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第19話:高嶺の唯華は悪くない人


「ほい。入部試験の小説」


 で、まぁA四用紙四十枚ちょっとの自作小説を書いて、俺は高嶺の唯華に手渡した。


「プロットを作ったのがアキラ。執筆したのが俺。なわけで今回は合作だ。べつにいいだろ。一人三万字とは指定されなかったし」


「……構わない」


 そうして分厚い紙の束を受け取って、彼女はあっさりとそう言った。


「ちなみに面白くなかったら入部拒否か?」


「……前も言った。……斟酌はする。……三万字書いただけで……君は偉い」


「そりゃどうも」


「……はい」


 で、渡されたのは文芸部のルールの紙だった。コレを渡されたということは、つまり入部は許可されて。週に一回は部室に顔を出すこと。最後に部屋を出る人が施錠して職員室に鍵を返す。安藤レアス先輩の作品を呼んで容赦のない批評をすること。などなど。微妙に私情の入ったルールを提示された。まぁ別に批評をするのはいいんだが。


「もしかしてプロの作家目指していたり?」


「……笑う?」


「いや。笑うところでもないだろ」


 何にもおかしくないわけで。


「……じゃあ今日からよろしく」


「さっさーい」


 後は、アキラとエリと、一緒に本を読むだけの生活。最近の俺はネット小説読んでるけど。


「じゃあ入部は認められたんですね?」


「そういうことになるのかね?」


 部活のルール表はアキラにも渡しており、熟読するようにとお触れを出した。


「で、なんでネバダくんは文芸部に?」


「文芸が好きだからだな」


「バスケット……カッコいいのに」


「一人でやるスポーツならまだしもなぁ」


「陸上とか……テニス?」


「まぁありっちゃありだがバスケほどは上手くないぞ」


「上手い自信はあったんだ」


「そこそこやって誰でも到達できるレベルだがな」


「ダンクは出来ないと思うけど」


 たしかに。


「ちなみに安藤先輩狙いってことはないよね?」


 一気にアキラの瞳が淀んだ。


「だから転校してきたばかりで学校のこと知らないって。安藤先輩についてもあの時に部室にお邪魔して初めて知ったレベルだぞ」


「好きになっちゃダメだよ?」


「さて。ロマンスの神様に聞いてくれ」


 で、二人でペチャクチャ話していると。


「アキラせんぱーい!」


 須藤さんが現れた。キラキラした瞳でアキラを見る。


「今日一緒に御飯にしません?」


「私はネバダくんと食べるから」


「ネバダ先輩は性欲の塊ですよー。近づかない方がいいですってー」


 言うに事欠いてこいつ……。


「何か用ですか」


「実はー、ちょっとアキラ先輩のこといいなーってー」


「百合か?」


「ネバダ先輩鋭い! 百合かもです」


 女の子同士の恋愛を指すのだが、まぁそんなことは今更か。


「アキラ先輩的に百合ってどうですー?」


「あながち嫌いな属性ではありませんけど……」


「ちょっと背徳的でそそられますよねー? あ、なわけで百合に挟まれる男は死刑ですのでネバダ先輩はさようなら~」


「じゃあな」


 俺は昼休み。購買部でパンを買って、部室に顔を出した。飲食は基本禁止されていない。


「…………」


 その部室。普通に高嶺の唯華……安藤レアス先輩がいて。設置されているパソコンに向かてカタカタとキーボードを打っていた。プロの作家になりたい、か。普通に給料をもらうより、自分の力で輝きたい。そんな人間が眩しいというのは俺の中にあって。


「失礼します」


 俺はパンを食いながら、席の一つに腰を落とした。本を持ち歩いていないので、スマホでネット小説を読む。グダグダと長い内容を端的に表した小説がランキングに上がる。その事に対して否定の気持ちは湧きあがらない。ラノベ業界を嘆く声はネットにも挙がっているが、実際に転プラとかは、そんなタイトルでビッグコンテンツになっているのだから、市場的にはむしろ正解。進化と発展という意味では、今までのイメージがつかめない端的なタイトルを付けていた古典的ラノベの方が遅れているとさえ感じる。否定ではないぞ。どちらも正解だが、好みとして長くて内容を表わしているタイトルの方が、購入する際に俺が助かるってだけ。


「……何読んでるの?」


 焼きそばパンをムシャムシャ食べながら、スマホを弄っていると、安藤先輩が声をかけてくる。一応俺は認知されているわけだ。


「俺霊感あるんだけど、ドルオタの霊に憑依されてオタ芸が超絶上手くなったらアイドルと関係してしまった件……っていう小説」


「……面白いよね」


「いや、さっき読み始めたばかりだから」


「……面白いよ」


 週間ランキングに乗ってるんだから、そりゃ面白いんだろうけど。


「もしかして安藤先輩もネット小説を上げていたり?」


「……うん。……まぁ」


「へー」


 とか言いつつ、アカウントを聞いたりはしない。相手が教えてくれるなら、否やはないが。


「俺とアキラの合作小説は呼んだのか?」


「……面白かった」


「そりゃ重畳」


「……お世辞じゃないよ」


「なお重畳」


「……ネット小説……人気出なくて」


「悩んでいる……と」


「……うん……才能……ないのかな」


「それは才能を全部消費してから言った方がいいな」


「……才能を……消費」


「アンパンをモチーフにしたヒーローの作者が大ブレイクしたのが何歳なのか。ネットで調べれば出てくるぞ。高校生くらいで夢に懐疑的になるのは見切りが早すぎると思うけどな」


 俺にしてみれば夢中になれるものがあれば、それだけで十分な気がする。小説を書いても、スポーツに邁進しても、ゲームが得意でも、ソレを楽しめる何かがあればそれで充分。特に昨今は娯楽を見つけやすいので、何を楽しんでもいいのだ。クリエイターと消費者の間に優劣はないと思っている。血反吐吐いて書いた小説を、読者の方もキラキラした瞳で見ているのだから。たまにネット社会の歪で、心無い言葉を送ってくださる読者もいたりするが。声の大きい否定者というのは、俺もあんまり好きにはなれない。


「な、わけで、アンパンヒーローの作者のブレイク年齢を調べてから、もう一度仰ってみてくださいね」


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