第1話 新たな始まり!
4月18日 月の日 09時10分 マテリア寮
王様との謁見、九死に一生の選択、騎士団強制入隊、激動の凶日を切り抜け、三人と霊魂一人が迎える初めての休日。
目標新たにこれからすべきことを模索する作戦会議が行われようとしていた。
「さて! これからアンナのお父さんの捜索について会議をするぞ!」
「「わぁー!」」
アンナ・クリスティナの目標は行方不明となった父親と再会すること。それに力を貸すのは魔力無しの使い魔「神野鉄雄」。人造生物な使用人「セクリ」。
年相応の少女なアンナにかしづくは大人な二人。特別な出会いを果たした三人はこの関係に一抹の嫌悪感の欠片もない。
「お父さんがいなくなってから十年ぐらいが経過している。いきなりだけど正直厳しい意見を出さないといけない」
「言ってみて?」
自分がいた世界の事と照らし合わせ、何故父親「ロドニー・クリスティナ」が姿を見せないのかを分析する。
「――この世界の交通網がどうなってるか分からないけど、本気で特定の場所に行こうと思ったら十年あれば大体達成できるもんなんだ。歩くにしろ馬とか使うにしてもだ」
大陸との繋がりが海で阻まれても飛行機や船と言った突破する手段がある。長い陸地を超えるにしても車がある。この世界にどれだけの乗り物が生まれ、どれだけの障害を越える力があるのか未だ不明であっても十年という年月は無事に生きている。そんな希望的観測を維持するには長すぎる。
「それに郵便物。例え怪我で動けないとしても誰かに頼んでライトニア王国に手紙を送れば迎えを呼んでもらえているはず。でも、それも無かったらしい。つまりは手紙を送れない状況に陥ってもいる」
この世界にも貿易、交易と言った国を越えての物品のやり取りは存在する。同様に手紙を送ることも当たり前。
「……相当厳しい状況に置かれてるだろう。誰かの助けが無いと戻れないぐらいに」
「うん……お父さんのことだから錬金術を使って生きてるとは思うけど、どこかの国に向かう元気はないのかも」
最悪の想定は口にしなかった。口にすればそれが本当に繋がるかもしれない不安があったから。
事の発端はアンナが住んでいたオーガの村を強力なドラゴンが襲い掛かったことから始まる。
屈強で知られるオーガ達でも薙ぎ払うドラゴンの襲来。村が破壊されるだけでなく子供にも被害が及ぶと考えたロドニーは転移道具を使い、ドラゴンと一緒に別の場所に移動した。
その後の行方は今も知れず、激闘の傷を負っていてもおかしく無い。
「そうなると……近隣諸国にはいないと考えていいのかな?」
「地図を使って確認していこう。俺達が来る前から調査部隊の人達も捜索していたらしいからその情報も利用して……俺も昨日知ったばかりだけど、ここがライトニアの位置だ」
テーブルを埋め尽くしそうな地図を広げ自分達の場所を改めて理解する。
大陸の形は簡略化すれば台形を左回りに90度回転させた形。アンナ達のいる『ライトニア王国』は中央から少し西にズレて位置している。
「西に進めば王様も言っていた友好国の『フォレストリア』って国だ。ちなみにアンナがいた『オーガの村』は王国から南に進んで少し西の……この辺りだ」
「へぇ~……あっ、もっと南に行くと『マジカリア』って国もあるんだ。名前は聞いたことあるけどどんな国か話してるところみたことないかも」
「ボクがいたコロニーはライトニアから大体真東……そのさらに東は『世界樹の樹海』?」
「レインさんに聞いてみたけどそこは危険領域で迷ったら二度と出て来られない曰く付きの樹海らしい。ただ、希少な植物素材や昆虫もあるらしくて素材屋が採取に向かうこともあるらしい」
「なるほど……そこまで成長したんだ……本当に長い時間経ってるんだね」
「? それと、『非統治国家』って場所の調査は危険が多くて難しいらしい。詳しい理由を説明すると長くなるらしいから聞けなかったけど」
