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55話 解体してもらう

「この指輪で生み出せる結界はイメージ次第でその性質を変えられるみたいなんだ。例えばこんな風に」



 カズトがそう言うと、自身の周りに展開させていた結界が青色に変化した。



「結界が青くなった」

「うん。他にも変えられるみたいだよ。ほら」



 すると今度は青色に変化していた結界が、赤、黄、紫といった色に次々と変化していく。

 それだけでなくその形を球状から立方体にしたり、手元に生み出した球状の結界をボールのようにバウンドさせたりしている。



「確かに凄いと思う。けど武器にはならないと思う」

「いやいや、そんなことないよ。それならダンジョンの入り口に向かいがてら魔物相手に試してみようか」

「うん。しっかりと見させてもらう。行こう」



 そう言って二人はグレイトケイブリザードがいたボス部屋を出て入り口に向かって歩いていく。

 すると彼らは複数の魔物が少し先の曲がり角にいるのを見つけた。



「ビッグケイブリザードとスモールケイブリザードか。あいつらで試してみるよ」

「分かった」



 まだ魔物達はカズト達の存在に気づいていない。

 そのため彼らは小声でそう話した後、カズトが魔物達に向かって手のひらを向けた。

 しかし何も起こらない。



「カズト君?」

「しー」



 リディアがどうしたのかと思いカズトに話しかけるも、彼は人差し指を顔の前に持ってきて静かにするようジェスチャーをするだけだ。

 そんな彼に対してリディアは不思議そうに首を傾げ、再び魔物達を見た。

 すると魔物達はその場で突然慌ただしくばたつき始める。

 口を抑える個体やその場でただただじたばたする個体、焦ったように繰り返し鳴き声を上げる個体など、その行動は様々だ。

 しかしそのままさらに時間が経つと一匹、また一匹というように魔物達が動かなくなっていく。

 やがて最後の一匹が地面に倒れ、動かなくなった。

 そこでようやくカズトが口を開いた。



「んー、少し時間がかかるからこの使い方は微妙かな?」

「カズト君、一体なにをしたの? 急に魔物達が動かなくなったけど」

「透明な結界で魔物達を覆って空気を閉じこめたんだよ」



 カズトがこのようなことができると気づいたのは、魔人との戦いで魔人に結界を張らせ続けて窒息死させようとしたのを思い出したからだ。

 そして試しに自分で実験してみると、案の定息苦しくなった。

 今回はこの性質を利用して魔物達を窒息死させたのだ。



「なるほど。そんなことができたんだ」

「でも思った以上に時間がかかったらから、実際に使うには工夫する必要があるんだよね」

「でも本来なら離れた場所に結界を張るのは必要な魔力が多過ぎで実用的じゃないと言われている。それをカズト君は今みたいに実用してみせた。十分すごい」

「ありがと。まあ魔力の量だけは誰にも負けない自信があるからね。それよりもう少し魔物相手に実験していいかな? 色々と試してみたいんだ」

「今日一日はいいよ。でも明日からは連携を高めるために私も魔物を狩る」

「あ、そっか。パーティーを組むには連携を高めなきゃいけないのか。それならなるべく早く終わらせるよ」

「大丈夫。私もカズト君の実験に興味あるから」

「そう? ならお言葉に甘えさせてもらうよ」



 そんな風に彼らは話しながら道中の魔物を倒していく。

 もちろんカズトが陸亀守護獣の指輪の実験をしながらだ。

 そしてその後、彼らは一日中魔物相手に実験をしながらバッセルの街へ戻った。


 太陽が沈み始めた頃。

 カズトとリディアは冒険者ギルドの裏にあるギルド保有の倉庫にやってきていた。

 そこには解体道具を持ったギルド職員がたくさんおり、せっせと魔物の解体を行っている。

 そんな彼らの仕事を見ながらカズトとリディアは会話していた。



「なんだか面倒事を押し付けたみたいで申し訳ないね」

「そう? ダンジョン都市の冒険者ギルドだとこれが普通」

「え、皆解体せずに魔物の死体を持って帰るの?」

「そんなことはない。けどダンジョン都市にいる冒険者達の中には亜空の腕輪を持っている人がちらほらいる。だから自然と解体せずに魔物をそれに収納して、今の私たちみたいにギルドに解体を頼むことになる人がいる」



