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75話 アンファングアントの脅威

 ダンジョン都市に数万人の雄叫びが響き渡る。

 それは傷を受けた者の悲鳴や恐怖に呑まれた者の叫びも同様だ。

 ダンジョン都市は今、南から中央にかけて数多の冒険者と騎士達による進行が行われていた。

 既に彼らの先頭に立つ者達は体長十メートル程で三つの頭を持つランクA魔物のキングアントと、配下のアリ魔物達に守られながら、さらに配下を生み出し続ける巨大な蟻の姿をしたランクS魔物のアンファングアントとの戦闘を開始している。

 そしてカズトとリディアもまた、西側の戦線が崩れそうな場所を駆け回りそのサポートを行っていた。



「リディアさん! ナイトアントとクイーンアントが一匹ずつ!」

「了解。ナイトアントは任せた」



 リディアが一対一でようやく勝てる相手であるランクBのクイーンアントの相手をし、カズトが周りの冒険者と騎士達と共にランクCのナイトアントの相手をする。

 ちなみにクイーンアントは二つの頭を持った体長五メートル程のアリ魔物であり、ナイトアントは剣のような形状で切断性が非常に高い顎を持つ体長三メートル程のアリ魔物である。

 カズトは前で戦っている冒険者と騎士達の後ろから魔法で援護し、それと同時に周りの戦況も把握する。



「くそ! フライアントもやってきたか!」



 するとカズトは空を見上げて苦々しそうな顔をしてそう吐き出した。

 彼らの頭上にランクD魔物の巨大な羽アリの姿をしているフライアントがやってきたのだ。

 フライアント達の主な攻撃方法は頭上から大量の蟻酸を降らせる事である。

 そのためフライアント達はクイーンアントと戦っているリディアめがけて尻から一斉に蟻酸の雨を降らせた。

 それを見てカズトはすぐさまイメージを構築し魔法を発動させる。



(蟻酸の周りに断熱結界を生成。それを瞬時に収縮させて一気に温度を上昇させる。そして蟻酸は加熱させると水と一酸化炭素に分解される!)



 パチン!



 するとその瞬間、降り注いでいた蟻酸の温度が急上昇し、無害な水となって降り注ぐ。

 しかしカズトは集中してクイーンアントと戦っているリディアの邪魔をしないためにもう一度指を鳴らして水を水素と酸素に分解させた。

 そしてカズトは魔法でフライアント達の周りに次々と水素爆発を起こしてそれらの魔物を撃墜させる。

 さらにカズトはトドメに空気中の水素と酸素から水を生成し、フライアント達の羽を濡らして飛べなくさせた。

 そうしてカズトは冒険者と騎士達、そしてリディアの援護もこなしながら今一度戦況を確認する。



「アリ魔物ばっかりだな!」



 パチン! と指を鳴らしてクイーンアントが口から吐き出した蟻酸を酸素と水素、そして一酸化炭素にまで分解しながら、思わずそう叫ぶ。

 カズトの言う通り既にダンジョン都市の中にいる魔物は殆どがアンファングアントから生み出されたアリ魔物達であり、他のオーガやトロールといったランクB以下の魔物の姿は無い。

 それもそのはずでそれらの魔物達はアンファングアントが生み出した配下のアリ魔物達によって、全て彼らのエサとなったからである。

 さらに言えば当初スタンビートの第四波によってダンジョンから出てきた魔物の総数よりも、今のダンジョン都市にいる魔物の数の方が遥かに多い。

 つまりアンファングアントは生み出した配下のアリ魔物達に当初ダンジョン都市を占領していた魔物達の内、ランクB以下の魔物を全て食い尽くさせ、さらにはその数を越える配下のアリ魔物達を生み出したのだ。

