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9話 アームホーンゴリラ(3)

 パチン!



『ブモ!?』



 戦う覚悟を決めた僕は、高熱圧縮空気弾を四匹のアームホーンゴリラの顔面に向けて同時に発射させる。

 すると、そのうち三匹は顔を仰け反らせて怯んだ様子を見せた。

 しかし巨大な一匹だけは煩わしそうに顔を顰めただけ。

 こちらの攻撃が効いているようには見えない。



(高熱圧縮空気弾で怯んでくれれば包囲網に逃げる隙間ができるかもと思ったけど、そう上手くはいかないか)



 巨大な個体を除き、他の個体は怯みはしたが依然としてアームホーンゴリラ達の包囲網は崩れない。

 状況は変わっていないかと思ったが、今の不可視の攻撃を警戒しているのか包囲網を狭めてくる速度が下がっている。



(それならその隙に魔法を打ち込むまでだ!)



 パチン!



『ブモッ!?』



(よし! 狙い通り!)



 魔法を発動させた直後、四匹のアームホーンゴリラ達全員が小さく悲鳴をあげて一斉に目をかきはじめた。

 その仕草はまるで目にゴミが入ったときのようである。

 事実、奴らの目には異物が混入している。

 その異物の正体は砂鉄だ。


 イメージは辺りに磁力を発生させるだけという単純なもの。

 もっと簡単に言えば、空中に巨大な磁石が浮いている場合をイメージした。

 そして地面は土。

 当然その中には砂鉄が含まれている。

 それらは磁力に引っ張られ空気中に浮遊する。

 さらに言えば、それらは広範囲に薄く集めたのだから、よっぽど目をこらさなければ視認することはできない。

 そして空中に浮いているそれらを操りアームホーンゴリラ達の目に入れたわけだ。

 当然それらを視認することができなかったアームホーンゴリラ達は砂鉄が目に入ってくるまで気がつかずに、目を閉じようとしなかった。

 その結果、四匹とも視界を奪われる事となった。


 そして狙い通りの結果となったことを確認した直後。



(この決定的な隙を逃すわけにはいかない!)



 たたみかけるようにさらに魔法を使う。



(水を生成。そして氷の刃に状態変化。圧縮空気で射出!)



 パチン!



『ブモオ!?』



 氷の剣と同じ要領で氷の刃を四つ出現させ、アームホーンゴリラ達の首に向かってそれぞれ発射させる。

 すると見事にアームホーンゴリラ達の首が切り裂かれ、そこから血の噴水が噴き上がる。

 ただし、巨大な一匹を除いて。



「ブモォォォ」



「図体がデカいだけじゃなくて、硬さも他のとは段違いってことか……」



 巨大なアームホーンゴリラは他のアームホーンゴリラと同様にたしかに氷の刃をその首に食らったのだ。

 しかしその強靭な筋繊維がそれを防いだのか、氷の刃は弾かれてしまった。

 ドサドサドサと三匹のアームホーンゴリラが地面に倒れ伏す。



(最初に出会ったアームホーンゴリラに足を負傷させた時点で薄々気づいていたけれど、普通のアームホーンゴリラには氷の刃で十分なのか)



 チラリと倒れた三匹のアームホーンゴリラを見てそう分析する。

 だけど今その攻撃が効かない巨大なアームホーンゴリラを前にしては、その分析は意味がない。

 意識を目の前のアームホーンゴリラに向ける。

 その瞬間。



「ブモォォォ!」



「なに!?」



 アームホーンゴリラが両腕を大きく頭上に振り上げた。

 いくら巨大なアームホーンゴリラとはいえ、まだ僕のところまで攻撃が届くわけがない。

 それだけの距離はあるはずだ。

 それなのになぜ攻撃の動作に入っているんだ!?

 驚愕していると、アームホーンゴリラはその場で両拳を勢いよく地面に叩きつけた。



「ブモォ!」



「くそ! バランスがとれない!」



 ズガァン! という派手な音をたてて奮われたその拳は、地面を僅かに陥没させる。

 そしてその衝撃は周囲一帯の地面に伝わり、小さな地震が発生したのかと錯覚してしまう程の揺れを生み出した。

 上手くバランスがとれずに尻餅をついてしまう。

 そしてその隙を突いたかのように、アームホーンゴリラがこちらに大きく一歩を踏み出した。



「ブモ!」



「まずい!」



 その一歩は巨大な身なりに相応しいほど大きく、あっという間にアームホーンゴリラの攻撃範囲内に取り込まれてしまう。

 慌ててその場で立ち上がり逃げ出そうとするも、時すでに遅し。

 アームホーンゴリラは一歩を踏み出したと同時に腕を引き、こちらに向かってまっすぐに拳を突き出してきたのだ。

 後ろは大木、前から拳。

 圧倒的な膂力を持つアームホーンゴリラの拳を食らえば、僕の体は新鮮なトマトみたいに簡単に弾けて潰れるだろう。

 ここで、終わりだ。

 僕の人生はここで終わってしまうのだ。

 そのことを悟ったとほとんど同時にゾクリ、と背筋に悪寒が走る。

 死の恐怖が一瞬のうちに胸の内から溢れ出す。



(いやだ! 死にたくない!)



 刹那の内に強くそう思う。

 同時にこれまでの人生でこの状況を打開できるヒントがないかを探すために、走馬灯が頭の中を駆け巡る。

 そして、見つけた。

 魔法、土、水、岩ーー!!

 この状況を打開するためのワードとイメージが、文を紡ぐよりも早く頭の中に浮かび上がる。

 そしてそのまま魔法を発動させる。



「まだだあああああああ!」



 ダン! と地面に両手の手のひらを押し付けて発動させた魔法は、すぐさま発動し、僕のイメージ通りの魔法現象を引き起こす。

 それは土を僕の目の前に盛り上がらせ、壁とするもの。

 ただ、それだけ。

 他に特別な効果は何もない。

 だがアームホーンゴリラの拳は易々とその土壁をぶち壊した。

 そしてその壁ごと僕の体を殴り潰す。



 そうなるとアームホーンゴリラは思っていただろう。



 だけど、僕は生きている。

 それもアームホーンゴリラが伸ばしている腕の真下で。


 僕は土壁を作ったこと以外特別なことは何もしていない。

 ただ単に、僕の真下にある土を使って土壁を形成しただけだ。

 すると当然土壁を作った分の僕の真下にある土は減り、僕の体が穴の中にスッポリと入る形となる。

 そうしてアームホーンゴリラの拳をやり過ごしたわけだ。


 頭上スレスレをアームホーンゴリラの巨大な拳が通過していったことに肝を冷やす。

 そしてアームホーンゴリラが殴った土壁の破片が凄まじい勢いで体を打つ。



「いってて……」



 身体中が痛い。

 だけど死ぬことは避けられた。

 それよりも今この時、攻撃直後の瞬間を狙うため痛みを無視して精神を集中し、次の魔法を発動させる。



 パチン!



「ブモォ!?」



 アームホーンゴリラの驚いた声が聞こえる。

 それはそうだろう。

 なにせ、僕がアームホーンゴリラの右足を支えている土の水分を多めにし、粒の大きさを細かくしたのだから。

 それによって土は泥となり、アームホーンゴリラの体重を支えきれずに地中に沈めてしまう。

 突然右足が土の中に埋まったのだから驚いても仕方がない。

 ちなみに両足を一度に沈めるのではなく右足だけ沈めたのは、それだけの広範囲の地面を一度に泥にする事ができないからだ。

 そこまでするのは今の魔力制御の技量では不可能だ。

 しかしこれだけではまだ不十分だ。

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