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第31話 従者達は心配性!

 5月3日 水の日 21時00分 鉄雄の部屋


 今日、アンナが帰って来てから様子がおかしい。

 焼きそばパンを対価に情報を手に入れてウキウキノリノリで次の調合に進んでいるはずなのにあからさまに元気が無くて溜息ばかりで。

 食事の時も声を掛けにくい空気を醸し出していた。


「何があったのか知らないか?」

「ううん……今日は彼女の部屋で作業してなかったから何も聞いてないんだ」


 今はもう自分の部屋に閉じた貝みたいに籠ってしまって誰とも話す気を見せない。

 あのユールティアという少女から何を聞かされたのか非常に気になる。となれば──


「ちょっとそのユールティアって子から話を聞いてくる」

「止めるべきかもしれないけど、ボクも気になるんだ……乱暴なことはしたらダメだよ」

「そこまで暴力的じゃあない!」


 あくまで冷静にだ。直接関係しているかもまだわからない。仮にそうでも何があったのかちゃんと聞いて理解しないと。主が悩んでいるのに我関せずな態度でいられる訳が無い。


「おぉう!?」

「うぉっとと!? 失礼!」


 ドアを開けて廊下に出たすぐ目の前に金髪の少女とぶつかりそうになる。すんでのところで接触を回避できた。

 丁寧に対応できなくて申し訳ないが大分夜も深まってきている。ひょっとしたらその子も眠りについて──


「そういえば、その子の部屋ってどこ──?」

「ルティ様!?」


 大事な情報もわかっていなかった。確認しようと振り返って見ればセクリが驚いた様子で先程ぶつかりかけた子に視線を向けて名前を口にする。ルティと──

 もしかして? そんな確信めいた予感で足を止めると、答え合わせがすぐにできてしまった。


「やっ、やあ……」

「君がユールティアさんなのか?」


 気まずそうに黙って頷くその姿。

 どうやら彼女が何か関係あるのは間違いなさそうだけど、彼女もまた何かを察しているようでもあった。



 俺達は人が滅多に来ない階段の踊り場に集まることになった。話を聞きたいが問い詰めたい訳じゃない。

 俺とセクリは壁を背にして彼女と向き合った。


「……俺から先に質問させてもらうけど。アンナの元気が無いことについて何か知らないか? 状況的に君の時かその後に何かがあったのだと思うんだけど」


 アンナと同じぐらいの背丈の女の子。伏し目がちに両指を規則的に合わせて、時折こちらに視線を送ってくる。


「実はそのことで気になって来てしまったんだ……ただ、何と声を掛けたらいいのか。励ます言葉なんてぼくは知らないし、言葉を間違えたらもっと酷い事になるのではと思ったら何をしたらいいのかと……」


 不器用なだけで悪い子では無さそうだが。 


「一体何を伝えたのでしょうか? あそこまで落ち込むなんて見たことありません」

「アンナ君は今ブロンズランクの昇格試験を受けているのだろう? それでつい口が滑ってしまったんだ。指定された技能(スキル)を発現できる道具を作れば合格できるって」

「それで落ち込むのか? 別に普通のことじゃ──」


 合格するためにはあのお手本みたいな効果を持った『マナ・ボトル』を作成すればいい。ってことのはずだ。別に悩むような──


「文字通りだとも、深い理由も何も無い技能が確認できればそれでいいんだ」

「まさか……品質や性能は関係なくて、説明書きにあった魔力の吸収、保持、放出の3つの技能を持った『マナ・ボトル』をルールを守って提出すれば合格。ということなんじゃ?」

「あっ!」


 繋がった。

 ひょっとしたらアンナが()()()だって言ってた、俺が冷たくて思わず落としてしまったあのマナ・ボトルでも合格の基準を満たしてるってことだ。

 現時点で言うならグラスリル結晶さえ手に入れば必死に追求や探究しなくてもいつでも合格できるということ。


「そういうことなのさ。渡される素晴らしいお手本や小難しいルールで複雑そうに見せているけれど、品質については何も記されていない。アンナ君があまりにも難しい調合に挑んでいるものだからゴールドランクを受けているのかと思ってしまったよ。それでついうっかり口が滑って……」


 情けないぐらいに思い当たる……俺は彼女の言う通りお手本並みの物を作る必要があると思った、アンナにもそんなことを言った。

 レクスをもっと使えるようになるって有頂天に浮かれて、そんな使い魔の俺を見たから主のアンナは期待に応えようとしたのかもしれない。


「がんばってきたことが意味の無いことだと否定されたと思ってしまったのか……?」

「そうじゃないと思う。だってアンナちゃん作ることは一生懸命だったけど、合格することはあまり口に出してなかったから……作れないことも悔しいんじゃないのかな?」


 合格することが目的なら安堵して気が抜けてもおかしくは無い。でも、悩んでいた難しい顔で必死に足掻くような表情で。

 合格以外の何かが心残りだとするならそれは何だろう?