 これだけの力を持っているからこそアンファングアントが単体ではランクB程度の強さしか無いにも関わらずランクSに分類される所以である。



「あーもう、多過ぎる!」



 カズトが小さな水素爆発をナイトアントの眼前に起こして怯ませる。

 するとその隙を突いた騎士が頭と胸の間の関節部分に剣を突き入れた。

 それによってナイトアントが事切れる。

 それを確認したカズトは戦況を確認しながらも、次にリディアの援護を集中的に行う。

 するとその時、戦場特有の様々な音が交差する環境に紛れて、カズトの下に一人の騎士がやってきた。

 カズトはリディアの援護に意識を割きつつもその騎士に顔を向ける。

 するとその騎士はその場で止まって勢い良く口を開いた。



「雷霊殿のパーティーメンバーのカズトさんですね!? 至急暴風の宴が戦っている場までお越しください! サンダーグリスリーとアングリースパイダーが現れました!」

「うそ!? いやでもここを離れたら戦線が崩れる可能性があります! どうしましょう!?」

「それでもお越しください! 今回の作戦の目的はアンファングアントの討伐です! 既にアンファングアントは暴風の宴との戦いで、疲弊しています! この期を逃すわけにはいきません!」

「……分かりました! ではこのクイーンアントを倒したらすぐにーー」



 騎士の言葉にやや迷った様子を見せたカズトは、クイーンアントを素早く倒すためにリディアのサポートに集中しようとする。

 しかしその言葉に割って入った者がいた。



「その必要は無いぜ! リディアちゃん、上からごめんな!」



 ランクAパーティー大地の目覚めのリーダー、ダニーだ。

 彼はカズトと騎士の頭上を軽々と飛び越え、クイーンアントと戦っているリディアに一言断ってから、その二つの頭の内、片方を易々と一刀両断した。

 そしてさらに素早く剣を振り上げてもう片方の頭も切断する。

 その間一秒にも満たない短い間であった。



「さすがランクA冒険者だ……。リディアさんと対等に戦っていたクイーンアントを瞬殺するなんて……」



 あまりにも圧倒的な強さにカズトと騎士が呆然としていると、ダニーは何故戦いに割って入ってきたと憤るリディアに手早く状況の説明をした。

 そこでカズトと騎士も我に返り、説明を終えた彼らと一緒に移動を始める。

 


「リディアちゃん、サンダーグリスリーとアングリースパイダー、どっちの相手をする? 俺達はどっちでもいいぜ」

「サンダーグリスリー。いずれ私たちが討伐するよう指示が出ていたから」

「りょーかい。それじゃあ俺達はアングリースパイダーね」



 そう言ってダニーは笑顔を浮かべながらリディアに顔を向ける。

 それはもう爽やかな顔で彼のことを何も知らない女性が見れば恋に落ちかねない程だが、リディアは真っ直ぐ前を向いているので彼女の視界にその顔は一切映っていない。

 しかしダニーはそんなことを気にせず走るスピードをやや落とした。

 そしてリディアの後ろを走っていたカズトの横に並ぶ。

 するとダニーは見た目に似合わず低くて威圧感のある声でカズトに話しかけた。



「おい、カズトとやら」

「な、何?」

「次リディアちゃんが死にかけるような事があってみろ。お前を八つ裂きにしてやる」



 ダニーは明らかに本気でそう言っており、それは彼の顔を見ずとも明らかだった。

 しかしカズトはその声を真っ向から受け止めるようにダニーに顔を向け、即答する。



「そんなことには絶対にならない。今度こそ僕がリディアさんを完璧にサポートしてみせるから」



 カズトとリディアは次に戦うことになるサンダーグリスリーとの戦いに向けて、それまで組んでいた作戦よりもさらに確実性の高いものを立てていた。

 そしてその作戦はまだ完成しているわけではないが、八割方完成している。

 残り二割はまだ完成していないが、カズトはその他にリディアを死なせないように、そして死にかけるようなダメージも負わせないようにする策はいくつも考えている。

 だからカズトはダニーの問いにそう答えた。

 するとダニーはカズトから視線を切り、顔を前に向けて走る速度を上げた。

 そして去り際にポツリと言葉を残す。



「……ふん、それが当たり前だ。だが、おまえも死ぬなよ。リディアちゃんが悲しむからな」



 そう言った直後、ダニーは凄まじい速さで先に目的地に向かっている仲間の下へと走って行った。

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