自分の想い、相手の想い
月日が流れるのは早いもので俺とサイが学校に入学する時期がやってきた、今回もアーねぇ達の時と同じ様にあっちでゆっくりと準備をする為に早めに聖皇国に行くことになっている、前回と違う点を言うのならサイの両親も一緒ということだろう。
今は馬車の乗り場に並んでいる、リスさん一家の後ろに俺たち家族が並ぶ感じだ、今回も前回と同じく子供連れの家族が多い。
暇なので周りを見ていると前の男の人が話しかけてきた。
「お前が娘を誑かす男か」
そう言ってくるのは身長180cm近い青い髪をした熊…じゃなくてサイの父さんだ、父親の娘に対する愛情の深さはどの家庭も共通なのかな、それでも初対面の第一声から敵意全開とは。
「レイード、恋愛は当人同士で決めるんだ、余程のことがない限り部外者は口出しすんな」
「グレン、俺だって普通の子供なら何も言わないがお前の子供となると警戒するぞ」
父さんの信頼の低さに少し泣きそう、ってかサイの父さんってレイードって言うんだ。
「はい、あなたは落ち着く、サイだってまだトキ君と付き合っているわけじゃないんだから」
リスさんがそう言ってレイードさんを前に向かせるが首だけ俺の方を向いて怨敵を見るように睨んでくる、まぁキスまでやってしまったのに付き合っていないという関係なのだから睨まれるのも当然か。
「父さんってレイードさんからの信用低いんだね」
少し前に聞いたが父さんとレイードさんは幼馴染で鍛冶職人をやっていて、父さんの冒険者時代もサポートしていて色々と面倒事に巻き込まれていたらしい。
「まぁ…な」
父さんの歯切れが悪い、相当迷惑をかけたんだろう。
馬車が来て全員が乗り込んだ、リスさんや母さんの計らいによって親は親で固まり、子供は子供で固まることになった、席順は話し合うこと無く俺とサイが隣同士になった。
「パパがごめんね」
「まぁ、娘が一番大事だし、ああなっても仕方ないさ」
サイが申し訳なさそうに謝ってくるがサイが謝ることじゃないから優しく対応しておく、このやりとりもレイードさんの耳に入ってるんだろうなぁ…正直すごくやりづらい。
馬車の中での会話は魔術学校での楽しみや剣術学校での楽しみが中心になった、過度なスキンシップはレイードさんに殺されかねないから今回は自重したが、サイの方はそんな事はお構いなしと言わんばかりにボディタッチを含んだスキンシップをしてきた、何度か悪ノリしようかと考えたけどやった結果が恐ろしかったからサイを止めたりしてレイードさんの監視から逃げた。
レイードさんに監視をされながら過ごした4日間は無事に終わり今は聖皇国に来ている、宿は4年前と同じ店でリスさん達も一緒の宿に泊まるそうだ。
「サイの部屋に行かなくてもいいの?」
荷物を解いているとアーねぇがニヤニヤと笑いながら冷やかしてくる、サイの居る部屋に行ってもレイードさんの監視が怖すぎて何も出来ないと思う。
「トキ行ってくれば、荷物は私たちがやっておくから」
クーねぇもアーねぇの言葉に賛同している、この二人はわかっていない、レイードさんの無言の圧力の恐ろしさに、変なことを一つでもすれば絞め殺す、そんな圧力を。
「サイちゃんとは当分会えないのだから行ってらっしゃいよ」
母さんも行ってくるように促す、これで死んだら全員の枕元で呪詛を唱えてえやる。
「女はな、行ってやらないとモノにはできないぞ」
父さんまでも行くように言ってくる、レイードさんの怖さを知ってるくせにいうか、父さんに言われると何故か癪なので少し仕返しをしておくか。
「母さん、父さんが昔の女性関係で新しく懺悔したい事があるって」
「トキ、お前!」
父さんが酷く狼狽えているけど、まさか本当に隠していることがあるとかは無いよな?
