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第27話 黄金の価値、黄金な価値

 4月28日 風の日 18時10分 アンナの部屋


「今日はアンナにお土産があるぞぉ~!」


 マナ・ボトル作成に四苦八苦している証明のように机に泥のように突っ伏して落ち込んだ様子のアンナ。

 鉄雄の言葉に首だけを動かして視線を合わせる。


「何? ヤキソバパンは無かったんじゃないの?」

「食べ物じゃなくて申し訳ないが多分、何かの役には立つと思う素材を持ってきた……よっと! 生まれて初めて持ったけど見た目以上に重くてビックリしたよ」


 丁寧に布に包んだブロック状の何かをゆっくりと机の上に置く。ただ、置くと言う行動一つに真剣な目つきで神経質な心構えで実行していた。


「また何か変わったものなの?」

「変わってはない、ただこういう形だと滅多にお目にかかれないと思う」


 自信が無さそうであるそんな態度。

 望んだ物を用意しているならもっと自信に溢れて嬉々としている。

 1ヶ月の付き合いは無いにしても共に過ごした密度が鉄雄の性格を理解していた。


「……ってこれ!? 金じゃない!!」

「探したけど銀は無かった」

「なんだか賑やかだね──えっ!? どうしたのこれ? 金? どこからか盗んできたんじゃないよね!?」


 剥き出しとなるのは黄金の輝き。鉄雄の世界では到底見る事はできない10kg相当の金のインゴット。

 泥のようにだらけていたアンナも芯が一本突き刺さったかのうように背筋を伸ばして黄金の輝きに目を奪われる。

 台所で料理に励んでいたセクリもキッチンから身を乗り出して驚いた顔でその輝きを目にする。

 

「一応騎士団の方で調べてもらったんだけど純金らしいから──」

「ちょっと! もっと詳しく話して!」

「お、おう!」


 興味深く重要な話であることを理解し会議の体制を取る。

 料理を一段落させ、机を綺麗にして、お茶を飲みながら鉄雄の話に耳を傾ける。

 破魔斧の力をマスターキーとして使い簡単に大量の宝箱を開けた。その報酬として金のインゴットを手に入れたということを。

 想像してなかった状況に二人は感心の溜息を吐いた。


「破魔斧にそんな使い方があるなんて……でもダンジョンで似たようなことできたからおかしくはないんだ……あと多分だけどこれって採掘して手に入れた金を溶かして固めたって言うよりも錬金術で作られた金かもしれない」

「何か違うのか?」

「金としては違わない。でもこんなに純度が高いのは錬金術以外ありえない。綺麗すぎるの」

「確か錬金術って卑金属を貴金属に変える為の技術だったよね? その副産物で薬だったり爆弾だったり色々な道具を作れるようになって発展して、貴金属に変えるよりも多くの道具を生み出す事に注力したのが今の錬金術。だったよね?」

「セクリも大分勉強してるね。わたしも小さい頃お父さんに教えてもらってたけど最近ようやく理解できたの。学校の授業のおかげかな?」

(なるほどな……錬金術のルーツは似たようなものだけど、この世界では実現できたってことか)


 卑金属から貴金属に変える過程で見つかった素材を複合し混合し新たな物質を生み出し理想の道具を作り出す技術。

 錬金術は鉄や鉛を金に変えるよりも、素材を組み合わせ理想の物を生み出す技術の方がが需要が高く評価されていった。

 どんな物でも生み出せる可能性は多くの者を魅了し進歩し研鑽され発展していった。枯れることの無い欲望を糧として。

 いつしか元々の卑金属を貴金属に変える技術を扱える者が激減し『黄金錬成(おうごんれんせい)』として錬金術の秘奥の一つとなってしまう。

 現代の錬金術士で扱える者は殆どいない。その証明として、多く存在しているなら金の希少性は今より薄く、もっと価値は安くなっているからである。

 ただ、鉄雄の世界と比べると過去に錬金術士の残した黄金の産物によってこの世界の金の量は数倍にも及んでいるだろう。


「まあ、使えそうならそれでいい。使えないなんて言われたどうしようかと思ってたよ」

「というより使えないことを探す方が難しいって! 金を主として調合して作られた混合金属が『ゴルドリウム』って呼ばれるの。耐食性、魔力伝導も優れてるから他金属との配合率を調整して武具や装飾品に利用されてる。優れた魔道具の作成には必須で、もしも相手がゴルドリウムを使った道具を持っていたら注意しないとダメだからね」


