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35話 二人の夜

 ドギマギしながら何を話せばいいのか分からなくなり、二人の間に沈黙が降りる。

 そんな中、カズトはダイアナと距離をおくために離れた方が良いのか? と思ったが、自分が隣に座っても良いと許可を出したのだ。

 ここでダイアナから距離を取れば、それは失礼な行為にあたるだろう。

 そのため距離をとらず何か話題の種でもないかと周囲に目を向けていると、先ほど畳んだ寝袋が目に入ってきた。



「あ、そうだ。王女さま、この寝袋ありがとうございました。とても寝心地良かったです」



「そ、そうか。それはよかった」



 そう言ってカズトはダイアナに寝袋を返し、ダイアナはそれを受け取って亜空の腕輪に仕舞う。

 するとそこで会話が途切れてしまい、またもや二人の間に沈黙が降りた。 

 普段のカズトならばそのような沈黙にはなにも思わなかっただろう。

 だが今は真っ暗闇の中で年頃の女性と二人きりでいる。

 しかも肌が触れ合う程近くにいるのだから、ダイアナのことを変に意識してしまう。



(気まずい……)



 カズトは何か他に話題となるものはないかと必死に目をキョロキョロとさせる。

 しかし周りは暗く、焚き火と地面しか見えないため残念ながら話題になるようなものはなかった。


 対してダイアナは喋る話題を事前にいくつか考えてきていたため、カズトほど気まずい思いはしなかった。

 しかしそれらの話題を口にするより先に、彼女はこれまで心に引っかかっていたことを先に口にすることにした。



「カズト、すまなかったな」



「……え?」



 唐突に謝られてキョトンとするカズト。

 ダイアナはその様子を見ながら言葉を続ける。

 


「私やセリオ、それにメイベルは王族と貴族だ。特別な理由が無い限り平民である君と同じテーブルで食事を食べたり、同じ料理を口にすることはない。それが常識だ。しかしそれでも寝食をこちらで負担すると言ったからにはそれ相応の物を差し出すべきだった。干し肉や薄っぺらい寝袋じゃなく、な。それで君には多大なストレスをかけてしまった。本当にすまなかった」



 そう言ってダイアナはカズトに向かって頭を下げた。



「……たしかにそれでストレスは溜まりましたけど、そうやって反省しているのならこちらから言うことはなにもありません。だから頭を上げてください」



 カズトはまさか嫌な人だと思っていたダイアナがそのように頭を下げてくれるとは思わなかったため内心とても驚いていた。

 そして同時に彼女に対する認識を改める。

 するとダイアナはカズトの顔を伺うようにおずおずと頭を上げる。

 そんな彼女らしくない様子を見てカズトが苦笑していると、ダイアナは頬をぷくっと膨らませた。



「むー。私はカズトに嫌われないか不安だったんだぞ。それなのに笑うとは、失礼じゃないか」



 そう言って拗ねたようにぷいっと顔を背けるダイアナ。

 そんないつもの凛とした様子とはかけ離れた可愛らしい仕草にカズトは思わず吹き出してしまう。



「あはははは」



「む、笑ったな! 今度は声を出して笑ったな!」



「ごめんなさい! ごめんなさい! 別に悪気があったわけじゃないんです!」



「そうなのか? まあ、それなら別にいいのだが」



 そうしてカズトが一通り笑い終わった後、再び沈黙が降りた。

 だがそれも一瞬で、パチパチと焚き火がたてる音をBGMに二人は和やかな雰囲気で会話をする。



「そうだ。カズト、一つ頼みがあるんだ」



「なんですか?」



「その、私と二人でいるときは普通に話してくれないだろうか? 敬語などではなく友人と話すような感じで」



「構いませんが、なんでまたそんなことを?」



 ダイアナの突拍子もない申し出を聞き、驚きながらもそう返すカズト。

 彼はある程度敬語を使うことはできるが、決して得意な方ではない。

 そのためそのような申し出はありがたいのだが、ダイアナがなぜそのようなことを言ってきたのか分からない。

 すると指をもじもじとさせながらダイアナは答えた。



「お、王女と平民としてではなく、個人として君と話しがしたいんだ」



「そういうことなら分かりました。いや、分かったよ。これでいい?」



 ダイアナからすればカズトに敬語を使われるのは二人の間に隔たりができており、心の距離がなんとなく遠くにあるように感じる。

 そのためダイアナはそのような頼みをカズトにした。

 すると彼は早速とばかりにダイアナの返事に敬語を使わずに返してくれた。

 それを聞いたダイアナは途端にパッと花が開くような嬉しそうな笑顔を浮かべた。



「ああ、ああ! それでいい! ありがとう、カズト!」



「そ、そんなに喜ぶことなの? まあ、王女さまが良いんだったら別に良いけど」



 ダイアナの急激な変化にカズトは驚きつつも、そう答える。

 だがダイアナはカズトのその言葉を聞いて気になるところがあり、さらなる頼みをすることにした。



「カズト、その王女さまというのも止めてくれないか? 私は個人として君と話したいと言っただろう? もっと気軽に呼んでくれ」



「気軽に、か。だとしたら、ダイアナさんとか?」



「うーむ、たしかに気軽になったが、やっぱり呼び捨てがいいな。呼び捨てにしてくれ」



「わかったよ、ダイアナ。これでいい?」



「うん。うん! それでいい。いや、それがいいんだ!」



「そ、そう。なら二人でいるときはこうするよ」



 カズトがダイアナのことを呼び捨てにすると、彼女は顔をさらに輝かせる。

 カズトはその様子にまたもや驚きつつも、なんとかそう言い切ることができた。



 そうして二人は夜が明けるまで楽しげに喋ったのだった。










 そして朝。

 セリオとメイベルが起きてからダイアナは朝食の準備をする。

 そのときカズトに一緒に食べないかと誘ったのだが、カズトはダイアナと一晩中喋ったおかげで気を許したのか、その日は四人で朝食のテーブルを囲むこととなった。

 そして朝食が終わり、彼らは馬車に戻った後、ゆっくりとした足取りでマールの街へと帰った。


 そして今、マールの街の冒険者ギルドにある部屋の内、一つの部屋の中にギルドマスターであるミゲル、そして調査を行ったダイアナ、セリオ、メイベル、カズトが集まっていた。

 調査の報告をしているのである。



「ーーと、言うわけだ。だからこれから巨大個体の魔物が増えることはないだろう」



「……そうでしたか。まさか魔人が絡んでいたとは。調査だけでなく討伐までしていただき、ありがとうございました」



「気にするな。私はそのために来たようなものだからな。それより、カズトの事なんだが」



 ダイアナがカズトの名前を口にすると、一斉に皆の視線が彼に向く。

 そんな中でミゲルは不安そうに口を開いた。



「カズト君がどうかしましたか? まさか彼が殿下に無礼を働いたのでは……」



「いや、そんなことはない。彼はまだ冒険者としては未熟だろうが、魔法の実力はずば抜けている。私よりも遥かに魔法の扱いが上手いぞ。それに物腰も丁寧で彼の人柄も好ましい。問題なくDランクに上がる資格を彼は有している。それは私が保証しよう」



 ダイアナがそう言うと、彼女の後ろに控えているセリオとメイベルもその言葉に対して頷いた。

 ミゲルは一瞬ダイアナの言葉を疑ったが、彼女はこの国の王女だ。

 そのためこの先二度と合うことはないだろう一介の冒険者を特別扱いするはずがないと判断し、彼女の言葉を信じた。

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