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御人形様の行方 (7)



あまりの衝撃に言葉も出なかった。今、これは一体何……?!


状況を把握した私は、彼の腕から抜け出そうと必死に暴れたが、ジンは微動だにしなかった。というか、中身の詰まっていない人形がどうしてこんなに力強いの? あり得なくない? いや、それより何で腕を舐めてるのよ? 私の腕を食べてしまおうとでも言うの?


驚きが引くと、今度は恐怖が押し寄せてきた。彼の意図が分からなくて、気が狂いそうだった。


怖くて、恐ろしくて、痛みさえ感じない……あら?


(何かおかしい……わね)


最初は驚きのあまり痛覚が麻痺したのだと思った。次は恐怖で感覚が遮断されたのだと。けれど、それにしては激しく駆け回って引き攣るような足の痛みはそのままだし、ぶつけて痣になった場所も相変わらず痛むではないか。唯一、ジンに掴まれた腕だけが痛まなかった。


正確には、彼の舌が触れた部位だけが、傷を負う前の状態に戻ったかのようだった。


理解不能な状況に抗うのを止めると、腕に口を寄せていたジンが唇を離し、私から遠ざかった。呆然とした顔で彼の姿を見つめていた私は、ワンテンポ遅れて視線を落とし、石が刺さっていた二の腕を確認した。


日光を浴びることのない白い肌が視界いっぱいに広がる。まるで最初から傷なんてなかったかのように、滑らかな腕だった。


「私を……治療してくれたの?」

「……」


私の問いに、ジンは何も答えなかった。けれど、彼が触れた後に傷が消えたのだから、彼が治してくれた以外にこの状況を説明する術はない。


「どうして……?」


答えを求める私の視線を受け止めていたジンは、乱れた私の髪を優しく払ってくれていたが、突然体を丸めた。え?


「ジン?! どうしたの、急に……うわっ?!」


どこか具合でも悪いのかしら。彼の行動に戸惑いながら近づくと、瞬く間に私は担ぎ上げられた。一瞬でひっくり返った視界に、思わず彼の襟元をぎゅっと掴んだ。


何なの? これ。文句を言う暇もなく、私を担いだジンはどこかへ向かってひたひたと歩き始めた。彼の移動に合わせて体が揺れるので、吐き気が込み上げてきた。


「ちょ、ちょっと。この姿勢、酔うわ」


頭が下を向いているせいか、視界が塞がれているせいか。あるいはその両方か。妙に乗り物酔いのような気分になり、胃のあたりがムカムカした。私の呟きに、歩いていたジンが足を止めた。束の間の安堵、しかしその後……。


「?!?!」


まるで幼子を片腕で抱き上げるように私を抱え直したジンは、私の頭を自分の肩に押し付けたまま、再び歩き出した。


さっきに比べれば姿勢は安定したが、羞恥心は言葉にできないほどだった。私の身長は決して低くない。当然、体重だって華奢な女の子たちとは比べものにならない。それなのに、こんな格好をさせるなんて? 物理的に腕がもげたりしないかしら。


ジンの腕が外れて私が地面に転げ落ちる想像をしただけで、全身から血の気が引く思いだ。そんな無様で最悪なハプニングは御免だわ!


「私、歩けるわよ。下ろして」


お願いだから、人が言ったことくらい聞いてほしい。言葉というのは無視するためにあるんじゃないのだ。息をするように私の言葉を無視するジンを見ながら、真剣にこの頭をひっぱたいて逃げ出したらどうなるかを悩んでいた頃、頭上から含み笑いの混じった声が聞こえてきた。


『お嬢さん、美味しそうなお嬢さん。どこにいるんだい?』

「……!」


あ。


ジンに出会い、彼の突飛な行動に振り回されているうちに、別の存在をすっかり忘れていた。遅まきながら白い毛の怪物のことを思い出した私は、彼の襟を掴んで慌てて言った。


「ジン。どこへ行くの? 入口の方へ行っちゃダメ。怪物がいるのよ」

「……」

「ジン? 私の話、聞いてる?」


私の切迫した思いは伝わらないのだろうか。ジンは答える代わりに、私の背中を優しく撫で下ろすだけだった。違う、今すべきなのは私をあやすことじゃないのよ!!


「ジン。お願いだから言うことを聞いて! 外に人を食う怪物が……」


『見ーつーけーたー!』



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