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64話 マーレジャイアント(3)

お久しぶりです。書いていた小説のデータが全て消え、ショックのあまりしばらくの間ミイラになっておりました。すみません……。今日からボチボチ更新を再開していきます。ストックが溜まるまで毎日更新は少し厳しいかも……。

「オオオオオオオオ!」



 マーレジャイアントが両手に持った水の剣を振り上げる。

 だがリディアは未だに自身の雷がマーレジャイアントに通じなくて呆然としている。強大な敵を前にしてこれほどリディアが動揺することはまずない。それほど自信があった攻撃が通じないことに対してショックを受けたのだろう。

 だがそんな彼女の様子を見たカズトはとっさに自分の下に抱き寄せた。今の状態のリディアではマーレジャイアントの攻撃を避けるのは難しいと判断したためだ。



「リディアさん、ごめん!」

「わっ!」



 カズトが一言リディアに謝ってから彼女を抱き寄せた直後、マーレジャイアントがカズト達めがけて両手に持っている剣を振り下ろす。

 その剣速があまりにも速く、また水の剣の質量が大きいためか、ジェットエンジンのような風切り音を鳴らしながらカズト達に襲いかかる。

 そしてその二本の剣は丁度カズト達がいる位置で交差するように振り下ろされる。

 だがそれらはカズトが張った結界に当たった。するとその瞬間、周囲一帯に水と結界がぶつかったとは思えない、まるで巨大な金属同士が衝突したような低く、耳障りな音が響き渡った。

 しかしそのような凄まじい轟音を響かせながらも、カズトが張った結界は見事にその攻撃を防いでみせる。

 だがそれでもマーレジャイアントがその巨体から繰り出した攻撃はありえないくらい威力が高い。そのためカズト達の足下の地面がその衝撃に耐えきれず、ビキバキと辺り一帯に亀裂を走らせた。その様子を見てカズトは感心したように呟く。



「相変わらず凄まじいパワーだな」

「あ、あの、カズト君」

「あ、ごめん」

「う、ううん。ありがとう」



 カズトがマーレジャイアントのパワーに感心していると、リディアが顔を赤くしながら消え入りそうな声で彼の名前を呼んだ。

 そこでカズトは今自分達がどのような格好になっているか気づいて、リディアの身体をパッと離す。いくらとっさにリディアを抱き寄せたからといって、その状態のままずっといるのはダメだろう。カズトは顔を赤くしながらもそう反省し、意識をマーレジャイアントに戻した。

 そしてリディアも同様にほんのりと顔を赤くさせながらもマーレジャイアントの方に目を向ける。

 するとその直後、彼らの頭上からパキパキという不吉な音が鳴りだした。丁度マーレジャイアントが振り下ろしてきた剣と結界が接している辺りだ。二人は揃ってそちらに目を向ける。そしてそれを見たリディアが悲鳴に似た声を上げた。



「結界に罅が……!」

「これはマズいな!」



 カズトは咄嗟に指を鳴らし、マーレジャイアントの剣に向かって魔法を発動した。それによって結界と剣が接触している部分が水素と酸素に分解する。

 理想はマーレジャイアントが持っている剣や纏っている水の鎧も含めて全て水素と酸素に分解させることだ。しかし生憎今のカズトの技量ではそこまで大規模な魔法を一瞬で行使する事はできない。もっとも時間をかければできるだろうが、それをしようとすれば確実に一時間以上かかる。

 すると持っていた剣の刀身の一部が突然分解されて無くなったことで、短くなった刀身のそれらをマーレジャイアントが勢い余って地面に勢い良く叩きつけた。

 それによって轟音が鳴り響き、地面が深く抉れる。それもマーレジャイアントが持っている水の剣の刀身が根元まで地面の中に埋まっているほどだ。そしてそれだけでなくそれらの剣が地面に激突したと同時に、土と水が混じり合った泥水が天高く盛大にしぶきを上げた。それはまるで間欠泉のように勢い良く吹き上がり、辺り一帯に泥水による茶色い雨を撒き散らす。

