第1話 アルケミーミュージアム
6月6日 月の日 10時00分 アルケミーミュージアム
『アルケミーミュージアム』とは。
錬金術の歴史や技術、発展といった錬金術に関して色々なことがまとめられ多くの人々の錬金術を知る入り口となってもらう場である。
私達の暮らしのあらゆる要素に錬金術製の道具が利用され、今やなくてはならない存在となり生活は便利で豊かとなった。この技術の流れと歴史を保存し、これから錬金術を学ぶ者の道標となることを目的として建造された博物館である。
パンフレットより一部抜粋。
「わぁ~……! すごい!」
「前の世界の美術館とそう大差ない内装だな……まあ、置かれている物に関しては完全にファンタジーだけどな」
俺、神野鉄雄がここに来たきっかけは、主であるアンナの、いやアンナ達で作った調合品『アブソーブジュエル』が今日から展示されるという知らせを受けたからだ。
子供心剥き出しきらめく笑顔のアンナ。この日のために左側頭部から生えている角を丁寧に磨いていたのは記憶に新しい。半オーガの少女が展示されるなんて前代未聞なんじゃないか?
かくいう俺も内心ワクワクが湧いてきている。博物館自体に入るのも何年振りなんだろう?
それに堅苦しくない雰囲気もありがたい。子供でも楽しめるような明るめの内装に、デフォルメされたイラストを添えて説明文が書かれている。錬金術の始まり、錬金術とされるのは調合だけでなく、「錬成」や「分解」というのもあり、どんな風に調合しているのか、現在の釜の形になるまで紆余曲折あったり、もう本当に色々だ! 一回来ただけで理解することは到底無理そうだ。
というか最初からここに来てれば錬金術について知りたいことは全部知れていたんじゃ……? いや、前は文字全然読めてなかったから猫に小判状態だったな。でも今は大分読めるようになったから理解できるわけだ。
「錬金術の始祖とされるのが……マリア様って方なのか……」
「わたしも知らなかった。それでこれがその人の絵ってこと?」
「何というか偉大というか豪華というべきか、錬金術やってる格好には見えないな」
「たしかに……! もしかしたらお城に住んでいた人なのかも」
絵画の中でほほ笑む彼女は煌びやかなドレスに身を纏い、優雅に釜をかき混ぜる姿を見せつけている。女優か何かか?
「えてして英雄というのは脚色されるというものだよ。彼女が使っていたとされる釜が御神体となって教会に奉られるぐらいだからね。ぼくとしては最初の1人となっただけでここまで崇められる理由が謎だと思うけれどね。ぼくも殆どの錬金術士は彼女の技術を超えているというのに」
「まあまあ、ルティさんも知っての通り一を二や三にするより0から一はとても大変ですわ。それが今も尚評価されてる理由だと思いますわ。彼女崇めているのは確か『マリア教』でしたわね。毎週集会や礼拝が教会で行われていますし、王都の殆どの方がマリア様を敬っていますわよ」
自信に溢れ仰々しい言い方をするのは金髪白肌のエルフ『ユールティア』愛称は『ルティ』だけど俺がその名を言うことは許されない。アンナの親友であってもアンナの使い魔の俺とはそこまで仲良くする気はないようである。
もう一人の丁寧な言葉遣いで話してくれる翠玉色の髪の少女は『ナーシャ』。アンナがこの国に来てから初めてできた親友。俺にも親切にしてくれてとても良い子だと思う。
「彼女の事も錬金術を語る上では大事だが、君達が本当に行きたいのはこちらだろう? 付いてきたまえ、ここはぼくにとって庭みたいなあ場所だからね」
始祖様の話はここで打ち切られ、ルティはその言葉通り迷いなのない足取りでタイムアタックを決めるように最短ルートで俺達が望んでいた場所へと導いてくれた。
「ここが歴代の優秀な調合品を展示している部屋なのか……なんというか厳かというか静かだな」
ここは3階にある『特別発明展示室』。厳かで静謐な雰囲気に包まれているこの部屋。
相当ここに収まるには技術や発想が必要なのか、展示物の数は少なく虫食い状態である
「ほら見て! あった! ここ! ここ! わたしの名前! アブソーブジュエルも!! わぁあああ! 本当に飾られてる!」
「はいはい、展示物は逃げたりしないんだから引っ張らないでくれ」
腕を掴み無理矢理引きずられ、アンナと一緒に力を合わせて生み出した調合品『アブソーブジュエル』が収まったガラスケースの展示台の前に到着する。
高級感ある布の台に乗せられた正六面体の透明な宝石。俺の部屋に置いてあるよりもいい環境で保管されてるな。
「え~と、『アブソーブジュエル』魔力を吸収する宝石。従来の魔力吸収体と違い吸収した際に生じてしまう魔力を他の属性エネルギーに変換放出する無駄が無くなった。これにより、これまでに存在していた魔道具に組み合わせることで多大な品質向上が見込まれる。と書かれていますね」
