10 リーシアの姉
エルフの里へと入った私達は、早速その長の下に案内されました。
その道すがらに、リーシアさんの2人の妹には自己紹介しておきました。まぁ、2人とも若干距離取ってました。私のスキルは危険だししょうがないけどね。
「おぉ、リーシアか。嫁は良いのか?」
「ふぇ? あ〜しまった。そう言って出てーーあ、あはは。ミレアさん、尻尾下ろしてください。どうどう」
いったいどんな理由で私の所に来たのやら……何て事を言っていたのですか。尻尾を使ったご自慢のお仕置きでもと思ったけれど、今はそんなどころじゃないので、後にしますか。
エルフの里長は男性エルフで、想像していたお爺さんみたいな容姿じゃなくて、もっと若い、中年くらいの男性でした。顔のシワはあるし、髪も短くて白いけれど、目はキリッと眼力あるから強そうな雰囲気があるよ。
「それで、今どういう状況なのですか? こっちの木々達が……」
とにかく状況が状況なので、リーシアさんが里長に現状を聞いている。
「うむ。実はヤクシーの奴が活発化しており、その影響で、最近復活したデイライト・ハイダークエルフ達が、こちらの木々に厄花毒を仕込み、自らのテリトリーを広げて来ているのだ」
「そ、そんな……あ、最近復活したのは、ルリアさんの影響でしょうし、そこは仕方ないのですが、昔からお互いに一線を引いて、上手く距離を作っていたのに……ヤクシーが暴走しているから、ですか?」
「そうだな。その暴走の原因が分からんし、調べようにもダークエルフ達の方が強い。お主ら王家の者が居るとしても、攻めには力不足だ」
守りは今のところ、レミちゃんとアイミールーちゃんで何とかしているみたいで、意外とこの2人もリーシアさんに負けず劣らずの実力を持っているみたい。
それでも、向こうに攻め入って原因を探るには、力不足ということか。
「お父様、エルフ国の首都に援軍要請はしていますが……いつ来るかハッキリしたところは分からないです。急務な事だとは言っていましたが、エルフ国は他にも問題を抱えているので……」
そうアイミールーちゃんが申し訳なさそうに言うけれど、別にそこは彼女のせいではないので、リーシアさんが優しく頭を撫でながらなだめている。
「アイミーはちゃんとやってくれたから大丈夫だよ」
「ね、姉さん……皆見て、うぅ……」
恥ずかしそうにして顔が真っ赤になっちゃっているよ。
さて。とりあえず、私達がやる事は。
『私達が、そのヤクシーと接触した方が良いですね』
「ん? おぉ、やってくれるのか? ありがたい」
そのつもりでギルドにも要請したのでしょうからね。エルフ国の援軍も来るだろうけれど、事態は割と一刻を争うような状態だから、早めに動かないと。
「姉さん。戦闘にもなりそうなので、私達も一緒にーー」
「うん、ありがとう。大丈夫よ。ミレアさんが居るからね」
姉想いな発言をアイミールーちゃんがしたのに、リーシアさんはしれっとそんな事を言うものだから、ちょっとムスッとしているじゃないか。妹想いな姉なのは分かっているみたいだけれど、それでも力になりたかったのだろう。
「待ってそんな……。姉さん、ミレアさん! 後ろ!」
すると突然、アイミールーちゃんがハッとした様子で私達の後ろを見て叫ぶ。
「よっしゃ! こっちの木々達も傀儡にしたから、余裕で侵入出来た。というわけで、お前等エルフの時代は終わりよ!」
そう叫ぶ前に攻撃したら良いのに。
弓を持っていたから、矢を構えての時間もいるとは思うし、その矢じりから物凄い熱量の光も発しているから、恐らくその一発でこの里も終わりって事になるのだろうけれど……。
「あ〜後ろの人の、うっかり力流し過ぎて暴発しちゃったね」
「え? はっ? ちょっ、なんか必要以上に魔力が……あぁぁ……ちょちょちょ、これ以上はぁ!!!! きゃぁぁああ!!」
「うわっ、おま……ぁぁああ!!」
「ぎゃぁぁああ!!」
次の瞬間、その場で大爆発です。
ちなみに、更に数人いたようで、複数人の悲鳴が聞こえてきましたね。この里の人じゃないよね?
