第26話 宝箱の中にはロマンが隠れてる
4月28日 風の日 10時30分 騎士団訓練場
毎日の基礎体力訓練を終えての小休憩中。鉄雄は鉄雄でまだ手に入れていない素材の情報を探していた。
「キャミルさん。銀鉱石が手に入る場所って知りませんか?」
「本当に急ね。私はあなたの辞典じゃないのよ?」
調査部隊の魔術士兼知恵袋。
彼女の危惧したとおり鉄雄はこの人に聞けば大体は分かるだろうと理解し始めていた。実際聞いたことは全て答えてもらっているので、どんどんと聞くようになった。
「一番頼りになるのがキャミルさんなんですからお願いしますよ! そろそろ素材を揃えないとアンナが期日まで間に合うか分からないんです。だから知恵を貸してください!」
だが、頼られるというのは満更悪くないという顔。
自身が貯め込んだ知識を求められるというのは自身の成果が認められている証明他ならないから。調査部隊にいる者の中でキャミルに質問をするのは鉄雄ぐらい。新米のサリアンはレイン、同じく新米のケインはゴッズと、ある程度ペアのようなものができていた。
今まで一人で作業や訓練をしていたキャミルであったが、直属の部下ができた気になっており、嫌々な雰囲気を出しておきながら内心は嬉々としていた。
「銀ねえ……貴金属系が採れるとこは管理とか異様に厳しくて採取なんて無理よ。貴金属が見つかって国の鉱山組合とかが占拠して管理するのが流れね。これらは錬金術士以外でも重要な資源だから必ず価値があるのよ」
ただ現実は厳しい。金、銀、白金等が採れる場所が見つかれば国で抑える。個人で見つけて採掘場を建設しようとしてもそこが統治国家なら発見費用でいくらか握らされて国の物にさせられる。
だから発見者は情報を明かさない。掘り尽くして細々と売り捌く。
「そうなんですか……せめてどっかに売れてるとか、近くのダンジョンに保管されてるとか無いんですかね?」
「無いわね、第1近場のダンジョンなんて国で調査を終えてお宝なんて全部回収……あっ!」
「何かいい案でも?」
「レイン~。テツオに宝物庫を任せてみない? 破魔斧の力を試してみる価値はあると思うんだけど」
「……成程、良い考えだ。検証パターンも煮詰まって来た所だからちょうどいい」
「宝物庫……?」
そうして訪れたのは騎士団本部の地下二階。空気も重く堅牢な造りの壁の道、響く足音が金属特有の硬い音となる。
「ここが宝物庫だ。と言っても貴重品が収められているのではなく、ダンジョンで見つかった施錠された箱をまとめている場所なんだ」
重々しい扉を開くと重厚な金属製の壁に包まれた丈夫な部屋。例え爆発が起きようとも形を変える事は無いだろう。教壇のように座する金属台。そこから見渡せるのは。
「おぉ~……! すごい! 宝の山じゃないですか! でも、開けられてない宝箱? こういうのって大概ダンジョン内にある鍵とか、仕掛けを解いたら開く仕組みになっているんじゃ?」
大小、形、材質様々。よく見かける宝箱の形や正立方体、はたまた球体と自由気ままな形が所狭しと重ねられたりして大量に並べられている。
しかし、そのどれもが貝のようにしっかりと閉じられた誰も中身を知らぬブラックボックス。
「残念だけどそうじゃないのよ。ほら見て、鍵穴なんてないでしょ? でも代わりに幾重にも結界が掛けられて封印されているの。解除するには術式を書き込んでいったりパズルを解いたりする必要があるのよ」
そう言いながらキャミルは両手で簡単に持ち運べるサイズの箱を掴み、金属台に乗せる。
「へぇ~……どんな風にやってるんですか?」
「やりたくないわよ。失敗したら何が降りかかるか分からないもの。呪いだったり爆発したりで命がいくつあっても足りないわよ」