「そしてこちらは『魔力消失調合法』について記載されているね。調合空間内の魔力濃度を0にし、調合者の放出する魔力量も0にして行う調合法。魔力反応する素材を不活性化することで調合時の不確定要素や異常反応を抑えることが可能となる。と書いてあるよ。さすがに破魔斧レクスのことは書いてはいないときたか」
破魔斧レクスは俺が持つ魔力を喰らい破力へと変換する力を持つ斧。魔力の吸収だけでなく物を消滅させる力もあったりと、隠された力が多い武器だ。
今は斧よりも宝石。綺麗に展示され、説明書きもある。感慨深いものがある……アンナもアンナで……あれ? 別の作品に視線が移ってる。
「もういいのか?」
「ちゃんとあるってわかっただけで安心した。それに、わたしが作ったんだからわたしが1番知っているんだもの、説明なんてみなくてもへーき!」
鼻高々に得意顔で胸張ってる。まあ、そりゃそうだ。部屋に戻れば何時でも触れられる。他に興味が移るのも当然だな。
そんなアンナの得意顔が固まり、わなわなと身を震わせながら一つの作品に注目していた。見ている物は……渾天儀を模した中央の赤い球体が目立つ道具。980年8月1日登録。名前を……『人工太陽ソル』。
「──人工太陽!? これが? しかも1/1スケールかこのサイズで?」
「書いてある通りなら空の向こう側にあるあの太陽の力をこれで発動できるってことなの!?」
錬金術で太陽まで作ってしまうとか……ここに来て規格外なのとご対面することになるとは……。誰もが知ってる手が届かない全てを平等に照らす光。まさか本当に本物なのか?
「作者は『ソレイユ・シャイナー』元、マテリアの生徒というじゃあないか。ぼくでもここまでのものは作れない。だが、勘違いしないでほしい。使われている素材が希少で危険で手に入らないからだということを!」
「私も尊敬致しますわ。こちらの使い道はあまりにも多岐に渡り、武器として利用するよりも農業関連に使われるのも素晴らしいですわね。光量不足に悩まされることも無くなりますし、なんなら洞窟内でも田畑を作り上げる可能性も生まれますわ」
ここに飾られるだけの格を備えているというわけだ。説明書きによれば光量や温度の調整はもちろん、照射方向範囲も調節できる。確かにナーシャが言っていることも実現可能かもしれない。
読み進めていけばここに置かれているのはレプリカで、一応光らせることもできるが本物とは程遠い、精々広い範囲を温かい光で照らすのが精一杯な性能らしい。
けど本物は――
「980年に出現した雨の魔神『アメノミカミ』の討伐に多大な貢献をもたらし平和を……雨の魔神?」
「うむ、切っても切れない存在らしいねそれは。このライトニア王国では10年前の雨期、丁度今ぐらいに『アメノミカミ』と名付けられた水の怪物に襲われたらしい」
「西のレーゲン地区は今も凄惨な爪痕が残っていますわ。大通りは修繕されていますが多くの住宅は半壊の跡が残っていますし、木々も癒えていませんわ」
「あっ! あれってそういうことだったんだ。他と比べても西の方だけ変に発展してなかったのはそのアメノミカミってのが襲ったからなんだ」
俺は初耳だな……調査部隊に入っておきながら何たる体たらく。しかし、今が990年で前回から10年後。最近雨が多い理由が雨期に入ったとするなら。キリが良すぎてひょっとしたらひょっとするんじゃないか? 再来する可能性があるんじゃないか?
「何か心配しているのかもしれないが問題はないのだよ! この国には本物のソルが今も尚現存して地下を照らす太陽として活動している。例え何体と攻めてこられても蒸気へと還すだろうね」
「私が知る限りでも今日に至るまで現れたという話は耳にしていませんから。変な予想はするものではありませんよ」
「わたしも気になるし後でいっしょに調べればいいって。2人が問題ないって言うんだから気にする必要もないんじゃない?」
どうしても先読みで悪い想像してしまう。よくない癖だ。このソルがある限り、アメノミカミは現れない。というより出現した所で意味がないということだ。
勝手に不安な顔をして楽しいことに水を差すのは失礼だったな。
「それもそうだな。折角ここに来たんだから全部見ないと損だ」
「知ってる名前の人とか道具があるか探してみよっと!」
ウキウキと他に展示されている発明品に足を運ぶ。俺が知っている名前の人は誰もいないだろうなと予想しながら三人娘達の後を追いかけることになる。
今回より第三章が開始するのでよろしくお願いします!
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