「あら、何かしら…キニナルワ」
母さんの声が酷く冷たいものに変わったのを聞いてから俺はサイの居る部屋に向かうために部屋を出た、帰ってきたときは父さんの体が大丈夫であることを祈っておこう、少しだけ。
サイの居る部屋の前に着いて俺は深呼吸を繰り返していた、レイードさんが出てきても臆することがないようにするための措置だ。
軽く2回ノックをすると中からリスさんの声が返って来たので扉を開けるとリスさんとサイが一つのベッドで何かを話している、レイードさんは荷物を解きなから会話を聞こうとしている、なんかレイードさんに少しほっこりしてしまった。
「トキ、えっと…少し待ってね」
サイが慌てながら俺を止める、女の子には色々準備があるのかな、一応許可が出るまで扉の前に立って待つ事にした。
時折レイードさんから視線が来るが怖いから目を逸らして周りを見るがあまり見るものがない。
「トキ君、こっちにいらっしゃいな」
「ママ!」
周りを見ているとリスさんから声がかかったのでリスさんの近くに行った、サイの方は納得できていないのか余所を向いていて目を合わせようとしてくれない。
「立ってないで座りなさい、サイの隣にね」
リスさんに言われてサイの右側に座るがサイは左を向いて目を合わせようとしてくれない、リスさんの「サイの隣」と言ったあたりからレイードさんが睨んでいるが目を合わせないようにしておく。
「それでリスさん、なんでサイは目を合わせてくれないんですかね」
目を逸らされる様な事は一切していない、なのに目を逸らされるなんて悪いことをしたのだろうか、何か落ち度がなかったか頭をフル回転させるが全く思い浮かばない。
「それはね、サイが「ママ!」」
リスさんが笑いながら理由を話そうとすると顔を真っ赤にしていたサイが言葉を遮って聞き取れなかった、リスさんが笑顔ということはそこまで深刻な事じゃないんだろう。
「それでリスさん、何があったんですか?」
「サイはね…馬車の中でトキ君が冷たかったって言って拗ねてるのよ」
「ママ!」
なるほど、レイードさんの監視の怖さからスキンシップを過度にしないようにしていたけどサイはそれが寂しかったのか。
「サイ、ほら」
俺はそう言いながら両手を広げた、抱擁する為の合図のようなものだ。
「うん!」
サイは勢いよく俺に抱きついた、近い距離だってのに勢いよく抱きついてくるなんて余程寂しかったのかな。
「サイ、今すぐ離れなさい!」
見かねたのかレイードさんの大きな声を上げる、サイの真っ赤な顔と可愛らしい理由で存在を忘れてたわ。
「い~や~だ~」
サイは俺の胸で顔を左右に揺らしながら否定していた、少し擽ったいけど可愛いから良いか。
「やっぱりグレンの息子だな、女性の落とし方がソックリだ」
レイードさんが続けざまに言葉を続ける、父さんの女性の落とし方に興味を持ったけど俺は父さんみたいに複数の女性にかまける様な人じゃない!…とは思う。
「あなたは黙っていなさい、それが嫌ならグレンの所にでも行ってなさい」
いつも茶目っ気のある声から怒った時の母さんに似た底冷えするような声をリスさんが出し始めた、女性冒険者はこの声の習得は必須なのかな。
「少しグレンと話してくる」
レイードさんは少し猫背になりながら部屋を出ていった、なんか悪いことしたな、それにしても背中から漂う哀愁が凄かったな。
「ごめんなさいね、あの人はサイの事になると見境が無くなって」
「それだけサイが大事なんでしょう」
さっきの声から一転していつもの茶目っ気のある声に変わったリスさんからレイードさんのことを詳しく聞いた、なんでも昔、冗談でサイを嫁にしたいなんてほざいた客をボッコボコにしたそうだ、その客とは俺も詳しく話し合わないといけないな、主に拳を用いて。
「サイ、ごめんな、レイードさんが見てるのが怖くて構ってやれなくて」
抱きしめているサイに謝罪をする、如何なる理由があってもサイを寂しくさせた事は事実だ。
「一緒に寝てくれたら許してあげる」
サイは俺の胸に顔を左右に揺らしながらとんでもない事を言い始めた、一緒に寝てみろ、俺だけレイードさんの手によって永眠させられるぞ。
「あの人なら大丈夫よ、私が止めておくから」
リスさんが俺の不安を読み取ったのか止める宣言をしてくれた、リスさんならレイードさんを止めてくれそうだけども。
「それじゃ決定ね」
「…はい」
最後にサイに押し切られて俺は頷きながら返事するしかなかった、まぁ死ぬことはないだろう。
「それじゃ、私もニアと話してくるから二人でゆっくりしておきなさい」
そう言ってリスさんも部屋を出ていった、子供を二人っきりにするなんて、過ちがあったらどうするんだろう。
