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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第2話 過去の足跡

 知人探し、こういう美術館ならではの楽しみ方だけどこの世界で俺の知っている名前は少ない。顔と名前がちゃんと一致する人を全員合わせて……両手で収まるぐらいか? 名前だけならそれ以上はいくと思うけど。

 え~と……「改良型浄水装置」作者マルコフ・フワット。「リモートトーカー」作者ハリー・クリスティナ……いたよ!

 特にマルコフ先生なんてアンナがお世話になっている先生だから忘れようもない人だよ!? それにハリー・クリスティナはアンナのお爺さんの名前だ! 絶対に忘れない名前じゃないか!?


「なになに……アンナのお爺さんが作ったのは遠くの人と会話ができる道具らしいな。一対一組の通信装置と言ったところか?」


 内心結構驚いているけど、落ち着いて作品の解説を読んでいく。

 台座には二つの物。懐中時計な見た目に蓋を開ければ結晶体。通信具というよりオシャレな装飾品みたいだ。マイクとスピーカーの役目を結晶が担っているのだろうか?

 俺の頭にある通信装置と比べるとずいぶんとシンプルで驚くが、ここにあるということは本当に会話機能を有している証明。


「これをお爺さんが……すごい……!」


 まじまじとアンナは見つめている表情は喜々としているが複雑そうだ。自分の祖父の名がここに刻まれ優れた作品を作り上げたことに誇らしく思っているのか対抗心を燃やしているのか、それとも感激で胸が一杯なのか。

 それにアンナの祖父に留まらず他にも気になる道具は沢山あった。数十種類程の作品の中でも特に目を奪われたのはこれだった。

 最初は「どうしてここに輸血パックが?」と思ったけど書いてある内容にそんな疑問はどうでもよくなった。

 「人工血液」作者メルファ・グランサージュ。

 錬金術によって生み出されたどんな人間、動物にも利用できる血液。多くの錬金術士に作成可能な程レシピも簡略化され、今現在も普通に利用されておりライトニア王国の病院や騎士団の派出所にも保管されているようだ。

 恐ろしくも素晴らしいと思うと同時にこの世界って血液型とかどうなっているんだろうという疑問もでてくる。アンナとかユールティアって半オーガにエルフで種族違うけれど……まあ、想像することしかできない。ともあれこれがあればそんな心配は無いということだ。メルファさんとやらに感謝だな。


 そしてもう一つ。

 「特製弁当箱」作者シュガー・マリアージュ。

 うん、本当に見た目が弁当箱なんだ。それに展示物の容器の中には食品サンプルを入れている徹底ぶり。ただ、エピソードが俺の想像を越えていた。

 投入した食材の温度を保つことができる技能を持つこの箱。気密性や丈夫さは勿論だが、保温能力がすさまじい。試験のためにこの箱に温かいシチューを入れて雪の積もった山を登っていたが途中遭難してしまう。しかし、無事に生還した。冗談でいれた出来立て熱々のシチューの温度が全く下がらなかったからだ。リュックから伝わる熱が被験者の命を繋いだのだ。

 ──という話だ。そして、救助後に食べたシチューは冷まさなければ口に入れられなかったらしい。


「ちなみにこれが作られたおかげで、現在の冷蔵庫に繋がったと言っても過言ではないのだよ。優秀な人間が残した技術を後進が飲み込み新たな物を生み出す。素晴らしいことだと思わないか? ぼくは思うね」


 わかる。そうやって世の中は進歩していくんだって俺は知ってる。ここに展示されている作品達はその一助となったのだろう。粘土みたいな爆弾、万能薬、体内まで覗ける透視レンズ、異様に軽くて異常に丈夫な材木、虫を選んで排除できるような理想的な農薬。

 錬金術士達の願いや欲望が形となって積み重なってこの国が出来上がったという訳なんだろう……まさにロマンだな。


「こんな楽しい場所があるならすぐに言ってくれればよかったのに、ナーシャも意地がわるいんだ。お爺さんの作品も偶然見られたし、わたしの作品も確認できたし」

「ふっふっふ! 甘い! まったくもって甘いときたね! ここアルケミーミュージアムを1番楽しめるのは4階なのだよ! こんなところで満足するなんてぼくは到底理解できやしないね!」