 万能に聞こえるかもしれないが、欠点もある。他金属と比べて柔らかいということ。武具に利用されると言っても刃にしたり防護面に使われることは少なく、魔力伝導を高めるために持ち手と言った肌の接触面に使用される。

黄金の装飾品は身を着飾るだけでなく、魔術を高める技能(スキル)を付与されていることも多く、美しさと強さを両立させる高貴な者が持つ輝きでもあった。


「金なんて希少素材が手に入ったならレシピに手を加えるのもありだね……銀よりも金の方が魔力伝導が高いし、加工もしやすいから今考えてるのより良いのが作れそう!」

「おっ! となると残りの素材は一つってことになるのか!?」


 意図せず当たりを引き寄せることに成功し内心安堵のため息を吐いた。

 あの神経をすり減らしながら、何度も空振り底が見え始めた宝箱に焦りと怒りを覚えそうになった作業。

 目当ての物が見つからなかったが無駄では無いと認められた。


「そうだけど、器となるグラスリル結晶が手に入らないんだよね……まさか1番簡単に手に入りそうなのが最後まで手に入らないなんて」


 諦め半分の溜息を吐きながら現実逃避気味に窓の外に視線を送る。


「確か芸術祭の募集内容がガラス細工で、沢山の人が買い占めているからアンナちゃんにまで回ってこないんだよね?」

「そういうこと~。中央広場に展示してあるガラス像、砕いてわたしのものにしたくなるよぉ」」


 別の店にも足を運んでも芸術祭ギリギリまで予約で埋められており、購入できない。

 探索をしようにも同じ事を考える錬金術士や工芸家は存在する。なんならアンナがこの試験を開始する前から需要を見越して採取屋達が回収し尽くしている可能性すらある。


「気持ちは分かるけど冗談でもそういうことは言わないもんだ。……ただ何というか意地が悪い試験だよなぁ。素材集めも一人で出来る量を完全に越えてるし、謀ったかのように必要素材が手に入らないときた。錬金学校だけあって求められるレベルが高い。で済ませるには厳しすぎる気がする」


 粗悪品しか作れないレシピを渡され改良を余儀なくされる。元々持っていた素材は使用不可で新たに集め直さなければならない。

 鉄雄と破魔斧がいなければゴーレムの狩猟なんて無事にできていたか分からない。騎士団とのコネクションが無ければ光飲石は手に入らなかった。

 ただ錬金術が出来ればいい試験ではなく、個人で行うことを想定していない試験。


「でもナーシャもユールティアも、なんならわたし以外のクラスのみんなもこういうのを達成してるんだよね……錬金術に自信はあったけど、わたしが1番へたっぴなのかもしれない……笑えてくる……」


 期日は5月30日、1ヶ月をそろそろ切りかねない。まだ素材が揃ってない不安からか消極的な思考に陥り始めていた。


「う~ん……実は手に入ってからサプライズしようと思ったんだけど、アンナちゃんの気の落ち込み様は見てられないから教えちゃうね」

「ん~? 何?」

「グラスリル結晶だけど、早ければ来週の月の日に手に入るかもしれないよ」

「えっ!? どういうこと!?」

「大量発生でもする日があるのか?」


 悩みを簡単に払拭するような言葉に驚きを隠せず見当違いなことを言いだしてしまう大人。


「流石に生物じゃないんだから。話を戻すと毎週月の日って大通り全体で市場が開かれてるのは知ってるよね?」

「うん。壁外の農耕地や色々な所から直接持ってきてるんだよね?」

「賑やかなのは知ってたけど詳しい事は知らなかったな」


 毎週『月の日』、殆どの仕事が()()であるその日は王都クラウディアの大通りでは普段運行される馬車も壁沿い外回りを余儀無くされ、大規模な市場が開かれる。

 壁外の牧場から乳製品や肉製品。採取屋が手に入れた遠方の素材達。そして、他国より自分の国の特産品を販売しに来る者。


「この前の月の日にボクは勉強の為に(チーフ)達と一緒に市場に行っていたんだ」


 寮の食材は届けられることもあるが、普通に買うよりも安く直接商品を見比べられる事から市場で大量購入することも多い。特にライトニアでは手に入らない食材を探すにはこの市場がうってつけなのである。