「これらは『シークレット・ボックス』と呼ばれる錬金術製の特別な箱でね。作成者によって解錠方法が異なり同じ方法は二つと無いと言われているんだ。ただ共通しているのは解錠に失敗すれば災いが降り掛かるということだけ」
小さい箱が爆弾に映り始める。これらは放置する程度の扱いでは何も起きない中を暴こうとする行為に対して牙を剥く。
「それじゃあ溜め込まれていく一方なんですか?」
「もちろん解錠を試してはいるのよ。受刑者達に減刑持ち掛けてね」
「……なんともまあ惨い提案を」
悪魔染みた提案に内心引いていた。
しかし、一般人や騎士団員に任せるということは命を無駄に散らすと同義。実力で解錠できる者はいない、少しの技術と多大な運で解錠するしかない。
だからこそ、罪を犯した者に対しての恩情。過去に封じられた何かを暴き、未来に貢献することで刑罰を軽くするという褒美。
ただ、失敗する話しか上がらないので進んで受ける受刑者達は少ない。
「ただ結果は見ての通りの惨状という訳。テツ、破魔斧でこの封印壊せない?」
「言いたい事も理解して、開けた際のメリットも分かるんですけど何というかロマンの欠片も無いやり方で気が乗らないんですけど……」
「そのセリフは出来てから言いなさい。さっ、早く! 私達は離れてるから!」
乗り気でない表情など知った事かと、キャミルの手が白刃に伸びて魔力を与える。触れれば強制的に奪ってしまう。破力に変換され自身の身体に蓄積される。受け取った以上もう進むしかない。
(まあ、やるか。見た感じはただのオシャレな箱だよなあ……結界ってことは魔力によって生み出されたんだよな。黒霧で包めば全部壊れたり……)
最初の一歩で基本の能力。触れた魔力を奪う黒霧。箱全体を覆うことで魔力を奪い取りただの箱へと戻してしまう。理想的で単純に済むならこれで結界は維持できなくなり壊れるはず。
だが――
「……そうは簡単に行かないよな」
確かに結界は消えたが、箱を開かせようと弄っても何も起きず閉じられたまま。
そもそも「結界を正しい手順で解除する」それが宝箱の解錠条件となっているなら、結界が消えてしまうと鍵穴が消えてしまうも同義。意味が無い。
「じゃあこっちだな」
続き、消滅の力を刃に纏わせ、蝶番を狙い刃を差し込み、中身を傷つけないように果実の皮を剥くような動きで一周。蓋と箱を繋ぎ止める要素が完全に両断される。
すると、蓋を持ち上げるとあっけなく普通に取れてしまった。
「……へっ!? 開いた!? そんな物理的に?」
「いや、消滅の力だから切れたんだろう。普通だったら箱に傷1つ付いたりしない」
「やった俺が言うのもなんですけど、達成感がまるで無いですよ……皮が厚い果物切ってるのとそんな変わらないですし」
「と、とにかく! 問題は中身よ、裏技的に開けたら中身が壊れるなんてトラップがあるかもしれないじゃない?」
不安とは裏腹に爆発や煙が発生することは無く。開かれた箱の中には折りたたまれた一枚の紙きれがポツンと置いてあった。
それを恐る恐るキャミルが摘み、中を開いて読むと──
「え~と何々……「ざんねん外れ」……」
その言葉を吐くと額に青筋を立ててビリビリに破り捨てて放りなげた。
「やってくれたわね……!」
「成程……外れもあるってことですね」
「ここにある半分以上は空箱の可能性もある。死ぬ気で解除しても中身がゴミなんて当たり前。だから罪人達を利用していると言っても過言ではないんだ」
ダンジョンを作り上げた錬金術士の遊び心か、自分の集めた物を簡単に盗られたら悔しいという精神か。どちらにせよ残したものを簡単に渡す訳が無い。
ダンジョンの最奥に封印されていた『セクリ』もそうである。破魔斧の力で簡単に封印を解除してしまったが、本来はもっと難問で複雑怪奇で重労働な錠が下ろされていたのである。
