第61話:夏休みのちょっと前
「で、敗退したと」
「そういうことになる」
これというのも貴様が……云々。バスケ部のエース、真盛先輩が俺に愚痴っていた。何がと言われると地区予選。もちろん俺の知ったこっちゃなかったが、普通に決勝リーグに行けなかったらしい。散々入部をすすめられていたが、途中でさっぱり話が来なくなって不思議にだったが、地区予選で負けたようだ。で、真盛先輩はバスケ部を卒業。ひと夏のアバンチュールも受験勉強で潰れるとのこと。
「へー」
他に言いようもなかった。そうして期末テストの答案用紙も帰ってきて。俺は学年一位。特進クラスも含めてだ。いきなり転校してきて嵐のように色々とやっている俺を、面白くない目で見る男子も多く。
愚痴るだけ愚痴って帰っていった真盛先輩にヒラヒラと手を振る。そうして今日の課題を解こうとしていると。
「ネバダ」
隣の席の相手が俺を呼ぶ。砂漠谷エリと呼ばれる美少女だ。
「何か?」
「放課後デートしない?」
「構いはしないが」
大体いつもはアキラやカーマとデートするのだが。あんまりエリ単独で、というのは珍しいかもしれない。今日のエリはスクール水着を着ており、胸元のネーム欄に「えり」と書かれている名前。だがそもそもHカップの爆乳がスクール水着に収まるわけも無く。色々と胸元の状況が溢れんばかりにパッツンパッツンだ。さすがにその胸の大きさでスクール水着は無理があると思う。
そうして授業が始まって、夏休みまであと幾日。今日は部活休みます、と安藤先輩に連絡を入れて。スクール水着姿のエリと街に出る。文芸部室に集まったアキラとカーマも、俺の不在は安藤先輩から聞くだろう。
「ネバダと二人きりっていうのもいいね」
「いつもは俺のデートの邪魔をするもんな」
「愛してるから。ネバダのこと」
「そりゃ光栄で」
「どこ行く? 何する?」
「どこでも構わんと言えば構わんのだが」
「ゲームセンターとか?」
「ゲームか」
「そういえばネバダはゲームしないよね」
「昔から苦手でなぁ」
あのチマチマした操作がとても性に合わない。
「でも最近のゲームは初心者にも楽しめるように出来てるから。行ってみない?」
「エリが楽しめるなら俺はもちろんいいんだが」
「じゃあ決まり。行こ?」
ってなわけで、連れられるようにエリとゲームセンターに足を運んだ。
「よ、ほ、ほ」
最初は二階で格ゲー。思ったよりエリは上手く、コンボを決めてあっさりと相手を下していた。フレーム単位で判断してるのでは、と思わせる反射神経だったが、実際にその通りなのだろう。これで相手の動作が見えれば俺の却下ン視も機能するのだがゲーム画面だけを見ると予測は立たない。とは言ってもだ。ゲームはプレイすることに意味があり。つまり勝つとか負けるとかはどうでもいい、はずなのだが。
「クキーッ!」
俺はムキになって連コイン。だが負けた。
「畜生。嫌いだ。ゲームなんて」
「ネバダにもできないことってあったんだね」
「むしろできないことだらけだ」
「じゃあ仇は取るよ」
そんなわけでエリがコイン投入。そうして対戦相手をボッコボコにして決着を見る。
「どういう動体視力をしてるんだ?」
「ネバダがそれを言う?」
「俺のは予測だから」
反射神経が発達しているわけではない。そうして次はシューティング。こっちはそこそこできた。安全地帯を割り出すのは簡単なのだが、コントローラーの扱いが上手くない。アボーンと操作機体が撃墜される。
「うーがー」
「あっはっは。修行が足りないよ。ネバダ」
ゲームには修業がいるのか。それは知らなかった。別の格ゲー。アクション。ガンアダムのゲームなど、そこそこ遊んで時間を潰す。
「いい時間だな」
「じゃあ最後にプリクラ撮ろっか」
「お前は写真に写るのか?」
「写るよ? ただボクの画像は誰も認識しないけど」
「難儀な呪いだな」
「まぁ自覚しているし。でもボクとネバダにだけは見えるんだし。ソレでよくない?」
否定も難しい。
「じゃあラブラブモードで」
「ラブラブなのか?」
「はーい。そこに疑問を持たない」
そうして被写体の俺とエリが並んで。何をするのかと思えば。
「まずは二人の手でハートを作ってください」
プリクラから指示が下りる。
「ハートって……ハートか?」
「ほら♡ やるよネバダ」
親指を下方に伸ばし残り四本の指を弧を描くように曲げる。その俺とエリの手でハートマークを作った。パシャッと写真が撮られる。
「思ったより恥ずいな」
「まだまだ♡ これから」
次はハグを求められた。
「ハグ……ですか」
「ギュッてして♡ ネバダ……」
言われるがままに俺はエリを抱きしめて、そのまま写真に写る。こういうことがプリクラで要求されるのか。ミリしらなので全く想定外だった。おそらくラブラブモードが起因しているのだろうが。最後はキスを要求された。そのキスを写真に残せと。俺がちょっと困惑していると、エリの方からおねだりしてきて唇を重ねる。そうしてカメラに見せつけて撮影は終わった。
「わー。素敵だよ」
写真が出来上がって。嬉しそうにキラキラした瞳で実物を見るエリ。俺とエリがハートマークを作って、ハグして、キスした写真がそのままシールになっていた。
「はい。半分こ」
置いてあるハサミで半分に切って、片方を俺に渡してくる。受け取らないのも無粋かと、一応俺は受け取ったが、そもそもどうやって利用すればいいんだ。ううむ。
「ゲームセンターも面白いでしょ?」
「というかゲームが面白いな」
こういう娯楽には興味が薄かったが、損した気分。
「えへへ。じゃあまた来ようね」
「そうだな。また来よう」
それだけ約束して、俺たちは帰路についた。向かう先は一緒で。つまり俺のマンション。どっちにしろエリは家にいても親からスルーされるので、居心地の良さは構ってくれる俺の家の方が高いらしい。
「せーんぱい。お帰りなさい。どこ行ってたんですか?」
ゲームセンター。嘘じゃないぞ。一人じゃなかったが。