「ねぇ、トキ」
俺の胸から離れて座っているサイから話しかけられた、こういう時にサイの積極性に助けられる、俺じゃどう話しかけていいのかが分からない。
「どうした?」
二人っきりという状況すら珍しい、顔を直視できない、多分俺の顔は真っ赤になってると思う。
「トキって私の事好きなんだよね?」
「まぁ、な」
俺がサイの事を好きになっている理由…深くは考えたことが無い、ただ俺に好意を向けてくれているから好きになった感じが強いしそれに甘えていた感じもある。
「私もね、好きなんだけど時折考えるの」
「何をさ」
サイはそう言うと言うか言わないか迷っている風だったが俺としてはその考えとやらが怖い、その考えが「どうしてトキを好きになったんだろう」とかだったら精神を壊される気がする。
「トキに嫌われるんじゃないかって」
サイは絞るように声を出しながらそう言った、俺がサイを嫌う理由が無い、だけどもサイは何かを不安の種にしていたんだろう。
「私がトキに我が儘を言ったりする度に思うの、これ言ったら嫌われるかもしれないって」
「頼むことが我が儘なんて思わないさ、それが我が儘なら俺だって我が儘さ」
サイは頼む事=我が儘と思っていたようだ、周りが自由な人が多いのにそう思ってしまってたのか、今の状況で父さんなら「女の我が儘を聞くのが男の甲斐性さ」なんて気障っぽく言うんだろうな。
「サイはどうして俺の事を好きになったんだ?」
俺は多分今一番残酷なことを聞いているのかもしれない、俺はサイの好意に疑問を持っていると暴露しただけだ、だけどサイは首を横に傾げている、「何を聞いているんだ」と言わんばかりだ。
「私がトキを好きになったのは初めて見た時かな」
どうやら一目惚れだったようだ、初めて会った時ってスキンシップ拒否に暴力だった記憶が強いがあれは照れ隠しだったのかな、そう考えると可愛いな。
「でも、魔眼が覚醒した後に拒絶しなかったっけ?」
あの時は部屋にすら入れてもらえなかった記憶がある、なんか魔眼が怖いとか言ってた記憶もある。
「言わなかったっけ、目が赤くて怖いって」
どうやら本当に恐怖だけだったようだ、そんなにあん時の俺って怖かったのかな。
「それにね、あの時は私の好きになった人が別人になってしまったんじゃないかって言う怖さもあったの」
サイはそう続けた、サイはあの時から俺に好意を向けてくれたいたのか、だけど俺は気が付かず幼馴染として接していたのか。
「それじゃ、トキはどうして私の事を好きになったの?」
サイは俺の事を好きになった経緯を言った後に俺に質問をしてきた、俺がサイを好きになった理由か、多分、俺はサイの明るさに惹かれて、サイの時折見せる弱さを助けたいと思ったんだ、だけど言うのは恥ずかしい。
「内緒だ」
サイに言わせるだけ言わせて俺だけ内緒なのは卑怯だと思うけど恥ずかしいものは恥ずかしい。
「言わないのなら私にも考えがある」
そう言ってサイは俺をベッドに押し倒した、サイの顔真っ赤じゃないか。
真っ赤な顔をしたサイは俺に覆い被さりながら顔を近づけてきた、息が顔にかかるまで近くなっている、サイの考えとは一体なんなのか、興味がある。
「まだ言わない?」
サイは俺の耳元優しく囁きかけてきた、まだまだ口を割る訳にはいかない、サイの考えが分かるまでは。
「内緒だ」
さっきと同じ答えをサイの耳元に囁き返す、するとサイは全体をくっつけるように体を落としてきた、体と体が密着している、胸の感覚、足から直に来る温度、正直ものすごく興奮している、これは洗いざらい喋ってしまいそうだ、そしてレイードさんやリスさんに見られたら一番厄介な奴だ。
「これでも言えない?」
さっきの優しい声とは変わってエッチな声に変わっているが、所詮は10歳児、背伸びした子供のような声が限界だ、なんか微笑ましい。
「分かった言うから退いてくれ」
これ以上拒否をするとどんな行為に走るか分からないからここら辺でギブアップ宣言をしておく。
「それで、どうして?」
サイは体を起こして再度ベッドの淵に座った。
「それはな…」
さっき思ったことを口に出そうとしたら、扉が勢いよく開けられた。
「サイ!変なことはされていないか!!」
レイードさんが大きな声を上げながら部屋に入ってきた、その後ろにはリスさんが居る。
「パパ!」
サイも聞きたいことを聞く寸前で止められたのか珍しく怒った口調だ。
「リスがいきなりニアさんの所に来たから不安になってきてみれば、きさまぁ!!」
レイードさんは大股で歩きながら俺の近くに歩いてきた、怒りながら近くに来られると威圧感と重圧が凄いわ。