「とにかく! 壊せる物からどんどん壊していくわよ! ここにあるのは前々から気になってたのよね。金銀財宝やレシピも考えられるけど、錬金術士ならドラゴンの素材を隠しててもおかしくないわ」
「焦らずに頼むよ。危険だと思ったら私達も助けるとはいえ、自分の危機感を優先するように」
「銀素材とかが手に入ったらいただきますよ?」
「もちろんだよ。他にも物にもよるが報酬として渡すことを約束しよう」
言質を取った。それがやる気のギアを一段階引き上げる。簡単にできたことでもバカにされた歓迎にムキにならない訳では無い。
「決まりですね。なら! 張り切って行きますよ!」
決まってしまえば動きは速い。
破魔斧レクスがマスターキーとなってこれまで開けられ無かった箱が次々と壊されていく。
不思議模様が描かれようが、金属で覆われようが、丁寧に石造りしてようが、デザイン重視で作られようが全て平等に宝箱の機能を失った。
お昼近くに伝説のヤキソバパンの念話が届くことが無かったので、中断することなく夕刻近くまで続いた蓋取り作業。空になった箱は援護でやって来た騎士団員達によって次々と片付けられていった。
「ふぅ……全部終わりましたけど、これらは本当に無理ですね」
ただ破魔斧の力を持ってしても開けられない箱が三つ存在した。
外装がプラチナムによって蓋がされている宝箱。消滅の力を当て続けても変化が無く、放っておけば自然治癒してしまう不可思議素材。自分が望んだ条件でしか開かないという確固たる意思を感じるほどである。
「開いた宝箱の数は213個。うち140が空箱かゴミ。とんだひねくれものばかりね」
「この三つってどこで手に入れた宝箱なんですか? 他と比べても少し大きいですし、何というか圧が違いすぎますよ……」
三者三様の形をしているがどれも芸術品呼べる佇まい。白金の輝きが見る者を魅了する。
「え~と……『知識の摩天楼』で回収したのと『天空城』より授けられたもの。そして……懐かしいな『獣王の晩餐』で手に入れたものだったか」
リストと宝箱に貼られた番号を見比べながら確認し、回収地を明らかにする。
『知識の摩天楼』は大量の書物で満たされ、今も尚世界中の書物が集められているダンジョン。
『天空城』は文字通り空に浮かぶ城、管理者もおりそこで解除できないかと依頼された一つ。
『獣王の晩餐』は危険な魔獣が跋扈するダンジョン。名前と状況以上の情報は上がってこない。
「一つは授けられたってことは貰い物なんですか?」
「ああ、それに私が生まれるよりも前に渡されたものらしい。重要なものだろうに、何時の間にか奥に埋まって存在が隠れたのか……」
レインが昔手にした宝箱もここに何個も置かれていった。自分達の成果を誇らしく想うと同時に知らなかったことに恥じていた。
「そんなことよりも今の成果よ。見なさいよこれ小さいけど『ドラゴンの心臓』よ! 他にも収穫品は中々! だけど……」
「無かったんですよね?」
黄金のインゴットや白金のインゴットは何個かあっても銀に輝く素材はどの箱にも収まっていなかった。
希少品と呼ばれる素材や、歴史書のように厚い錬金術のレシピを中心に宝箱に封じられていた。
「何か欲しいものがあったかい? 先に言っておくけど白金のインゴットは流石に渡せないよ。ここまで見事なのはね」
禍々しい気配を発している獣の皮や、キャミルが夢中になっているドラゴンの素材。長年封じられているのに生き生きとした気配を発している枝。
「なら、コレにしますね。錬金術と言ったらやっぱりコレだと思うんで」
手にした物を見て、二人は納得したように頷いた。
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