 カズト達は今、先ほどまで潜っていたダンジョンで倒した魔物達の解体を、冒険者ギルドのギルド職員達に任せているのだ。

 というのも狩った魔物の数が多過ぎて、解体するのに一苦労だからだ。

 とはいえ冒険者ギルドに解体を頼むのは当然ながらタダではなく、決して安くはないお金を取られることになる。

 しかしそれでも楽にお金が手にはいるので、カズトはリディアにその提案をされてそれに乗ったのだ。


 そうしてしばらくの間カズトとリディアが他愛ない話をしながら解体が終わるのを待っていると、ギルド職員の内の一人が彼らに声をかけた。



「おーい! そこの兄ちゃんと姉ちゃん達! 解体終わったぞ! この紙を受付に持ってったら勘定してくれるから持ってけ!」

「はーい! ありがとうございます!」



 カズト達は屈強な体をしたギルド職員からその紙を受け取ると、倉庫を出て冒険者ギルドに戻った。

 そして受付で受付嬢に先程ギルド職員から受け取った紙を渡すと、彼女はそれに目を通してから奥に引っ込んでいく。

 そうしてさらに五分ほど待つと受付嬢が硬貨の入った袋を持って戻ってきた。



「こちらがお金になります」

「ありがとうございます。……おお、重い」



 カズトが受付嬢からお金を受け取りその袋を手に持つと、ズッシリとした重みが返ってくる。

 その重さに喜びを押さえきれないまま、リディアと共にギルドに併設されている酒場に向かった。

 そして席に着くと二人はそれぞれ適当に晩御飯を注文する。

 ちなみにカズトはどのメニューが美味しいのか分からなかったので、リディアに勧められたメニューを注文した。

 それから彼らは魔物の素材を売り払ったお金を分け始める。



「カズト君、そのお金なんだけど」

「うん。半々だよね」

「いや、私はいらない」

「えぇ!?」



 リディアの突然の言葉に驚くカズト。

 ただいま金欠少年の彼にとってその言葉は非常に魅力的なものだったがそれで、はいそうですかありがとう、と言ってお金を受け取ることはできない。



「何で!?」

「荷物持ちしかしてないから。魔物を倒したのはカズト君」

「でもリディアさんがいなかったらこんなに稼げなかったよ!?」



 そう言ってカズトは袋の中をリディアに見せた。

 そこには金貨が二枚と大銀貨、銀貨が数枚ずつ入っている。

 例えこのお金を二分しても、ダイアナの調査に同行した依頼を抜けば、一番稼ぎが良い日だった。

 それもこれもリディアが亜空の腕輪に倒した魔物を次から次へと収納して持って帰ってきてくれたからだ。

 それが無ければ彼の稼ぎは今よりも遥かに少ない稼ぎになっていただろう。

 だからこそカズトはそっくりそのままお金を貰うなんてことはできない。

 しかしリディアはそれでもお金を受け取ろうとしなかった。



「それくらい稼ごうと思えばいつでも稼げるから問題ない。それに貯蓄もたっぷりある」

「くっ、ブルジョワか……」

「ぶるじょわ?」

「……いや、なんでもないよ」



 カズトがこれまで稼いできた中で二番目に稼いだ額に対してリディアはあっさりとそう言った。

 そのためあまりの落差にカズトはズーンと肩を落とす。

 そんな彼の様子を不思議そうに見ながらリディアは口を開いた。



「その代わりカズト君に頼みがある」

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