「そこでこんなことがあったんだ──」


 4月24日 月の日 8時00分 市場 


「うわぁ~、すごい人ですね……!」

「呆けている暇はありませんよ。みなさん考えていることは同じなので私達も急ぎましょう」

「はい!」


 その日ボクはみんなの後を付いて食材の鮮度を見極めることや、様々な食材の知見を広げることに努めてたんだ。

 (チーフ)達の買い物スピードはすごくて、まるで食材達が望んでこっちに来ているみたいだったなぁ~。

 1時間もしないうちに自分の身の丈ぐらいの食材を購入した後は解散して、ボクは後学の為に散策することにしたんだ。

 出店しているお店の傾向は大体決まっているみたいで、今日の目的は位置情報を把握するためでもあったんだ。

 それと商いに来る他国は大体西の『フォレストリア』、北の『ハーヴェスティア』って決まってるみたいで他の国は仲が良く無かったり、距離が離れすぎて来ることがまずないみたい。

 ライトニアでは見ない服装の人がお店やっていてね、置かれている商品にも興味があったから寄ってみたんだ。


「これって何ですか? 触手生物?」


 痛んだ紙みたいにシワシワでペラペラで色が付いた何かが沢山並んでて、最初は何のお店か分からなかったんだ。


「おう姉さん! 当たりと言えば当たりだがこれは『イカ』ちゅう軟体生物の干物だぜ! 酒のツマミや出汁、軽く焙って食べるのも美味いぜ!」

「他にも色々あるんだね……この魚を乾燥させたのは何ですか?」

「こいつはアジを干物にして保存が効くようにした奴だ。まあ、知らねえのも無理もねえ。ここ最近までは行商にこれるのも滅多にいねえし、フィレストリアの鮮魚は大体でかいところに持ってかれるだろうしな」

「フォレストリア……」


 寮での料理でも確かに魚に触れることは滅多に無かったし、干物なんて聞いたことも見たことも無かったから興味深かったんだ。

 でも、それよりも思い出して気になって、閃いたことがあったんだ。


「フォレストリアってグラスリル結晶を扱ってないの?」

「何を藪から棒に。むしろ扱わない理由がねえよ。皿やグラス、使いどころが多いに決まってる」

「それじゃあおじさん! 仕入れることってできない? どうしても必要でこの国じゃ手に入らないんだ!」


 ライトニアで手に入らないならフォレストリアで手に入れればいいってことに。


「おいおいおい。俺は見ての通り魚を売りに ──」

「そこを何とか? お願い……」


 何度もこんなチャンスは無いと思うからおじさんの手を掴んでちょっとだけ能力を使わせてもらったんだ。


「うぇへへへ、まあ、そこまで言うならなぁ~。ただまあ、来週すぐには無理だな。再来週何とか持ってきてやるよ」

「本当! ありがとう親切なおじさん! できるだけ沢山持ってくるといいよ。持ってきた分は全部売り切れると思うから」

「おう! まかせとけ!」


 言葉だけじゃお礼として不十分だからそこで沢山の干物を買って帰ったんだ。



「──って感じにグラスリル結晶を売ってもらえる約束をしたんだ」

「すごいじゃない!」

「他国ってのは頭にあったけど、そこまでは気が回らなかったな……かなりスマートな方法だな」


 セクリの案に素直に感嘆の意を示す二人。ただ鉄雄はほんの少し嫉妬もしていた。


「えへへへへ!」


 純粋な感謝の想いに熟れたリンゴのように顔を紅く染めてとろけた甘い照れ顔を見せてしまう。


「となると最短で素材が揃うのは5月の6日ってこと。その間にヤキソバパンを手に入れて情報を貰って、色々作れるようになれば間に合うわ!」


 見えてきたゴール。揃いつつある素材。時間の余裕。セクリの披露した情報は希望となり、アンナの憂いていた気持ちを温かく(ほぐ)した。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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執筆のペースも跳ね上がる可能性もあるので気になる方はよろしくお願いします!

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