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21話 カズトの処遇について

「すいません。僕も発言してもいいですか?」



「ああ、もちろんだ。もちろんなのだが……なぜ君は微妙に離れたところに座っているんだ? もう少しこっちに来たらどうだ?」



「いえ、ここで大丈夫です」



 カズトは既にダイアナ達と距離をおくと決めている。

 そのためダイアナにそう言われようとも彼は断った。

 そしてその理由に言及されないようにすぐさま自分の意見を口にする。



「僕はセリオさんの言う通り皆さんほど強くはありません。それに気配を断つこともできないので、魔物に気づかれてしまうでしょう。皆さんにこれ以上迷惑をかけないためにも自分はここで帰るべきだと思います」



 カズトはキッパリとそう言い切った。

 対してダイアナ達はまさかカズトが自分から帰るべきだと言うとは思っていなかったのか、表情にはでていないものの皆驚いている。

 そして少しの間があった後ダイアナが口を開いた。



「……うむ。君の意見は分かった。だが、もしそうなった場合は依頼失敗に扱いになるはずだが、それに関してはどうする?」



「構いません」



 彼女の問いに対してそう即答したカズト。

 その答えに今度こそ驚きを表に出すダイアナ達。

 冒険者は依頼を受け、その報酬で生計をたてるものだ。

 そのため普通の冒険者ならこの場合、なんとか少しでも報酬が貰えないかと頭をひねり交渉するだろう。

 少なくともダイアナ達三人はそう思っていた。

 だがカズトは構わないと即答した。

 とは言っても彼がそう言ったことに複雑な理由はない。

 なぜなら依頼は最後まで調査に同行することとあるからだ。

 報酬が貰えないのは当たり前である。



(それに、今日一日だけでこれだけストレスが溜まってるんだ。後二日も同じようにストレスを溜めていたら、耐えきれなくなって王女さま達に当たってしまうかもしれない。それだけは避けないと)



 カズトにとってどちらかというとこちらの理由の方が大きい。

 なにせもしそうなったら、その場で切り捨てられる恐れがあるからだ。

 お金より命である。

 すると驚きから復帰したダイアナが口を開く。



「そうか、構わない、か。だが、決定は少し待ってくれ。私の意見を聞いてほしい。まずカズトの戦力だが、少なくともアームホーンゴリラを狩れる実力があることは確かだ。ならばある程度の自衛はできるだろう。それにカズトは無詠唱を使える程の実力があるのだから、治癒魔法も使えるだろう?」



「はい。使えます」



 これまでカズトは戦闘で治癒魔法を使ったことはない。

 だが彼はアームホーンゴリラの巨大個体を実験台にして様々な魔法の威力と効果を実験した時に、治癒魔法の実験もしていたのだ。

 そのため実験した中でどのようなイメージが一番治癒魔法の効果を上げられるのかは既に把握している。

 カズトの答えを聞いたダイアナは満足そうに頷いた。



「それなら十分だ。もし私達が怪我をすればカズトが治してくれる。治癒魔法が使えてある程度戦える魔法士だ。気配を断てないというデメリットがあっても連れて行った方が私は良いと思うが」



「……たしかにある程度自衛ができ、治癒魔法が使えるのなら死ぬ可能性は低いですし、こちらとしても常に気を張って護衛しなくていいというのは助かりますね」



 セリオはダイアナの意見を聞いて、しばらく考え込んだ後そう言った。

 だがダイアナがカズトを連れて行きたがって理由はそれだけではない。

 むしろこちらが本命と言っても良いだろう。



(アームホーンゴリラの巨大個体の数々の傷。特にあの不可解な傷をどのような魔法でつけたものなのか見てみたい)



 ダイアナは王女であると同時に一人の剣士でもあるため、戦闘に関することには軒並み好奇心が傾く。

 そしてついでに言えば、彼女はそのような性格のため、戦闘に関することの知識は魔法、剣に関わらず膨大である。

 そんな彼女が知らない魔法など、個人が作った固有魔法と呼ばれるものしか有り得ない。

 そこに思い至った彼女は、カズトが使う魔法がどんなものなのか内心ワクワクしていたのだ。

 そのためダイアナがここでカズトを帰すなんてことをするはずがなかった。


 もっとも、カズトが使う魔法は全て彼自身が化学や物理の考え方を基にした固有魔法なのだが、彼女にはそんなことは知る由もない。


 一方、カズトはと言うと。



(どうしてこうなった!?)



 この話し合いの最初の方はたしかにカズトが帰るという意見に傾いていた。

 言葉は酷かったがセリオははっきりと帰らせるべきだと言っていたし、ダイアナも初めは彼に対して否定的だった。

 カズトからも自分は抜けるべきだと言ったので、これは帰ることが確定かと彼は内心喜んだ。

 しかしそこで思わぬことに、ダイアナが手のひらをクルッと返したかのようにカズトのことを高く評価し始めたのだ。

 これには当の本人であるカズトも驚いた。

 だがそれでも二対二。

 彼はまだやりようはあるとそのときまで思っていた。

 しかしここで再び予想外なことにセリオがダイアナの意見に賛成しだしたのだ。

 彼は必死に脳みそを回転させて、この状況をなんとかできないかと考えるも、良い策が何も思い浮かばない。

 そんな状態でダイアナからトドメの一言が笑顔とともに放たれた。



「ということだ。カズト、引き続き同行してくれるな?」



「……はい」



 さすがに王女からのお願いという名の命令にはカズトが反対することはできなかった。

 もっともダイアナは強制的に従わせるつもりなど微塵もなく、カズトが勝手に命令だと思い込んでいただけなのだが。

 そんなカズトは帰るという選択肢を潔く諦めて、ストレスに振り回されないようにしようと心の中で固く決心した。







 そして夜。

 彼らは火の番と魔物の襲撃に備えるために見張りをする。

 そのため男女それぞれで別れ、交代で寝ることに決めた。

 まずは女性陣が夕方から夜中にかけて、次に男性陣が夜中から朝方にかけて見張りをするのだ。

 ダイアナが寝袋を亜空の腕輪から取り出し配る。



「これはセリオの分だ」



「ありがとうございます」



 そう言ってダイアナがセリオに渡したのは、なんらかの魔物の革でできた立派な寝袋だった。

 その革は分厚く、例え地面の上で寝袋にくるまってもそれなりに良い寝心地であるだろうことが窺える。



(よかった。野宿なんて初めてだから地面の上で寝れるかどうか心配だったけど、あれならそんな心配はいらなそうだ)



 その寝袋を見て、カズトは心の底からホッとした。

 そしてカズトにも寝袋が配られる。



「カズトの分はこれだ」



 そう言ってダイアナがカズトに差し出したのは寝袋とはとても言えない、ペラペラの袋だった。

 これではどう考えても直接地面の上で寝るのと変わりはないだろう。



(ここでも身分差か……)



 カズトの中に黒くドロッとした感情が芽生える。

 だがこのようなことは先ほど干し肉の件で経験したばかり。

 彼は即座に寝食を負担してくれているダイアナに感謝をするよう自分に言い聞かせ、なんとかその感情をごまかした。


 ちなみにカズトに寝袋とはとてもいえないような物を渡すように言っていたのも干し肉の件と同様セリオである。

 もちろんダイアナはセリオと同じ寝袋をカズトに渡すつもりだったのだが、干し肉を彼に渡すよう言ってきたタイミングでセリオが先に釘を打っていたのだ。

 もちろんそれを知らないカズトはダイアナが自らの判断でやったと思い込んでいるのだが、それも仕方のないことである。

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