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御人形様の行方 (4)



一番いいのは、おじいさんを絶壁の洞窟の方へ放り投げ、物理的に閉じ込めることだろう。いくら私に力があるといっても、自分より背の高いおじいさんを絶壁にある洞窟へ投げ入れるなんて、不可能に近い。


もう少し考える時間があればいいのだが、白い毛の怪物は待ってくれるタイプの悪役ではないらしく、おじいさんを操って私に攻撃を仕掛けてきた。


おじいさんの攻撃を避けながら思考を巡らせる。どうすればいいかしら。木に縛り付けでもすればいい? 下りていって、警察の人たちと協力する方がマシかしら。


タイミングよく、今のこの村には警察官がたくさんいる。警察なら、あの怪物相手に戦えるだろうか。攻撃が速くない分、あれこれと仮説を立てる余裕はあった。


しかし、スタミナが無限のおじいさんに比べ、私には体力の限界がある。あまりのんびりしてはいられない。


できるだけこの怪物を警察署まで誘導して処理するのが最善の策だと判断し、決行しようとしたその瞬間だった。


「……えっ?」


さっきまでノロノロ動いていたおじいさんの動きを、どうしても振り切ることができなかった。


おじいさんが速くなったわけではない。なぜか、体がうまく動かないのだ。困惑して視線を落とし、自分の体と周囲を確認した。目に見えるものは何もない。


けれど、遠くない木々の間に、うっすらと雪が積もっているのが見えた。


(あ……)


この間抜け! おじいさんに繋がっていた毛が不透明な白だったから、私は当然、怪物が操る毛は不透明なものだと思い込み、白い毛がないか注意して避けていた。


けれど、違ったのだ。奴は毛の色を自在に操れるらしい。


周囲に張り巡らされていた透明な毛が、いつの間にか私の体を絡め取っていたようだった。私がそれを認識すると同時に、体を引っ張る力が鮮明に感じられた。そして、木の上にいた怪物が、ゆっくりと木を下り始めた。


重い何かが雪に覆われた地面を踏みしめる音が、耳元に生々しく響いた。


(この、くそったれ……!)


自分なりに注意していたつもりだったのに。殺人犯の時もそう、今もそう。どうしてこう、あと一歩が足りないのか。後悔しても始まらないとわかっていながらも、自分自身への罵倒が口を突いて出た。毛が体を圧迫していても、まだ動くことはできる。けれど、これ以上毛にまとわりつかれたら厄介だ。焦りでうまく回らない頭を無理やり働かせた。どうすればいい? この毛は切れるものなの?


(いや、毛を切ったとしても、私一人で勝てる相手じゃないわ。助けを呼ぶ時間が必要よ。そのためには……)


深く深呼吸をしながら、私は近づいてくるおじいさんと怪物を注視した。 二人は私が袋の鼠だと確信しているのか、非常に悠々と近づいてきていた。ええ、私も油断したのだから、あんたたちも油断するのが公平ってものでしょ。私は二人を避け、少しずつ絶壁の方へと近づいた。大丈夫。できるわ。


一歩、二歩。私が遠ざかる分だけ近づいてくる怪物たちは、口が裂けそうなほど笑っていた。引き吊るほど吊り上がった口角のせいで、不気味さが一層際立っていた。


(いいわ、そうやって笑ってなさい。大人しくやられてあげるつもりなんてないから)


目標としていた位置まで辿り着くと、私は心を決めた。もう少し近づいて。そう、もう少し……。


(今よ!)


私は隠し持っていた荷物を、白い毛の怪物に向けて投げつけた。そしておじいさんにも、残った荷物を投げつける。軽いとはいえ嵩張るものなので、視界が遮られるはずだ。怪物は素早く避けたが、おじいさんは避けきれず怪物の方へなだれ込んだ。


ボウリングのピンのように転がる二人を眺める暇もなく、私は体を翻して脚に力を込め、絶壁を駆け抜けた。


刹那の瞬間、すべての内臓が引きずり下ろされるような、おぞましい浮遊感が押し寄せた。お願い、落ちないで。どうか洞窟に届いて。数秒の間に、どれほど強烈に祈ったかわからない。私の祈りが天に届いたのか、宙に浮いていた体は冷たい水ではなく、固い床に触れた。


しかも着地まで映画のように完璧だった。ここまでは想定内。けれど、予想外のことが起きてしまった。


「うっ、わぁっ?!」


すべてはこの雪が問題だ。この雪さえ降らなければ、窓を開けることもなく、サイコパスな殺人犯を家に招き入れることもなく、人形が動くのを見ることもなく、こんな怪物と死闘を繰り広げることもなかったはずなのに。


平坦な地面、あるいは岩場だろうという私の予想とは裏腹に、洞窟の入り口はとんでもなく滑りやすい氷の状態だった。泣きっ面に蜂とはこのことで、急勾配な斜面というオプションまで付いた洞窟だったのだ。それを知る由もない私は、当然の帰結として氷に足を滑らせ、凄まじい速度で洞窟の中を転がり落ちることになった。


「う、ああっ……」


意識だけは失ってはいけないという一心で頭を抱えたのは、不幸中の幸いだった。舗装などされていない硬い地面に全身を擦りつけ、ぶつけて痛みが走る。どこが上で下がわからないほどの目眩が治まると、ようやく目を開けることができた。


ふらふらと立ち上がると、深酒をして記憶が飛んだ翌日のように吐き気が込み上げ、動くのが困難だった。眉をひそめ、体の状態をチェックする。動くたびに痛みはあるが、体は動く。どこも折れてはいないようだ。不幸中の幸いというべきか。


「かなり深く入ったみたいだけど……追ってくるかしら?」


死ぬほど痛いけれど、奴らを素早く振り切れたのなら、耐えられる苦痛だ。できるだけ前向きに思考を続け、次にすべきことを思い出し、懐からスマートフォンを取り出した。


「圏外じゃないわよね……?」


まさか、そんなつまらないことが起きるわけ……。不安を覚えながらスマホを確認すると、幸いにも圏内という表示が出ていた。呼出音が、光一つない暗い洞窟の中に、おぞましく響き渡った。

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