「もう……ミレアさん。もうちょっと良い避け方はなかったのですか?」
『ごめんごめん。もう放つ寸前だったし、咄嗟に浮かんだのこれしかなかったよ。いかんせん、私は言ったことが反転しちゃうから、喋るのにワンクッションいるんだよね』
そう考えると、私って奇襲とかに非常に弱いのかも。よく今の対処出来たなって思っちゃうよ。
爆発の影響はこっちにも来ているけれど、リーシアさんの魔法壁で難なく無事です。
それと、後ろを振り向いて確認したら、巻き込まれたのは全員がダークエルフでした。当然男性もいて、身の丈程の大剣を持っている奴もいたよ。全員チリチリ頭で、口からポフっと煙出してるけど。どこのギャグ漫画ですか? これ。
「うんうん。ミレア、お前この世界では最強なんじゃないのか?」
『止めて下さい、エデン君。割と弱点とか目白押しですからね』
あ〜それと、この里の人達皆呆然としちゃっているね。仕方ないか。
『攻めて来られたのはショックだろうけれど、今はとにかく防備を固めてーー』
すると、里長からとんでもない発言が飛び出してきた。
「いや、そのじゃ……さっきの、弓持っている女性じゃが……デイライト・ハイダークエルフ国の第二王女、国軍部隊総隊長のエレーネルド=グレイシャじゃ……」
「はい?」
あれ、もしかしてもなく……国じゃなくて、こんな里の方に最大火力をぶつけてきたわけ? あ、つまりこの里の近辺に、例の八聖神のシシが居るって事にならない? そうじゃなければ、そんな人達が攻めて来る理由なんて……。
「…………」
リーシアさんが黙っちゃっている所を見ると、それ以外もありそうです。どっちにしても、今その人達は気絶して倒れているので、縄で縛っておきましょうか。
「お、おぉ……捕まえるのか? 国家間の問題に……」
『いやいや、攻めて来られているじゃん。既にその問題になっているよ。そもそも、今に始まった事じゃなさそうだけどね』
手頃な縄ならいつも持参しているし、それで攻めて来た人達を縛っているけれど、里長はちょっと困っているような顔だね。だけど、さっき言った通りなんだよ。
『リーシアさん。まだ私はそこまで詳しくは聞いていなかったね。ダークエルフの国との事、何があったっていうの?』
「う……まさか、こんな事になっているなんて……」
普段のおっとりしていて、ちょっとおっちょこちょいで緊張しがちなリーシアさんが、物凄い沈んだ顔をして、暗い表情をしているよ。
「我々もここまでとは思わなかった……失礼、リーシアのご友人の方々ですね。彼女は、例のグレイシャという女性と繋がりがあり、説明し辛い部分があるので、私の方から」
さっきまでの反応からして、恐らくそうだとは思っていたけれど、あんまり深く関わると、後々面倒くさそうな様子でもあるから、端的にお願いしたいところ……だったけれど。
「簡潔に言うと、グレイシャとリーシアは姉妹なのです」
めっちゃくちゃ深くて濃そうな血筋問題を、いきなり言ってくれたものだから、後戻りできなくなっちゃいました。だけど、ちょっと待ってよ。
『名前が全然違うよ』
「えぇ。実は我々エルフ族は、あまり戦いには関わらないようにと、魔王や魔族、更に人間達とも距離を取ってきました。何せ両者はよく争いますからね。そんな中、遥か昔にヤクシーが魔王側に付いたものだから、我々全てのエルフを戦力とみなし徴収しようとしていたのです。それを防ぐ為、人身御供として何人かの能あるエルフを差し出す事で、我々の里や国には侵攻しないと、そういう協定を結んだのです」
それが、例のダークエルフ誕生秘話というわけですか。あ、ということは……そのグレイシャという人は。
「彼女の本名はエルローブ=グレイシャ。十数年前に、ヤクシーに生け贄として捧げられた、リーシアの2つ上の姉だ。同じ母だからか、2人は仲がよかった。正直、生け贄に選ばれた時は、何かの冗談かと思った。王家も関係なく、能あるエルフを差し出すのか……とな」
ん〜そう聞くと、尚更この問題は根深すぎるね。ただ、その話を聞いて、珍しく私はイラッとしちゃいました。




