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76話 吹き荒れる暴風

 ダニーの後ろ姿を見送ったカズトは一緒に走っている彼らを呼びに来た騎士に質問する。



「サンダーグリスリーとアングリースパイダーがやってきた原因は分かっているんですか? その原因を潰さないとその二体を遠ざけられない可能性もあります」

「それは大丈夫でしょう。どうやらキングアントの命令でナイトアントがサンダーグリスリーとアングリースパイダーを挑発して精鋭騎士達と暴風の宴にぶつけようとしていたみたいですから。カズトさん達が無視できないほどに気を引いてくれれば、例えもう一度ナイトアントが挑発してもその場から動くことはないと思います」

「なるほど。それなら次はマシンガンビートルが動くかどうかですね」

「いえ、マシンガンビートルの心配はしなくて大丈夫です。暴風の宴と精鋭騎士達が戦っている場所はマシンガンビートルとの間にアンファングアントの巨体を挟んでいますから」

「たしかにそうですね。それなら……後はサンダーグリスリーをどこに移動させるか、ですね。カルロスさんとアンファングアントから遠ざけるのは当然ですが、周りをみる限りだとアリ魔物達に囲まれて戦いずらそうです」



 カズトがそう言いながら周りを見ると、アンファングアントに近づくにつれて冒険者と騎士達の向こう側にはアリ魔物達が隙間無くひしめいている。

 しかしそんな状態にも関わらず騎士は心配ないと口を開いた。



「それも問題ないでしょう。昨夜偵察に出た者達曰く、アリ魔物達はアンファングアントを守るために全て南区に移動してきていたようです。なのでサンダーグリスリーを相手にするならば、北西の方角に移動すればアリ魔物達の数は少なくなるでしょう。しかしあまり北に寄りすぎるとマシンガンビートルの縄張りに入ってしまうので注意してください」

「北西の方角ですか。分かりました」



 カズトは騎士の言葉を聞いてから太陽と懐中時計を見比べて方角を確認する。

 懐中時計の短針を太陽に向け、その方向と文字盤の12時方向の中間の角度が南となるのだ。

 ちなみにこの方角の確認方法が有効なのは既に確認しているため、カズトは迷い無くそれを行った。

 するとカズトと騎士の前を走りながらもその会話を聞いていたリディアがカズトに向かって声をかける。



「カズト君、逆にサンダーグリスリーを引き連れたままマシンガンビートルの縄張りに入るのは? うまく行けば二匹をぶつけられる」

「たしかに……いや、それは止めておこう」



 リディアの意見を聞いたカズトは少し考えた様子を見せた後、そう口を開いた。



「マシンガンビートルは遠距離攻撃が主体の魔物だから、多分縄張りに入った時点でサンダーグリスリー諸共攻撃されるのがオチだと思う。そうなったらマシンガンビートルの攻撃に対処しつつサンダーグリスリーの相手をしなくちゃならない。運が良ければ二体をぶつけられるけど、悪ければ二体を相手にしながら戦わなくちゃならなくなる。ここはサンダーグリスリーだけの相手をしたほうが確実だと思う」

「分かった。それならサンダーグリスリーの気は私が引く。カズト君はサポートを頼む」

「任せて」



 そうして二人が会話を終えた頃、サンダーグリスリーとアングリースパイダーの他にキングアントが三匹いるのが彼らの視界に入ってきた。

 その内アングリースパイダーに関しては既にダニーと彼の仲間達が気を引いてアンファングアントとキングアントから距離を取っている。

 そしてサンダーグリスリーの相手はカルロスが一人で行っていた。

 それも周りから群がってくるクイーンアントやナイトアント、フライアントといった高ランク魔物達の相手をしながらだ。



「カズト君、先に行ってる」

「え、ちょっと!?」



 するとリディアは疾駆の革靴に魔力を流し、急いでカルロスの下に向かった。

 置いていかれたカズトは一瞬呆然としながらも必死になって走る。

 対してリディアはあっという間にカズトを駆け離すと、キングアントと精鋭騎士達が戦っている間を駆け抜けた。

 そしてさらにクイーンアントやナイトアントの間を縫うように走り抜けると、カルロスが戦っている現場に到着する。

 声をかけながら彼の背後にいるナイトアントを一掃し、瞬殺できないクイーンアントに関しては足の関節を突いてバランスを崩させる。



「カルロス! サンダーグリスリーの相手を引き受ける!」

「おう! って雷霊だけか!? カズトはどうした!?」

「すぐにやってくる!」

「そうかい! なら少しの間そこを動くな! 辺りを一掃してやる!」



 そう言うとカルロスは持っている斧に魔力を流し、ふん! という声と共に力一杯横に振るった。

 すると次の瞬間、彼らの周りに暴風が吹き荒れ、クイーンアントやナイトアントを次々と吹き飛ばす。

 しかしその暴風はただの風ではない。

 あるナイトアントはバラバラになるまで切られ、あるフライアントは外骨格がひしゃげて中から体液を撒き散らす。またあるクイーンアントはバラバラに切られた後に外から力を加えられたようにひしゃげていく。

 これがカルロスが持つマジックアイテムである暴風の斧の力だ。

 パーティー名の暴風の宴の由来でもある。

 しかしそれだけ強力な攻撃で彼らの周りにいたクイーンアントやナイトアントといったランクB以下の魔物は全て一掃したのにも関わらず、サンダーグリスリーは腕を交差してカルロスが放った暴風に耐えてみせた。

 さすがはランクA魔物と言う他ない。

 けれどもその暴風はカルロスにとって切り札の一つのようなもの。

 そのためいくらその貢献を耐えてみせたサンダーグリスリーといえど、その体には深々と切られた後や殴られて凹んだような後がある。

 しかしそれでもサンダーグリスリーはその怪我を無視して雄叫びを上げた。



「ガルルルアアアアア!」

「雷霊、悪ぃが後は頼んだぜ」

「もちろん。カルロスはそこで休んでて」



 リディアはそう言うとサンダーグリスリーに立ち向かっていった。

 その背を見ながらカルロスはその場で膝を突く。

 顔を青くしながら口から荒い息が、体中から異常な量の汗が次々と出る。

 カルロスが暴風の斧によって生み出した暴風は、ランクAの魔物でさえもただただ耐えることしかできないほど凶悪な威力を秘めたものだ。

 しかし絶大な威力を秘めているが故に、それを一度生み出すだけでも多大な魔力が必要となる。

 そのためカルロスは今魔力枯渇による魔力欠乏症に陥っているのだ。

 だがそれでもカルロスはランクA冒険者だ。

 彼は少しの間そうしていると、気合いを入れてすぐに立ち上がった。

 その姿は、顔は、青いものの、魔力欠乏症による倦怠感や激しい頭痛など感じさせない、いつも通りの彼だ。

 するとそこでリディアに置いて行かれたカズトがやってきた。



「カルロスさん! リディアさんは!?」

「雷霊なら一人でサンダーグリスリーの気を引いてあっちに行ったぞ。俺がある程度ダメージを与えたから動きは鈍っているとは思うが、急いで行ってやれ!」

「分かった! 教えてくれてありがとう!」

「おう!」



 カズトはカルロスにリディアがサンダーグリスリーと共に行った方向を教えて貰うと、すぐさまそちらに方向転換して走っていった。

 その後ろ姿を見、カルロスは好戦的な笑みを浮かべて今一度気合いを入れ直す。



「よっし! さぁて、メインディッシュに戻るか!」

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