loop008:千鶴
それはクリスマスイブの朝だった。
「母さん、今日は遅くなるよ。
オールになるかもしれない」
沙織母さんはきっと全て分かっている。
だけど、筋だけは通しておかないと。
「分かったわ。
晴道も『十九歳』ですもの。
わざわざ許可を取る必要もないわよ。
誰と過ごすのかなんて野暮なことは聞かないわ。
それにね、母さんは晴道のことを信用しているの」
ああ、これは定番の、
「避妊してくれるって!」
やっぱりな。
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今日は花音さん主催のクリスマスパーティーなのだ。
参加者は、
小泉香織
如月千紗
里塚由美子
早乙女莉子
一ノ瀬花音
中里京子
橋本花月
島村千鶴
(敬称略)
これは俺と出会った順だ。
他意はない。
それにしても、まるで攻略対象が全員そろう特別イベントのようだった。
俺、いつの間にか恋愛ゲームの主人公にでもなったんだっけ?
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まずは立食パーティーから始まった。
一応人数分の席は用意されているが、
各自の定位置はあえて決められていない。
席を固定してしまうと、
俺と同じテーブルを巡って壮絶な争いが始まってしまうという、
花音さんなりの配慮だった。
出される食事はどれも凄まじかった。
ライブキッチンで供される前沢牛のステーキ。
オマール海老が目の前で豪快にフランベされる。
燃え上がる炎の中で完成した一皿は、もはや料理というより舞台芸術だった。
見れば分かる。どのシェフも超一流の料理人だ。
本来なら、こんな出張ライブキッチンに立つような人たちじゃない。
「ちょっとお金に物を言わせすぎちゃったわ。
大人げなかったかしら」
主催の花音さんが苦笑交じりにそこまで言うなんて、
一体どれだけの費用がかかっているのやら。
⸻
パーティーは大いに盛り上がった。
それぞれの近況報告や将来のこと、
そしていかに俺と付き合ってきたかという思い出話。
千鶴さんはあのドラマで助演女優賞を千紗に取られていらい、グラビア一本に絞った。
あの監督は残念がったが、勝てる勝負に注力する。
――それは彼女なりの、とても強固な選択だった。
そして今や、この国で彼女を知らない者などいないほどのトップスターに上り詰めている。
やがて、プレゼント交換の時間となった。
花音さんの提案で、それぞれがプレゼントを一つ準備し、それを賭けてビンゴゲームをするのだという。
プレゼントの中身は事前に明かされるが、誰の出品かは伏せられる。
先にビンゴになった人から好きなものを選べるシステムだ。
そして、その景品の目玉は──『晴道と今晩ホテルに泊まる権利』。
俺の出品だけは、強制的にそうなっていた。
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ビンゴゲームは狂気的な盛り上がりを見せた。
というか、一部のメンバーは……否、言うまい。
百年の恋も冷めそうなほどの、凄まじい痴態だったから。
結局、激戦を制して一番にビンゴを叩き出したのは、千鶴さんだった。
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そして、翌朝。
「千鶴さん……」
「千鶴、でしょ」
「千鶴……本当に良かったのか?」
「何のこと?」
「だって、もしものことがあったら……」
俺は沙織母さんの信頼を裏切ってしまった。
「ふふ、私は後悔なんてしないわ」
千鶴さんは愛おしそうに、自分の下腹部にそっと手を添えて言った。
「実はね、今日は危ない日だったの。だから――着けさせなかったのよ」
──その言葉に、背筋が凍りつく。
俺はもう、晴花と再会してしまうのだろうか。
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これで、8度目のクリスマスイブだ。
そうして俺は、これで全員と夜を過ごしたことになる。
自称『愛の女神』とやらが一体何をしたかったのか、その意図はもう、何となく想像がついていた。
ならさ――もう、十分だろ?
それに、”あれ”がどんな結論を導き出そうとも、最後に選ぶのは俺自身なんだ。
晴花の母親を、一体”誰にするか”なんて。




