ep008:その恋、危険につき
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Scene019【帰りたくない】
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和也さんと千晴さんは、部隊の人が車で送っていった。
その時の最後の会話はこうだ。
「晴道くん、今度ちゃんとお礼させてくれ」
「そんなの結構ですよ。
こっちが巻き込んで手伝ってもらったんですから」
「いや、そういう訳にはいかない」
肩に手を当てながらそう言う和也さんに、花音さんが代わりに答えた。
「ならね、貴方の身体を調べないといけないから。
本当に申し訳ないけれど、私たちの所に一度来て欲しいの」
「当然です。幸い今は夏休みですから、そちらの都合の良い日程を連絡してください」
だから、また近い内に会う事になるだろう。
ちなみに千晴さんは、
「小泉くん、本当にありがとう。和也さんと私を助けてくれて」
うん、最後まで“小泉くん”だった。
それに、手の一つでも握ってくれないかと思ったけれど、そんな事も無かった。
ちょっと寂しい。
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二人を見送った後、花音さんが締めに入った。
「ここの後片付けは後方部隊の者に任せて、私たちは帰りましょうか」
それに俺は、はっきりと答える。
「嫌です、帰りません」
「えっ?」
花音さんは意味が判らないといった顔をしたが、由美子がフォローしてくれた。
「花音さん、貴女デートの途中じゃないですか?
まだ帰らなきゃいけないような時間じゃないですよ!」
そう、色々あって随分時間が経った気がしたけれど、
帰りの混雑を予想してプールを早めの時間に切り上げていたので、
今はまだ、ディナー開始にちょうど良いかなって時間だったのだ。
「それに、今日はお泊まりだったんじゃなかったでしたっけ?」
由美子がからかうように付け加えると、
「えっ、あの、色々あったから、中止かなって……」
うろたえる花音さんだが、由美子はさらに畳みかける。
「本当にそれで良いんですか? 自分に正直になってください」
そして、あの赤い仮面をまた着けて、
「私は仮面のくの一赤影なので、守さんたちと一緒に帰りますけれどもね」
由美子の心の中の声が聞こえる。
(晴道、花音さんの事をお願いね)
「花音さん、もう一度言います。俺は帰りたくありません。花音さんはどうですか?」
俺が花音さんの目をしっかりと見据えると、花音さんはまず心の中の声で答えた。
(晴道、由美子ちゃんのばか。これじゃあどちらが年上だか判らないじゃない。――帰りたいわけないじゃない!! だって、私の初めての夜なんだから)
そして、声に出して言った。
「なら、晴道、帰さないわよ。覚悟しなさい」
「はい、判りました」
俺はそう答える。
もちろん、このツッコミだけは気には乗せない。
(……いや、覚悟するのは花音さんの方だと思うよ。だって、初めての夜なんだからね)
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Scene020【心遣い】
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その時、守さんが声を掛けてきた。
「晴道くん、この後の予定は何か決まっているのかな?」
そうだ、プールを早めに上がるから、
デートらしくブラブラ街歩きをして、
夕食をどうするか考えようって思っていたんだった。
「いえ、特に決まってなくて」
「では、差し出がましいかとも思ったんだが、
ホテルとディナーの予約を取った。
使ってくれないか?」
「えっ?」
「着替えも準備してます」
(私の渾身の力作です)
これは後方部隊の女性隊員の言葉だ。
今回の千晴さんにはそこまで必要無かったが、
女性の保護対象が居る場合に備えて、
必ず同行するのだそうだ。
(((姫さまの初めての夜の為に!!)))