「パパ、今良い所だったのに!」
サイがベッドから立ち上がり、レイードさんの前に立ちはだかった、絵的に女に守られている男だな。
「良い所だと…きさまぁ」
サイの言葉をどう解釈したのかレイードさんの怒りがどんどん溜まっているように見える。
「トキ君、ごめんなさいね」
リスさんがレイードさんの横に立って謝ってくれた、リスさんも足止めをしたけど失敗したんだろう、責められるわけがない。
「それにだ!お前はどうしてサイのことが好きになったんだ、言ってみろ!」
レイードさんは一人で勝手にヒートアップしている、だけどさっき言いかけたことを3人の前で言うなんて、さっきサイにちゃっちゃと答えておけばよかった、そうすればサイだけだったのに。
「私も気になるわ」
リスさんも気になるようだ、まぁそういった話は一切しなかったからな。
「私だけが聞こうとしたのにパパとママが帰ってくるんだから!」
サイは自分だけが理由を知りたかったようだ、本当にごめんな。
「俺がサイの事を好きになった理由は…」
今度こそ、言おうと息を吸うと。
「トキ、大丈夫か!」
「トキ君大丈夫?」
「「トキ、大丈夫?」」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
父さん、母さん、アーねぇ、クーねぇ、レイの5人が部屋に入ってきた、どんどん事態が悪化している。
「なんで、父さん達が来るの!?」
せっかく言おうとしたのにまた邪魔が入る、本当になんで来たんだろう。
「レイードが血相を変えて出て行ったもんだから気になってな」
「私たちもよ」
5人ともレイードさんの様子が気になったから来たようだ、その優しさが今だけ痛い。
「それで、どういう状況だ?」
父さんはレイードさんと俺を交互に見ながら質問をした、誰に言ってるかわからないけど多分俺なんだろう。
「俺がどうしてサイの事が好きなのかだって」
俺がそう言うとアーねぇとクーねぇが「キャー」と言いながら手を合わせてジャンプしている、父さんも母さんも興味がありそうな感じで俺を見ている、レイも何故か顔を真っ赤にしながら俺を見ている。
「トキ、早く」
サイも何かを言うのを諦めたのか俺に早く言うように催促をしてきた、サイも恥ずかしいのだろう、だけど俺もすごく恥ずかしい、だから俺はサイの目を見てはっきり言うことにした。
「俺がサイの事を好きになった理由は、サイの明るさに惹かれて、サイの時折見せる弱さを守ってあげたいって思ったからだよ」
ああ、畜生言っちまった、それも家族が見ている前で言っちまったよ、穴があったら入って一生出たくない。
「トキ」
「サイ」
サイは俺の近くに座って手を俺の手の甲に置いた、だから俺は手を返し手を繋げるようにした。
「ああ、サイから離れろぉ!」
レイードさんは気に食わないのか近寄ろうとするがリスさん、父さん、母さんの三人が壁になってレイードさんの行く手を阻んでいる。
アーねぇとクーねぇは俺をニヤニヤしながら見ている、そんなに楽しかったか。
レイは顔を真っ赤にしたまま顔を両手で覆っている、可愛いなぁ。
「父さんたちは満足でしょ、少し恥ずかしいから出て行ってくれるとありがたい」
サイの手を握りながら父さん達にお願いをする、本気で恥ずかしいから部屋に戻ってくれるとありがたい。
「戻るが、リスから聞いたが今日は部屋に戻らないんだな」
「うん、サイと寝るよ」
父さんは部屋を出る間際に確認をしてきた、残り数日で長時間家族に会えないのに幼馴染と一緒に寝るのはどうかと思うが今日限りだから許して欲しい、残りの日数はそっちで寝るし。
「それじゃ」
確認を終えると父さんは短くそう言って部屋を出ていった、部屋には敵意全開のレイードさんとそれを止めながらも笑みを浮かべているリスさんと俺の手を握りながら顔を真っ赤にしているサイと顔が熱い俺の4人だけになっていた。
「ねぇ、トキ」
「何?」
サイは俺の方に向いて声をかけてきたので俺もサイの方を向いた。
「疲れたし寝よっか」
「そうだな、俺も疲れたよ」
寝る時間にはまだ少し早いかも知れないが、家族の前での告白、馬車での旅疲れがあるのかサイに「寝よう」と言われて眠気が一気に押し寄せてきた。
「貴様がサイと寝るなんて俺は認めないからな!」
レイードさんはまだ反対しているようだが俺とサイは寝っ転がって寝る態勢に入っている。
「おやすみ、トキ」
「おやすみ、サイ」
寝る前の挨拶をして俺は目を閉じた、もちろん手は繋いだままだ。
自動車学校に通い始めて、自動車を壊して川に捨てるという夢を見始めました、ストレスが原因ですかね?