 その様を見てカズトは冷や汗をかきながら一つ息を吐いた。



「ふぅ。危なかった」

「さすがカズト君。ファインプレー」

「ありがと。それにしても相変わらず凄い威力だね」

「ランクAだから。それよりどうする? 何故か雷が効かない」

「多分純水だからだね」

「じゅんすい?」

「うん。電気を通さない状態の水のことだよ。でも塩とか溶かしてやれば電気を通すようになるんだ。ということでリディアさん、塩持ってない? それも大量の」

「持ってるけど大量にはない」

「そっか……」

「オオオオオオオオ!」



 二人がマーレジャイアントから目を離さずに話していると、そのマーレジャイアントが天に向かって雄叫びを上げた。するとカズトによって半ばから折れた水の剣が両方ともみるみるうちに再生していく。いや再生しているというより新たに生えているといった方が正しいかもしれない。ともかくそうして元の姿に戻っていく水の剣を見て、カズトとリディアは苦々しい顔をした。



「再生も自由自在ってわけか」

「そうみたい。でも無限にできるはずはない。今みたいにマーレジャイアントの剣を消す攻撃ってあいつの全身鎧に向かってできる? できるなら再生しなくなるまで何回もやってほしい」

「ごめん。僕の魔力制御の技量はそこまで高くないから全身は無理だ」

「それなら一部ずつでもいい。再生できなくなるまでカズト君はさっきの攻撃をして。そしてあの鎧を剥がしたところを狙って私が雷で攻撃する。それまで私は囮としてマーレジャイアントの気を引いておく」

「それは危険すぎる。マーレジャイアントのさっきからの攻撃を見るに、いくらリディアさんの素早さでも回避しきれない」

「けどそれしかなーー」

「オオオオオオオオ!」



 リディアが言葉を発すると同時にマーレジャイアントが再び雄叫びを上げた。見ればその両手に持っている二本の剣は既に完全に元に戻っている。どうやらカズトとリディアがこれからどうするのか言い合っている間に修復し終わってしまったようだ。

 するとマーレジャイアントが動いた。二本の剣を逆手に持ち、地面に対して垂直に突き刺すようにしてカズト達の頭上に振り下ろす。その剣は先程マーレジャイアントが普通に振り下ろした時とは違い、その巨体の全体重がかかっている。つまり先程の攻撃よりも遥かに威力があるわけだ。そんな攻撃をマーレジャイアントはその巨体から繰り出した。

 そうして振り下ろされた二本の剣の先が結界に激突する。その瞬間、巨大な金属同士がぶつかり合う音が、先程とは比べ物にならないほど大きく響いた。

 しかしそれだけ強大な威力を秘めているにも関わらず、カズトが生成した結界は見事にその攻撃を防いでみせた。だがその結界では衝撃まで殺すことは到底できない。カズト達が立っている地面にさらに罅が入り、やがて耐えきれずに結界ごと地中に僅かに沈み込む。

 それを見たカズトは急いで魔法を発動させた。



 パチン!



 水の剣と結界が衝突したときとは比べものにならないほど小さな音が鳴る。するとその直後にマーレジャイアントの剣先が消失した。カズトがその剣先を先程と同じように水素と酸素に分解したのだ。

 しかしマーレジャイアントは剣を逆手に持って地面に対して垂直に振り下ろしていたため、残った刀身が再びカズト達の頭上に降りかかる。それによってもう一度辺りに水の剣と結界がぶつかり合う音が大きく響き渡った。そして同時にその衝撃によりまたもやカズト達が結界ごと地面に埋まってゆく。それを見たリディアが焦ったように口を開いた。



「カズト君、これはマズい」

「そうだね。このままだと生き埋めになってしまう。攻撃を防ぐために結界は解けないし、攻撃が止んでもここから脱出するのに一苦労。しかも埋まるのが嫌で剣先を消すのを止めたら結界が割れる。うーむ、考えたな」

「感心してる場合じゃない。早く手を打たないと手遅れになる」

「そうは言われてもどうしようか……」



 そう言ってカズトはパチン! パチン! と連続して魔法を行使する。そのたびにマーレジャイアントの剣先が水素と酸素に分解されて短くなっていくのだが、マーレジャイアントはそれを気にせず、引き続き短くなった刀身で結界に叩きつける。その状況を理解しながらカズトは考えを巡らせる。