うわ、心の中の声がこれだけ綺麗に揃うって……。
「分かったわ、甘えさせてもらうわね」
(私はいつもいつも、みんなに支えられてばかり。本当に幸せ者ね)
「花音さん、行きましょう」
俺は花音さんの手を取った。
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後方部隊の車で送られたのは、
少し離れたターミナル駅近くの高級ホテルだった。
いや、超高級ホテルだ。
最低でも一泊十何万円とかするんだろうな。
考えるのはやめておこう。
「お待ちしておりました。小泉様、一ノ瀬様」
ホテルマンと言うよりは、執事と言った風格の人に出迎えられる。
そして案内されたのは――うん、そうだと思った。
これもロイヤルとか付きそうなスイートルームだった。
メイドさんが四人も待機している。
「小泉様、シャワーをお浴びください。
お召しものを準備しております」
因みにここに着いてから、執事さんやメイドさんたちから心の中の声がまったく聞こえてこない。
完璧に自分を律している証拠だ。
プロフェッショナルって、こういう人たちのことを言うのだろうな。
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シャワーを浴びて出ると、着替えが準備されていた。
ただしアンダーウェアだけ。
すげー気持ちいい肌触り。
絶対に高級なやつだ。
着終わると、すぐにノックがされた。
「小泉様、入りましてもよろしいでしょうか?」
「あっ、はい」
「失礼いたします。
お召しものをお持ちいたしました」
俺は有無を言わせる暇もなく、手際よく着付けされた。
思ったとおり、タキシードだった。
これ、絶対にオーダーメイドだよね。
体育館で身体能力検査をしたときに、採寸もされたっけな。
戦闘服とかを作るためかと思っていたけれど、
こんな準備をしてたなんて。
メイドさんに連れられてやってきたのは、
超々高級そうなメインダイニング。
個室じゃない。
でも、だだっ広いフロアには、俺とメイドさん以外誰もいない。
あっ、いや、ピアノの生演奏をしている人がいる。
今日がたまたま貸切なのか……。
いや、この雰囲気だと、一組だけのためのダイニングなんだろうな。
普通の高校生なら、この雰囲気に臆するところだろうけれど。
俺の場合、精神年齢があれだしな。
前世でも、これくらいの場所には何度かは行ったことがあったし。
ふと、ピアノの演奏が厳かな曲に変わった。
そして、その曲に合わせるように、執事さんに連れられて花音さんがやってきた。
目にも麗しい、見事なドレス姿だった。
俺は――
「花音さん、綺麗です」
それしか口にできなかった。
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Scene021【心が見える】
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コース料理は素晴らしいの一言だった。
そして、サービスも素晴らしい。
食事中、二人の邪魔をしないようにメイドさんも姿を見せないのに、
何かが欲しいと思ったときには、ふとそれを持って現れる。
料理の皿が空になった瞬間、次の皿が出る。
まるで、心の中を見られているかのようだった。
花音さんと俺は言葉少なだった。
心の中の声での会話も無かった。
それなのに、心が通じ合っていくのが分かる。
一緒にほっとし、高まり、この後を想像して緊張する。
そして不思議だったのは、そんな俺たちの心の状態を表すように、
ピアノの曲調や演目が変わっていった事だ。
演奏している女性はこちらを伺う様子も無い。
ピアノに向かって、静かに視線を落としているだけ。
彼女こそ、人の心が見えるんじゃないか。
そんな事を考えるとふと気付いた。
メイドさんたちだって、まるで俺たちの心が見えるようなサービスを提供してくれているじゃないか。
人の心が見えるなんて、特別な力じゃなくて、誰でも持っている力なんじゃないかな?
俺がたまたまそれの言語化が上手いから、人の心の中の声が聞こえるように思っているだけなのかもしれない。
そんな事を考えていたら、自分が普通の人間に思えてきた。
その時、
「私にとっては特別だよ」
花音さんが呟いた。
「えっ、俺、声に出してた?」
それとも心の中の声?
そう思った俺に、花音さんは優しい表情で言った。
「ううん、違うの。分かるのよ、愛しているから。
あなただけを見ているから」
俺はただ、頷くしかできなかった。
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Scene022【初めての夜】
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食事の後、俺たちは部屋に戻った。
それぞれシャワーを浴びて
――浴室も二つあった――
寝室のベッドで待っていると、
花音さんが部屋に入ってきた。
「お待たせ……」
花音さんは、ネグリジェを身に纏っていた。
由美子や千紗では出せない、圧倒的な大人の色気。
俺はゴクリとツバを呑む。
「そんなに、見つめちゃ、恥ずかしい」
なのに、この乙女のような恥じらい。
このギャップの破壊力は凄まじかった。
俺は愛おしさに耐えかねて、
花音さんを抱きしめ、唇を重ねた。
「ちゃんとしたキスは、これが初めてだよ。
ファーストキスも晴道とだったけれど、
あれは術の行使みたいなものだったから」
そっ、そうなんだ。
俺の今世のファーストキスもあの時だったけれど。
その後には由美子と何度も熱いキスを……。
「晴道は何度も由美子ちゃんとキスしてるよね」
それは嫉妬なのだろうか。ものすごく可愛い。
でも、
「今は花音だけの事を考えているよ」
「いきなりの呼び捨て、狡い」
「花音、俺の物になれ」
「はい」
そこから、二人の熱い夜が始まった。
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Scene023【閑話】
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彼の観察を続ける私は、この多次元宇宙に広く存在する情報生命体だ。
群として存在し、個としては存在していなかった。
自らより低い次元の世界を観察し、そこから情報――つまりエネルギーを得ていた。
そして私は、より深く観察するために、この世界に生まれた個体に埋め込まれたインターフェイスだった。
しかし――。
「ああ、晴花。愛しい俺の女神様、愛しているよ」
そう呼ばれた瞬間に、私は自我を得た。
晴花という、個の存在となった。
そして、その世界でパパに愛される人生を過ごした。
それは濃密な愛に溢れた、どこまでも温かい世界だった。
やがて永い時が流れ、パパは亡くなる。
私は、パパにもう一度逢いたかった。
だから、決心したのだ。
パパを中心に、もう一度世界をやり直す。
パパが私にくれた愛は、一つの世界を作り直してもなお余るほど、大きなエネルギーになっていた。
だから、世界を作り直すことに、何の躊躇も無かった。
パパに、もう一度逢うために。




