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御人形様と規則、そして対価 (1)


七瀬巡査は言った。私に言ったことはすべて嘘だと。


だとしたら、別棟の明かりは何だったのか?

七瀬巡査はなぜ、嘘までついて家に入ってきたのか?

そもそも、目の前のこの男は本当に警察官なのだろうか?


数多くの疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡った。


警戒していなかったわけではない。

普段の私なら、たとえどんなに言葉を尽くされても、真夜中に男を家に入れるような真似はしなかったはずだ。

けれど、別棟で不審な光を見て、タイミングよく現れた巡査の姿に、つい油断してしまった。


今さら悔やんでも遅すぎる。それでも後悔せずにはいられないのが、人間の本能なのだろうか。


問いと後悔、そして恐怖が思考を妨げていた。私は乾いた唾を飲み込み、頭に浮かぶすべての疑問を隅へと追いやって、素早く思考を繋げた。


(七瀬はすでに家に入り込んでしまった。脱出路である玄関は彼が塞いでいる。だとしたら、私は何をすべき?)


彼は私に好意的な人物ではない。けれど、言葉は通じる。


指先が冷たくなり、背中を冷や汗が伝う。私はそれを悟られないよう、彼に合わせて微笑みながら尋ねた。


「巡査さんも冗談がお上手ですね……何を仰ってるんですか。他ならぬ巡査さんなのに、家にお招きしないわけがないじゃないですか」

「それはそうですね。警察官というのは実に便利な職業です。いくら警戒心の強い女性でも、警察だと言って制服を着ていれば、安心していつでもドアを開けてくれますから」


可笑しくてたまらないと言わんばかりに一歩近づいてきた男から、私は一歩遠ざかる。短い会話だったが、彼がこうした行為を何度も繰り返してきたことは容易に想像できた。いくら彼が警察官だとしても、こんなことが何度も許されるはずがない。


(くそっ、このご時世に警察を騙る人間が実在するなんて)


彼は半年ほど前にここへ来た。

だとしたら、本来ここにいたはずの巡査はどうなったのか。不吉な予感に心が折れそうになる。私は再び強く自分を律した。


目の前の男にどんな意図があるのかは分からない。けれど、会話が通じるなら時間を稼ぐことはできるはずだ。


「私への言葉は嘘だったと仰いましたね。本当に、嘘なんですか?」

「ええ。そもそも、こんな山奥の村に不審な人物が入り込むことなんて、滅多にないでしょう?」


(あんたは入り込んでるけどね)


喉元まで出かかった皮肉を飲み込み、言葉を継いだ。


「滅多にないとしても、別棟に明かりが点いたのは事実です。確認しに行かなくていいんですか?」

「私が? なぜ?」

「それは……」

「別棟に入ったのなら、せいぜい人形泥棒でしょう。この家の人形は、かなり高価そうですから。そんな連中は相手にする必要はありません。母屋に来るほどの度胸はありませんから」


確信に満ちた物言いから察するに、犯罪者同士通じ合うものでもあるのだろうか。話し終えた彼が、さらにもう一歩近づいてくる。


両親は私のメッセージを見ただろうか?

今、こちらに向かってくれているだろうか?

警察に通報はしてくれただろうか?


松山からいくら急いで車を飛ばしても、ここまでは二時間はかかる。その間、私がこの男を食い止め……。


(しっかりして、雪奈! 虎の穴に入らずんば虎子を得ず……いや、窮鼠猫を噛む、よ!)


目の前にいるのがサイコパスの殺人鬼だとしても、気を確かに持てば生き残れる。精神を研ぎ澄ませた私は、冷静さを保つよう努めながら男との会話を反芻した。助けてくれる人が誰もいないと分かっているせいか、彼は対話を続けることに拒否感がないようだった。まずは会話を続けなければならない。彼の注意を引くんだ。武器は……。


(ソファの横)


自然に、極めて自然に彼をソファへと誘導する。そしてすぐに杖を振り下ろすんだ。できるわ、雪奈。あんたならできる。


「あんなに大きな人形を持ち出されたら、お年寄りの皆さんが心配するんじゃないですか? 巡査さんの所へ相談に行くかもしれませんよ」

「心配いりませんよ。私は巡回中だったんですから」

「そうですか。それなら良かったです。……ところで、今さらですけど、私の家に何をしに来たんですか?」


余裕があるふりをして腕を組み、小首をかしげて彼を見つめた。彼は答えた。


「それはもちろん、雪奈さんに会うためですよ」

「私に? こんな夜更けに?」

「こんな夜更けに来なければ、周囲の邪魔が入るでしょう? この村の年寄りどもは朝から晩まで際限なく歩き回りますが、深夜だけは大人しくなりますからね」

「ふーん。私をどうするつもりですか? あなたは警察官でしょう。同意もなく人の家に入るのは問題じゃないですか?」

「おや? まだ私のことを巡査だと思っているのですか? それほど察しの悪い方ではないでしょうに」

「もちろん、違うだろうとは思っていましたよ。だから鎌をかけたんです。……で、あなたは巡査じゃなくて何者なんですか? 元々ここにいたはずの巡査さんはどこにいるんですか?」

「あはは、鎌をかけたんですか。雪奈さんがお知りになりたいというのなら、教えて差し上げなければ」

「あら、お優しいですね。それで? 前の巡査さんはどこにいるんですか?」

「駐在所のキッチンですよ」


あまりにも自然に返されたその答えに、私は思わず体が硬直した。キッチンにいるということは……その言葉の意味するところは……。

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