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20話 初めての干し肉と話し合い

「……しょっぱ」



 眉をしかめながらそうこぼす。

 初めて食べた干し肉の感想がこれだった。

 もちろんカズトは人から貰った物なので文句を言うのはお門違いだと言うことは分かっている。

 しかし今のカズトには胸の内にある未だになくならない絶望という負の感情が理性に関係なく不満に変わり、そしてそこから僅かな怒りが芽生えている。

 その矛先は自然と干し肉を渡してきたダイアナに向かう。

 そのような状態なので、文句が自然と口から出てしまった。

 そんな自分に嫌気がさし、思わずため息を吐く。



(はあ。ダメだダメだ。王女さまは善意で干し肉をくれたってのに、こんな失礼なこと考えたらだめだな)



 カズトはパンパンと自分の頬を叩いて無理矢理思考を切り替える。



(よし。どうやったらこのしょっぱい干し肉を美味しく食べられるのか考えてみよう)



 思考を切り替えたとしても貰った干し肉がとてもしょっぱいというのは揺るがない事実であり、それは現代日本で育ったカズトの口には合わない。

 しかし善意で貰ったもののため、残すなんてことは有り得ない。

 そのためカズトは工夫を凝らしてみることにした。



(とりあえず炙ってみるか)



 干し肉を細長く千切り、解体ナイフの先っぽに刺して炙る。

 そしてある程度炙ったところでパクリと一口で食べる。



「あつ! けど、普通に食べるよりはおいしいな。相変わらずしょっぱいけど」



 普通に食べるよりおいしく感じるのはともかく、塩分を抜いていないのだからしょっぱいのは当たり前である。

 カズトは次は塩分を抜くという発想で考え出した。



(お湯に浸してスープが一番妥当なところかな?)



 カズトは指を鳴らし、適当に土と水分を調節して土鍋を作る。

 もちろんさらに空気中から水を生成し、洗うことも忘れない。

 これから先も長々と使うならもっときちんと作った方が良いだろうが、使うのは一回切りなので問題ない。

 次にそれを火にかけ、そこに再び空気中から生成した水を投入。

 さらにそこにできるだけ細かく千切った干し肉を入れて出汁を取る。

 その間に皿とお玉を作り出した。



「そろそろいいかな?」



 しばらく出汁を取った後、スープを皿に移してそれを飲む。



「……これでもまだ少ししょっぱいけど、十分おいしいな」



 そのスープの味は塩辛さが多少邪魔をしているものの、肉のうまみがぎゅっと凝縮されているのが分かる。

 そのため普通に食べたり、炙って食べたりするよりも遥かに美味しく感じた。



(ただ、やっぱり塩分が多いのは変わらないから頻繁に飲むのは避けた方がいいな)



 それからカズトはスープを飲み干し晩御飯を終えた。

 しかしダイアナ達の方を見てみれば、未だに食事を行っている。



(いいなぁ……)



 皿に盛り付けられた豪華な食事を、笑顔を浮かべながら食べているダイアナの様子を見て自然とそんな思いが湧き上がる。

 同時にカズトの心の内に不満、嫉妬といった感情が生まれた。

 すぐさまその光景から視線を切る。



「薬草でも採取するか」



 そう言ってカズトは己の内に湧き出てくる負の感情をごまかすために行動し始めた。







 晩御飯を食べ終わりしばらくの間大樹のすぐ近くで薬草などの採取をしていると、カズトは今の自分を冷静に分析する余裕がでてきた。



(きっと慣れない生活でストレスが溜まっているんだろうな)



 今の自分は普段の自分らしくない。

 たしかに豪華な食事を食べれなかったことは非常に残念だったが、それを差し引いても普段の自分なら負の感情を抱くことは殆どないだろう。

 少なくともカズトはそう思っている。

 そしてそれは事実であり、彼はゾンゲ達のようによっぽどしつこくバカにしてきたりしなければ基本負の感情を抱くことはない。

 だが今の彼は普段なら気にもしないことに対して過剰に反応してしまう。

 それは彼が分析した通りストレスによるものだった。



(少し王女さま達との距離をおいた方が良いかもしれないな)



 無いとは思うが、万が一ストレスが溜まりに溜まってダイアナに当たってしまうような事があれば、自分の命が危うくなる。

 そのためカズトは密かにそう決意したのだった。


 そしてさらに三十分ほどすると、カズトは採取を切り上げ焚き火の下に帰ってきた。

 ダイアナ達は既に食事を終えた後らしく、テーブルと机は既にない。

 彼女らは焚き火を囲んで話し合いを行っている。

 カズトは焚き火の周り以外どこにも行くあてもないのでとりあえず自分も焚き火の前……ではなく、彼女らと距離をおくということに決めたので、そこから大股で五歩程離れた場所に座る。

 そして手持ち無沙汰なので魔力制御の練習を始める。

 するとダイアナ達の言葉が耳に入ってきた。



「カズトも戻ってきたし、丁度いい。最後にセリオから話しがあった、カズトをこれからの調査に連れて行くかどうかについて話しあおう」



(ん? 僕のこと? 依頼は調査についてきてほしいというものだったから、僕は最後まで付き合うつもりだったんだけど)



 ダイアナ達が自分の事について話し合いを行っているようなので、カズトは魔力制御の練習の手を止めて彼女達の会話に耳を傾ける。



「メイベルも知っている通りカズトは魔法士だ。とてもではないがこれからの戦闘についてこれるとも思えん」



(……魔法士は戦闘で役に立たないって一般に認識されているからそう思うのは仕方ないと思うけど、ここまでざっくり言われると一周回って清々しいな。それに僕も今の実力だと王女さま達の戦闘についていけるとは思えない)



「それに彼にこの調査に同行してもらった理由はアームホーンゴリラの巨大個体を討伐した正確な場所を教えてもらうためだ。それを教えて貰った今、彼には調査に同行して貰う理由がない。そのためここで彼だけ先に帰らせるべきだと言うのがセリオの意見だ。メイベルはどう思う?」



(足手纏いで用済みだから先に帰れってことかな。まあ、巨大個体との戦闘なんて命がいくつあっても足りなさそうだからその意見には賛成だな)



 カズトはアームホーンゴリラの巨大個体と戦った時のことを思い浮かべ、そう思う。

 一方メイベルはダイアナの言葉を聞き、少しの間思案顔になる。

 そしてゆっくりと口を開いた。



「……カズトは無詠唱魔法が使えます。多少の戦力にはなると思います」



(へぇ。メイベルさんとは一対一で喋ったことなかったけど、思ったよりも僕のことを評価してくれているんだな)



 カズトが心の中で小さく驚いていると、今度はメイベルのその言葉を聞いたセリオが手を挙げた。



「殿下、発言よろしいでしょうか」



「うむ」



「たしかにカズトは無詠唱魔法を使えることから優秀な魔法士であるとは自分も思います。ですがそれでもそれは魔法士の中であればの話しです。それに彼の実力は気配を断つこともできないことからたかがしれています。そんな彼をこれからの調査に連れて行くのは危険ではないでしょうか」



(うん。言い方は少し酷いけどセリオさんは何も間違っていない。むしろ正しい判断をしていると思う。……僕が意見を言えるのもこのタイミングしかなさそうだな)



 カズトはその場でスッと手を挙げ、少し離れた場所にいる三人に声をかけた。

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