非統治国家。簡単に説明するなら国に属していない矮小な村や街の事。所有者のいない土地を開拓して作り上げた良くも悪くも自由に生きる者達が集う場所。
両方の位置関係を例えるなら、統治国家は巨大な大陸という生地に型を差し込み区切った場所。その余った生地に疎らに存在する村や街が非統治国家となる。
両者の違いを単純に言うなら国力の差。技術力・生産力・軍事力・国民数。そしてトップのカリスマ性。それらが揃いある条件を満たすことで統治国家と認められる。
言葉を良くするなら統治国家の卵が非統治国家とも言える。
「こんなに国があったんだ……適当に旅に出て探してたら迷子になってた……ぜったい」
大陸に広がる十の国の名前。ライトニアとは異なる文化を築き成長した国々。無策で訪れられる程寛容では無い。
「非統治国家は地図に載らないらしいから。それも調べようと思ったら骨が折れるじゃすまないな」
加えて巨大な星の輝きに隠れ、淡い光で点々と存在する街と村。
一つ一つに訪れ父を探すのは現実的では無い。
「ひょっとして、どこかに捕まってるってことはない? お父さんの才能はすごかったから逃がさないって考えで」
「ありえない話じゃないな。腕利きの錬金術士なら誰も喉から手が出る程欲しいだろうし。何かと条件を付けて軟禁している可能性もある」
ライトニアに錬金術士が多いのは意図的に集められた事に加え、錬金術士への潤沢な保障と研究に理解がある環境を知り根を下ろしに来た者が多い。
他国では引く手数多な稀少技術なのは事実。故にロドニーは囲い込まれ未だに帰国できない可能性も考えられる。
「もしくは、島国みたいにどこか出られない場所にいる。海を越えようと思ったら用意が大変だからな」
「う~ん……でも、地図だとフォレストリアの西側にしかそんな島はないけど?」
「まあ、例えだ。俺がこの世界に初めて来た時はダンジョンの中だったからな。あの時は自分がどこにいるのかさっぱりだったんだ。もしも同じようなことが外に繋がって無いダンジョンで起きているとしたら──」
「あっ! まだ埋まってるダンジョンの中に転移していたら閉じ込められて出られない!!」
「そういうことだ! ひょっとしたら鎖国している国の中に転移してしまった。という線の方がありえそうだけどな」
ロドニーが使った転移道具は緊急事態ということもあり場所の指定は成されていない。
言わずもがな到着先を指定していない転移は危険性が高い。壁の中、天空、水の中、一手間違えれば命を落としかねない状況に放り込まれる。ドラゴンと共に転移したが二名同じ場所なのか、異なるのか。都合の良い想像を願うしかない。
「やっぱり足を使って捜索するのは現実的じゃ無いよね。手がかり無いと見つけようがないよ」
「俺としては錬金術で人を見つける道具を作成するのが最善だと考えてる。今の環境を利用しない手はないはずだ。……言っておいて何だけど人探しの道具って作成可能か?」
「もちろん! って言いたいけど。お父さんだけを見つける道具は今のわたしにはどうすればいいのかぜんぜんわからい……だけど、ぜったいにあきらめない! わたしも錬金術の可能性にかける!」
強い決意が込められた言葉、迷いの無い瞳。
殆どが不明である現状。父親「ロドニー・クリスティナ」だけをピンポイントに見つけ出す夢のような道具を作り上げることは現時点では足りないモノが余りにも多すぎることを。
そう、彼女達は足りないことを理解している。逆に言えば足りないだけで積み重ねていけば手が届くと確信していた。
「よし! やるべきことは──」
「お父さんを見つける道具を調合すること! そのために色々勉強していくこと!」
最終目標に到着するための『鍵』。しかし、鍵を完成させるレシピも素材も何も分からない。一つ一つを積み重ね自らの頭脳で作り上げる必要がある。
「調合に必要な素材を手に入れるためにもお金や冒険を切り抜ける強さも必要になるな」