(水の鎧を纏っているから火は効かないだろうし、体が大きすぎるから空気弾も効かないだろう。となると砂鉄目潰しをして怯んだ隙にここから抜け出すのが一番良い案だと思うんだけど、残念ながら水の鎧は顔全体を覆っているからそれもできないそうにない)



 そうしてカズトが頭を働かせながら魔法を次から次へと使い続けていると、とうとうマーレジャイアントの剣の刀身が全て消えてしまった。しかしマーレジャイアントはそれでも気にすることなく、柄の部分をカズト達にぶつけ始める。

 だが攻撃に使うのが刀身から柄の部分に変わり、威力が落ちたからといって、元々の威力が大きすぎるためにカズト達が結界ごと地面に埋まっていくことには変わりない。

 今ではカズト達は地中から五メートル程地下にまで埋められてしまっている。

 しかしそれでもカズトは諦めずに必死に考えを巡らせる。そしてようやく彼の頭にこの状況を打開する案が思い浮かんだ。



「あ、そうか。単純に吹き飛ばせばいいのか」

「吹き飛ばす?」

「うん。耳をふさいでて」

「分かった」



 カズトの言葉に従い、リディアは槍を肘で支えるようにして地面に立てかけてから耳をふさぐ。それを確認したカズトは自らの耳の周りに防音結界と、彼らを包むようにして熱や水、土といった物を弾く性質に変化させた結界を張る。

 そしてカズトはパチン! と指を鳴らした。

 その瞬間、体の奥底から揺さぶられるような地鳴りに似た轟音が鳴り響くとともに視界が一面真っ赤に染まる。さらに地面がこれでもかと言うほど大きく震動した。その震動はまるで地震が起こったのではないかと思うほど凄まじく、そして長い。

 そのためたとえカズトが魔法でその現象を起こしたと分かっていても、リディアは酷く戸惑った。



「な、なにこれ」

「爆発だよ。まあ規模はこれまでのよりも遥かに大きいものだけど」



 戸惑うリディアを安心させるように、穏やかな声でカズトはそう言う。

 彼は先程から結界の中に籠もったまま、マーレジャイアントが結界に打ちつけていた水の剣を延々と水素と酸素に分解し続けていたのだ。そのため彼らの周りには水素と酸素が過剰な程充満している。

 そのことに気づいたカズトはそこに火をつけて水素爆発を起こしたのだ。

 その威力は尋常なものではない。十メートル程もあるマーレジャイアントの巨体を軽々と宙に浮かせたほどだ。

 そのマーレジャイアントは何が起こったのか分からないのか、空中で手足をばたつかせる。しかしその足掻きも虚しく、頭から地面に叩きつけられた。その衝撃で再び辺りの地面が揺れる。



「オオオオオオオオ!?」

「おおっと!?」

「すごい揺れ」



 その揺れは当然地下にいるカズト達にも及び、彼らはなんとか揺れに耐えた。……いや、日頃から激しく体を動かしているため体幹が鍛えられているリディアはともかく、カズトはものの見事にバランスを崩してその場に尻餅をついた。



「いてて……」

「カズト君、大丈夫? 今の内に出よう」

「あ、ありがとう。そうだね、早く出よう」



 揺れが収まると、カズトはリディアに手を貸してもらいながら立ち上がる。そしてすぐさま意見を合わせたリディアは穴の底を蹴り、地上に降り立つ。カズトもまた彼女と同じように穴の底を蹴り……穴の底に着地した。



「……カズト君?」

「い、いやー、恥ずかしながら穴が深すぎて出れない……。手伝ってください……」

「……」



 彼は手で頭の後ろをかきながら気まずそうな顔をした。それもそのはずでカズトの身体能力はリディアに遠く及ばない。そのため彼はリディアのように地上まで五メートル程ある穴の底から跳躍して出ることができないのだ。

 それを察したリディアはカズトに若干向けて呆れたような顔をしつつも、彼の側に跳び降りる。そして彼の腰を抱えてから飛び上がった。



「お、おお!?」

「はい、着いた」

「あ、ありがとうございます」



 カズトを抱えていても華麗に地面に着地してみせたリディア。そんな彼女に対してカズトは自分が情けない、という思いを味わいながらも礼を言った。

 すると二人の目の前でマーレジャイアントが上体を起こし、ふらつきを抑えるように頭を降った。

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