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67話 治癒魔法

「まずは骨、血管、筋肉、皮膚を修復するイメージ。それから臓器。心臓、肺、胃、小腸、大腸、肝臓ーー」



 カズトが口にしているのはオーランドの常識で考えれば詠唱という枠組みには到底入らないものだ。

 というのも詠唱というのはイメージの補強という役割の他に己を奮い立たせて精神状態に活を入れるための詩的な側面もあるからだ。

 しかしカズトが行っているのはただただ治癒魔法のイメージに必要なキーワードを並べて口にしているだけである。

 とても詩的な側面があるとは言えない。

 だが詠唱とは元来魔法を発動するためのイメージを補強するものであるから、カズトが行っているのは詠唱そのものである。

 カズトは詠唱をし、短杖の効果も合わせた今の自分が制御できる最大量の魔力を込めて治癒魔法を行使する。

 すると治癒魔法をかけられている本リディアの顔が驚きのものへと変わっていく。



「……あれ? 痛みが引いていってる……?」



 彼女は自身の体の変化に困惑し、無意識にポツリと呟いた。



「リディアさん、じっとしてて」



 彼女はわずかに首を動かして自分の体を見るも、すぐにカズトに注意されて元の体制に戻った。

 するとさらにリディアの体から痛みがどんどん引いていく。

 と言ってもそれはカズトが治癒魔法を使っているのだから、それは当たり前である。

 では何故リディアが驚いているのかというと、痛みが引いていく速さが尋常ではないからだ。

 普通治癒魔法を使われれば痛みが引いていく速さはその魔法を使った者の技量にもよるが、平均すると集中していればやっと分かるといった程度のものである。

 しかしカズトが使う治癒魔法は違う。

 彼はオーランドには未だ無い知識を使い、それをイメージに昇華させて治癒魔法を使っているのだ。

 そのためその魔法の治癒力はオーランドのどの治癒士よりもずば抜けており、特に意識せずとも痛みが引いていくのが分かるほどであった。

 しかし。



(だめだ。たとえ短杖を使って操れる魔力の量を増やしたとしても、これではすぐに回復しない)



 いくらカズトの治癒魔法がこの世界のどの治癒士よりもずば抜けた効果を持っているとはいえ、今のリディアの体を瞬時に治すことはできない。

 とてもゆっくりとしたスピードで回復しているのだ。

 しかしそれでも確実に彼女の命は助かる方に向かっている。

 それに瞬時に治す事はできなくても、その治癒スピードは他の治癒士と比べれば遥かに早い。

 もし他の治癒士が匙を投げずに今の彼女に治癒魔法をかけても、治癒スピードが追いつかずに彼女は命を落としていただろう。




 そうしてカズトはその場で数時間治癒魔法を使い続けた。

 もちろん彼はリディアを硬い石畳の上で寝かせ続けるなんて事はせず、途中で布団のようなふんわりとした性質に変化させた結界の上に寝かせた。

 さらに風に当たらないように風除けの結界を自分達を中心とした四方に張ったり、楽に喋れる程にまで回復したリディアからの要望で、その結界に色を着けて外から見えなくしたりした。

 そんな風にしてカズトがリディアを治癒し続けていると、結界の外にいるカルロスが声をかけてきた。



「おいカズト! 気持ちは分かるがそろそろ出てこい! 拠点の確保ができたらしいからいくぞ!」

「了解! すぐ準備するよ!」

「あ? えらく元気だな」

「……そうだね。リディアちゃんが死んだっていうのに……。一体どういうことだか問い詰めてやろうか」



 カズトの返事を聞いたカルロスとダニーは、彼が思いの他元気な声で返事をしてきたことに訝しげな顔をした。

 ダニーに至ってはその顔に怒りの感情までもが浮かんでいる。

 というのも、彼らはリディアが絶対に助からない様態であったことをその目で見ているのだ。

 そのため既にリディアは事切れており、カズトは一人結界の中で悲しみに涙を流していると思いこんでいた。

 しかしカズトはカルロスの言葉に対して元気な声で返事をしたのだ。

 彼らが訝しげな顔をし、さらにダニーが怒りの表情を浮かべたのは当然である。


 そしてカズトが返事をしてから少し待つと、彼らを囲っていた結界が消えた。

 するとその中からは恥ずかしさからか顔を赤くしながらも、カズトの首に腕を回して幸せそうにお姫様抱っこをされているリディアと、そんな彼女を抱えながらもこれまた顔を赤くしているカズトが現れた。

 そんな彼らの様子を見てカルロスとダニーは顎が外れるほど驚いた。



「お、おい、カズト。雷霊は、その、死んだんじゃねぇのか?」

「生きてる……。リディアちゃんが、生きてる……」



 驚きのあまり呆然としながらも、なんとか喉を振り絞って声を出す二人。

 するとそんな様子の二人を見たリディアは苦笑して訳を話しだした。



「私は生きてる。カズト君が救ってくれた」

「マジかよ……」

「おお……。良かった……。本当に生きてて良かったよ! リディアちゃあああああーーほげぇ!?」

「おい、ダニー。雷霊に飛びかかるな。見た感じまだ完全に回復したわけじゃないのはお前ぇも分かるだろ」

「は!? 本当だ!?」

「はあ。ったく、お前は女となるととことん馬鹿になりやがるんだから……」



 感極まってリディアに抱きつこうとしたダニーをカルロスがその後ろ首を捕まえて止めさせる。

 そんなダニーの様子にカルロスは頭を抱えてため息をついたが、カズトは彼らのやりとりを見て苦笑いした。

 それからカズトはリディアを抱えたままカルロスとダニーの後に続いて拠点へと行き、ブランドンから割り当てられた野営場所に向かった。

 そして二人と別れたカズトはリディアが亜空の腕輪から出した亜空の大箱の中に入り、彼女をベッドの上に寝かせる。

 


「カズト君、ありがとう」

「うん。でもまだ完全に治ったわけじゃないから、あまり動かないで」

「分かった」



 それから再びカズトはリディアに治癒魔法をかけ始める。

 そうしてカズトはその後寝るまでリディアに治癒魔法をかけ続けた。







 次の日。

 リディアはカズトに治癒魔法をかけられている間ずっとベッドの上で寝ころんでいたためか、昨晩は彼より早く眠りについた。

 そのためカズトよりも早く目を醒ましたのだが、彼女は目が覚めて一番に自分の体の変化に驚いた。



(まだ痛みはあるけど、昨日と比べたら全然痛くない。体もある程度自由に動かせるし。たった一日でここまで良くなるとは思わなかった)



 リディアは自分の体の各所を動かしながらそんな感想を抱く。

 それもそのはずで、そうなった理由は二つある。

 一つは先も言ったようにカズトの治癒魔法の治癒スピードが普通よりも遥かに速いことだ。

 そして二つ目は、普通の治癒士では不可能な休むことなく継続的に治癒魔法を行使し続けるということができるためだ。

 というのもカズトは神でさえも莫大と評する程の魔力を持っているため、今の彼の魔力制御の技量ではいくら治癒魔法を使ったところで消費魔力は微々たる物だからである。

 これらの理由があり、死ぬ寸前の重傷を負ったリディアをカズトは救うことができたのだ。

 しかしそれでもリディアを完全に回復させることができなかったのは、彼の魔力制御の技量がまだまだ未熟なためである。


 するとリディアはベッドの上に寝ころばずに、上半身だけベッドの上に預けて突っ伏しながら寝ているカズトを見つけた。

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