ち消す程はっきりと首を縦に振ってみせる。

 それを受けてようやくカズトは極度の緊張から解放された。

 とはいっても今の彼に金貨百枚が払えない金額であることには変わりないため、完全に緊張が解けた訳では無いのだが。

 それでも幾分かマシな気分になったカズトは、改めて新しく自分が使う短杖を探し始めた。

活動報告にも書いたのですが、しばらくの間投稿をお休みさせていただきます。

続きを楽しみにされている方には本当に申し訳なく思っております。

ごめんなさい。

ですが今後さらに面白いと思ってもらえる物語を書くためにも、頑張りますのでよろしくお願いいたします。

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