 錬金術士としての誇り。負けん気が()()強いからあり得なくはない。でも、それはアンナらしくない。

 自分よりも他人を優先するのがアンナだとすればもうわかってる。


「……俺のせいだ。作れないってことは俺は今のまま。あの時の期待や希望を裏切ってしまうかもって思ったのかもしれない……」

「ボクも偉そうに分析して口出したから何も言えないよ……」


 俺がアンナを退かせないし逃がさない重石になってしまった。

 

「厳しいことを言うかもしれないけれど『万象(ばんしょう)流転法(るてんほう)』と『相対消失(そうたいしょうしつ)抽出法(ちゅうしゅつほう)』は本当に難しい技術なのだよ。使う属性の数が増えれば難易度も上がる。そもそも同時利用はすべきではないんだ」

「本当にできないのか?」

「無理だね。錬金術の「れ」の字も知らなそうな君に分かりやすく説明するなら。大嵐の中、6つの大きさも浮力も違う気球を全て同じ高さにし続けて目的地に向かうようなものなんだ。ここまで緻密な調合技術や魔力技術は補助道具無しで行おうとすればボクにすらできないし伝説の魔女がいても不可能だろう」


 状況もはっきりとイメージできてしまう。確かに不可能だ。それはもう奇跡の領域。

 すなわち試験期間内に今の設備と道具で理想のマナ・ボトルを作るのは奇跡ということなのだろう。


「こんな時何にもできないのが情けない」

「素材集めはできても肝心の錬金術で手助けできないなんて……悔しい」


 口は禍の元、沈黙は金。本当よく言ったものだ。あの時の言葉に嘘は無いにしても。できないとわかれば手のひらを返すように「無理しなくていい」なんて言えば本当の意味で裏切ることになってしまう。

 そもそもマナ・ボトルは俺が欲しいと願った。俺は最後の最後までアンナはできるって信じなきゃいけない。

 いや、信じている。


「情けない大人達だと思わざる得ないじゃあないか。ただ、天才たるぼくは案自体はできているのだ! 選択肢に入れられ無いだけで物理的身体的特徴を無視した上での調合方法を生み出してはいるのだよ!」


 すごい偉そうな態度してるけど、この子って悪いと思って来たんだよな……?

 それに無視した上でってどういうことだ?


「一応聞かせてくれ。アンナの手助けになるようなら何でもしなければならないから」

「ボクもアンナちゃんのためなら出来ることは何でもするよ!」

「いいだろう! アンナ君が考えた理論を簡単に言えば、複数の属性を混ぜ合わせて無属性の魔力を生み出しつつ高濃度魔力によって素材を連結させ混ぜ合わせることなんだ。これまでも思いついた人間はいるだろうけど、どんな書籍にも書かれていない。すなわち、成功事例がないのだよ。そもそもこの調合の難しさは調合の際に与える魔力が原因と言っても過言じゃないんだ。例え全ての素材に10ずつの魔力を与えていたとしても、素材によって発生する属性の力はバラバラなんだ。熱炎石が5の属性値を出したとしてもゴーレム・コアは1が良い所。属性値を揃えなければ『万象(ばんしょう)流転法(るてんほう)』も『相対消失(そうたいしょうしつ)抽出法(ちゅうしゅつほう)』も正しく機能しない。かと言って各素材の量を増減させて調節すれば歪となり完成はしない。素材の量は均等であることは絶対条件なんだ」


 情報が……情報が多い……! 理解するのが大変だ。確かにこれほど知識があるなら頼ると言うのも無理は無い。


「ならばどうすればいいか? 答えは簡単、魔力を一切無くして調合するということなのだよ!」

「「えっ?」」

「通常調合よりも圧倒的に時間は掛かるだろうし、質も落ちるだろうけど。アンナ君が考えていた素材は完成するだろうね」


 思わず腰に装着しているレクスに手が伸びた。セクリも俺と同じ事を思いついたのか視線が俺の腰に向けられる。


「そんなにほうけた顔でどうかしたのかね? まあ、これは幾重にも矛盾を持った不可能論。普通の人が魔力を完全に抑えることはできない、空間に漂う魔力を消せない、魔力の無い人に錬金術は扱えない。期待させて申し訳ないと思うがこれはぼくの妄想みたいな──」


 それは妄想では無くなる。可能になる。もしかしたらがどんどん、どんどんと湧いてきた。


「ナーシャの言った通り、あなたって天才錬金術士なのね」


 聴き慣れた忘れることのない声が耳に届き、俺達は心臓が飛び出そうな驚きと共に急いで声のした先に視線を向けると──


「ア、アンナ!?」

「アンナちゃん!?」

「「どうしてここに!?」」


 見間違えることの無い主がそこにいた。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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