朝から
手を叩きながら、満面の笑みで部屋に入ってきたのは、ジョッシュさん。
「皆様、おはようございます!」
うん、朝から、すごい声量……。
「そこで少し聞かせていただきましたが、おもしろいお話をされておられますね!」
「立ち聞き? ジョッシュ、趣味が悪いわよ」
と、不満そうに言うアイシャ。
すると、ジョッシュさんは華やかに微笑んで言った。
「それは失礼いたしました。アイシャ様。ですが、あまりに奇妙なお話でしたので、つい、足が止まってしまいましてね。私は、この公爵家の別邸で住み込みで働かせていただいておりますが、初耳でしたよ。あの離れの話は」
「ほら、やっぱり、アイシャの嘘だろ。リリー」
と、ラルフ。
「え、でも、ラルフ、昨日より疲れた顔をしてるよ? ほんとに、何かに憑かれたとかない……?」
自分で言って、ぶるっとした。
「おい、なんでそうなる? アイシャの嘘にひっぱられすぎだろ、リリー……。俺の顔が疲れて見えるとしたら、ここへ来るまで色々ありすぎて、一気に疲れがでただけだ」
と、ため息をつきながら答えたラルフ。
すると、いきなり笑い出したジョッシュさん。
みんなの視線が集中する。
「これはこれは失礼しました……。社交界で大人気のラルフ様。ご令嬢たちに言い寄られても一刀両断と噂で聞いております。確かに、泣かせたご令嬢たちの生霊が憑いていそうですよねえ? それに比べて、ジョルジュ様は、告白どころか、むやみに令嬢を近づかせるような隙さえ与えませんから、さすがです!」
きらきらとした目で、ジョルジュさんを称えるジョッシュさん。
「おい、適当なことを言うな。ジョッシュ」
と、いらだった声をあげたラルフ。
「いえ、適当ではございません。その可能性は多いにあるかと。リリアンヌ様。令嬢の恨みを買うような、隙ありのラルフ様より、そんな心配がみじんもないジョルジュ様のほうが、断然おすすめでございます」
「は? 勝手にすすめるな。リリー、ジョッシュの言葉は聞かなくていい!」
すかさず、反論するラルフ。
「まあ、でも、一理あるわね。ラルフのファンの令嬢たちに妬まれて、リリー、よく睨まれているもの。その点、お兄様なら、令嬢たちも遠巻きで見るのが一番という感じだし、そういう心配はないわよね」
と、アイシャ。
「おい、アイシャ。リリーは、俺のせいで、にらまれているのか?」
ラルフの眼光が鋭くなる。
私はあわてて言った。
「にらまれるって言うか、見られてるだけだよ。ラルフかっこいいから、一緒にいると目立つしね」
「なんと、お優しいいリリアンヌ様! 令嬢たちからいじめられているにも関わらず、ラルフ様に気をつかわれるなんて……!」
「え? いや、いや、私、全くいじめられてませんよ、ジョッシュさん!?」
あわてて反論する私に、ジョッシュさんは、よくわからない笑みを浮かべて、うなずいた。
「そんな必死にかばわれて、お可哀想に、リリアンヌ様……。ですが、ジョルジュ様とご一緒になれば、令嬢たちは永遠に黙りますから。どうぞご安心を」
ん? 永遠に黙る?
そっちのほうが怖いんだけど……。
すると、ジョッシュさんは、はっとしたように言った。
「そうそう、リリアンヌ様。さっきのアイシャ様の話に戻りますが、離れに、何の不信なところもございません。それに、特別なお客様が来られた時のために、去年、建てたばかりでして、まだ一度しか使っていないですからね。それに、生きている人間であろうが、死んでいる霊であろうが不審な者が、この屋敷に侵入することを、この私が許しません。だから、リリアンヌ様。安心して、滞在してくださいね」
「あ、……ありがとうございます、ジョッシュさん」
確かに、霊がいたとしても、霊のほうがジョッシュさんを怖がりそうだよね……。