「──えっ? ちょっ! ひっぱらないでぇ!」

「焦らずとも逃げませんわよ!」


 堪能した表情を嘲笑うかのように二人の腕を掴んで次の階層に向かって足を進ませる。まるで子供を引率する大人になった気分だなこれは……。



 という訳でやってきのは4階。案内板には『調合品体験コーナー』と書かれている。


「ここでは色々な調合品を使うことができるコーナーなんだ。周期的に展示される道具は入れ替わるからいつ来ても楽しめる場所なのだよ」


 ルティの紹介を裏付けるかのように道具が置かれたブースには観光客や子供が錬金術で生み出された道具で遊んでいる様子が見られる。


「だいじょうぶなの? 調合品って安全なのばかりじゃないんじゃ?」

「その辺りは問題無いみたいだな。かなり抑えられた物が置かれているみたいだ。そもそも武器や爆弾系統は置いてない、あくまで不思議な道具の効果を体験する場所みたいだな」

「ぼくのセリフを取らないでぇくれるかな?」

「これは失礼」


 ここに置いてある道具は基本的に消耗品では無く何度も使用できる道具が殆ど。危険物や薬といった類の物は置いていない。普通ではありえない道具を遊び感覚で試せる場所ということだ。


「おっ、丁度いいのが開いているじゃあないか。アンナ君、試してみるといい」

「『夢想(ファンタジア)巻物(スクロール)』? え~と……頭の中に思い浮かべた物がスクロールから出現します? どれどれ……」


 アンナが興味深そうに巻物を受け取ると、目を閉じて何かを考えている。

 そして、巻物を解いて白紙の面が表になると、表面が輝き浮かび上がるようにハンマーが描かれ、半透明ながらも巻物に描かれたハンマーと同じ物が仕掛け絵本のように飛び出てきた。


「わっ! いつも使ってるのと同じ形と色がでてきた! ということは……!」


 何かを思いついたのか小悪魔的な笑みを浮かべてさらに巻物を広げると、俺も良く知るあの武器が色合い形全てを完全再現したものを沢山出現させた。


「じゃ~ん! レクス10本! これだけあった無敵だね!」

「確かにこんだけあったら国なんて簡単に落とせそうだな。まあ、使い手がこんなにいるかはわかんないけど」


 興味本位で触れてみようとするがレクスをすり抜けて感触が無い。ああ、完全に理解した。立体映像みたいなものだなこれは。


「こちらは使用者の魔力を糧に物体を生成していますわ。体験版ゆえに幻ですけれど、本気で作れば実体を持たせて操作することも可能ですのよ」

「とは言っても魔力を消耗することに変わりないから君が扱うことはできないけれどね」

「本当にそうかな? アンナ、貸してくれ」

「――何?」


 確かに魔力が糧となって発動条件を満たしているのなら、魔力を持たない俺じゃあ発動なんてできはしないだろう。だが、道具を使えば?


「ボトルを放出状態にして押し当てて、想像する……!」


 魔力を貯め込める『マナ・ボトル』を利用すれば理論的には可能ということだ!

 するとどうだろうか? 想像した通り紙面が輝き形が浮かびあがる。その姿は──!

 刃は極端に大きく持ち手だけは正しいサイズで色も黒と白が混ざり合ったあべこべな破魔斧レクスがここに顕現した。……嘘だろ? これでも俺が使い手ぞ?


「ぶふっ! 横からみると紙みたいにペラペラで余計におもしろいことになってる!」


 しかも立体感も無いときた。頭に立体図を想像しないといけないのかこれ……。

 この悲惨な完成度に噴き出すアンナに、笑いを堪えているナーシャ。


(わらわ怒ってもいいか?)

(……すまん)


 そして呆れの感情で干渉してくる霊魂のレクス。

 腰に装着せし本物の破魔斧レクスの中に眠る彼女。呼ばずとも干渉してくるとはこれはよっぽどという事他ならない。そういえば俺、美術で3以上取った記憶なかったなぁ……プラモとかの組み立てなら問題無くできるけどなぁ。


「くふふふ! 色々な意味で驚かせてくれるじゃあないか」

「俺も俺に驚いたよ……」


 マナ・ボトルさえあれば起動できるのは証明できたけど、まさか本人の芸術性まで性能を引き出すのに必須とは思いもしなかったがな。

 

「他も試してみよ! 何だか楽しくなってきた!」


 しかしまあ、情けない結果ながらも楽しんでもらえてよかった。次の道具では羨望の眼差しを浴びられるようにしないとな。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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