(……その為にも俺は惨劇の斧の力を使いこなす! 絶対必要になる力だ)
魔を喰らい、万物を消滅される刃を持つ『惨劇の斧』。中に宿る霊魂「レクス」により悪魔染みた力を手にしたが、溜め込まれていた力を全てを吐き出し現在は扱える力に変化は無くとも、出力が殆ど無い状態。いわばガス欠となったスポーツカー。
「そ・れ・に! 他国に響くぐらいに評判を上げれば、色々な国から招待されるんじゃないかな? 色々と恩を売ることが出来たらお父さんの手がかりを探してくれるかもしれないよ」
「なるほど! ……でもどうやって評判を上げればいいの?」
「それはボクにも分からない!」
豊麗な胸部を張り堂々と答え、主人達の肩をすかす。しかし、眼の付け所は間違っていない。錬金術大国のライトニアで腕利きの錬金術士という肩書は宝石の山でより輝きを放つ価値ある存在だと目に映り、手を伸ばしたくなるのが心情。
「まあ、アンナは錬金術の腕を上げることに集中すればいいと思う。評判なんて実力に付いてくるものだからな」
「わかった。そうなると残りの問題はお金? 素材を買ったり他の国に行くのにも必要になってくると思うし……でも、お爺さんからもらったお金も残り48000キラぐらい……足りるのかな?」
金銭の数値に嫌な震えを一つする鉄雄。あの日あの場所で最低価格を叩き出したトラウマ。
「い、一応騎士団見習いでも給金は出るらしいから。激しい出費をしなければ大丈夫じゃないのか?」
声にも震えとして情けなくも現れてしまった。
「あっ、それなんだけど。ボクは他の寮生さんのお世話もしていいかな? お掃除とかお食事の世話をしてほしい生徒さんがいるみたいで。チーフに奉仕精神の引き出しを増やすために受けるべきだって。もちろん2人の仕事をきちんとやった上での仕事だから安心して」
セクリが行うべき仕事は掃除、洗濯、料理、身支度補助。だが、鉄雄が対抗心からか掃除の仕事を奪ったりしていたり、二人は着替えを当たり前にできるので、精々アンナの髪を整えるか、鉄雄の髭を剃るか程度。
洗濯も手洗いする物もあれど、この世界でも自動洗濯機が生み出されている故に分業が可能となっていた。
すると、セクリには料理の時間を除いても有り余る時間が作れてしまう。
「いいと思う。セクリが色々できるようになってくれるとわたしもうれしいし」
「流石大主人! 分かってくれる」
喜びからかアンナに軽く抱き着き体を押し付ける。嫌な顔一つせずにその身に柔らかさを受け止めていた。
(……うん、ずるいな)
無論、セクリに対して。性差や年齢、主従関係故に迂闊に触れることすら叶わない。咎めれば嫉妬していると思われるのも癪であり、大人しく男として耐えるしかできなかった。
コンコン──
「お客さん? こんなに朝早くから誰だ?」
「ボクが出るね」
滅多に鳴ることの無い来客を知らせるノックの音。それがスイッチになるようにセクリの表情が真面目な仕事の顔に切り替わる。
「どちら様でしょう── 長? 何かありましたか?」
「アンナ・クリスティナ様へお届け物。封筒1通、小包1個。確かに渡したわ」
「お疲れ様です」
深々と頭を下げ、ドアが静かに閉じられると。いつもの顔に戻り届けられた物をテーブルの上に乗せる。
「なにが届いたの?」
「あれ……この蝋の模様ってマテリアの校章じゃないか?」
校旗や制服のマントと同じ模様に気付き、一層緊張が高まった。
封蝋された格式高い封筒と小包。
主人宛と理解し従者二人は一歩下がり見に徹する。二人の態度によっぽど大事な物が届けられたと理解したアンナは不安が顔に現れ、恐る恐ると言った様子で開封し、中に収められた書類を手に取り読み上げる。
「え~と……『昇格試験のお知らせ』?」
新たな壁が三人の前に立ちはだかろうとしていた。
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